第100話
第100話
翌朝。
アーカディア学園の正門前は、早くから人で溢れていた。石畳の広場には受験者たちが集まり、落ち着かない様子で掲示板の方を何度も見ている。緊張、期待、不安。様々な感情が入り混じった空気だった。
「まだかよ……」
「そろそろ貼り出されるって聞いたぞ」
「今年、相当多かったらしいな」
そんな声があちこちから聞こえる。
ルシアンは少し離れた位置に立っていた。人混みに入る気はない。どうせ結果は変わらない。
その隣に、静かな声が落ちる。
「来ていたか」
振り向くとグランヴェルがいた。ヴァルクと、その隣に一人の女性。昨日の決闘が嘘のように、三人とも落ち着いている。
「おはようございます」
「ああ。昨日は世話になったな。とても有意義な時間だった」
ルシアンも頷く。
「ええ。私もです」
その横で、女性が一歩前に出る。
「まだ名乗っていませんでしたね」
落ち着いた声だった。
「ディアナ・リーヴェルです」
「帝国の武門、リーヴェル家の人間です」
軽く一礼する。
「ヴァルクと同じく、将来的には騎士団の中核を担う立場になります」
ヴァルクが肩をすくめる。
「つまり皇子の護衛だ」
ディアナは小さく笑った。
「そういうことになります」
その時だった。
学園の職員が数人、紙を持って現れる。ざわめきが一気に大きくなる。
「来たぞ!」
「貼られる!」
掲示板に紙が貼り出される。
瞬間、人の波が一斉に押し寄せた。
「見えねぇ!」
「押すな!」
「番号どこだ!?」
混乱と歓声が入り混じる。
「やった!!」
「落ちた……」
「くそ……!」
結果はすぐに広がっていく。
グランヴェルは動かない。腕を組んだまま、静かに待っている。やがてヴァルクが人混みから戻ってきた。
「皇子」
「どうだった」
ヴァルクは苦笑する。
「聞くまでもないでしょう」
「首席です」
グランヴェルは軽く息を吐く。
「……当然だな」
ディアナが紙を確認する。
「二位はレティシア・バルセリオン」
グランヴェルが頷く。
「順当だ」
ディアナは続ける。
「三位はフィアナ」
ルシアンはわずかに視線を動かす。
(聖女)
やはり上位。
ヴァルクが続ける。
「四位テオドール・ウォーデン」
「五位レオン」
グランヴェルがわずかに口元を緩める。
「勇者か」
ヴァルクが言う。
「どうやら本物みたいですね」
ルシアンは静かに納得する。
(レオン)
あの少年の姿が思い浮かぶ。
ヴァルクはさらに紙を見る。
「七位……俺ですね」
肩をすくめる。
「まあ悪くない」
ディアナも続ける。
「十一位、私です」
ヴァルクが笑う。
「しっかり入ってるな」
そしてヴァルクが紙を見直す。
「十五位」
視線がルシアンへ向く。
「ルシアン・ヴェルグレイヴ」
グランヴェルが静かに言う。
「……予定通りか?」
以前よりも低く、確信を含んだ声だった。
ルシアンは何も言わない。
グランヴェルはそれ以上追及しない。ただわずかに笑った。
「まあいい。ここからだ」
その視線が掲示板へ向く。
そこには、さらにもう一枚の紙が貼られていた。
――クラス分け。
ざわめきが再び広がる。
「Sクラスどこだ!?」
「名前あるか!?」
新たな序列。
新たな舞台。
アーカディア学園での生活が、ここから始まる。
ルシアンは静かに掲示板を見つめていた。




