表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
果てなき世界  作者: 影川明空人
第3章 学園1年目
102/186

第101話

第101話


 アーカディア学園、講堂。巨大な石造りの建物の中には、新たに合格した生徒たちが一堂に集められていた。高い天井には精巧な装飾が施され、幾重にも重なる魔法陣が淡く光を放っている。壁には歴代の偉人たちの肖像画が並び、その一つ一つから、この学園が積み重ねてきた年月と格が感じ取れた。


 ざわめきが広がる。


「すげぇな……ここ」


「これ全部、魔法で維持してるのか?」


「やばい、場違いな気がしてきた……」


 期待と不安、そして僅かな恐れ。選ばれたはずの者たちでさえ、この場の空気に飲まれかけていた。


 ルシアンはその中で静かに立っていた。視線だけを動かし、周囲の人間を観察する。落ち着きのない者、余裕を見せる者、無言で集中している者。それぞれの“質”を測るように。


(……思ったより粒は揃っている)


 ただの秀才ではない。確かに選別されている。


(この中にいる)


 静かに視線を巡らせる。


(勇者、聖女……そして、それに準ずる人材)


 わずかに目を細める。


(どこまで伸びるか)


 測るように、観察するように。


 やがて、講堂の奥の扉が開いた。


 空気が変わる。音が消える。


 一人の男がゆっくりと歩いてくる。年齢は中年ほど。しかし、その歩みに一切の隙がない。ただ歩いているだけで、その場の空気を掌握していた。


(……強い)


 ルシアンは即座に理解する。あれはただの管理者ではない。戦える側の人間だ。


 男が壇上に立つ。


「――静かに」


 低く、よく通る声だった。それだけで講堂が完全に静まり返る。


 男はゆっくりと全体を見渡す。


「諸君、入学を許可する」


 短い言葉。しかし、その一言に重みがあった。


「ここにいる者は全員、選ばれた人材だ」


 その視線が一人一人を射抜くように動く。


「だが」


 わずかな間。


「それは“終わり”ではない」


 空気が引き締まる。


「ここからが始まりだ」


 静かだが、確実に胸に落ちる言葉。


「この学園は実力主義だ。身分も、出自も関係ない。価値はすべて結果で示せ」


 誰も言葉を発しない。ただ、全員がその意味を理解していた。


「ついて来られない者は落ちる」


「それだけだ」


 冷徹な宣告。


 男は一度だけ頷く。


「以上だ」


 簡潔すぎる締め。しかし、それで十分だった。


 男が下がると同時に、別の教師が前へ出る。


「続いて、首席による挨拶を行う」


 ざわめきがわずかに戻る。


「首席、グランヴェル・レグナス」


 その名が呼ばれた瞬間、再び空気が変わった。


 グランヴェルが歩き出す。迷いのない足取り。そのまま壇上へ。


「――グランヴェル・レグナスだ」


 短く名乗る。


「ここにいる全員が優秀であることは認める」


 一瞬だけ、空気が緩む。


 だが次の瞬間、赤い瞳が鋭くなる。


「だが」


 圧が変わる。


「その中で上に立つのは俺だ」


 言い切った。


 迷いがない。ただの事実として。


「ついて来られる者だけ来い」


「それ以外は――必要ない」


 静かな断言。


 ルシアンはそれを見ていた。


(分かりやすい)


 頂点に立つ人間。


(ああいう存在は、成長が早い)


 利用価値を測るように、冷静に。


(あれなら――)


 グランヴェルは壇上を降りる。


 ざわめきが戻る。


 やがて式は終了し、生徒たちはそれぞれの教室へと移動する。


 ルシアンはSクラスの教室へ向かった。


 廊下を歩く。周囲の気配はどれも濃い。


(……いい環境だ)


 静かに思う。


(揃っている)


 扉の前で一瞬だけ足を止める。


(ここなら)


 そして開けた。


 教室の中にはすでに数人がいた。


 その中で――


「おっ!」


 明るい声。


「ルシアンじゃねぇか!」


 ガイウスだった。


「やっぱ受かってたな!」


「ええ」


 短く返す。


 ガイウスは笑う。


「これで同じクラスか!」


 その隣で。


「……君も来たか」


 レオン。


 ルシアンは視線を向ける。


(勇者)


 静かに観察する。


「ええ」


 短く答える。


 レオンは頷く。


「これからよろしく頼む」


 ガイウスが笑う。


「なんかすげぇメンツだなこのクラス!」


 ルシアンは二人を見る。


(勇者)


(素質はある)


 そして――


(聖女もいる)


 視線をわずかに巡らせる。


(問題は)


 ほんの僅かに目を細める。


(どこまで“引き上げられるか”だ)


 静かに席へ向かう。


 アーカディア学園。


 選ばれた者たちの集う場所。


 そして――


(ここで、整える)


 誰にも知られずに。


(俺を倒せるように)


 ルシアンは静かに目を閉じた。


 新たな日常が、ここから始まる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ