第118話
第118話
遠征はパーティ単位での移動となった。
学園の門を出てしばらく進んだ先に、各班ごとに用意された馬車が並んでいた。大型の馬車で、長距離移動を前提としたものだった。
レオン班の八人は一台の馬車へと乗り込む。
荷物を積み込み、それぞれが席に着く。
やがて馬車がゆっくりと動き出した。
車輪が地面を踏みしめる音が一定のリズムで響く。窓の外の景色がゆっくりと流れていく。
しばらくは誰も口を開かなかった。
遠征という言葉が、自然と緊張感を生んでいた。
フリードはすでに目を閉じている。腕を組み、完全に会話に入る気配はなかった。
ガイウスが小さく呟く。
「……寝てるのか?」
ミレイが穏やかに笑う。
「いえ、起きてますよ」
「フリードはこういう人なんです」
ガイウスが苦笑する。
「なるほど……」
レオンが口を開く。
「ミレイ先輩、改めて自己紹介をしてもいいですか」
「もちろんです」
ミレイが軽く頷く。
レオンが姿勢を正す。
「レオンです。前衛で剣を使います」
「よろしくお願いします」
ミレイが柔らかく微笑む。
ガイウスが続く。
「俺はガイウス。前衛で盾を使った、防御中心に動くぜ」
「頼もしいですね」
フィアナが静かに口を開く。
「フィアナです。光魔法を使います。支援と防御が中心です」
「光魔法……」
ミレイが少し驚いたように言う。
「それは貴重ですね」
テオドールが続く。
「テオドール。魔法全般を扱う。遠距離支援が主だ」
やや上から目線の口調だった。
ミレイは気にせず頷く。
「魔法使いはパーティにとって重要ですね」
ノエルが短く言う。
「ノエル。索敵」
それだけだった。
ミレイが穏やかに微笑む。
「斥候がいるのは安心ですね」
最後にルシアンが口を開く。
「ルシアンです。全体を見て動きます」
簡潔な言葉だった。
ミレイがわずかに目を細める。
「……よろしくお願いします」
短いが、少しだけ興味を持ったような反応だった。
ガイウスがふと思い出したように言う。
「そういえば……ミレイ先輩って4年Sクラスですよね」
「はい」
「順位ってどれくらいなんですか?」
ミレイは少しだけ考えてから答える。
「23位です」
ミレイが続ける。
「ちなみにフリードは6位です」
空気が少し変わる。
ガイウスが思わずフリードを見る。
「6位……」
フリードは目を閉じたまま動かない。
だが、その存在感ははっきりとあった。
レオンが静かに言う。
「かなり上位ですね」
「ええ」
ミレイが頷く。
「4年Sクラスの6位はかなり上位になります」
テオドールが小さく言う。
「納得だ」
ルシアンは静かにフリードを見る。
(……強い)
無駄のない気配。完全に戦闘慣れしている。
おそらくSランク上位くらいの実力だろう。
その時、ミレイがふと聞いた。
「そういえば、皆さんの順位は?」
ガイウスが答える。
「俺たちは入学時の順位のままですね」
ミレイが頷く。
「そうなんですね」
レオンが言う。
「俺は5位です」
ミレイが少し驚いたように言う。
「5位……」
フィアナが続く。
「私は3位です」
ミレイが目を少し見開く。
「3位……」
テオドールが言う。
「4位だ」
ミレイが小さく息を呑む。
ガイウスが続く。
「俺は8位」
ノエルが短く言う。
「10位」
最後にルシアンが言う。
「15位です」
ミレイが静かに頷く。
「……優秀な子たちが集まったパーティなんですね」
素直な感想だった。
ガイウスが少し笑う。
「確かにそうかもしれませんね」
レオンが静かに言う。
「でもまだ実力は足りません」
ミレイが穏やかに言う。
「そういう姿勢は大事ですね」
ガイウスがさらに聞く。
「ミレイ先輩はどんな戦い方なんですか?」
「私はサポート中心です」
「強化魔法、回復、結界などですね」
フィアナが頷く。
「……サポート特化」
「はい」
ミレイが微笑む。
「前線にはあまり出ません」
ガイウスが感心する。
「でも4年Sクラスってすごいですね」
ミレイが静かに言う。
「サポートも重要ですから」
そして続ける。
「ちなみに今回の同行は私たちにとっても実習になります」
レオンが聞き返す。
「実習?」
「はい」
ミレイが頷く。
「上級生としての判断力を鍛えるためです」
「危険判断、介入のタイミング」
「そういった経験を積みます」
ガイウスが納得する。
「なるほど」
ルシアンは静かに聞いていた。
(……合理的)
悪くない仕組みだった。
ガイウスがさらに聞く。
「そういえばこの遠征が終わった後って何かありますか?」
ミレイが答える。
「もう少ししたら武闘大会がありますね」
レオンが反応する。
「武闘大会……」
「はい」
「学年ごとの大会になります」
テオドールが小さく言う。
「……実力確認にはちょうどいい」
ノエルが呟く。
「……面倒そう」
だが興味はありそうだった。
ミレイが穏やかに言う。
「遠征はその前の大事な経験になります」
そして少し表情を引き締める。
「ですが――」
「まずはこの遠征です」
静かな声だった。
「この課題をクリアすることが大切です」
全員が静かに頷く。
馬車は揺れながら進んでいく。
遠征はまだ始まったばかりだった。




