第117話
第117話
遠征当日の朝。
まだ日が昇りきる前の時間だった。
学園の広場には、すでにSクラスの生徒たちが集まっていた。装備を整え、静かに出発を待っている。普段よりも会話は少なく、どこか緊張した空気が漂っていた。
ルシアンは広場の端に立ち、周囲を見ていた。
レオンが近づいてくる。
「早いな」
「いつも通りです」
短い会話。
ガイウスもやってくる。
「なんか遠征って聞くと緊張するな」
少し笑う。
テオドールはすでに来ていた。荷物は最低限。フィアナも静かに立っている。
ノエルは少し離れた場所で周囲を見ていた。視線は常に動いている。すでに索敵を意識していた。
六人が自然に集まる。
「全員揃ったな」
レオンが言う。
その時だった。
二つの気配が近づく。
長身の男子生徒と、落ち着いた雰囲気の女子生徒だった。
男子生徒が口を開く。
「4年Sクラス」
短い言葉。
そして続ける。
「フリード」
それだけだった。
無駄のない立ち方。静かな圧がある。近接型の強者の気配だった。
女子生徒が軽く頭を下げる。
「同じく4年Sクラスのミレイです」
柔らかな声だった。
「今回の遠征で同行します」
レオンが軽く頭を下げる。
「よろしくお願いします」
フリードが続ける。
「念の為の同行だ」
短い言葉。
「基本的に手助けはしない」
空気が少し引き締まる。
「危険な場合のみ介入する」
それだけだった。
実力主義の姿勢だった。
ミレイが穏やかに補足する。
「遠征は皆さんの経験のためですから」
「私たちは見守る役割になります」
対照的な二人だった。
ガイウスが小さく頷く。
「了解です」
テオドールが静かに言う。
「合理的だな」
ノエルは無言で観察している。フリードをじっと見ていた。
フィアナは静かに頭を下げる。
ルシアンは静かに二人を見る。
(……強い)
フリードは明らかに強い。無駄のない立ち方。隙がない。Sランク上位の実力だった。
ミレイは穏やかだが、魔力が安定している。強化・回復・結界――サポート型として優秀な気配だった。
その時、レオニードの声が響く。
「全員揃ったな」
Sクラスの生徒たちが整列する。
「これより遠征を開始する」
静かな宣言。
空気が引き締まる。
そして――
Sクラスの遠征が始まった。
六人と二人。
計八人の遠征。
それぞれが歩き出す。
学園の門を越える。
初めての遠征。
その一歩が、静かに始まった。
まだ朝の光は弱い。
だが――
これからの出来事を予感させるように、静かに世界は動き始めていた。




