第107話
第107話
翌朝。
Sクラスの教室はまだ人もまばらだった。
ルシアンは席に座り、静かに周囲を見ていた。すでに数名が来ている。だが、まだ昨日のような緊張感はない。少しずつ空気が和らぎ始めていた。
「おはよう、ルシアン」
レオンが声をかけてくる。
「おはようございます」
ルシアンは短く返す。
その隣でガイウスが欠伸をしながら座る。
「はぁ……朝早いな」
「授業があるんだから当然だろ」
レオンが苦笑する。
「分かってるけどよ……」
そんなやり取りが続く。
その時だった。
「もうお友達ができたんですね」
静かな声が割り込んだ。
三人が同時に振り向く。
一人の少女が立っていた。
整った顔立ち。落ち着いた雰囲気。だが、その瞳はどこか鋭い。
レティシアだった。
レオンの表情がわずかに硬くなる。
「……レティシア」
小さく名前を呼ぶ。
レティシアは微笑む。
「おはようございます、レオン」
柔らかな声だった。
だが、どこか距離の近い空気がある。
レオンは少しだけ視線を逸らした。
「……おはよう」
短く返す。
レティシアはルシアンへ視線を向けた。
「昨日自己紹介はしましたが、改めて」
静かな声。
「レティシアです」
ルシアンは軽く頷く。
「ルシアンです」
それだけの挨拶。
だが、レティシアはじっとルシアンを見ていた。
「……なるほど」
小さく呟く。
そして少しだけ目を細める。
「グランヴェル様に気に入られている方ですよね」
空気がわずかに変わる。
ガイウスが少し驚いたようにルシアンを見る。
ルシアンは表情を変えない。
「そういう話になっているようですね」
淡々と答える。
レティシアは小さく笑った。
「あなたに興味があります」
率直な言葉だった。
その時だった。
「何の話だ」
低い声が響く。
全員が振り向く。
グランヴェルが立っていた。
相変わらずの圧だった。
レティシアは自然に視線を向ける。
「おはようございます、グランヴェル様」
グランヴェルは短く頷く。
「……ああ」
そしてルシアンを見る。
「また囲まれているな」
淡々と言う。
ガイウスが苦笑する。
「なんかすげぇメンツだな……」
レオンは黙って様子を見ている。
レティシアはわずかに笑った。
「彼に興味があったので、挨拶していただけですよ」
グランヴェルは一瞬だけルシアンを見る。
「そうか」
そして続ける。
「貴様は相変わらず猫をかぶっているようだな」
レティシアは微笑みを崩さない。
「なんのことでしょう」
短いやり取り。
だが、二人の間には明確な緊張があった。
その時、教室の扉が開く。
担任のレオニードが入ってくる。
「席に着け」
短い声。
全員が動く。
ルシアンも席に戻る。
Sクラスの一日が、始まろうとしていた。




