第110話
第110話
レオンが一気に踏み込む。
速い。
地面を蹴る音が鋭く響く。
一直線にフィアナへと迫る。
だがフィアナは動じない。静かなまま、光の魔力を展開する。瞬時に形成された光の障壁が、レオンの一撃を受け止めた。
鈍い衝突音。
レオンはそのまま押し込む。力任せの一撃だった。障壁がわずかに揺れる。
だがフィアナの表情は変わらない。
杖を構え、剣の軌道をわずかに逸らす。
レオンはすぐに体勢を立て直し、連撃を仕掛ける。速い。反応もいい。だが――
(荒い)
ルシアンは静かに見ていた。
踏み込みが強い。攻撃も鋭い。だが無駄が多い。重心の移動が大きく、次の動作にわずかな遅れが出る。
フィアナはその隙を逃さない。
光の魔法が足元に展開される。
地面がわずかに光る。
レオンの足が一瞬止まる。
それでも無理に踏み込む。力で押し切ろうとする。
フィアナは下がる。
距離を取りながら、光の弾を放つ。
レオンは剣で弾く。
だがその瞬間、体勢が崩れる。
フィアナが動いた。
静かな踏み込み。
杖が伸びる。
喉元へと突きつけられる。
止まる。
レオンは動けない。
ほんの一瞬。
だが勝負は決していた。
「……そこまで」
レオニードの声が響く。
フィアナが杖を下ろす。
レオンが息を吐く。
「……やられた」
「勝者、フィアナ」
淡々とした宣言。
周囲がわずかにざわつく。
レオンは苦笑した。
「まだ荒いな、俺」
フィアナは静かに首を振る。
「速いです」
短い言葉。
だが、それだけだった。
レオンは少し笑う。
「ありがとう」
フィアナはそれ以上言わない。静かに元の位置へ戻る。
ルシアンはその様子を見ていた。
(……才能はある)
動きは荒い。だが反応は速い。踏み込みの速度も悪くない。戦い慣れすれば、さらに強くなる。
(勇者らしいな)
直線的で、迷いがない。未完成だが、伸びる。
その横でテオドールが小さく呟く。
「攻めは悪くない。だが隙が多すぎる」
冷静な評価だった。
ノエルが小さく息を吐く。
「……でも嫌いじゃない」
テオドールがわずかに視線を向ける。
ノエルは戦いを見たまま続ける。
「雑だけど、前に出るのは強い」
「……ああいうのは、強くなる」
珍しく肯定的だった。
テオドールは何も言わない。
だが否定はしなかった。
レオンが戻ってくる。
ガイウスが笑う。
「惜しかったな」
「いや、まだ差がある」
素直な言葉だった。
悔しさはある。
だが落ち込んではいない。
すでに次を見ている。
レオニードが再び口を開く。
「次」
名前が呼ばれる。
次の戦闘が始まる。
ルシアンは静かにそれを見ていた。
(……面白い)
Sクラス。
それぞれの実力が、少しずつ見え始めていた。




