第122話 令和19年春場所
横綱67場所目のコシは先場所の大怪我(アキレス腱断裂)により運動はおろか、松葉杖で病院に入院していた。春場所は全休の見込みで、帰ってくるのは最短で名古屋場所を予定している。
「先生!早く退院させて下さい!」
「返してやりたいのは山々だがねアキレス腱がくっつくまでは、稽古どころの話ではないからね。もう少しの辛抱だよ。」
「あ!ゆいP!?」
「久し振り!子供達も来たいって言ってたんだけど、看護師さんが横綱は重症病棟にいるから面会は一人10分って言われてね。」
「マジかよ〜。」
「これ、下着とおやつ。また電話するね!」「あぁ、ありがとう。」
「ったく、もう2ヶ月も缶詰状態だぜ。お?このポテチ美味い。」
「横綱?間食はまたナースに怒られますよ?」
「良いんだよ。俺は力士なんだから。」
「確かに。」
「お!噂をすれば来たぞ!師長の回診だ。」
「百戦錬磨の越乃海もここじゃナースの前では無力か。」
「フーっ。何とかスルーしてくれたか?」
「横綱?今は絶対安静なんですからね?」
「はい。分かってますよ。」
「であればよろしい。」
コシは入院中何人かの友達が出来ていた。ケンちゃん、シンちゃん、マッちゃん。特に隣のベッドのマッちゃんとは、年も近く話があった。
「横綱?もう春場所だね?」
「あぁ、興味はないけどね。」
「見ないの?」
「見ると身体がうずいてきてさ。」
「それもそうだよね?」
「入院して2ヶ月も経てば流石に筋力落ちるわ。」
「でも看護師には内緒でダンベル使ってたじゃん。」
「へへっ笑マッちゃんにはバレてたか。」
「看護師に見つかったら絶対取り上げられるよ?」
「大丈夫。鍵付きの棚にしまっているから。」
「絶対内緒だよ?信頼してるマッちゃんにしか伝えていないんだから。」
「チクっても何の得にもなんねーし。それにおやつゴチってくれてるし。」
「それより本当に春場所見なくて良いの?」
「見なくて良い。」
「どうせ横綱の誰かが優勝するだろうし。」
「荒れる春場所だよ?」
「飯までどうせ暇じゃん。見ようよ?」
「しょうがねぇな。うわ、座布団舞ってるがな。」
「誰が負けたの?」
「武蔵山が負けたみたい。」
「初日から荒れてんな。」
「絶対王者不在だからな。」
「夕食ですよ?」
「お!もうそんな時間ですか?」
「TV消しますね。」
「あぁ、もう一番でラストだから。もう一番。お願いします!」
「横綱?ここでは病棟のルールに従って下さい。」
「はい。すみません。」
「TV禁止になったら、日中する事無くなりますよ?」
「まぁ、今の俺には読書が必要かもな。」
「でも、横綱が見てるのって全部相撲関係のものですよね?」
「まぁそれが俺の仕事だからな。」
こうしてコシは3ヶ月の入院生活を乗り切り、春場所後の3月下旬に仮退院となった。ただ、リハビリの為、週5で病院に通った。
「横綱凄いですよ。3ヶ月でほぼ完治。稽古も少しずつ再開していきましょう。」
「了解しました。」
「コシ!まだ病院にいろ!何?完治したから稽古したいだと?」
「やっぱ化け物だわ。」
「春場所は中村が制し5度目の優勝となったぞ。」
「まぁ想定内だな。」




