第126話
第126話
フリードが二体の黒皮のオーガを引き受けたことで、戦場は大きく分断された。フリードの剣と黒皮のオーガの拳がぶつかり、重い衝撃音が森に響く。ミレイがすぐに支援魔法を展開し、フリードの身体能力を底上げする。だが、それでも余裕はない。フリードは二体の黒皮のオーガを抑えるだけで精一杯だった。
一方、残った一体の黒皮のオーガがレオン班へと向かう。
しかし、その前に――アイアンホーンベアがまだ倒れていない。
血を流し、呼吸も荒くなっているが、Aランク上位の強個体。まだ十分に戦闘能力を残している。このままでは、二体同時に相手をすることになる。
崩れる可能性が高い。
ルシアンは即座に判断した。
「レオン」
静かに声をかける。レオンが振り向いた。
「どうした?」
「勇者の力は使えますか?」
レオンの表情がわずかに変わる。
「勇者の力……?」
「はい。勇者のみが使える身体強化、あるいは聖剣の召喚です」
レオンは一瞬だけ考え、静かに答えた。
「身体強化は……一度だけ使えたことがある」
「いつですか?」
「入学前、魔物に囲まれた時だ。でも、それ以来一度も使えていない。やり方も分からない」
ルシアンは小さく頷いた。予想通りだった。
続けてフィアナを見る。
「フィアナ、聖女の祝福は使えますか?」
フィアナは静かに首を横に振る。
「いいえ……まだ使えたことはありません。力の存在は感じますが、発動方法が分かりません」
「分かりました」
ルシアンは短く答える。黒皮のオーガが重い足音を立てながら近づいてくる。地面が揺れ、空気が重くなる。アイアンホーンベアも体勢を立て直し、再び唸り声を上げる。
「とりあえず、私が少し時間を稼ぎます」
「アイアンホーンベアを倒してください。なるべく早いと助かります」
レオンは一瞬迷い、そして頷いた。
「……分かった。ガイウス、行くぞ」
「おう!」
レオン班が再びアイアンホーンベアへ向かう。同時に黒皮のオーガが踏み込んだ。巨体とは思えない速度で拳が振り下ろされる。
ルシアンが横へ滑るように回避する。風魔法で軌道をわずかに逸らす。拳が地面を砕き、土と落ち葉が舞い上がる。ルシアンはすぐに距離を取り、中衛の位置へ戻る。
前に出すぎない。だが距離も離しすぎない。
黒皮のオーガが再び踏み込む。ルシアンが地魔法で足元を沈ませる。動きがわずかに鈍る。その隙に横へ回避し、さらに距離を取る。時間を稼ぐことに徹する。
一方、レオンたちはアイアンホーンベアへ再び攻撃を仕掛けていた。
ガイウスが正面で受け止める。盾に衝撃が走る。だが崩れない。
レオンが左から斬り込む。深くはないが、確実に傷を重ねる。ノエルが死角から膝裏を刺す。テオドールが雷撃を放ち、フィアナが支援魔法を重ねる。
連携は崩れていない。
むしろ先ほどより鋭い。
アイアンホーンベアが腕を振るう。ガイウスが盾で受ける。衝撃で足元が沈むが、踏みとどまる。
「まだいける!」
ガイウスが叫ぶ。レオンが踏み込み、深い斬撃を入れる。血が飛ぶ。熊が唸る。ノエルがさらに脇腹を刺し、テオドールが雷撃を重ねる。
動きがさらに鈍る。
その間も黒皮のオーガはルシアンを追い続けていた。拳が振るわれる。ルシアンが回避する。風魔法で軌道をずらす。地魔法で足場を崩す。必要最小限の動きで時間を稼ぐ。
だが、黒皮のオーガが突然踏み込みの速度を変えた。
速い。
予想より速い。
ルシアンが回避するが、拳が肩をかすめる。
衝撃。
「……っ」
ルシアンの身体が弾き飛ばされる。木の幹に叩きつけられ、鈍い音が響く。肩口が裂け、血が流れる。
「ルシアン!」
フィアナが声を上げる。
「問題ありません」
ルシアンはすぐに立ち上がる。だが、黒皮のオーガはすでに迫っている。ルシアンは再び距離を取り、時間を稼ぐ。
その間にレオンたちが攻勢を強める。
ガイウスが押し返す。レオンが踏み込む。ノエルが死角を突く。テオドールが雷撃。フィアナが強化。
連携が完成していた。
「これで終わりだ!」
レオンが全力で剣を振り下ろす。
深い斬撃。
アイアンホーンベアが大きく揺れる。
そして――崩れ落ちた。
地面が震える。
アイアンホーンベア撃破。
だが、休む暇はない。
黒皮のオーガがすでに迫っていた。
ルシアンの肩から血が流れているのを見て、レオンの表情が変わる。
「ルシアン……」
「来ます」
ルシアンが静かに言う。
黒皮のオーガが拳を振り上げる。
レオンが剣を構える。ガイウスが盾を上げる。ノエルが位置を取る。テオドールが魔法陣を展開する。フィアナが支援魔法を重ねる。
フリードの戦闘音が遠くで響く。余裕はない。
Sランクとの戦いが――始まった。




