第124話
第124話
遠征五日目の朝。
フェルディア大森林の中は、静かな朝を迎えていた。夜露が葉の先に残り、淡い光が木々の隙間から差し込んでいる。ここまで奥へ進んできたにも関わらず、今朝の空気はどこか穏やかだった。
野営地の火はすでに消え、レオン班は朝の準備を進めていた。
ガイウスが伸びをする。
「……昨日はさすがに疲れたな」
レオンも軽く肩を回す。
「ナイトメアウルフは想像以上だったな」
フィアナが静かに言う。
「ですが、大きな怪我がなかったのは良かったです」
テオドールが腕を組む。
「連携が機能していた証拠だな」
ノエルは短く言う。
「……問題なし」
ルシアンは静かに周囲を確認していた。魔物の気配は薄い。今日の森は比較的落ち着いている。
レオンが言う。
「今日はアイアンホーンベアを探すが……」
少し考える。
「急ぐ必要はないな」
ガイウスが頷く。
「もう素材はほとんど集まってるしな」
ルシアンが言う。
「探索中心でいいと思います」
レオンが頷く。
「そうしよう。今日は探索日だ」
無理に戦闘を求めない。余裕を持った判断だった。
荷物をまとめ、移動を開始する。
森の中は静かだった。昨日までとは違い、緊張感はやや薄い。だが誰も油断はしていない。ノエルが先頭で索敵を続ける。レオンとガイウスがその後ろ。フィアナとテオドールが続き、ルシアンが全体を見ながら歩く。
しばらく進む。
ガイウスが小さく言う。
「こういうのも遠征って感じだな」
レオンが少し笑う。
「昨日は戦いっぱなしだったしな」
テオドールが言う。
「だが気を抜くな」
ノエルが短く言う。
「……静かすぎる」
ルシアンも同じことを感じていた。静かすぎる。魔物の気配が少ない。
「この辺りは出現率が低いのかもしれません」
フィアナが頷く。
「管理されている森ですから」
さらに進む。
途中、小型の魔物の気配があったが、接触せずに回避する。無理に戦う必要はない。
しばらくして、少し開けた場所に出た。
小さな水場だった。
ガイウスが笑う。
「ちょっと休むか」
レオンが頷く。
「短時間だけな」
水を補給する。フィアナが周囲を警戒する。ノエルは高い木に登り、周囲を確認する。
テオドールが小さく言う。
「順調すぎるな」
ルシアンも頷く。
「そうですね」
だが悪くない流れだった。無理をする必要はない。
再び移動を開始する。
しばらく進むが、アイアンホーンベアの気配はない。
ノエルが言う。
「……いない」
レオンが頷く。
「焦る必要はない」
ガイウスが笑う。
「むしろ休めていいな」
フィアナが言う。
「遠征は長期戦ですから」
ルシアンは静かに周囲を見ていた。地面の跡。木の傷。だがアイアンホーンベアらしき痕跡は見当たらない。
(……見つからない)
だが問題はない。
余裕はある。
さらに進む。
午後になっても、アイアンホーンベアは見つからなかった。
レオンが言う。
「今日はこのまま探索で終わるか」
全員が頷く。
焦らない判断だった。
再び野営の準備をする。昨日と同様、開けた場所を選び拠点を作る。フィアナが結界を張る。火を起こす。
ガイウスが息を吐く。
「今日はかなり楽だったな」
レオンが頷く。
「明日に備えられる」
ノエルが短く言う。
「……問題なし」
テオドールが小さく言う。
「明日が本命だな」
ルシアンは静かに火を見ていた。
(……そろそろ出る)
感覚だった。
遠征も終盤。
最後の素材。
アイアンホーンベア。
明日――
おそらく見つかる。
火が静かに揺れる。
フェルディア大森林の夜は、静かに更けていった。




