第102話
第102話
Sクラスの教室。
すでに何人かの生徒が集まっていた。静かに席に座る者、壁にもたれている者、窓の外を眺めている者。誰も無駄に話さない。ただ互いを観察している。
ルシアンは教室の一角に腰を下ろし、その空気を感じていた。
(……質は高い)
明確に違う。
この場にいるのは、選ばれた中でもさらに選ばれた人間たち。
その時、扉が開いた。
全員の視線が自然とそちらへ向く。
一人の男が入ってきた。
無駄のない動き。静かな足取り。だが、その存在だけで空気がわずかに引き締まる。
(……強い)
ルシアンは即座に判断する。
少なくとも、この場にいる生徒より一段上。
男は教卓の前に立つ。
「席に着け」
短い言葉。
誰も逆らわない。
「Sクラス担任を務める、レオニードだ」
淡々とした名乗り。
「お前たちはこの学園の中でも選抜された人材だ」
教室を見渡す。
「だが、それはあくまで“現時点”の話だ」
低い声。
「ここでは簡単に順位が入れ替わる。上にいるつもりの奴ほど、落ちる」
静かな圧。
誰も軽く受け止めていない。
「まずは自己紹介だ。順にやれ」
前列から、一人ずつ立ち上がる。
「グランヴェル・レグナス」
短く名乗る。
「――以上だ」
余計な言葉はない。
だが、それで十分だった。
教室の空気がわずかに張り詰める。
「次」
レティシアが立つ。
「レティシア・バルセリオンです。よろしくお願いします」
静かな声。
それだけ。
だが、空気がわずかに整う。
わずかな静寂。
担任の視線が一瞬だけ細くなる。
「……次」
テオドールが立つ。
「テオドール・ウォーデン。魔法が専門だ」
淡々とした口調。
短いが、自信は隠していない。
「次」
レオンが立つ。
「レオンです」
それだけ。
無駄な言葉はない。
視線はまっすぐ。
「次」
ガイウスが立つ。
「ガイウスだ!よろしくな!」
明るい声。
場の空気がわずかに緩む。
担任がほんのわずかに息を吐く。
「……次」
数人が続く。
そして、ルシアンの番になる。
ゆっくりと立ち上がる。
「ルシアン・ヴェルグレイヴです」
それだけ。
視線を受けても揺れない。
「……以上か」
「はい」
短く返す。
担任は一瞬だけ見つめ、すぐに視線を外した。
「座れ」
ルシアンは静かに腰を下ろす。
(……問題ない)
目立ちすぎてはいない。
だが、埋もれてもいない。
全員の自己紹介が終わる。
担任が口を開く。
「次にガイダンスだ」
教室の空気がわずかに緩む。
「基本的には自分たちで、どの授業を受けるのか決めてもらう。当然、必修はある。それは必ず履修しろ」
一拍。
「だが――Sクラスは特別扱いだ」
はっきりと言う。
空気が再び締まる。
「通常の授業に加え、個別指導、実戦訓練、特別任務が与えられる」
ざわめきが起きる。
「成績次第で内容は変わる。優秀な者には、それ相応の環境を与える」
視線が教室全体をなぞる。
「逆に、ついて来られない者は容赦なく落とす」
淡々とした口調。
だが、その内容は重い。
「このクラスは固定ではない。下がれば落ちる。上がれば上に行く」
完全な実力主義。
誰も軽く聞いていない。
ルシアンは静かにその話を聞いていた。
(……いい)
内心で思う。
(選別しやすい)
成長の差がはっきり出る。
(無駄がない。理想的だ)
担任は続ける。
「本日の説明は以上だ」
短く言う。
「今日は解散」
それだけだった。
教室がわずかにざわめく。
ルシアンは静かに立ち上がる。
(……ここからか)
周囲を見る。
グランヴェル、レティシア、レオン。
それぞれ違う質の強さ。
(揃っている)
静かに歩き出す。
(いい環境だ)
誰にも知られずに。
(整えられる)
この場所なら。
ルシアンはわずかに目を細めた。




