第130話
第130話
黒皮のオーガが崩れ落ちた。
巨体が地面に倒れ込む音が、森の奥へと重く響く。三体すべての黒皮のオーガが倒れ、ようやく戦いが終わった。
だが――誰もすぐには動けなかった。
レオンは剣を支えに立っていた。呼吸が荒い。全身が震えている。勇者の身体強化はすでに解けていた。限界を超えて動いていた反動が、一気に襲ってくる。
ガイウスはその場に膝をついていた。盾を地面に立てかけるようにして支えているが、腕が震えている。汗が滝のように流れていた。
ノエルも木にもたれかかっていた。呼吸は浅く速い。短剣を握る手がわずかに震えている。
テオドールはその場に座り込んでいた。魔力の消耗が激しいのか、顔色がかなり悪い。
フィアナも同様だった。立ってはいるが、足元がふらついている。祝福と回復魔法を連続で使った反動は大きい。
ルシアンも深く息を吐いた。大怪我を負った直後の戦闘だった。さすがに消耗している。
フリードが剣を収めながら周囲を見回した。
「……終わったな」
誰も返事をしない。返事をする余裕がなかった。
レオンが一歩踏み出す。
だが――
そのまま崩れ落ちた。
「レオン!」
ガイウスが声を上げるが、そのガイウスも力が抜けたように横へ倒れた。
二人とも気絶していた。
ノエルがそれを見て、小さく息を吐く。
「……限界」
テオドールも苦笑するように言う。
「……正直、俺もだ」
フィアナも立っているのがやっとだった。
フリードが小さく息を吐く。
「……これは」
珍しく表情が険しかった。
「異常事態だな」
ミレイも頷く。
「Sランク三体は……流石に想定外です」
フリードが周囲を見渡す。
「この件は上に報告しなければならん」
短く言った。
「とりあえず――場所を移すぞ」
フリードがガイウスの身体を担ぎ上げる。大楯使いの体格は大きいが、フリードは難なく持ち上げた。
ルシアンもレオンを背負う。まだ意識は戻らない。呼吸は安定しているが、完全に限界だった。
ミレイがノエルとテオドールを支える。
ゆっくりと移動する。
少し進んだ場所に、比較的開けた場所を見つけた。周囲の視界も悪くない。野営には適していた。
「ここでいい」
フリードが言う。
ガイウスを横に寝かせる。ルシアンもレオンを慎重に下ろす。
ノエルとテオドールも座り込むように休む。フィアナは二人の様子を確認しようと歩き出す。
だが――
ふらついた。
そのまま崩れる。
ルシアンがすぐに支える。
「フィアナ」
呼びかけるが、返事はない。
気絶していた。
ミレイが静かに言う。
「……限界ですね」
ルシアンがフィアナを横に寝かせる。
フリードが小さく息を吐く。
「無理もない」
ここまでの戦闘は、完全に想定外だった。
フリードが周囲を見渡す。
「野営の準備をする」
ルシアンが頷く。
簡単な野営の準備を進める。火を起こし、周囲の確認を行う。だが今回は、ほとんどフリードとルシアンが中心だった。
しばらくして、準備が整う。
ミレイが魔法陣を展開する。
淡い光が広がる。
結界だった。
「フィアナさんの代わりに私が張ります」
フリードが頷く。
「頼む」
結界が展開される。周囲の魔力が静かに安定する。
フリードが続けて言う。
「夜の見張りも俺たちがやる」
ルシアンを見る。
「お前も休め」
ルシアンは少しだけ考えた。
だが――
「……分かりました」
素直に頷いた。
確かに消耗している。ここで無理をする意味はない。
フリードが静かに言う。
「お前たちはしっかり休め」
ノエルもテオドールもすでに横になっていた。すぐに眠りに落ちる。
森の夜が静かに訪れる。
フリードとミレイが見張りに立つ。
焚き火の光が、倒れた一年生たちの顔を照らしていた。
異例の戦闘だった。
だが――
確かな成長もあった。
フリードは静かに目を細めた。
「……悪くない」
小さく呟いた。




