第105話
第105話
ガイウスとレオンの姿が見えなくなる。
夕方の学園。赤く染まった空が、石造りの建物を淡く照らしていた。昼間の喧騒は少し落ち着き、周囲には静かな空気が流れている。
残ったのは、ルシアンとクラリスの二人だけだった。
しばらく沈黙が続く。
クラリスはゆっくりと視線を向ける。
「それで」
静かな声だった。
「用って何があるの?」
ルシアンは落ち着いた様子で答える。
「クラリスが私に用がありそうだなと思ったので」
一瞬。
クラリスの表情がわずかに崩れる。
ほんの少しだけ――笑った。
「……なんだ」
小さく息を吐く。
「バレバレか」
柔らかな笑みだった。ほんの一瞬だったが、どこか安心したような空気があった。
「相変わらずね」
小さく言う。
ルシアンは何も言わない。
ただ静かに見ている。
クラリスは一歩近づいた。
「ねえ」
少しだけ真剣な声。
「手合わせ、してくれない?」
ルシアンは視線を動かさない。
クラリスは続ける。
「なんとなく分かったけど」
ルシアンの気配を感じ取るように目を細める。
「でも――」
わずかに視線を向ける。
「実際に、どれくらいあなたと差があるか知りたいの」
真っ直ぐな言葉だった。
ルシアンは少しだけ沈黙する。
そして静かに答えた。
「……いいですよ」
短い言葉。
クラリスの表情がわずかに柔らぐ。
「助かるわ」
小さく言って背を向ける。
「ついてきて」
歩き出す。
ルシアンは静かに後を追う。
並んで歩く。
夕暮れの学園は静かだった。昼間より人の数も減っている。
しばらく無言が続く。
だが、その沈黙は不思議と自然だった。
「手合わせも一年ぶりね」
クラリスが前を見たまま言う。
「……ええ」
ルシアンが短く答える。
クラリスは小さく息を吐く。
「前は……」
少しだけ言葉を止める。
「まだ、追いつけると思ってた」
ルシアンは何も言わない。
クラリスも、それ以上は続けない。
やがて、校舎の奥へと進む。
人の気配がほとんどなくなる。
さらに奥へ。
クラリスが立ち止まった。
「ここよ」
扉の前だった。
クラリスが手をかざす。
魔法陣が一瞬だけ光る。
扉が静かに開いた。
中は広い空間だった。
外の訓練場よりも整えられている。床には精密な魔法陣が刻まれ、結界も張られているのが分かる。
「私に与えられている個人訓練場」
クラリスが言う。
静かな空間だった。
誰もいない。
外の音もほとんど聞こえない。
クラリスが歩き、中央で立ち止まる。
ゆっくりと振り返る。
「久しぶりね」
静かな声。
ルシアンも数歩進む。
「……ええ」
短く答える。
クラリスは剣を抜く。
静かな音が響く。
構える。
ルシアンも静かに立つ。
空気が変わる。
夕暮れの光が差し込む中。
二人の距離が、ゆっくりと詰まっていく。
互いに視線を外さない。
静かな緊張が、空間を満たす。
そして――
クラリスの足が、わずかに動いた。




