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果てなき世界  作者: 影川明空人
第3章 学園1年目
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第126話

第126話


 フリードが二体の黒皮のオーガを引き受けたことで、戦場は大きく分断された。フリードの剣と黒皮のオーガの拳がぶつかり、重い衝撃音が森に響く。ミレイがすぐに支援魔法を展開し、フリードの身体能力を底上げする。だが、それでも余裕はない。フリードは二体の黒皮のオーガを抑えるだけで精一杯だった。


 一方、残った一体の黒皮のオーガがレオン班へと向かう。


 しかし、その前に――アイアンホーンベアがまだ倒れていない。


 血を流し、呼吸も荒くなっているが、Aランク上位の強個体。まだ十分に戦闘能力を残している。このままでは、二体同時に相手をすることになる。


 崩れる可能性が高い。


 ルシアンは即座に判断した。


「レオン」


 静かに声をかける。レオンが振り向いた。


「どうした?」


「勇者の力は使えますか?」


 レオンの表情がわずかに変わる。


「勇者の力……?」


「はい。勇者のみが使える身体強化、あるいは聖剣の召喚です」


 レオンは一瞬だけ考え、静かに答えた。


「身体強化は……一度だけ使えたことがある」


「いつですか?」


「入学前、魔物に囲まれた時だ。でも、それ以来一度も使えていない。やり方も分からない」


 ルシアンは小さく頷いた。予想通りだった。


 続けてフィアナを見る。


「フィアナ、聖女の祝福は使えますか?」


 フィアナは静かに首を横に振る。


「いいえ……まだ使えたことはありません。力の存在は感じますが、発動方法が分かりません」


「分かりました」


 ルシアンは短く答える。黒皮のオーガが重い足音を立てながら近づいてくる。地面が揺れ、空気が重くなる。アイアンホーンベアも体勢を立て直し、再び唸り声を上げる。


「とりあえず、私が少し時間を稼ぎます」


「アイアンホーンベアを倒してください。なるべく早いと助かります」


 レオンは一瞬迷い、そして頷いた。


「……分かった。ガイウス、行くぞ」


「おう!」


 レオン班が再びアイアンホーンベアへ向かう。同時に黒皮のオーガが踏み込んだ。巨体とは思えない速度で拳が振り下ろされる。


 ルシアンが横へ滑るように回避する。風魔法で軌道をわずかに逸らす。拳が地面を砕き、土と落ち葉が舞い上がる。ルシアンはすぐに距離を取り、中衛の位置へ戻る。


 前に出すぎない。だが距離も離しすぎない。


 黒皮のオーガが再び踏み込む。ルシアンが地魔法で足元を沈ませる。動きがわずかに鈍る。その隙に横へ回避し、さらに距離を取る。時間を稼ぐことに徹する。


 一方、レオンたちはアイアンホーンベアへ再び攻撃を仕掛けていた。


 ガイウスが正面で受け止める。盾に衝撃が走る。だが崩れない。


 レオンが左から斬り込む。深くはないが、確実に傷を重ねる。ノエルが死角から膝裏を刺す。テオドールが雷撃を放ち、フィアナが支援魔法を重ねる。


 連携は崩れていない。


 むしろ先ほどより鋭い。


 アイアンホーンベアが腕を振るう。ガイウスが盾で受ける。衝撃で足元が沈むが、踏みとどまる。


「まだいける!」


 ガイウスが叫ぶ。レオンが踏み込み、深い斬撃を入れる。血が飛ぶ。熊が唸る。ノエルがさらに脇腹を刺し、テオドールが雷撃を重ねる。


 動きがさらに鈍る。


 その間も黒皮のオーガはルシアンを追い続けていた。拳が振るわれる。ルシアンが回避する。風魔法で軌道をずらす。地魔法で足場を崩す。必要最小限の動きで時間を稼ぐ。


 だが、黒皮のオーガが突然踏み込みの速度を変えた。


 速い。


 予想より速い。


 ルシアンが回避するが、拳が肩をかすめる。


 衝撃。


「……っ」


 ルシアンの身体が弾き飛ばされる。木の幹に叩きつけられ、鈍い音が響く。肩口が裂け、血が流れる。


「ルシアン!」


 フィアナが声を上げる。


「問題ありません」


 ルシアンはすぐに立ち上がる。だが、黒皮のオーガはすでに迫っている。ルシアンは再び距離を取り、時間を稼ぐ。


 その間にレオンたちが攻勢を強める。


 ガイウスが押し返す。レオンが踏み込む。ノエルが死角を突く。テオドールが雷撃。フィアナが強化。


 連携が完成していた。


「これで終わりだ!」


 レオンが全力で剣を振り下ろす。


 深い斬撃。


 アイアンホーンベアが大きく揺れる。


 そして――崩れ落ちた。


 地面が震える。


 アイアンホーンベア撃破。


 だが、休む暇はない。


 黒皮のオーガがすでに迫っていた。


 ルシアンの肩から血が流れているのを見て、レオンの表情が変わる。


「ルシアン……」


「来ます」


 ルシアンが静かに言う。


 黒皮のオーガが拳を振り上げる。


 レオンが剣を構える。ガイウスが盾を上げる。ノエルが位置を取る。テオドールが魔法陣を展開する。フィアナが支援魔法を重ねる。


 フリードの戦闘音が遠くで響く。余裕はない。


 Sランクとの戦いが――始まった。


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