第119話
第119話
数日後。
馬車はゆっくりと速度を落とした。
視界の先に、広大な森が見えてくる。
深い緑。背の高い木々が密集し、奥へ進むほど光が遮られていく。静かな森だったが、その奥には確かな危険の気配があった。
「……ここか」
レオンが小さく呟く。
馬車が止まる。
全員が降りると、すでに他の班も到着していた。
レオニードが前に出る。
「ここが遠征地だ」
静かな声が森に響く。
「フェルディア大森林」
その名前が告げられる。
「この森は学園が管理している」
「定期的に魔物の間引きが行われている」
テオドールが小さく頷く。
「管理された森か」
レオニードが続ける。
「基本的に出現する魔物はAランクまで」
ガイウスが少し安心した様子を見せる。
「ただし」
空気が引き締まる。
「稀にSランクが出現することもある」
全員の表情が変わる。
「その場合は無理をするな」
「同行している上級生に頼れ」
フリードは腕を組んだまま目を閉じている。ミレイも静かに立っているだけだった。
「各班に課題を配る」
紙が配られていく。
さらに、もう一つ。
「各班にマジックバックを支給する」
袋が渡される。
ガイウスが驚く。
「マジックバック?」
テオドールが説明する。
「収納魔法がかかっている」
レオニードが頷く。
「素材や荷物を入れろ」
「容量には余裕がある」
遠征用の装備だった。
レオンが紙を開く。
「素材調達……か」
ルシアンも確認する。
⸻
■課題内容
Aランク素材
・アイアンホーンベアの角
Bランク素材
・シャドウウルフの牙
・スリープバインの蔓
Cランク素材
・グラスラビットの毛皮
・ミラーバードの羽
⸻
ガイウスが呟く。
「Aランクからあるのか……」
ルシアンが静かに言う。
「アイアンホーンベアは近接タイプです」
「前衛向きの魔物ですね」
レオンが頷く。
「俺とガイウスだな」
ガイウスが笑う。
「任せろ」
ルシアンが続ける。
「シャドウウルフは斥候型です」
ノエルが小さく頷く。
「……速い」
「群れで動くこともあります」
ルシアンが続ける。
「索敵が重要になります」
ノエルが短く言う。
「問題ない」
ルシアンが紙を見る。
「スリープバインは植物型です」
ガイウスが首を傾げる。
「植物?」
「眠りの胞子を出します」
「それほど強くはありませんが、胞子を吸うと厄介です」
テオドールが小さく言う。
「……状態異常系か」
ルシアンが頷く。
「さらに蔓を傷つけると素材として使えません」
ガイウスが苦笑する。
「面倒だな」
「取得難度が高いタイプですね」
ルシアンが静かに言う。
続いてCランク。
「グラスラビットは問題ありません」
「警戒心は強いですが、戦闘力は低いです」
ルシアンが続ける。
「ミラーバードは少し厄介です」
ノエルが視線を向ける。
「……飛ぶ」
「はい」
ルシアンが頷く。
「羽を傷つけると素材になりません」
テオドールが小さく言う。
「捕獲系か」
ルシアンが頷く。
「そうなります」
レオンが小さく笑う。
「バランスいいな」
ルシアンも頷く。
(……悪くない)
戦闘だけではなく、技術も必要になる。
いい課題だった。
レオニードが言う。
「期間は一週間」
「開始は自由」
「以上」
短い指示だった。
そして――
遠征が始まる。
レオンが振り返る。
「まずどうする?」
自然にルシアンを見る。
ルシアンは少し考える。
「Cランクからいきましょう」
「森に慣れる意味もあります」
レオンが頷く。
「それがいい」
ガイウスも頷く。
「賛成」
ノエルが静かに言う。
「……近くにいる」
すでに索敵していた。
テオドールが小さく言う。
「優秀だな」
フィアナが静かに言う。
「行きましょう」
フリードとミレイは後ろからついてくるだけだった。
口出しはしない。
見守るだけ。
そして――
レオン班は森へと踏み込んだ。
フェルディア大森林の中は、外から見た以上に静かだった。
木々が密集し、日差しがほとんど届かない。地面には落ち葉が積もり、足音が吸い込まれるように消えていく。
ノエルが先頭に立つ。
足取りは軽い。ほとんど音を立てない。斥候としての動きだった。
レオンとガイウスがその後ろに続く。
さらにフィアナとテオドール。
ルシアンが全体を見ながら歩く。
フリードとミレイは少し後ろを歩いていた。
完全に見守る位置だった。
しばらく進む。
ノエルが手を上げる。
全員が止まる。
「……前方」
小さな声だった。
レオンが視線を向ける。
茂みがわずかに揺れる。
そして――
小型の魔物が姿を現す。
草色の毛並み。
小さな体。
長い耳。
「……グラスラビット」
ルシアンが静かに言う。
レオンが頷く。
「早速か」
グラスラビットは警戒するように周囲を見ている。逃げる準備をしている様子だった。
ノエルが小さく言う。
「……逃げる」
ルシアンが静かに言う。
「包囲しましょう」
自然な指示だった。
レオンが頷く。
「ガイウス、右」
「了解」
「ノエル、左」
「……分かった」
「テオドール、逃げ道封鎖」
「任せろ」
短い連携。
フィアナが静かに構える。
ルシアンは後方から様子を見る。
フリードは静かに目を開いていた。
だが何も言わない。
ただ観察している。
ミレイも同じだった。
グラスラビットが動く。
逃げようとする。
だが――
風の魔法が展開される。
テオドールだった。
逃げ道を遮る。
グラスラビットが方向を変える。
そこに――
ノエルが現れる。
静かな動き。
逃げ道を塞ぐ。
グラスラビットがさらに方向を変える。
正面。
レオンが踏み込む。
剣の柄で軽く叩く。
グラスラビットが倒れる。
気絶。
フィアナがすぐに拘束魔法を展開する。
動きを止める。
「……捕獲完了」
フィアナが静かに言う。
ガイウスが笑う。
「いい感じだな」
ルシアンが頷く。
「問題ありません」
素材を確認する。
グラスラビットの毛皮は傷ついていない。
レオンが言う。
「一つ目だな」
マジックバックに収納する。
フリードが小さく呟く。
「……悪くない」
短い評価だった。
ガイウスが少し驚く。
「お、評価もらった」
フリードはそれ以上言わない。
再び静かになる。
ミレイが小さく微笑む。
ルシアンは静かに前を見た。
(……順調だ)
だが遠征は始まったばかりだった。
フェルディア大森林の奥へ。
彼らはさらに進んでいく。
静かな森の奥へと。




