第122話
第122話
遠征四日目。フェルディア大森林の奥へと進むにつれ、空気はさらに重くなっていた。木々は密集し、枝葉が空を覆い隠す。昼間であるにも関わらず森の中は薄暗く、湿った土の匂いが濃く漂っている。足元の落ち葉は厚く、踏みしめてもほとんど音がしない。ここまで来ると、もはや別の森のようだった。
レオン班は慎重に進んでいた。すでに三つの素材は確保済み。残るはシャドウウルフとアイアンホーンベア。遠征も終盤に差し掛かっていた。
ノエルが先頭で索敵を続ける。しばらく歩いた後、ノエルの動きが止まった。
「……いる」
全員の動きが止まる。
「どれくらいだ?」
レオンが小声で聞く。
「……多い」
少し間があく。
「……三十」
ガイウスが息を飲む。
「三十……」
さらにノエルが続ける。
「……一体、強い」
ルシアンも同時に感じていた。濃い魔力。普通のシャドウウルフとは明らかに違う。
「上位種ですね」
慎重に進む。やがて開けた場所に出た。そこにいたのはシャドウウルフの群れだった。黒い毛並みの狼が三十頭ほど。そして中央に一体、明らかに異質な個体。
黒に近い毛並み。赤い瞳。周囲より濃い魔力。
「……ナイトメアウルフ」
Aランクの上位種だった。
レオンが剣を握る。
「やるぞ」
ルシアンが静かに指示を出す。
「ガイウス中心に防御。レオンはナイトメアウルフを引き受けてください。テオドールは範囲魔法、フィアナは支援、ノエルは遊撃」
レオンが頷く。
「分かった」
次の瞬間――
群れが一斉に動いた。
シャドウウルフが襲いかかる。ガイウスが盾を構える。衝撃が連続する。数が多い。左右から、前から、同時に襲いかかる。ガイウスが踏みとどまるが、圧力は大きい。
テオドールが風の刃を放つ。数体が倒れる。ノエルが死角から飛び出し、一体の喉を切り裂く。フィアナが強化魔法を展開し、ガイウスの防御が安定する。
一方――
レオンはナイトメアウルフと対峙していた。
ナイトメアウルフが低く唸る。赤い瞳がレオンを捉える。
次の瞬間――
視界が一瞬で暗くなる。
「……!」
闇魔法だった。
レオンの視界が完全に奪われる。
気配だけで剣を構える。
右。
衝撃。
ナイトメアウルフの爪を受ける。重い。体勢が崩れる。
闇が晴れる。
ナイトメアウルフが距離を取っていた。さらに魔力を集める。黒い球体が形成される。
ダークボール。
放たれる。
レオンが横に跳ぶ。爆発。土が抉れる。
「……厄介だな」
レオンが踏み込み、剣を振るう。ナイトメアウルフが回避し、反撃。爪が振るわれる。レオンが受ける。
押し返される。
再び闇魔法。
視界が奪われる。
左から気配。
受けるが、重い。
さらにもう一撃。
レオンが後退する。
押され始める。
その時――
ルシアンが指先をわずかに動かす。
小さな風魔法。
ナイトメアウルフの足元をわずかに崩す。
ほんの一瞬。
だがレオンが体勢を立て直すには十分だった。
レオンが踏み込み返す。剣が浅く入る。
ナイトメアウルフが後退する。
だが再びダークボール。
回避が遅れる。爆風に巻き込まれる。
レオンが後退する。
呼吸が荒くなる。
ナイトメアウルフがさらに踏み込む。
その瞬間――
ルシアンが弱い光魔法を地面に反射させる。
闇の中で影が浮かぶ。
レオンが位置を把握する。
剣を振るう。
深くはないが、確実に当たる。
その頃、他のメンバーは群れを減らしていた。
テオドールの雷撃。
ノエルの斬撃。
ガイウスの防御。
フィアナの支援。
徐々に数が減る。
ナイトメアウルフが再び闇魔法を展開する。
レオンの視界が奪われる。
その瞬間――
ルシアンが小さく魔法を撃つ。
弱い重力魔法。
ナイトメアウルフの動きが一瞬鈍る。
レオンが踏み込む。
斬撃が入る。
ナイトメアウルフが揺れる。
その時――
「レオン!」
テオドールの雷撃。
ノエルの斬撃。
フィアナの強化魔法。
レオンが踏み込む。
一閃。
深く斬り裂く。
さらにもう一撃。
ナイトメアウルフが崩れ落ちた。
静寂。
残ったシャドウウルフは逃げ出す。
戦闘終了。
レオンが息を吐く。
「……強かった」
ガイウスが笑う。
「でも勝ったな」
ルシアンは静かに見ていた。
誰にも気づかれない程度の援護。
だがレオンの成長は確実だった。
素材を回収する。
残るは最後――アイアンホーンベア。
遠征は最終局面へと進んでいく。




