第一部【EPISODE1~7】通し版
●配役表 最大7人 ♂2:♀4:不1 2時間30分
※※※記号で検索かけてください※※※
Σ▶︎♂️ベリオ/他(粗野な軍人)
Ω▶︎♂️ラプラス/他(NOAHZ兵士B)
Φ▶︎♂️♀️ディール
Ψ▶︎♀️フラワ/他(幼フラワ、ネリル)
γ▶︎♀️ワカミネ/他(幼べリオ、NOAHZ兵士A、女性技術官)
α▶♀️カリオストロ/他(幼ディール、女性管制官、CSパイロット)
β▶︎♀️フィオナ/ヒメ ※ワカミネ役と兼ねでも可
【EPISODE1 RIGHT WAY】
<巨大な宇宙に浮かぶ円錐状の巨大なガラス張りに見える建造物。
“IO-PLANET”と大きくロゴの様に底面に表記されているその建造物の中。
『Base Station Issuing Military Technology Development Dermits』
(軍事技術開発許可証発行基地局)と表記された建物内のとある一室>
ディールNΦ:
―――人類は、どこへ向かっているのだろう。
そんな事をぼんやりと考えながら退屈な仕事を繰り返す。
仕事と言っても、工場から送られてくる納品書に承認、却下のハンコとサインを書くだけの退屈な作業の連続。
僕の人生はきっと、紙をめくり、ハンコを押し、サインをする運動で埋め尽くされるのだろう。
BEEEEE、と鳴り響くブザー音。
業務の終了を知らせるその音がようやく僕を長い長い一人喋りから解放してくれる。
……脳内でこうして呟くことを“喋り”と表す所に何かおかしみを覚えて一人ほくそ笑む。
……そろそろ、かな。
<遠くから息を切らせてベリオが走ってくる>
ベリオΣ:おおおーーーーーーーい、ディールーーー!!!
ディールΦ:
聞こえてますよ、ベリオさん。
何で毎回久しぶりみたいなテンションで走ってくるんですか。
ディールNΦ:
オレンジ色の作業衣でかけてくる青年。
やや吊り上がった瞳に頬に残った切り傷。
クローンフラワーの花粉がきついからと、鼻に張った絆創膏のような花粉防止テープ。
EARST EDISON地区の軍事武装 製造基地局の弾頭 開発部門で働いており、その作業衣から「囚人」と呼ばれていて。
……そして、僕の幼馴染だ。
<苦しそうに膝をついて肩で息をしながら>
ベリオΣ:
ぜーーーはーーー。ぜーーはーーー。
ぅ゛ぉっえ……三途の川が見える……。
ディールΦ:今見えてるのは合成樹脂と振動吸収 鉄鋼の道路ですよ。
ベリオΣ:うるさ……理系のうるささホント辞めてほしい……。
ディールΦ:
バカなこと言ってないでほら。
宇宙資源 回収区域に関する宇宙法をまとめた資料。
<そう言って彼に分厚い資料の束を手渡す>
ベリオΣ:ん……あぁ、ありがとう。大事に使うよ。
<微笑んでそう告げて振り返り また駆けていく>
ディールΦ:ベリオさん!!
ベリオΣ:ん??どうしたよ。
ディールΦ:
別にベリオさんの奇行は今に始まったことじゃないですけど。
危ないことは辞めてくださいね。
ベリオΣ:分かってるよ。……じゃーな。
ディールNΦ:
そう力なく笑うベリオさんの後ろには、天候操作システムによる紅い赤い夕焼けが輝いていた。
―――
――
―
<閑静な住宅街。機能的な見た目でありながらも気品の漂う住宅の集まった区域の一件の住宅の門のインターホンを押すベリオ>
ベリオΣ:……。
???β:――どなたかしら。
ベリオΣ:あ~~……その、どうも、ベリオです。
???β:
……うふふ、カメラ越しのあなたはいつもより小さく見えるわね。
懐かしくなっちゃうわ。
ベリオΣ:
や、辞めてくださいよ――フィオナさん。
……今日はその、発色の綺麗なスペースミルフラワーが取れたんです。
それと……<そう口ごもりながら>
???β:
辞めてと言っても辞めないんだから。
……入りなさい、お茶を入れるわ。
<白い家具に壁紙といった殺風景な部屋。
ぽつんと置かれたベッドの横には目まぐるしく動く数字の表示された機器が並び、窓際には沢山の花、袖を通していない服、音楽再生用ディスクが並んでいる。
そのベッドに横たわる美しく年を取った気品のある表情を称えた女性がベリオに話しかける>
フィオナβ:
――いらっしゃい、ベリオ。
……またそんなに手を痛めて。お仕事が原因かしら?それとも、ええと……?
『イーストダーウィン地区の青年ら7人 バーの前で白昼に乱闘騒ぎ』……。
ベリオΣ:違うんです、それは……!
フィオナβ:『6人の若い男女らに対し 1人の青年が突如激昂』
ベリオΣ:“若さ”ですね。
フィオナβ:『殴りかかるも 20分ほどで乱闘騒ぎは結末を迎えた』
ベリオΣ:その一人の青年が全員“ケジメ”つけちゃったのカナ?笑
フィオナβ:……『一人の青年がゴミ箱に頭から身体を突っ込む形で』
ベリオΣ:
獣を封じ込めておきたかったんですねえ!
眠れる獅子を起こしちゃったからねえ!
フィオナβ:『ゴミ箱からはすすり泣く声が聞こえた――――』
ベリオΣ:
あ~読~~んじゃったぁ、キラーフレーズの《読んで欲しくない》とこ読んじゃった~!
フィオナβ:ベリオ。
ベリオΣ:…………はい。
フィオナβ:
あなたの振るう拳は痛みをまき散らします。
そして、あらゆる媒体で……あなたの思わぬ所にまで届きます。
――例えば、遠い遠いセントラルエジソンの病人の読む雑誌を伝わって。
ベリオΣ:……はい。
フィオナβ:
あなたの拳も痛むでしょう。あなたの殴った男女も殴られた箇所が痛むでしょう。
……そして、いま私の心もズキズキと。痛むのですよ、ベリオ。
あなたのその手が早い所……どちらが良し悪しとは言いませんが、ディールとは大違い。
だから心配なのよ。二人とも。この時代、何事も広い視野で受け入れる姿勢がとても大事……ごほっ、けほっ……。
ベリオΣ:
フィオナさん!!! ……これ、今月分の。
先月の物より強い鎮痛剤です、水に溶かして飲んでください。
フィオナβ:
……ベリオ。
自分の冷たくなる指先も、あなたの笑顔が霞んで見える事も。そしてこれらが意味すること。私がそれらに怯えているように見えますか。
ただ……ディールとベリオの成長を見届けられなくなること。そして私の運命を知らないディールへのこの胸の張り裂けそうな思い。
貴方にこの冷たいバラの病を隠し通せず、この身を医学に捧げずにのうのうと生きながらえている私の甘さ。
ベリオΣ:……っぐ。
フィオナβ:
……さっきの雑誌の記事、こう続いていたわ。
『六人の男女はコールドローズ症 基金の少年の募金箱を奪おうとしていた疑いがある』、と。
貴方も自分の人生を歩む時よ、ベリオ。
ベリオΣ:
――それでも。ディールが気付く前に。
貴女の痛みも、孤独も、オレが少しでも受け止められるなら。
それが……オレの決めた生き方ですから。
オレが生きていられる理由がフィオナさんにある以上、何もしないで居ることは何よりも苦痛なんです。
何もなかったオレが、あなたの為に薬を用意できるのがどれほど幸せか……分かってください。
フィオナβ:
…………。
あなたのその優しさは、私だけに向けるものではないのですよ。
あなたはとっても優しい子。ディールと同じくらい、愛しい大切な子。
その優しさは、私だけが独占していいものではないのですから。
……有難くいただくわ、鎮痛剤。
ベリオΣ:
……オレは別に、優しいなんてもんじゃ――……今日は、帰ります。
そうだ、スペースミルフラワーは水温の微妙な変化で色が変わるんです。
たまに水を入れ替えてあげてください、目に楽しい花なので気分転換になるかなって。
……それじゃ。いつも通り、ディールには内緒で。
フィオナβ:
ふふっ、秘密の共有って、年甲斐にもなく胸が躍るわね。
ええ、またいらっしゃいね……ベリオ。
<部屋を出ていくベリオ。目を細めてそれを見送るフィオナ>
フィオナβ:
――――私はあの子を助けたのかしら。それとも……縛ってしまったのかしら。
あら……――綺麗な夕焼け。
<太陽の位置が変わったのか窓から差す光に目を細めて>
―――
――
―
≪フィオナの回想≫
<EARST EDISON地区のとある一角。
軍事産業基地局のビルの路地裏でぼろ布を身に纏い泣いている幼きベリオ>
幼ベリオγ:うえーーん!!うえーーん!!!!
フィオナβ:
軍事基地の視察は好きにはなれないわね……。
統一国家となった今、何故兵器の研究を根絶しないのか、理解に苦しむのは短絡的かしら……っ!
幼ベリオγ:うえーーーーーん!!
フィオナβ:
まぁ!僕ちゃん、お母さんはどちらにいらっしゃるの?お洋服はどうしたのかしら?
<そこに一人の軍人が通りがかり>
粗野な軍人Σ:
おっと、ムロウル家の。
……あぁ、そのガキには構わねえ方がいいですよ。この軍事区域じゃあ、よく人が捨てられるんでさ。ま、生活水準っちゅうんですかね。
それがようやく宇宙で安定してきたのか、減ってきてはいるんですがね。たま~にオレ達の仲間が餌付けするんだが……ありゃもう何週間もマトモなもん食ってねえんだろうなあ。
野良犬と一緒、餌付けして延命より終わらせてやるのも人情ってもんでさあな。
噛みつかれる前に帰りなすった方が安全ってもんですよー。
フィオナβ:ッッ!!
<軍人をビンタするフィオナ>
粗野な軍人Σ:ッ!? なっ……何をなさるんで!!!
フィオナβ:――――取り消しなさい。
粗野な軍人Σ:な、何を……!?
フィオナβ:
宇宙で安全に居られるのは確かに武力……貴方たちの存在があっての事。内乱も鎮圧され、貴方たちに感謝を忘れた日は一度もありません。
然し…………人を人と思えない人間が武力を持つべきとは、私は思いません!!
恥に思いなさい。貴方の臆病を。
恥に思いなさい!! 貴方の浅慮を!!
恥に思いなさい!!! 貴方の傲慢を!!!
粗野な軍人Σ:
へ……ヘッ!!!
箱入り娘さんのお高い演説がビンタ一発で聞けてラッキーだぜ!
あんたら金持ちは、そっくりそのまま地球から綺麗事持ち込んでよォ!!
そうやってお高く留まって楽な仕事だぜ!!
銃 を 握 っ て ん の は 俺 ら な ん だ よ !!!
<そう吐き捨ててドタドタと駆けていく軍人>
フィオナβ:待ちなさい卑怯も――ん?
<クイクイと服を下からひっぱられる感覚に下を見て>
幼ベリオγ:
ねぇ…………ぼ。僕のせいでケンカしてるの?もう泣いたりしないよ。
目がシパシパするけむりも我慢する。喉がイガイガするお部屋も我慢するよ。蹴られても泣いたりしないから……。
だから、おばさん。怒らないで。
フィオナβ:
……っ!!!
あなたは!!こんなところに居ちゃダメ!! あなたは人間なの!!
私の家に来なさい……!たくさん勉強して、あなたは優しくなりなさい……!
人の痛みを知り、人の痛みに寄り添い、理不尽に怒りを示すことのできる人になるの……!!
―――
――
―
フィオナβ:
――……あなたが家を飛び出してから、何年になるのかしら。「申し訳ない」の一点張りで。
…………ベリオ。
―――
――
―
ベリオΣ:
ウ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~……。
あも~ダメだこりゃ!ダメだこれ!!人の言語で書かれてねえわ!!!翻訳すんのに4日かかったわい!!!!!!!!!!!
ベリオΣ:
んで、分かったこと……まとめると。
『宇宙における鉱石、宇宙線、原子に至るものは“NOAH”を始めとした宇宙に存在するコロニーに身分を置いている以上、承認を得ない採取を禁止する。』
『承認においては書類審査、面接による診断、収入と支出票のコピーに所属基地局による承認書類とそのコピー、身分証明の可能な書類のコピー……エトセトラエトセトラ………』
………………ば…………馬~~~~~~~~~~鹿!!! バーーーーカ!
トランプ全部くらいの枚数か!!!てかトランプすんのか?トランプ持ってったろか!!!ほいで大勝ちしたろか!?
……おまけに、調べりゃ結局民間で採取出来てる例は無ぇ~~~んだもんな……。
あーーーもーーフリダシふりだし!!!寝よかな!!寝たろかな!!!
テンペスト・ラプラスΩ:
――――失礼するよ、ベリオくん。
ベリオΣ:
ホヒョ☆ うおおおおおおおびっくりしたあ…………て、テン兄じゃないっすか……。
ラプラスΩ:
済まないね。インターホンを押そうとも思ったんだが……半開きのドアの向こうからにぎやかな声が聞こえてね。
邪魔はしたくなかったんだが……。
ベリオNΣ:
このオレの部屋の前の扉で少し呆れた表情の彼は、テンペスト・ラプラス。
セントラルエジソン区代表のネヴァー・サーヴィス氏の秘書であり、オレの働いている軍事産業 維持部の責任者である。
セントラルエジソン区の特権階級層に属する彼だが、その大勢とは違いオレ達“囚人”に対して分け隔てなく接してくれる数少ない人間だ。
ムロウル家で家庭教師をしていた彼は、幼少期のオレに人類学や歴史学を教えてくれた……オレの恩人の一人だ。
ベリオΣ:あー……ホラ、さ……え~~~~~……最近!悶々としてて…………。
<書類を慌てて後ろに隠している>
ラプラスΩ:あぁ……まぁ、良いんじゃないか…………。
ベリオNΣ:ドン引きされちゃったぁ~~~。
ラプラスΩ:
じっ、ベリオくん、顔が平べったくなっているが。
こほん……それより聞いたかね。OBLOM鉱石の噂を。
ベリオΣ:ホクホクドンペリ?暖かい酒?
ラプラスΩ:…………器用に間違えるね君は。
ラプラスΩ:
――OBLOM鉱石。最近宇宙で新発見された……。
岩石というよりは、結晶体だそうだ。
人類が宇宙に大地を作り上げてから急に蔓延を見せている、“コールドローズ症”の特効薬の原料として注目を集めているらしい。
ベリオΣ:……ッ!!!
ラプラスΩ:
40代にかけて歳を取るごとに現れる謎の症状。
発病すると指先から体温は下がり続け、細胞はその冷たさに壊死を始める。
心臓は謎の膨張が起き……その膨張の形は棘が生えたかのような形、膨張の際に稀に現れる刺すような痛みから……。
――――冷たいバラの病。 通称、コールドローズ症。
特効薬は存在しない……と、言われていたが。
この新発見されたOBLOM鉱石には、体温の低下の阻止を始めとした根治を見せる働きの成分が非常に高いらしいね。
ベリオΣ:
っっその、それは!!!
……それは、いつ頃薬用として研究が始まるんでしょうか。
ラプラスΩ:
これはあくまでセントラルエジソン議会の医療技術部からのレポート報告だからね。
正式な薬品への転用は……まぁ、10年といったところかな。
ベリオΣ:……10年…………も……。
ベリオNΣ:それじゃあ、フィオナさんにはとても――ッ!
ラプラスΩ:
まあ、すぐに議会からNOAHの中央部に挙げられ、研究へと回されるだろうな。
宇宙資源認定も問題なく降りるだろうよ。
ベリオΣ:……そうなん、ですね。
ラプラスΩ:
おっと、もうこんな時間だ。失礼するよベリオ君。
……あぁ、それと。乱闘は出来るだけ夜間に頼むよ。
庇うには、昼は目撃者がいささか多いからね。
ベリオΣ:ぐっ!そ、それは……すみませんでした。
ラプラスΩ:……フ。頭を下げられるのは強い男の証だ。それでは。
<頭を下げるベリオを一瞥しては微笑んで、部屋を後にする>
ベリオΣ:…………クソッ。
―――
――
―
<時は進んで、その日の深夜から明け方にかけての薄暗い部屋。
深呼吸を一つして、目を閉じてはゆっくりと開き気分を切り替えるように通信端末に番号を打ち込む>
ベリオΣ:
……フラワ?話があんだけど。
違う違うってば!だからあれはち〇〇んじゃなくてち〇〇んみたいなニンジンの写真だったんだって!え何?赤くて気持ち悪いって?じゃあもうそれはニンジンが嫌いなだけだから!!
そんなことで電話したんじゃねえんだって……。相談が有るんだ。
スイ・フラワΨ:<電話>
――フン、どんな相談なんだか。大体ね~、まだ許してないからね。
ベリオΣ:ち〇〇んみたいなニンジンの話?
フラワΨ:<電話>
……その四文字の科学から最も離れた単語、勘弁して。
ベリオΣ:
じゃ、まあ、そういうことで。仕切りの厚いほぼ個室みたいなカフェがいいな……。
セントラルエジソンのSEA Cleっていうカフェで、この後16:00(シックスティーン.ゼロゼロ)に。
フラワΨ:<電話>
ちょっと!まだ話は終わって――<彼女の話を最後まで聞かずに電話を切るベリオ>
ベリオΣ:フ~~……。始まりはいつも、美しき友情から、か。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
【EPISODE2 YOUTH】
フラワΨ:
――……腐れ縁って恐ろしいのね。あいつの為になんでこんなカフェくんだりにまで……。
――ほら、来たわよ。
ベリオΣ:……あぁ、おっす。
フラワΨ:
おっすじゃないわよ。今日もうちのラボで実験があんの。
あんたにも分かるように教えてあげるわね。
神経反応速度理論のレポート100枚分のデータをまとめないといけないぐらい、大変なの。
ベリオΣ:ほぉ。100枚分ってとこだけ分かった。
フラワΨ:はぁ~~……で?何?成功するナンパ術でも知りたいわけ?
ベリオΣ:――IOPLANET周辺宙域の、OBLOM鉱石が欲しい。
フラワΨ:…………は?
ベリオΣ:……IOPLANET周辺宙域の――。
フラワΨ:聞こえてるわよ。
ベリオΣ:ごめん。
フラワΨ:
どうやって。いつ。
……そして、“何故”なの?
ベリオΣ:……フィオナさんのコールドローズ症を治す。
フラワΨ:
……ッ!!
……ご立派ね、でも不可能。理由は二つ。
宇宙法第24条第1項、宇宙資源 回収区域 規定。
民間・企業を問わず、NOAHでの承認が必要。
そして、承認はNOAHの中央部のみ認められていて、実質NOAHの息のかかった企業しか資源回収は行えない。
次に手段。問題は“採掘方法”。
NOAHZで採用されている多角宇宙作業人型ユニット……スペリオル、だったかしら?
全コロニーの中央区で採用されている機体でさえ、採掘が行えないほどOBLOM鉱石は繊細で、不安定。
そんな鉱石を採掘する程の精密な動きが出来る機体は、存在しないの。
ベリオΣ:……分かった。出来ない理由はな。
フラワΨ:残念だけど……これが現実よ。ベリオ。
ベリオΣ:…………良かったよ。出来ない理由しかなくて。
フラワΨ:……え?
ベリオΣ:
“出来ない理由”しか口にしてない。
“諦める理由”にはならねぇよ。そうだよな、フラワ。
フラワΨ:……何言ってんのよ、そもそも医者でもないあんたが何で急に――。
ベリオΣ:ディールのお母さんはッ!!
フラワΨ:……!!
ベリオΣ:
フィオナさんは、目の良い人だったんだ。ディールも同じに目が良くてな。
そんなフィオナさんが、言ったんだ――「貴方の笑顔がかすむ」って。
フラワΨ:ベリオ……。
ベリオΣ:
フィオナさんは凍えながらもオレに生きていくとはどういう事かを……未だに教えてくれる。
……時間がないんだ。計画を立てる必要がある。そしてこの計画にはもう一人、ディールにも参加してもらう。
フラワΨ:……あのね、流石にそんなこと無理に決まって――<Σかぶせる>
ベリオΣ:
そこで!!
フラワとディールには、脅されてもらう。巻き込まれてもらうんだ。
OBLOM鉱石独占を目論む犯罪者によって無理やり作業をさせられた形を取る。
フラワΨ:
バカなこと言わないで。
なんでそんなメリットも何もない……いえ、そんなことより、犯罪者って………どういう事よ。
ベリオΣ:オレが首謀者だ。
フラワΨ:ッ!
ベリオΣ:
オレが二人を脅す。“という体”を取る。
宇宙法において罰せられるのは俺だけだ。
OBLOM鉱石は採取と同時に絶振動ボックスに居れてから宅配ボックスのラベルを張って……セントラルエジソンのスペースエキスプレス船に紛れ込ませる。
搬入口にドローンで紛れ込ませて……行き先はフラワの父さんのラボにすればいいだろう。
そして、“どうやって”の部分だが……。
フラワ。“非公式の機体を含めた”場合、精密削岩の出来る機体が一つだけ、あるよな。
フラワΨ:…………何故――。
ベリオΣ:
『知ってるのか』だろ?
オレは軍事産業 維持部の弾頭 開発部の“囚人”だ。
発注される弾薬の種類や、発注先の情報は上司の机から盗み見れる。
ベリオΣ:
最近、NOAHから妙な発注があった。
ナパーム弾、徹甲榴弾、ホローポイント弾に電磁障害弾。
これらの弾丸はすべて特殊作戦に用いられるものだ。
だが……スペリオルの使うライフルとの互換性はない。スペリオルのライフルでは、これらの弾丸を射出するだけのバレル(銃身)が短すぎる。
必然、巨大なスナイパーライフルに似た銃器でないと射出は無理だがスナイパーライフルの設置、リロード、弾種変更には現行のスペリオルではまだ研究段階の動作だったはず。
“これらはすべて精密作業”だからだ。
戦闘においての狙撃は迅速で正確である必要があるからな。
下手するとスナイパーライフルの設置、エイミング、射撃、リロード、移動、全ての動作がスペリオルの何倍もの精密な動きを必要とされるはずだ。
……そして極めつけに発送先の欄に「セントラルエジソン区、軍用重化学研究基地局」の記載……。
フラワの父親の運営するラボだ。
そして、さっきの「何故」のセリフ。
教えてくれ――お前のところで何を作ってる。
フラワΨ:……イヤな男。必死な時だけ頭が回るのね。
<胸元のジッパーを下ろす声>
ベリオΣ:うおおおおどした!?!?!?スマートなオレの一面を見て発情!?!?
フラワΨ:
キモ。量子物理学的にゼロパーセントな事言わないで。
……“これ”よ。
ベリオΣ:
めちゃくちゃゼロじゃん……って、どれどれ……。
<彼女の首の付け根の中央。そこには銀色の円状のパーツが取り付けられているように見えて>
――…………見えないオシャレみたいなこと?
フラワΨ:し!! ん!! け!! い!! ゆ!! に!! っと!!!
ベリオΣ:しんけいゆにっと?……神経ユニット……!
フラワΨ:
セントラルエジソン 軍用 重科学 研究基地局のシークレットプロジェクト。
超精密行動用ランドスタッド「CONTROL」……通称CT。
そのファーストテストパイロットが、あたし。
この胸のコンセントはCTの神経操作ケーブル接続口。
……早い話、娘の体でテストすれば表に漏れず、失敗しても隠ぺいが容易、上手くいけばラボのマスコット。
ノーリスクハイリターンのモルモット、ってとこかしらね。
ベリオΣ:ランド……スタッド……?
フラワΨ:
そ。大地に立つ者――LAND STANDが訛ってこう呼ばれてんの。
スペリオルだって公称は多角戦略作戦ランドスタッド・スペリオルなんだから。
……知らずにここまで嗅ぎ回ってたの?
ベリオΣ:いや、呼び方なんか誰も教えてくれねぇし……。
フラワΨ:
……ま、褒めたげる。推理自体はお見事。それで?
いつ私は“被害に遭う”のかしら?
ベリオΣ:協力するって、言ってくれりゃいいのに。
フラワΨ:
うっさい。
……あ、あと二つ質問いいかしら?あんたは拒否は出来ないけど。
まず、私はいいとして。ディールを巻き込む理由が見当たらないわ。
ベリオΣ:
いい質問だな。流石理系。
ま、簡潔に答えると……ディールの目と耳が要るんだ。
CTのモニターじゃOBLOM鉱石の偏光電磁波のせいでどれがOBLOM鉱石なのか特定できない。
だからディールの目で目視して削岩の位置を特定してもらう。アイツの視力は滅茶苦茶高いからな。
んで、削岩中にディールの耳を使う。
OBLOM鉱石は振動を加えられて爆発する兆候を見せた時に高周波を発するんだ。それをディールに耳で聞き取ってもらって、危険を回避しつつOBLOM鉱石ゲットってわけ。
安全に、確実に、大量にゲットしてえからな、どうせなら。
フラワΨ:……二つ目。ディールは、お母様の容態を把握しての事なの?
ベリオΣ:
……フィオナさんは、ディールにコールドローズ症なのを隠してる。
……オレにも隠していたさ。
フィオナさんが体調を崩しはじめ……今思えばコールドローズ症の初期症状だったんだろうが……オレがお節介にフィオナさんにこっそり花と薬を届けに言った最初の時に、医者との会話を聞いちまうまでは。
……フィオナさんがコールドローズ症のサンプルとして“自分を”捧げるのを……オレが、止めてんだ。
鎮痛剤と花だけを届けて、何も知らないディールに心の中で謝りながら。
フラワΨ:……フィオナさんの選択を、貴方が塞いでいるようにも見えるわ。
ベリオΣ:……そうさ。塞いでいるんだ。
フラワΨ:………。
ベリオΣ:
オレにディールの様子を聞いてくる時や……。
窓の外に懐かしそうに目を細めるフィオナさんを、指咥えて見てられねぇんだ。
……医療が追いつくその時まで。
コールドローズ症だって分かった途端、隔離と投薬を続けられて衰弱死するなんて理不尽が無くなるまで。
オレがあの人の血液に……心臓になりてえんだ。
……降りてえなら、今のうちだぞ。
フラワΨ:
頼る当てがないくせにカッコつけないの。
あたしが降りたらどうすんの、バカ。
……で、ディールには、どう説明をするの。
ベリオΣ:
ディールには、オレの周りの孤児の為の孤児院設立の資金集めって事にする。
実際オレの周りには孤児だらけだ。街が小綺麗になっても孤児は消えてねえ。
昔の俺の様に人が寄り付かないところ……汚染された場所や危険な場所に目立たないように捨てられてるだけだ。
オレみてえな思いをするガキは、これからの世界に必要じゃねえ。
それに……毎晩遅くまで、忙しいってよく愚痴ってる研究の為にお前がラボでNOAHZへの技術研究協力のレポート書いてんのも知ってる。
自分の体を改造までした憎いラボの為にNOAHに納めるレポートを書くなんて合理的なお前じゃ考えらんねえ。
……NOAHからの資金援助を受けるための軍備拡充研究のレポートの作成に追われてんだろ?
フラワΨ:……どっから仕入れてくんのよ、その情報。
ベリオΣ:
お前のラボに弾薬を運んでんのはオレの所属する部署の隣の奴らがやってんだ。
毎晩寝ずにNOAHに提供する“人体動作ランドスタッド転写装置”や“それに付随する神経反応速度理論”のレポートを書いている娘がいるって言われちゃ誰か即分かんだよ。
……綺麗ごとじゃ、ラボは潰される。
NOAHでも忌避されている人体実験を施されたお前っていう存在は貴重だ……まさか胸に穴が開いてるもんだとは思わなかったが。
で、そんなお前から取れるデータのレポートが有る限り、NOAHはラボにいくらでもゼニを弾むだろうな。
……だが、もしレポートが滞ってNOAHからの支援金が来なくなった場合……ラボは倒産。
お前の父親は……まぁ、軍備守秘を知っちまってる以上、NOAHに守秘情報の保持者の保護という名目の軟禁を受けるだろうな。
それを防ぐには……ラボの存続のための金。それも、莫大な金額。
フラワΨ:…………。
ベリオΣ:心配すんな。お前のラボが遊園地になるくらいの量を掘り出そうぜ。
フラワΨ:
…………ここ、あんたの奢りだから。準備できたら連絡しなさい。
あと、オレンジのその服。ダッサいからやめなさい。モテないわよ。
ベリオΣ:
あっ、おい……。素直じゃねーんだよな。
――………モテないってほんと?
―――
――
―
<場面が変わって、イーストダーウィン地区の中央を流れる巨大な川。その河原の大きめのベンチに腰掛ける二人>
ベリオΣ:――よう。こんなとこに呼び出して悪ぃ。
ディールΦ:
別に構いませんよ。セントラルは息が詰まりますから。
自然に触れながらの会話っていうのも、むしろ有難いくらいです。
ベリオΣ:
自然つっても、見せかけだけどな。
この川だって、チャチな浄水施設を通しての排水処理された水が集まって流れてるだけだ。
ディールΦ:
……で、用件は何ですか? 何もないのに、こんなところに連れ出して。
ベリオΣ:
………こないだ。宇宙資源回収区域についての宇宙法。まとめてくれてありがとな。
ディールΦ:いえ、それくらい。
ベリオΣ:
その時に、「危ないことはしないでください」って……言ってたけどさ。
悪い。オレ、結構危ない橋を渡ろうとしてんだわ。
……。んで、隠しても仕方がないから言うけど。
お前にも、片棒を担いで貰いたい。
ディールΦ:……はぁ。内容によりますね。
ベリオΣ:
最近宇宙法で宇宙資源認定が下りる予定のとある鉱石がある。
その鉱石にガチガチに制限が下りる前に、その特殊な鉱石を掘り出したい。
ディールΦ:……手段と人数は?
ベリオΣ:
作業に必要な最低人数でいく。3人だ。
メンバーはオレ、ディール、フラワの3人。
手段はフラワの研究所で開発している精密作業用人型動体で採掘を行う。
ディールΦ:保管方法と保管場所。動機も教えて下さい。
ベリオΣ:
オレの職場の弾頭開発部から絶振動ボックスをちょろまかして、それに入れる。
そのボックスに宅配ラベルを張り付けて、ドローンでスペースエキスプレス船に紛れこませる。
動機は……イーストダーウィン地区の孤児院の設立だ。
学区も設けて、親がいなくても学びを得て、孤独のままに死んでいくガキを無くす。それには莫大な金が要る。んで、採取された鉱石を売っぱらって儲ける。
この鉱石の存在はまだ未発表だ。先んじて大量に取って売っちまえば、かなりの大金になるからな。
フラワとディールは、オレに脅されて手伝わされた、って形を取る。
ディールΦ:
……一応、理論的に練り上げられてはいますね――ですが、お断りさせて頂きます。
ベリオΣ:頼む。お前が必要なんだ。
ディールΦ:
理由は二つ。
そもそもこの作戦に僕が必要な理由が見当たりません。
もう一つ。きっと……いや、確実に。この作戦はベリオさんが割を食うんでしょう、どうせ。
そんな自己犠牲に、僕はうなずけません。
<そう言うと、ベリオが手の中に納めていた小さな装置のスイッチを押して>
ディールΦ:ッ……!!!
ベリオΣ:
耳鳴りが消えた、って顔だな。それは耳鳴りじゃねえ。
この装置で鳴らしてた15000hzの帯域の高周波だ。
もちろん俺は少しも聞こえねぇが……お前は最初っから聞こえてたんだろ?
ベンチに腰掛けてから、今俺がこの高周波発生装置を切るその瞬間まで。
ディールΦ:……だから何だというんですか。
ベリオΣ:
オレの採取する鉱石――OBLOM鉱石は性質上、振動が加わると不安定になる。
そして不安定な状態のまま更に振動を加え続けると、この15000hz~17000hzの高周波が鉱石から発生する。
それをディールに聞き取ってもらう。
加えて、ディールの目の良さも必要になる。OBLOM鉱石は偏光波を出してるもんだから、モニターでの判別が難しい。
だから、データとディールの目視による2つの方法で判別をしていく必要があるんだ。
ディールΦ:……なるほど。僕を必要する理由はそれですか。
ベリオΣ:分かってくれたか。
ディールΦ:――ですが、なお。断るという結論を変える気にはなりません。
ベリオΣ:………は?
ディールΦ:断る、と言っているんです。
ベリオΣ:
……ッなんでだよ!
計画も!お前を必要とする理由もきちんと答えたろうが!
ディールΦ:
目的が金である以上、手を貸すことはできません!
やっていることは強盗や密漁と何ら変わりないじゃないですか!
社会はその行為を認めないって言ってるんです!
ベリオΣ:
じゃあ社会はオレを助けてくれたのかよ!
フィオナさんが俺を見つけるまで軍人に蹴られるオレを、社会は見つけてくれたかよ!
弾薬形成合金の混じった空気を吸いながら生きてるガキを、社会は今助けてやれてんのかよ!
ガキの死体を燃やす軍人の給料は払われて、ガキに金を渋る社会にどうやって正面から向き合うんだよ!
ディールΦ:
ベリオさんは立ち向かうという行為をはき違えている!
目先の子供たちだけを救ったって意味がないんです!
社会の仕組みを変えるべきです!
ベリオΣ:
目先の子供は人間じゃねぇってかッ!?!?
その“仕組み”が変わる頃まで、何人のガキの死体を見ねえ振りすりゃ良いんだよ!
ディールΦ:
ベリオさんの今立つ大地も、僕らの知らぬ亡骸で作られたものなんです!
今更慌てても社会は表情を変えません!
ベリオΣ:テメェ……―――ッ!!!
ディールΦ:
辞めてくださいよ!!
ここで僕たちがケンカしたところで――<Σセリフを待たず殴りかかるベリオ>何が変わるって言うんですかッ!!
※声有り
<ΣΦしかし簡単に殴り返され、地面に投げ出されるベリオ。
それを見降ろすディール>
ベリオΣ:
……んだよ……余裕かよ……。
配られたカードがたまたま強ぇだけの奴が……!!
紙の上でしか死体を見れねぇ!!臆病もんがあ――ッ!!!
※声有り
<ΣΦ再度、吠えて殴り掛かるも、完全に殴り返され仰向けに倒れるベリオ>
ディールΦ:
……もう、辞めにして下さい。
出来る事から、やらなければならないんです。
ベリオさん。貴方の拳も、言葉も、社会という存在から見れば余りに軽すぎる。
……母さんに軍事基地局 雇用の強化を進言しておきます。ですから、この話はもう終わりです。
……治療ポッドへの無料チケットです。
顔の傷。これで治してもらって下さい。
<そう言って去るディール>
<目に涙を浮かべて仰向けの状態で小さく呟く>
ベリオΣ:――――クソッ…………要らねぇんだよ、こんなもん……。
ラプラスΩ:…………若さとは、時に熱を帯びるものだね。
<声が響く。河原を降りてきたのは、職務終わりに見える服装のラプラス>
――――――――――――――――――――――――――――――――――
【EPISODE3 Sign of】
ベリオΣ:テン兄……。ッグ……<起き上がろうとして顔をゆがませる>
ラプラスΩ:ああいや、そのままの態勢で構わないよ。痛むだろう。
ベリオΣ:す、すいません……。
ラプラスΩ:
止めた方が良かったかな。
だが……君たちの姿が私の思う若さとあまりに重なって……美しくすらあったものでね。
言語とは、何も声のみで伝えるものではないだろうと思ってしまったのだよ。
ベリオΣ:……こんな所、見られたくなかったっす。ダセえから……。
ラプラスΩ:
君の幼い時に何度も見たよ、この光景は。
ただ……小さなロボットの人形を握り締めた君が抵抗もせず殴られているのを助けていたあの頃とは、大きく違う意味を持つ光景だと。
私は思うがね。
ベリオΣ:…………聞いてましたか、殴り合いしてる時の……オレ達の会話。
ラプラスΩ:
聞いてくれと言わんばかりの音量だったよ、二人とも。
私に気付かずに熱の入った論争だった。もちろん、聞いていたさ。
ベリオΣ:
………分かってるんです、本当は。
ガキを救うには、社会を変えるべきだって。
オレの自己満足で建てた小屋で、根本的に問題が変わんのかって。
捨てられたガキを救うんじゃなくて、ガキを捨てない社会を作る方が先決なんだ……って。
ラプラスΩ:君の年で考える事ではないのだがね、本来は。
ベリオΣ:
誰かが言わなきゃなんねえんです。
セントラルじゃ、イーストの死亡者なんてデータでしか見てねぇんだ……。
皆老衰で死ねると思ってやがる……ッ。
ラプラスΩ:
得てして人は満たされると、光のみが世界を構成していると思い込むのだよ。
闇への直視を恐れ、忌むようになり……いつかは闇そのものを忘れてしまう。
……セントラルの人間達を見なさい。
満たされ、安定した生活を送る人間達は死体をその目で見ようなどと、闇へは足を運ばない。その死体の齢など知る由もない。平和の為に垂れ流される汚染も、造られる武器も御伽噺だと思っている。
いや……御伽噺にすら、汚染や銃器の存在は欠片も出てこないだろう。
だからこそ、君の言う“現状への一石を投じる行為”は必要であると私は感じるよ。
最早、法の速度では人々の死に追いつかない。
――結論を言おう。
孤児院は必要だ。私もセントラルで議会に掛け合ってはいるのだがね……どうしてもNOAHへの軍事物資関連の承認や報告で手一杯になってしまっているのが現状だ。
ベリオΣ:……。
ラプラスΩ:
――話は変わるが……セントラルエジソンでは高周波探査の技術研究が盛んでね。
精密動作技術の研究の進歩により、宇宙資源 回収の為のセンサーの開発が積極的に行われているのだよ。
私のような機械に疎い人間にも大量にサンプルが送られてきてしまってね……断ってはいるのだが。
ベリオΣ:………!!! ……つまり、どういう事ですか。
ラプラスΩ:
もし仮に私が、大量に送られたサンプルのうちの一つの“高周波センサーを落としてしまったら”……。
と、日々管理に苦労している、という事だよ……――。
<そう呟くように言うと、ベンチにゴトン、と両手のひら大のパーツを落として去る。>
ベリオΣ:....テン兄。
<ゆっくりと起き上がって、すでに見えなくなったラプラスの背中を目で追う>
―――
――
―
<カフェ SeaCleにて座っている二人。
呆れた表情でベリオを頬杖をついて眺めるフラワ>
※「あによ」→「なによ」の同義語。フラワ用語。
フラワΨ:で、あによその顔。
ベリオΣ:うるせーな……。だから言ってんだろ。 一輪車練習してんだよ。
フラワΨ:
バレバレのウソやめて。
……ま、どーせケンカしたんでしょ。やめなさいよ、弱いんだから。
ベリオΣ:弱くねえわ。爪隠してんだわ。能が有るから。
フラワΨ:何?ハゲタカ?
ベリオΣ:突拍子がないようで意味が通ってる悪口辞めろ!
フラワΨ:で。その顔からするに……ディールの勧誘は失敗ってとこ?
ベリオΣ:…………まーな。
フラワΨ:
ケンカして、負けた上に勧誘も失敗。
涙をこらえてフラワちゃん助けて~ってとこかしらね。
ベリオΣ:
違えよ。……見ろ。
<机の上にセンサーをゴトンと置く>
センサーだ。
『High Frequency Analyze System』
H.F.A.S……って、書いてある。
フラワΨ:
書いてある……って、アンタこれどっから持ってきたのよ。
……盗んできたんじゃないでしょうね~!
ベリオΣ:
バカよく見ろ。正規品だよ。
まあ正確には、正規品になる前のサンプルだが。
<IDを携帯端末で照合するフラワ>
フラワΨ:
……このロゴとIDは…………ウソ。本物じゃないの……。
……どこから手に入れたのよ。
ほんとに盗んだなんて言わないでよね。
もし盗んでいるんだったらアンタを探すNOAHZで街中パンパンでしょうし、さすがに違うでしょうけど。
ベリオΣ:えー……あー………落ちてた。
フラワΨ:ま!!じ!!め!!に!!こ!!た!!え!!な!!さ!!い!!
<ベリオの頬を両手で挟んでぶんぶん振り回す>
ベリオΣ:
んおおおおおおおおおマジなんだって!!!
それ以外にどうやって俺が手に入れんだよ!!!
ベリオNΣ:
テン兄に作戦を聞かれててこっそりセンサーを横流してもらったなんて、言えねーよ……!
ベリオΣ:
イーストダーウィンの軍事基地にはこういうパーツがたっぷり管理されてんの。
セントラルならまだしも……イーストの基地局に落ちてたセンサーだし、そこまで高性能じゃねえんだと思うぜ!!
フラワΨ:
フン。……まぁ、確かに。
正規品になる前のサンプルなら、ある程度の数は基地局に転がってそうな代物ではあるわね。
ベリオΣ:
ディールはアレだったけど……このセンサーがあれば、関係無ぇ。
目が無えのはちょっと痛いが……まあ、岩ごと大雑把に削って、センサーが鳴ったら掘るのをやめて。の繰り返しでいいだろ。
あとは……そのOBLOM鉱石をフィオナさんに使う。
粉にして飲ませりゃいいかな。
フラワΨ:
バカ。原始人じゃないんだから。
経口摂取で飲ませるなんて危険だし、効き目が薄かったら無意味でしょうが。
OBLOM鉱石の砂やら不純物を取り除いて、残った純OBLOM鉱石を精製して……。
点滴って形でフィオナさんに投与、ってとこかしら。
で。余った鉱石は技術部門のバイヤーの知り合いに売り飛ばして、孤児院の建設を発注……てとこかしらね。
ベリオΣ:……ディールがいれば、発注とかもスムーズなんだがな。
フラワΨ:
未練がましいのね。
ウジウジしてるトコ、パパの飼っていた死んだ犬にそっくり。
ベリオΣ:可愛いってこと?
フラワΨ:いや死んでんだから可愛いも何も無いわよ。
ベリオΣ:“犬の死体”に似てんの?
フラワΨ:
とにかく、目処は立ったわね。精製はあたしのラボでやれば良いし。
さ、行くわよ。
ベリオΣ:え、どこに?
フラワΨ:ラボのランドスタッドドックよ。あんた動かせんの?CT。
ベリオΣ:……今から?
フラワΨ:善はクソ急げ、よ。
ベリオΣ:慣用句の味付けが濃くなってないか?
―――
――
―
<ゴウンゴウンと規則的に響く重低音。
薄いスポットライトで鈍く照らされる人型の巨大な物体。
不気味なやや猫背にも見える前傾姿勢で、微動だにしない“それ”に思わず息を飲むベリオ>
フラワΨ:
あにボーッとしてんのよ。ほら邪魔どいてどいて。
これが……超精密作戦 行動用ランドスタッド――『CT』よ。
ほら、こっち来なさい。
<ハシゴのついた中型の車が自動で動く。その車でCTのコックピットに乗り込みながら声をかけて>
ベリオΣ:……あ、あぁ。
<ΣΨ共に乗り込むベリオとフラワ。胸元をはだけさせて胸元にコードをつなぐフラワをチラリンコチラリンコ見てしまうベリオ>
フラワΨ:
すーーーーーっ、ふーーーー……。
見てんじゃ無いわよ変態。
……ランドスタッド、CT。
――……起動。
CTΣ□:《CONTROL ACTIVATED》
ベリオΣ:な、なんか喋ったぞ!!!
フラワΨ:
英語でキドーシマシタって言ったの。
……で、これで。
よっと。
<コックピットに乗り込む際使用した梯子付の車を、CTの指が梯子と車に指で分解していく>
ベリオΣ:……スゲーな。あんなクソ小せえパーツを指でつまんで分解するとは。
フラワΨ:
組み立て直しも出来るんだから。
なかなか……、自分の体と縮尺が違うから難しい……、けど――ほら、出来た。
ベリオΣ:
ドックのカメラに写ってるけど……。
お前ってプラモ作る時にあぐらかくタイプ?
フラワΨ:
うううううるさいわね!
ライトに頭が当たんのよ!!こうした方が簡単なのよ!!
はい降りる!さっさと降りる!!
CTΣ□:《CONTROL INACTIVATE》
<コックピットから出る二人>
フラワΨ:……さ、これで一応動作も確認したし……決行は早い方がいいわね。
ベリオΣ:
NOAHZのランドスタッドに乱獲されたり、防衛施設を張られるかも知れねえしな。
んーじゃ……今夜。
フラワΨ:
……ま、筋道立ったら即行動でいいでしょう。
今の内に寝とくのね。あと遺書とか。
ベリオΣ:縁起でもないこと言うな!!!………ダイジョブだよな?
フラワΨ:あーもー鬱陶しい!さっさと帰る!!!
<モジモジし始めたベリオを手でしっしっと追いやるフラワ>
フラワΨ:――…………私もやっと、人を助けられるかも知れないわ。お母さん。
<ブローチの中の女性の写真に向かって語り掛けるフラワ>
―――
――
―
<場面転換。
酸素供給装置のウインウインとした無機質な音が響き渡る空間。
戦艦「ヴェイルサイド」のとある一室で>
ネリー・ネリル・ネリリウスΨ:――――良かったんですか、大佐。
ラプラスΩ:君にしては珍しく抽象的な質問だな。
ネリルΨ:具体的な言葉は時に、野暮に等しいと教わりましたので。
ラプラスΩ:
君の師に同感だね。
……構わないさ。ベリオ君には存分に鉱石を発掘してもらう。
ネリルΨ:これも“入口”に辿り着く道程……ですか?
ラプラスΩ:………彼次第だね。
ネリルΨ:
二兎を追っていたら、それが兎では無かった、なんてことは想定しませんのね。
ラプラスΩ:何、虎であればむしろ大助かりだがね。
ネリルΨ:んふ。……可愛い人。
<二人が背後を振り返ると背後の壁が透明に変化する。
“VAILSIDE DRIVE”と刻印された巨大なレーザーキャノンが現れて暗転>
―――
――
―
ディールNΦ:
まったく……ベリオさんは一度決めたら、視野が一気に狭くなるんだからなぁ。
……僕にケンカで勝てたことなど、一度もないのに。
ディールΦ:
ただいま戻りました。
最近の軍備 拡充案が重なってしまって……少し家を空けてしまいましたが。
お体に変わりは有りませんか――母さん。
フィオナβ:
あら。夕日がまだ昇っているのに、早く帰ってこられたのね。
お帰り、ディール。けほっ……!
ディールΦ:
長引く風邪ですね。
……自宅療養ではなく、入院して見てもらうのも手だと思いますが。
フィオナβ:
ふふっ……。
私がいなくなれば、この日の浅いコロニーの雇用は混乱と停滞に飲まれるでしょうに。
……この若いコロニーを、未来の子供たちの盤石な土地にする為には。眠る事すら私には耐えがたい怠慢なのですよ、ディール。
ディールΦ:
……イーストとセントラルにおけるインフラ設備に、NOAHへの技術提供。そして、子供たちの安全な居住地や育児の環境の確保。これらはまだまだ発展途上です。
僕も一刻も早く、ムロウル家として恥じない働きをしなくては。
フィオナβ:
……ディール。ムロウル家の人間として恥じない行いを母は求めているわけではありません。
このコロニーを共に踏みしめて生きる人間として恥じない行為を求めているのです。
貴方の周りの人を、貴方を想う人を……。
そして何より貴方自身が、貴方を恥じる事の無いように生きることを求めているのですよ。
ディールΦ:
……適わないな、母さんには。
――ん、このミルフラワーは母さんが買ったんですか?
フィオナβ:
…………えぇ。
庭の手入れをしてくださる方がお部屋での鑑賞用に是非、って。
ディールΦ:そうなんですか。……この花は、あまり好きではないんですがね。
フィオナβ:あら、気に入らないの?
ディールΦ:
あはは、誤解しないでください。
温度で色が変わるでしょう、この花は。色の変わるさまが毒々しくて。 それに、生態も。
水温次第で表情を変えるこの花が、人間の弱さを現しているようで……得意ではないんですよ。
フィオナβ:
……貴方も、とっても優しい子ですもの。
このお花の色の変わる様が“目まぐるしさ”に見えてしまうのも、無理はないわね。ミルフラワーは二階の書斎に置いておきましょうか?
ディールΦ:
いえ、水の入れ替えに距離が遠いと母さんの体調に良く無いですから。見える箇所に置いておきますよ。
僕は平気ですから。っ……と。基地局からメッセージだ。
緊急 軍備承認会議?今月はやけに多いなあ……。
では、母さん。申し訳ないんですが。
なるべく早く帰宅するようにしますので――。
<そう言って足早に家を去るディール>
フィオナβ:………年を取ると、言葉の裏を探そうとしてしまっていけないわね。
<そう言ってベッド横の明かりを消す>
―――
――
―
<IOPLANET作業用ランドスタッド搬出口の前でCTを背後に言い争う二人>
ベリオΣ:おーい。いつまで手間取ってんだよ。
フラワΨ:
こんなダッサい、人生で付けたこともない防塵ガスマスクなんか手間取って当然でしょ!アンタがそんなヌルヌル付けていけんのがおかしいのよ!
ベリオΣ:
ヌルヌルて。これがないと岩石の粉塵が肺に入って中ズタズタなる可能性が跳ね上がるんだぞ。
スペーススーツだけじゃ危ねえんだぞ。
フラワΨ:
ダゾダゾうっさいわよ!
……はい、これでいいでしょ。
んじゃ、ちょっと下がって。潰れるわよ。
<ふわり、と無重力を感じさせる柔らかさでコックピットに乗り込むフラワ>
ふーーーー……やっと、ね。
やっと、私が自分で決めた道を初めて歩ける。
――……いくわよ。
CTΣ□:《CONTROL ACTIVATED》
ベリオΣ:
………ぞっとしねえな。
インカム越しのこの声?音だけでもイヤなもんだが……。
不安になったりしねえのか?
フラワΨ:<CT>
『――あたしの胸、見たでしょ?
“この子”と文字通り繋がってる身としては、カワイイものよ。
……ほら、手に乗って。 ここからはバレたら一発でアウト』
<場面移動。ベリオをCTで受け止めたフラワ。
潰さないようにゆっくりと手がベリオを覆う。
重たい音を響かせてランドスタッド搬入口が開いていく。
CTが搬入口から宇宙空間にスラスターを吹かせて移動しながら、全身からMANTをバラ撒いて宇宙デブリに移動していく>
※MANT▶『multiple analyzer negative technology』多種探知システム妨害技術。電磁波、音波によるレーダー機器の作動を認識し対極のソナー波を出してレーダーを打ち消すステルス技術
フラワΨ:
『………静かね。それに、どこまでも続く黒。
私たちは本当に地球を出て、宇宙で生きているのね』
ベリオΣ:センチになるなよ。見るべきは銀河の遠くじゃなくて、近くの岩だ。
フラワΨ:
『わかってるわよ。放り出すわよ。
――ん、モニターの概算によると……この岩石に含まれている可能性が高いわね』
ベリオΣ:
よし、じゃあ周囲の岩石をどけてくれ。
んで……そう、この岩を指で削って欲しいんだ。砕けねえように慎重にな。
フラワΨ:
『あのね……。このCTの馬力からすればこんな岩一個、ゆで卵と同じなの。
どんだけ神経使う作業なのか分かって言ってんの、その注文』
ベリオΣ:よし、ドリルで削ってくれ。
<きゅいいいいいん、と甲高い音を立てて岩の中に沈み込むCTの指先から出ている小さなドリル。
小さいと言っても人間4人分を束ねたような大きさのドリルであり、そのすぐ真横をセンサーを持ったベリオが立って耳を澄ませている。
すると唐突にVIIII、と鈍く音が響く>
ベリオΣ:ッ!!フラワ!!!
フラワΨ:
『了解。こら、手出さないの。
ドリルに触れるとトマトみたいに弾けちゃうわよ』
ベリオΣ:いちいち嫌な言い方すんだもんな……。
<そう言いながら、ベリオの持つ小さなドリルでセンサーの音を頼りに岩石を削る。そうすると、乳白色に青みがかったような色の鉱石が現れた>
ベリオΣ:お……これ……これが………。
フラワΨ:
『OBLOM鉱石……。
ただの岩石と一緒に見えるけど。黒ずんだ、石ころじゃない』
ベリオΣ:
ほー。モニターで見ると黒ずんで見えんのか。
実際は青みがかった、乳白色みてえな色してんだけどな。
ほれ、CTの回収ボックスに入れといてくれ。割るなよ。割ったらパーだからな。
フラワΨ:
『アンタも余計なプレッシャーかけてくんじゃないの。
あんまり言うとマジに割るわよ』
<そう溢しながらもCTの回収ボックスにゆっくりと格納されていく鉱石>
ベリオΣ:
次は…………X-345(さんよんご)、Y-600(ろくぜろぜろ)、Z-970(きゅうななぜろ)だ。人間用の端末じゃここまでしか観測できねえ。
CTの計測値だと、どこらへんだ?
フラワΨ:
『今移動してるでしょ!!!舌噛むから黙ってなさい!!!
――α(アルファ)678、β(ベータ)960、ね。
だからこの岩石、ね………でkkkkkっか!!』
ベリオΣ:……帰ろっか。
フラワΨ:
『こ……れはたまらんわね………。
うーーん……。取り合えず半分に割りましょう。そい』
<CTが腕を振りかぶって拳を岩にたたきつける。
瞬間、ぎゅいいいいいいいいん、と耳に痛い高周波がベリオの手元から鳴る>
ベリオΣ:バカお前いきなり……ぐおおおおッッ!!!
<───―――ッッキュンッ、と一瞬音が吸い込まれるような静寂の後に、鼓膜をつんざく程の轟音と衝撃波がベリオを襲う>
フラワΨ:『ごめえええええええええんっ!!』
ベリオΣ:…………お前さあ。
<CTのモニターに大の字でべったりと叩きつけられてしまったベリオ。
モニターいっぱいのベリオの不満顔>
フラワΨ:『あんまりデッカいのも考え物ね』
ベリオΣ:どう考えても正拳突きしたのが悪いだろ。
フラワΨ:
『どっちみちあんなに大きい中から掘り出すのも厳しいでしょ。
結果オーライよ、結果オーライ……ッ、隠れて!!』
ベリオΣ:ッ……!!
<CTの手の中に隠れるベリオ。岩石に身を隠すフラワ>
NOAHZ兵士Aγ:
『――――宇宙資源区域にての爆発を目視。アナライザーにより熱量、高エネルギー分子の連続衝突によるものと断定』
NOAHZ兵士BΩ:
『――了解。継続してアナライザからの情報を送れ……何かが、この周辺宙域に居たのは明らかだな。武装のセーフティを解除しろ』
NOAHZ兵士Aγ:
『とは言っても、この区域に宇宙資源認定が下りるってのはトップシークレットのはずですが。民間の宇宙清掃事業の衛星が爆発したのでは?』
NOAHZ兵士BΩ:
『先月から宇宙でのトラブルの可能性は“極力”初期段階での確認、随時の鎮圧をとの方針だ。警戒を怠るな――』
NOAHZ兵士Aγ:『了解――――』
<CTの全身からしゅうしゅうと音が小さく出ている。
MANTの散布によるその音は、ベリオに微かに聞こえる程度の音で。
岩陰に身を隠して動かないベリオとフラワの横をスペリオルが巡航飛行で通り過ぎていく>
フラワΨ:
『お願いっ……早く離れて……!!
このままだとMANTの残量が……!!』
ベリオΣ:
『おおおおおちゅちけ!こういう時は手のひらに人という字を』
フラワΨ:
『え~と人、人……』
<CTがベリオの居る手のひらに人差し指で人を描こうとする>
ベリオΣ:
『わああバカ潰れる!!!CTと繋がってんだからやめろ!』
<人差し指で潰されそうになっているベリオ>
フラワΨ:
『あっ……ごめん。
――それじゃ、続き。ガンガン掘っていきましょうか……』
―――
――
―
<CTの収納ボックスに上限値までの採掘を終えた二人。
ランドスタッドドックに戻って、鉛製の手袋で絶振動ボックスにOBLOM鉱石を収納していく>
ベリオΣ:
よっし。これだけあれば孤児院の分……と、ディールのお母さんの分。
んで、これは……お前のラボの維持費分。
フラワΨ:
よくまあこんなに掘ったもんね。
……ま、こんだけあればいいでしょ。
ベリオΣ:
このOBLOM入り絶振動ボックスに宅配ラベルを貼り付けて、ドローンで3・4日開けてエクスプレス船への配送レーンに紛れ込ませる。
全部届くまで4週間……ってとこだな。
フラワΨ:
うまく作戦成功って訳ね。それじゃ、バイバイ。
ベリオΣ:
おお。んじゃーな。
――……あともうちょいです、フィオナさん。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
【EPISODE4 MIRAGE】
<時は過ぎて1ヶ月後。ムロウル家の玄関前で顔を合わせるベリオとフラワ。
フラワの手には、生成されたOBLOM鉱石の液体の入った試験官が握られている>
フラワΨ:……なんであんたが緊張してんのよ。
ベリオΣ:当たり前だろ!効かなかったらどうすんだよ……。
フラワΨ:
おバカ。パパの出席する議会でも先日、OBLOM鉱石の薬用開発の特許が出たんだから。
しかも製造も易しいらしくてね。
製造方法のファイルも、責任者の承認付きで企業へ公開されるらしいわ。
資料もパパがもらってきてくれて、精製もすんなりうまくいったもの。
人体に効く、って天下のNOAHのお墨付きが出てるのよ。ほら。
<そう言って端末を操作してOBLOM成分の承認が降りている書面のデータを見せる>
ベリオΣ:
……おぉ、確かにな。よく分からんけど。
このデカハンコがあるってことはそうなんだろ。……じゃ、入るぞ。
<そう言ってディール家に入る>
フィオナβ:
――……いらっしゃい、ベリオ。
それに……フラワちゃんかしら。大きくなったのね。
フラワΨ:
お久しぶりです、フィオナおば様。……お体の具合は、いかがでしょうか。
フィオナβ:
最近は安定しているの。痛みもなくなって……。
ベリオ、綺麗なお花をありがとう…………ディールも喜んでいたわ。
ベリオΣ:
それはよかったです。
……少し花の位置を変えましたか?あと、ディールは?
フィオナβ:
ディールは、先月の軍備緊急 拡充承認会議の後処理で、またしばらく家を空けることになってね。
静かな空間が好きな私にはちょうどいいくらいよ、うふふ。
……そうそう、お花の位置なのだけれど。会議の直前にディールが家に帰ってきてくれた時に変えたんだったわね。直射日光が花にあたるのは良くないらしいわ。
…………それで。
ベリオΣ:
今からの手筈、ですね。まずはメールで送った通り……。
OBLOMという特殊な鉱石の成分を精製した液体をフィオナさんに点滴で投与します。
6時間毎に容態の観察を行って、歩けるようになれば……。
セントラルエジソンの運営する静かな庭園があるんです。
そこで……ディールも誘って、スペースミルフラワーの広い畑で。
オレが小さいとき、よく淹れてくれたフィオナさんの特性の紅茶を飲んで……。
フラワΨ:ベリオ。点滴のセッティング。
ベリオΣ:……悪い。フィオナさん、ちくっとしますよ。
フィオナβ:あなたに子ども扱いされる日が来るとはね、ベリオ。
ベリオΣ:
っち、違いますよ!
俺にはこういう注射をする側の経験なんて無かったので、本当に痛かったらって……。
フラワΨ:仲良いわよね、アンタとおば様。イチャイチャしてんじゃないわよ。
ベリオΣ:イチャイチャだと!!恐れ多い!!!
フラワΨ:
武士みたいな顔で武士みたいなこと言ってんじゃないの。
……開始っと。
<フラワの声に呼応するようにぴちょん、ぴちょんと水滴が落ちていく点滴>
フィオナβ:
…………二人とも。私のこのOBLOMの摂取がうまく行こうと行くまいと。心を平常に保つこと。
そして、うまく行ったのなら……人々の役に立ててちょうだいね。
うまく行かなかったのなら……――自分を責めないこと。
そして……失敗の原因を追究して、やはり人々の役に立つようにしてほしいという事。約束をしてちょうだい。
ベリオΣ:……分かりました。約束します。
フラワΨ:了解です、おば様――――。
フィオナβ:(微笑む)――――――――。
<12時間後。静かに寝息を立てて眠るフィオナの横で、月明かりに照らされるフィオナを眺めるベリオ。
部屋では血圧と心拍数測定機の規則的な電子音が時計の代わりと言わんばかりに鳴り響く。
その空間を切り裂くように、フラワが部屋の扉を開けて口を開く>
フラワΨ:
交代よ。
……なーによ、目にクマ作って。
やれることはやった、データも取った。アンタがフィオナさんを眺めて状態は良くなんの?
ベリオΣ:……もうちょっとだけ。…………なぁ。もし、うまく行かなかったら。
フラワΨ:おば様の前でする話かしら?
ベリオΣ:
怖いんだ。このまま……目を覚まさなかったら。
ディールになんて言えばいいのか。自分を許せるのか。
……毎秒毎秒吹きあがる不安を、……毎秒毎秒せき止めるような感じだ。
苦しくて、重たくて……皮膚が焼かれてしまい、そう、な――(眠る)。
<声が階段を下りるように小さくなっていく。
眠気が限界になってしまったのか、椅子から前のめりに倒れ込むベリオ。
それを抱きとめるフラワ>
フラワΨ:
……怖がりで、ケンカも弱くて。意地汚くてひねくれてて、嫉妬しいでスケベのロクデナシで。
おまけに。不器用なんだから。
―――
――
―
<場面転換。ベリオの夢の中の情景。幼きベリオとディールが出てくる>
幼ベリオγ:――おまえさぁおまえさぁ!
<絆創膏まみれの膝や手。泥にまみれて、泣いた後もうっすらと見えるベリオ。
砂場で小さな砂の城を作っているディール。
目元は少しだけ赤く、同じように頬もなにかにぶつけたように赤くなっている>
幼ディールα:なんですか、びりおさん。
幼ベリオγ:こえ(これ)。
<絆創膏まみれの手で差し出された、ぼろぼろのロボット>
幼ベリオγ:
こえおまえのでしょ。おえさ、つよいから。
ケンカして取り返してきた!
幼ディールα:……ひざ、いたくないんですか。
幼ベリオγ:なにが?けんかならよゆうでかったから。
幼ディールα:………ぐすっ。
幼ベリオγ:えええ!!なくな!!よわっちょ!!!
幼ディールα:
……びりおさんがなかないから。ぼくがかありにないてあげてるんです。
幼ベリオγ:…………えへえへえ。
<ぐにゃって笑顔でベリオも涙をためながら笑う幼ベリオ。
そして世界がぼやけるように夢が覚めていく――>
―――
――
―
ベリオΣ:――……っっはぁッ!!!
<紺色の皮のソファーで横になっているところからハッと飛び起きるベリオ>
ベリオΣ:…………慰めみてえな夢だったな。
<そう言いながらも微笑むベリオ>
ベリオΣ:……頭痛え………っ、フィオナさん――!!!
<息を切らせてフィオナの自室に飛び込むベリオ>
ベリオΣ:フィオナさん!!!!
フラワΨ:あによ。ダミ声が耳に響くからやめてくれる?
ベリオΣ:……っ、どいてくれ!!フィオナさんは!?
フラワΨ:あっちょっと、まだ……。
<フラワをどかして、フラワの背後の医療用カーテンをさっと手で開け――>
ディールΦ:
――……そう、母さん。右足が少し重いですか?
あはは、右足と右手が両方出ちゃってますよ。
フィオナβ:
いやだ、こんなに恥ずかしい姿を晒すことになるなんて……。
そうね、ディールは右の肩を支えてくれるかしら。
<現れるのはディールとフィオナが和気藹々と歩行練習をする姿。
窓からは暖かく光が差し、オレンジ色に輝くスペースミルフラワーが輝いていて。
そして、その光景にぺたん、とゆっくりと地面に膝をついてしまうベリオ>
ベリオΣ:…………。
フラワΨ:
病み上がりの病人の居る部屋にイノシシみたいに突っ込んで。
呆れた。寝癖ぐらい直しなさいな。
…………晴れの日に相応しくないでしょう。
ベリオΣ:…………あぁ…………。
ディールΦ:
……ベリオさん。見てください!!
ずっと弱い風邪のようなもので、あまり動けなかった母さんが……!!
<ぱぁぁっと笑顔でベリオを見るディール>
ベリオΣ:あぁ…………!
<ぶわっと涙があふれ、それを手で拭う事もせずにぽろぽろと涙をこぼし>
ディールΦ:……ベリオさん?どうして泣くんですか。
ベリオΣ:……うるせーな。お前が、泣かねーから……。
フラワΨ:……男同士って、めんどくさ。
フィオナβ:
さあさ、三人とも。ゆっくりと散歩でもしましょう!
セントラル直産のフレイドルチェ茶葉があったはず、紅茶を淹れてくるわね、うふふ。
<場面が変わり、セントラルの運営する庭園で歩く四人>
ベリオΣ:
――そんで、そんで!オレが言ってやったんすよ!
「ケンカに勝ってもぬわんにも得られねえぜ、ジャリボーイ」って!!
フラワΨ:そのケンカ吹っ掛けたのはアンタでしょうが。
ベリオΣ:ぐ、ぐぬぬ
ディールΦ:
僕が助けに行った頃には、お金も取られかけてベソかいてませんでしたか?
ベリオΣ:ぬ、ぬぬぐ。
フラワΨ:
しかもなぜかうさぎ跳びさせられて――<Σかぶせる>
ベリオΣ:
ハイもうこの話終わり!!!!おもんないから!!!!
ハイもう終わりよ!!! 眠っ!眠たっ!!!!!!
フィオナβ:うふふ。相変わらずベリオは愉快な子。
ディールΦ:ベリオさんのその明るさに、実際僕も助けられてもいますしね。
ディールΦ:……ん、基地局からコールだ。…………。
<申し訳なさそうにちらと周りを見やるディール>
フィオナβ:いいのよ、大事なお仕事ですもの。気にせずに出なさいディール。
ディールΦ:
では、少しだけ。はい……はい。
拡充軍備をNOAHまで、即輸送承認!?
造っては送り、造っては送り……ですね。このコロニーの為の軍備生産では無かったのですか?
…………いえ、遂行には疑問など。は。分かっております。
フラワΨ:……なーんか。
ベリオΣ:カンジ悪そ~な相手だな。
フィオナβ:私がもう少し若かったらビンタをお見舞いするようなお人柄の方ね。
ディールΦ:然し今日の予定は事前に申請したものであり……!!!
フラワΨ:……フン。
ベリオΣ:ううう……。
<何かを悟ったかのように耳に指で栓をする>
<刹那、フィオナがディールの手から携帯端末を取り上げ>
フィオナβ:
初めまして!!!!私!!!!!!
ディールの母親のムロウル・フィオナですが!!!!!!
フラワΨ:うっそ……。
ディールΦ:母さんは元来、“ああ”なんだよ……。
ベリオΣ:
そもそも熱い人なんだよな……。
寝込む前とかこういうのしょっちゅうだったもんな。あと声量計ってみていい?
フィオナβ:
ええそうです!!!!現ムロウル家当主の!!!!!
フィオナでございます!!!!!!失礼ですが!!!!!!!
本日はディールの休暇申請が受理されているものと思いますが!!!!!!!!
フラワΨ:……母は強し、ね。
ディールΦ:こういうところも勿論好きなんですがね。あははは。
ベリオΣ:82dbだって!!!!おい!!!!82!!!!!!
フィオナβ:
ええ!!!!それでは!!!!!失礼します!!!!!!
………………ふう。はい、ディール。無事にお休みは確保されましたよ。
ベリオΣ:“無事”に?
フィオナβ:うふふ、スッキリしたわ♡
フラワΨ:言っちゃってるわね。
ディールΦ:
……でも、助かりましたよ、母さん。
さ、もうすぐそこです。お茶にしましょう。
―――
――
―
<場面変わり、庭園内の花が咲き乱れる場所。
その中央に東屋が建てられており、その日陰の涼しい場所で紅茶を嗜む四人>
フィオナβ:……本当に変わらないわね、ここは。
ディールΦ:子供の頃、よく母さんが連れて来てくれましたね。
ベリオΣ:うまいうまい、うまいうまい。
フラワΨ:
ちょっと。ガブガブ飲み過ぎ!ていうか紅茶ってそんなに流し込むもんじゃないから。
トイレ遠いんだから知らないわよ。
ベリオΣ:おしっこいきたい。
フラワΨ:早速か!!
フィオナβ:ほら、ビスケットもあるわよ。
ディールΦ:
これは……!! juvenileのっ!!
こんな高いクッキーがあったなんて……うん、おいしいです。
ベリオΣ:食わせろ!!!オゴゴ!!!!
フラワΨ:バケモンみたいになってるわよ。
フィオナβ:
賑やかなピクニックでとっても楽しいわ。
風を感じて、自分で外の世界を見に行けるなんて……。まるで、夢みたい。
ディールΦ:母さん……。
フラワΨ:本当に……良かったですね、おば様。――あっ。
<そういってフラワの声に導かれて全員がフラワの視線の先に目をやる。
そこには、やや強い風が吹き、スペースミルフラワーの作り出す一面の虹のような光景が波打つような美しい光景であった>
フィオナβ:
…………意志を持たぬ花が、ここまで人の意思を潤す……。
世界の美しさは、まだ私に教えをもたらして下さるのね。
……この時間が、永遠に続けばいいのに……。
ディールΦ:
この美しさを鮮明に覚えておかないと。
……僕たちの作る武器は、この光景を守るためにあるのだとしっかりと心に留めないと。
結局僕たちは武器を握っても、守るものがないと折れてしまうのだから。
フラワΨ:……同感ね。
ベリオΣ:――帰ろうぜ。夕方になると風も強くなるしな。
フィオナβ:
三人とも。今日は本当に楽しくて……夢のような時間でした。
土の匂い、太陽の匂い、頬を撫でる風の心地よさ……。
一生分の思い出になりましたよ。
ベリオΣ:何言ってんすか。これからも続くんすよ。
フラワΨ:あんたはお菓子とお茶が欲しいだけでしょうが。
<そう談笑しながら帰宅していく四人>
―――
――
―
<場面が変わり、フィオナの寝室。
すっかり空は暗くなり、星や衛星がせわしなく瞬いている>
フィオナβ:
ベリオ、フラワちゃんも帰りましたよ。
ディールも一階にいる事ですし……私の部屋に居座るのも、もう十分だと思いますけれど。
もちろんここはあなたの家でもあるのですから大歓迎ですが。
<そう言いながら、さらさらと日記のようなものを綴りながら呟くフィオナ>
ディールΦ:
――母さん。
あ。ベリオさん、まだいたんですか。
実は……緊急の承認会議でまた呼び出されてしまって。
折角ですしベリオさん、今日は泊っていってください。では――。
<そう言うと足早に部屋を出ていくディール>
ベリオΣ:忙しないですね、あいつは。敵わないですよ。
フィオナβ:あら、忙しなさで優劣が決まると思っているの?
ベリオΣ:…………オレは、タマを作る“囚人”ですから。
フィオナβ:
服の色だけで罪人のような呼び名を使う人々に心を痛める必要はありませんよ、ベリオ。
あなたも、ディールも、このコロニーにとっても……私にとっても、かけがえのない大切な子なのですからね。
ベリオΣ:
…………っ。<うるうるっとした瞳を誤魔化すように>
……今夜は、この部屋で寝ますよ。椅子で眠るのは慣れてるんで。
―――
――
―
フラワNΨ:
――――久しぶりに、お茶を飲んだ。 久しぶりに、空を見た。
――――久しぶりに、花を、土を。
――――そして。鼻の奥につんと来るむず痒さ、喉の奥が勝手に締まるようなあの感覚と共に。
――――目に溜まる水をこらえるのに……今日は一苦労だった。
<座ったまま眠ってしまったフラワ。夢の中>
幼フラワΨ:おとうさん、なんで泣いてるの?
幼フラワΨ:……おとうさん、おかあさんは今日は帰ってこないの?
幼フラワΨ:――……おとうさん。わたしがいるんだよ。もう泣かないで。
<その幼いフラワを背後から見つめる現フラワ>
フラワNΨ:
…………お母さん。どこで、何してるのよ。
人は……無防備に愛を失った時、こんなにも簡単に壊れてしまうって分かっていて、私たちを捨てたの?
フラワNΨ:
愛を忘れてしまったお父さんと……切り捨てられない血という鎖。
その鎖がね。私の胸から延びるこのケーブルとなって、鉄の塊に縛り付けられてるように感じるの。
お母さん。お母さん。お母さ……――。
<ジリリリリリ、という通信端末の音で目が覚めるフラワ>
フラワΨ:
――何よ……、こんな時間に。ベリオから?
……はい、フラワ…………ッ。
なんですって。
―――
――
―
<はぁ、はぁ、はぁ、という焦りを感じさせる荒い息遣い。
深夜であるというのに遠慮なく響くそれはムロウル家の前で止まる>
フラワΨ:ベリオ!!!!
ベリオΣ:
フィオナさん!!フィオナさん!!!
オレが見えますか!?フィオナさんッッ!!!!
フラワΨ:ベリオ、何があったの!!
ベリオΣ:
分かんねえ……ッ、フィオナさんが急に寒いってッ!んで、もう肘のとこまで……。
<フィオナの腕を服をまくって見せるベリオ。
フィオナの腕は指先から肘の部分まで不自然なほど白く変色しており>
フラワΨ:これは……ッ。
フラワNΨ:コールドローズ症の末期症状……ッ!?
ベリオΣ:
ついさっきまで元気だったんだ!!!
日記も書いて、喋ってたら急に……っ。
フラワΨ:ベリオ!!!!時間がないわ、脈拍増強剤とヒートプラグをありったけ用意して!!
ベリオΣ:分かった!脈拍増強剤と……ッ。
<脈拍増強剤の入った注射と熱の発生する棒状の装置をベッドの下から取り出してフラワに渡すベリオ>
フィオナβ:…………騒がしいのね、二人とも。
フラワΨ:
フィオナさん……!
喋らなくてもいいです、今は体力の温存だけを考えて……!
フィオナβ:……自分の体ですもの、何が起きているかは自分でもよく分かります。
ベリオΣ:麻酔の量を増やせフラワ!!!凍えを認識させるな!!
フィオナβ:
…………麻酔は困るわ、ベリオ。
呂律が回らないのは……少し恥ずかしいもの。
……ごめんなさいね、こんなことになってしまって。
フラワΨ:……ベリオ。
<フィオナに見えない位置でふるふる、と軽く首を横に振る>
フラワΨ:……聞きましょう。
ベリオΣ:……ッ。
フィオナβ:
…………とても、とても感謝しているの。
窓の外を眺めるだけの日常から、私を連れ出してくれて。
太陽の温かさも、頬を撫でる風も。
貴方たちの笑い声に包まれて喉を通る紅茶の匂いも。
ディールのくれたフラワーカタログで見るよりも良いけれど、風にそよぐ花を見た時のあの湧き上がる感情。
懐かしくて……同時に、新しくて。
……そうね、電話の先のディールの上司の方も、しどろもどろになっていて、とっても可笑しかった。
ベリオΣ:もう喋らないでッ……喋っちゃダメだ!!!
フィオナβ:
…………本当はね。ベリオ。貴方が引き留めてくれてうれしかった。
貴方が苦しんでいるのを知りながら……、貴方にしがみつきながら。
貴方の傷だらけの手の差し出す薬と花が、私の人生を明るく照らした。
……多忙になっていくディールの代わりにと、家に足繁く顔を見せる貴方を見るたび、私の一日が始まる気がした。
ディールとベリオ、これでもっと、貴方たちの成長を見ることが出来る。
これでもっと、迷った貴方たちの話を聞いてあげられる……と、日々心を躍らせていたの。
……ごめんなさいね、ベリオ。老人の我儘に、付き合わせてしまったわね。
ベリオΣ:
我儘なんかじゃない!言っているでしょう……!!
オレの……生き方だったんだ……!!
オレの、オレにとっての最初の誕生日は、“貴女が”くれたものなんだ……!
……ッオレの!! ワガママなんだッ…………。
フィオナβ:
……泣かないでちょうだい、ベリオ。
霞む視界でも、貴方の笑顔が見ていたいの。
――…………ダメね、間際でも欲張ってしまう。
ベリオΣ:フィオナさん……ッ!!!
フィオナβ:
…………叶うなら。
……あなたたちと、もっと…………。
あの庭で。 はなを。
みて いたくて………………じろー……――――――。
<ピ――――…………と、無機質な音が部屋に響く>
ベリオΣ:……フィオナさん?…………フィオナさん――――ッ!!!!!
フラワΨ:
……ベリオ。離れなさい。
…………観測者、スイ・フラワ。
セントラルエジソンNo.6799(シックス.セブン.ナインナイン)。
ムロウル・フィオナの、死亡を確認――――。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
【EPISODE5 MYWORLD】
ディールNΦ:
――……朝の04:00(フォーゼロゼロ)に、フラワさんから連絡を受けた。
フラワさんが死亡時の立会いデータを提出してくれたおかげで、事件性の有無の調べ、葬式への調書は存外淡々と行われた。
……死因は、老衰だったらしい。
回復のような兆しを見せて、急激に容態が悪化するのは、ない話ではないとフラワさんが肩を落としていた。
ベリオさんは泣き疲れて眠ってしまっているようだ。
ベリオさんの上司からの鬼のような電話には、フラワさんが一喝して休みをもぎ取ったらしい。
思えば、僕の周りの女性は強い人が多いものだ。
……そんな冷静な自分に少し驚く。いや、冷静ではないんだろう。
心にぽっかりと穴が空いて、連絡がきた直後から2時間ほど涙を流した。
しかし、もう流す涙もない……というのが正しいのだろうか。
流す涙もないほど泣くと、……語弊を恐れず言うと、気分はとても晴れやかだった。
母さんは、熱く、太く生きた。僕が幼い頃から、いや、きっと……。
宇宙で人々と共に生きるとNOAHでの生活を断った時から。
母さんの熱は、胸を焦がすほどのものだったのだろう――。
ディールΦ:
……ダメだな。出し切ったはずと思ったのに。
…………涙というのは、全く。――――……母さん。
―――
――
―
<葬式が行われているムロウル家。葬式の手順は慎ましく行われ、棺への別れの挨拶が終わる。
場面が変わり、ムロウル家の横の土手のような場所で一人座って空を見て居るベリオ。その彼の背後から声をかける黒いスーツを着用しているフラワ>
フラワΨ:……スーツ、持ってたのね。
ベリオΣ:
冗談を聞く気分じゃねえんだ。
……上司に泣きついて貸してもらったヤツだよ。
フラワΨ:私たちにはやることがまだ残ってる。
ベリオΣ:……逆だ。何も残ってねえ。
フラワΨ:
ふざけないでッ。
承認された書類のバックアップデータが消えてるの。
OBLOMについての資料がごっそりとラボから消えて、セントラルのデータベースにも残っていない。
……フィオナさんが亡くなってからの出来事よ。
“OBLOMが人体に効く”というデータが忽然と姿を消し、OBLOM承認の話もいつの間にか立ち消えてる。
……そのままパパの権限でラボの議事録を覗いたら、不自然な点が見つかったのよ。
ベリオΣ:
…………だったら何だよ。フィオナさんがいない今、OBLOMの何を調べんだよ。
それをやれば、フィオナさんは生き返んのか?
フラワΨ:
ッこの……ッッ!!!<ベリオの胸倉を引っ張る>
失ったのは自分だけだと思ってんのかッ!!!
喪失感や無念を味わったのは、アンタだけだとでも思ってんのッッ!?!?
そうやって自慰行為に耽ってれば、誰かがアンタの“次のおば様”になってくれるなんて、思ってないでしょうね――ッ!!!!
ベリオΣ:……ひょっとして、発破かけようとしてんのか?離せよ。
フラワΨ:っ………………呆れた。あたしに言い返す事すらできないのね。
ベリオΣ:
お前に何か言い返して、フィオナさんは生き返んのかよ。
……意味ねぇ事、したくねえんだよ。
フラワΨ:…………もうアンタには会わない。
そうやって一人で甘え続けて……。衰弱死すればいいんだわッ。
<そう言ってベリオの胸ぐらを乱暴に離して。
尻もちをついても上を見上げようとしないベリオ。
尻もちをついたベリオにフラワは書類を投げつける>
<その書類を拾い上げて読み始めるベリオ>
ベリオΣ:
…………「OBLOM鉱石の人体適用についての危険性レポートに対する追及却下承認」……?
……「OBLOM研究の予算打ち切り決定案」……「OBLOM保存データ破棄承認」……――。
フラワNΨ:
『……ラボの議事録を覗いたら、不自然な点が――――』
ベリオΣ:
………………「決定責任者」。
「テ ン ペ ス ト ・ ラ プ ラ ス」――――――――ッッ!!!!!!!!
―――
――
―
<1年後。階級が上がって更に多忙になったディール。
対してセントラルの軍事基地局の副所長として働いているフラワが久しぶりにカフェSeaCleにて紅茶を嗜んでいる>
フラワΨ:――……お互い、順調なもんね。
ディールΦ:久しぶりにスケジュールが合いましたね、フラワさん。
フラワΨ:……1年経っても、未だに慣れないわ、この静かさ。
ディールΦ:
ひと目で理由は分かるんですが。……言葉にすると、一際重たいですね。
フラワΨ:…………ベリオがいなくなって、1年。ね。
ディールΦ:
そして、IOPLANETのNOAHZの統括すら任されているラプラスさんが、謎の失踪……。
フラワΨ:……偶然かしらね。
ディールΦ:
明確な関わりは見えません。
……しかし、セントラルエジソンの雰囲気も何かおかしいというか。
物資の出入りのバランスが崩れているんです。
輸出の量が異常に多くなっていて……。何に備えているのかも不明瞭なんです。
フラワΨ:…………ん。 ここのコーヒー、少し苦くなったわね。
―――
――
―
<場面は変わり、セントラルエジソンの軍事基地局の封鎖となっているデータバンク。暗く、時折ランプの明滅するサーバーが列となって並ぶその奥に向かって歩くベリオ。奥に到達するとキュイン――、と音がして扉が開く>
ベリオΣ:…………クソッ。ここも外れか。
<小さく呟くベリオ>
ラプラスΩ:――――いや。当たりだよ、ベリオ君。
<ガシュン、と音を立てて再び扉が開く。背後からかかる声に振り向くベリオ>
ベリオΣ:ッッ――テンペスト……ラプラス―――ッ!!!!
ラプラスΩ:
……ここに最後の、OBLOMの研究データが有る。
そしてここはオンラインではなく、オフラインでデータを管理しているうえ封鎖もされている。
データの完全な破壊には、直接足を運ばざるを得ない環境である……よく突き止めたね。
ベリオΣ:なんで…………。
ラプラスΩ:ふむ。何かな。
ベリオΣ:なんで!!!!――オレを騙した!!!!
ラプラスΩ:
騙してなどいない。
実際、OBLOMについての研究は進んでいたし、承認も行われていたろう?
ベリオΣ:っぐ……!!
ラプラスΩ:
“不運にも”、OBLOMについての研究は資金面や技術研究における人員の確保が難しく、凍結という結果になってしまったがね。
ベリオΣ:
フィオナさんが亡くなったその数日後にプロジェクトもすべて凍結、残ったデータもすべて削除されているのも……偶然だとでも言うのかよ!!!!
ラプラスΩ:
…………恣意的な意見だね。
IOPLANETにおける死人は、毎月3000人ほどだ。
誰かが亡くなった直後に廃案とその記録が削除されるという可能性は、むしろ常に存在するものだ。
……身内の死後にOBLOMのデータが削除されるという事例は低確率であるとはいえ。
“偶然では無い”と断ずるには、少々根拠に欠けるのでは?
ベリオΣ:
詭弁だ!!!オレとNOAHZまで出頭しろ――ッ!!
法の場でオレと戦えッ!!!!
ラプラスΩ:
……私には……というより、この大地はもはや時間がない。
そのような無駄な時間は、私は持ち合わせていなくてね。
それに。提出された書類によると、君の保護者にあたる……“ムロウル・フィオナ”なる方は。
コールドローズ症により眠るように亡くなったというデータが出ているが?
ベリオΣ:………………何が言いてぇ。
ラプラスΩ:“『楽になれた』のでは?”と言っている――。
ベリオΣ:き――――ッさ、まぁぁァァァァアアアアアアアア!!!
<扉が開いて拳銃を構えた女性が飛び込んでくる>
ネリルΨ:(被せて)大佐!!!!
ラプラスΩ:慌てるな。武器を使うまでもない。
ベリオΣ:ぐうゥウッ!?!?
<直線で突進をすると背中を掴まれ、床に押しつぶされるように叩き伏せられるベリオ>
ラプラスΩ:
――――ベリオ君。暴力で思いを伝えたければ弱くてはいけない。
<Σ抑え込まれたまま、獣のように床でもがき足掻くベリオ。
Ω首を絞めつけて馬乗りになるラプラス>
私に立ち向かうのならば特に。
私の居る世界では君のような拳は認識すらされない。
分かるかね、ベリオ君。拳で思いなど伝わらないのだよ。
拳が可能に出来るのは、自分の“エゴ”を押し付ける事だ。
拳で思いが伝わるなら、何故我らはスペリオルに乗るのか?
フンッ!!
<ΣΩここから先、セリフ中に何発も何発も、顔面に拳を叩き込むラプラス、吐血するベリオの声>
ラプラスΩ:
……ベリオ君。私はね。元来暴力が嫌いなんだよ。
殴り合いでは特にね。理由は相手を殴り倒しても、手に不快な感触が残るからだ。
分かるかね?このように君の顔面を殴り倒しッ、優位にいるはずの私の手に飛び散る血……手に残る肉を打つ感覚。
劣る存在がッ!優位に立つ人間にッ!!淘汰されている時にすら不快な感覚を押し付けてくる!!!!!
……なんという傲慢!!!なんという不遜!!! そうは思わんかね、ベリオ君ッッ!!!!!
無能な人間ほど威嚇を用いてッ!!!非力な人間ほど暴力に訴えるッ!!
それらは群れ、互いの傷を舐め合い……。
限られた資源が加工され、それを口に含んだ親鳥が口移ししに来るのを無気力に口を開けて待ち続けているッ!!!!
“優れる”という事と自分以下の人間を携える事を同義と捉える愚かな人類共がッ!!!!
足を引っ張り合う事と共存を同義と捉える愚かな人類共がッッ!!!!
媚びを売る事と生存を同義と捉える愚かな人類共があぁッッッ!!!
――拳を振るうとはこういう事だ!!!
生半可な手段で想いを察してほしいなどという児戯が……ッ!
私に通用すると思うなッッッ!!
圧倒的な武力を、垂れ流さぬよう!!!
最小限の痛みで済むように導入する!!!
力を持つものが最後に求められるのが“加減”である事に……ッ!貴様ら弱者の様に我らは不満を垂れないッッ!!!
歩みを止めず視線を上に向け続ける我らこそがッ!!!!
正義であり!!!真実であり!!!!
人類の暗い闇の旅路を導くッッ!!!!!!
唯一の羅針盤の針とッッ――――なるのだあああああああああッッッ!!!!
<そう叫び、血まみれのベリオを殴り飛ばし、横に転ばせる>
ネリルΨ:――大佐。頃合いかと。
<ハッとした様子で拳を止め、ゆっくりと立ち上がると襟を正し、ハンカチで手をふく>
ラプラスΩ:
ふーーーーーッ。ふーーーーーー…………ッ。失礼、取り乱したね。
……しかし、私が立ち向かうべきもの。背負うもの。見据える先。
全てが、キミの想像できるような範囲にはとうに無いものなのだよ。
ネリルΨ:……大佐。午後には会談のご予定が。スーツを替えられるとよろしいかと。
ラプラスΩ:では、手早く済ませる。……華美なものでは心象が悪い。暗い色の物を頼む。
ネリルΨ:承知しました。……では、“手筈”の通りに。
ラプラスΩ:ああ、頼む。
ベリオΣ:に…………――。
ラプラスΩ:……敵を前にして、気絶を精神のみで拒むか。……漢、だな。
ベリオΣ:……げんな…………ひきょ……う……もんが………………。
<顔を近づけてベリオの耳元で囁くラプラス>
ラプラスΩ:
――……人類の向かう先。そして、最適解。
白いままの地図に対して、ペンを握る人間。
“冷たいバラ”の真意。……君の名字がない理由。
NOAHはすべての答えを持ち、君を待つ。
……君を連れていく事は出来ない。……ただ、NOAHを目指せ。
そして、これだけは覚えておきたまえ。
このIOPLANETに残された余生は、長くはない。離脱を考える事だ――。
――ネリル!
ネリルΨ:『了解、大佐』
<ごごごごごぉん、という地響きと轟音。次の瞬間、天井が崩れて巨大な手がぬうっと現れる。
胸元にNAZ-24と刻印されたランドスタッドが立っていた。
胸元のコックピッチハッチが開き、ロープが下りてくる>
ラプラスΩ:サーバー群は破壊したか。
ネリルΨ:
『物理的に潰して破壊した後に微量の電磁発生ビーズを散布しました。
電磁情報の保存も、物理的な情報も閲覧できる状態では到底無いかと』
ラプラスΩ:そうか。では……――出せ。
ネリルΨ:『了解。離脱します――』
<そう告げてラプラスがコックピットに入ると同時にスラスターを吹かして離脱するスペリオル>
ベリオΣ:わ……り……、ディール……フラ……ワ…………――――。
―――
――
―
<場面が変わって、とある病院の病室>
ベリオΣ:
――ん……。<ゆっくりと目を開けるベリオ>
ここは……っぐ!!
ディールΦ:――肋骨粉砕骨折。
ベリオΣ:…………あ?
ディールΦ:両靭帯剥離骨折に、左腕粉砕骨折。
ベリオΣ:………………ディール。
ディールΦ:
顔面内出血多数、金属の粉塵の多量吸引による気道の炎症。
…………よくもまぁ、こんな大怪我で生きてましたね。普通は死んでるんですが。
ベリオΣ:……運が良かっただけだ。
ディールΦ:…………ベリオさんの居なかった間の話をしても、良いですか。
ベリオΣ:……。
ディールΦ:
ベリオさんの居ない一年間で、ムロウル家の軍事基地局雇用は停止。
イーストダーウィンの市民の生活水準は大きく下がりました。…………たった1年。
たった1年でイーストダーウィンの工場に捨てられる児童は飛躍的に増加しました。
ベリオさんの建てた孤児院が無ければどうなっていたか。
……僕は、根本の問題を解決する事が何よりも重要だという考えは……今でも変わっていません。
ただ、現状に対応する事も同じくらい必要な事なのだと、痛感しました。
……今の僕は、屍の上に立つ覚悟が出来ていないだけなのかも……知れません。
でも。屍ではなく、人の上に立つには。
いや……人と共に生きるという事は。
未来のみを見つめる事ではないのだと……強く……強く、認識した1年でした。
そして、同じくらい…………あの日、ベリオさんについていかなかった事を、この1年間、毎日後悔していました。
……殴られても、文句言えませんね。
ベリオΣ:……オレが安静必須のケガ人だって分かってて言ってんだろ。……殴らねえよ。
フラワΨ:おら。
<透明なビニール袋に入っているバナナをベリオに投げて渡すフラワ>
ベリオΣ:おっ……――痛ッッッて~~~~~え!!!!
<手の甲で器用に受け取りながら痛みでびりびりびりびりびり、と体を震わせ>
フラワΨ:どっから声出してんの。…………死んだかと思ってたんだから。
ベリオΣ:……死なねえよ。死なねえ理由が出来たからな。
フラワΨ:腕と足、変な方向に曲げて顔を二倍くらいに腫らしたアンタが搬送されてきたら、そりゃ死んだと思うでしょ。
ディールΦ:病室で連呼する単語としてはふさわしくないですね。
フラワΨ:……で。これからどうすんのよ。
ベリオΣ:――NOAHに行く。
ディールΦ:やはり聞きますが。……何故ですか。
ベリオΣ:
深くは言わねぇ。……っつうか、オレにも詳しいことは分かんねえが。
……テン兄に会った。
ディールΦ・フラワΨ:ッッ!!!!
ベリオΣ:
……何も変わってなかったよ。見慣れねえ女が横に居たけどな。
でも……でも、いや……また、届かなかった。歯も立たなかった……。
ディールΦ:歯も立たなかった……って。
ベリオΣ:
……テン兄にボコられた後、女がスペリオルでオレの居た場所をブチ抜いて……テン兄を連れてった。
……んで、言われたんだ。
<回想>
ラプラスNΩ:
このIOPLANETに残された余生は、長くはない。
ラプラスNΩ:
NOAHはすべての答えを持ち、君を待つ。
……君を連れていく事は出来ない。……ただ、NOAHを目指せ。
<回想>
ベリオΣ:
“NOAHに来い、全ての答えが君を待つ”……って。
“冷たいバラ”の真意に……白いままの地図?とかも言ってたな。
あと、“IOPLANETの余生は短い”……とも。
フラワΨ:
真意が不明瞭な表現ね……。
でも、冷たいバラ……。コールドローズ症の事でしょうね。
コールドローズ症についての情報を抹消した彼なら、何かを知っている可能性は高いわ。
……“白いままの地図”に、“余生”……?
ディールΦ:
……IOPLANETは巨大ではあります。
NOAHからも人員は比較的多く割かれ……長期維持を目的としたコロニーのはずですが。
ベリオΣ:
考え込んでもしょーがねぇ。……オレはNOAHに行く。
…………余生ってのは気になるが、まあ、しばらくIOPLANETから離れててくれ。
オレが今度こそテン兄ぶっ飛ばして、全部説明させる。
IOPLANETの謎を、すべて説明させて。IOPLANETの人々を救ってみせる。
ディールΦ:……ですって、フラワさん。
フラワΨ:バカが頭使うとロクなことになんないわね、ホント。
ベリオΣ:っっんだと!!もうお前らを巻き込めねえつってんだよ!
ディールΦ:
……NOAH本部によるIOPLANETについての情報の提出要請がここ一年で異常な数なんです。
それに加えて、IOPLANETの“余生”という単語……。
まるで死にゆく故郷から人々が逃げていくかのように……この言葉は比喩ではありません。
セントラルエジソンやイーストダーウィンの上級役員がここ2か月で転勤に異動……と、少しずつですがIOPLANETからの離脱が確認されます。
情緒のある街並みと人々との距離の近い市政で知られるウェストホーキングの代表ですら、ほぼ無連絡でIOLANETを後にしています。
フラワΨ:
加えて、指数関数的に増加しているコールドローズ症の患者。
全てが40代後半を中心にした人間……。もはや何かの関連が有ることは決定的。
……そこに、ラプラスの発言。
あんたがそこまで全身ボロボロにして嘘をつくわけでもないだろうし。
ディールΦ:
僕も、ベリオさんについて行きます!
もう……進むことを躊躇いたくない。
後悔をしたくないんじゃない。前進するという意思を――殺したくない……!
真実を暴いて。IOPLANETの上層部をイチから作り直すッ。
フラワΨ:
あたしもついてく。
NOAHにあるとされる18次元型 演算処理記憶装置「H.U.M.A.N」を奪取するの。
……失敗しない経済を計算する。
そして完全に人間をデータ化して、人体実験の必要のない世界を作る!
……勘違いしないで、ベリオ。
貴方に心を打たれたから、なんて1ベーゼにもならない曖昧な物じゃなく。
明確に目標を持って向かうの。……むしろ、アンタを引っ張って連れてくつもりだったのよ。
――さ、移動するわよ!見せたいものが有るの。
ベリオΣ:
んあ?いや無理だよ。一か月の要安静だぞ!
……いやちょっと!ベッド無理やり動かさないで!!
あっ点滴抜けた!!血出てる!!!
<看護婦がベッドの周りを取り囲む。暴れるので点滴が抜けたりしながらもベッドがガラガラと音を立ててランドスタッドドッグに運ばれていき――>
―――
――
―
ベリオΣ:これは…………。
<目の前に広がるのは、まるで巨人の人体模型。鉄鋼により組まれた骨格。
血管の様に張り巡らされた絶振動コーティングされたケーブル。NAZ-24と刻印のされた頭部をペイントで塗りなおしていく作業員たち。
ふと見上げると、軽く顎を引いたような体勢のその巨人と目が合う感覚に陥る>
ディールΦ:
僕の瞬間記憶で、設計図を記憶。メカニックと組み上げたんです。
コアの動力演算システムと物理計算システムのみ、“拝借”して作り上げました。
フラワΨ:
爽やかにあたしたちも行く!なんて言ったけど、要するに宇宙法の反逆項目のぜ~んぶの文字に違反する行為だもの。
この1年間、ぼーっとしてたわけじゃないのよ。
戦闘行動が起きてもいいように……最後まで、抵抗できるように。
ディールにスペリオルの設計図をそっくりそのまま覚えこませて、ランドスタッドを三機と、IOPLANETに起きている異変を私の知り合い、ディールの友人……主にランドスタッド工業や軍事基地局関係に共有したの。
それで、レジスタンス……って訳じゃないけどね。
NOAHに殴り込むための集団を作った訳。
ディールΦ:
「AIM.FOR.STARZ」(エイム・フォー・スターズ)。
ベリオさんの様に、僕たちも上を向いて走り続けられるように。
貴方の背中を見て、僕とフラワさんとベリオさんで作ったチームです――――。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
【EPISODE6 AIMFORSTARZ】
ベリオΣ:
……凄ぇ。……けど、オレは何もしてねぇよ。
フラワとディールの実力だろ。……オレは……。
フラワΨ:
(溜め息)……言うと思ったわ。――シュヴァリエ!!来なさい。
シュヴァリエ・カリオストロα:なんだい、フラワ?
ベリオΣ:だ、だい?
フラワΨ:
紹介するわ。「シュヴァリエ・カリオストロ」。
ランドスタッド疑似戦闘の適正値がモーーーーーレツに高いの。
別にディールみたいに目と耳がレーダー並みに良いわけでも、私みたいに神経接続機構が埋め込まれてるわけでもなく。ただただ空間認識能力や重火器の扱いがズバ抜けてんの。
ってな訳で、ランドモービルじゃなくて、ワンオフのランドスタッドを急遽製造してるってわけ。
シュヴァリエ・カリオストロα:<舐めまわすようにゆったり喋る>
君がベリオ君だね?……。
その体、まるで秋の紅く染まった落ち葉の如し……。
君というただ1枚の儚い葉を、僕は柔らかく抱きしめる森でありたい……。
ベリオΣ:はよ喋れ。
フラワΨ:優秀ではあるのよ。優秀では……。
カリオストロα:
良いんだよ。彼の心の鍵は暗く深い海の底……。
僕はその海水を掻き分け、君の鍵を見つけてみせよう。そう、この出会いはまるで海底火山……!
ベリオΣ:後半マジで何言ってんだ?
ディールΦ:前半も分からなくないですか?
カリオストロα:この傷……。 ラプラスに立ち向かって出来たんだってね。
<ベリオの手を取り、熱っぽい視線で眺める>
カリオストロα:
「傷とは勲章だ」……ではないのは重々承知なのだけれどね。
楽に得る勝利は真の勝利ではないというのが僕の持論さ。
……君が命がけで建てた孤児院のお陰で、没落貴族の僕の弟は飢えずに済んだ。
そして君は道を切り開こうとしている。
その代償のこの傷……。誇るべきものだよ。
ベリオΣ:
……。勝利に真も偽もあるか。勝ちゃなんだって勝ちだろうが。
おい、触んな。……オレが弱いからついた傷だ、褒められるようなもんじゃねえ。
カリオストロα:
――あッは……♡ 済まなかったね。
おいそれと傷に触れられる容態ではないという事を失念していたよ。
……では、また会おうベリオくん。二人っきりでの特訓、期待しているよ――。
ベリオΣ:…………なんだったんだ。
フラワΨ:
ここにいる約半数は、アンタの孤児院で家族や自分が助かった人々。
私たちは半分くらいしか集めてない。……胸張んなさい。
たった1年でこんなに人を助けたのよ。
そして、これからもっと救うためにアンタはここにいる。
ディールΦ:
そして、僕たちが変えるんです。
火種になれば良い……ではない。後に続く者たちへ、でもない。
僕たちが変えるために。
その為の、この――――機体なんです。
A.F.S (エイム・フォー・スターズ)超短期想定 鎮圧作戦行動用ランドスタッド『ドミナント・ジェイルブレイク』を始めとしたランドスタッドで、NOAHを目指す!
期間は半年以内、電光石火の移動作戦行動を開始します!!!
ベリオΣ:
“します!”……ッて。この……なんだ。
ドミナント……ジェイルブレイク?って、誰が乗るんだ?
フラワΨ:そりゃ、アンタ。
ベリオΣ:……は?なんで?
フラワΨ:
そりゃそうでしょうよ。有能な兵士は全員NOAHZに取られてるんですもの。
CTがアタシ、ディールのスペリオル、あと盗んだ設計図で今造ってる新型のジェイルブレイク、あと試作のランドスタッドが一体に、ランドアームズが一体……。
……ま、人数に余裕がないの。
メカニックやメディカル、管制系統はこっそり引き抜いた若いメンバー。トレーニングメニューをこなして有能そうなのが一人、奇跡的に軍でランドアームズのパイロット経験があるのが一名のみ。
勿論専門じゃないのは分かってるけど……巨大な武装やコックピットに詳しいのはアンタを除けばもう他に居ないのよ。
ディールΦ:
イチからパイロットをトレーニングをするには予算も時間も現実的に足りない……。
流石に僕達だけではそこまでのカバーは……。
ベリオΣ:…………ま、しゃあねえか。
フラワΨ:
最小限の戦力で、最小限の戦闘を……だもの。これが計算上一番現実的な構成。
ドンパチ戦争やるってんじゃないんだから。
ベリオΣ:わ~かったよ。ま、ボチボチやるさ。
フラワΨ:いや死ぬ気でやんなさいよ。
ベリオΣ:も~~~~シャレ通じないこの女~~~~……。
ディールΦ:っくっくっく……。
<ディールとベリオは顔を見合わせて微笑み合っている。
それに呆れつつも、穏やかな顔で一瞥して去っていくフラワ>
―――
――
―
<NOAHへの巡航飛行で移動する【戦艦ヴェイルサイド】内>
ヒメ・ミッシェル・ヤクトβ:――ね~~、大佐ぁ~~~!
ネリルΨ:
……大佐は現在、NOAH本部へのOBLOM保存情報の破壊報告レポートを処理中です。
言伝であれば私が取り次ぎますが。
ヒメβ:
…………えぇ~w?ヤダ~~、なんかヘンな匂いするんだけどぉ~~~~?
オバサンみたいな香ばしい匂いするぅ~~~~☆
ネリルΨ:
先ほど殺菌シャワーと加圧式滅菌ルームにおりましたので、雑菌の苦しむ匂いはするとは思いますが。
ヒメβ:
へえ~……?大佐に媚び売る割には自分だけキレーで居たいんだ~~~~?
ネリルΨ:
媚びではなく“実力”で大佐の補佐をしております。
“媚び”で職務中の大佐に要らぬ時間を取らせる程、薄汚れてはおりませんので。
ヒメβ:
――オメぇあんま上等くれてっとブチ抜いちまうぞ?クセぇんだよババアよぉ。
次のランドスタッドパイロット選抜……流れ弾に気ィつけとけよ?
ネリルΨ:見苦しい。剥がれるような仮面であれば着けるだけ無駄でしょう。
ヒメβ:<血管がピキピキする声>
~~~~☆☆☆?
<口論をする二人の女性。片や冷たく見下すように、片や熱を持って射殺すかのような視線でにらみ合っている。
むにゅんとお互いの胸がぶつかって形を変えるという蠱惑的な光景であるが、周囲の航行管理官を始めとした船員は目を合わせぬようにし、何ともいえぬ緊張感が漂っている>
ラプラスΩ:
――……その辺りにしておきたまえ二人共。他の兵士の士気にも関わる。
ネリルΨ:
……は。
然し大佐。軍規に外れた態度や言動を繰り返しているのはヤクト軍曹であることは明白かと思われます。
適切な対応の検討は必須かと。
ヒメβ:
ねぇ大佐ぁ☆
ダメだよぉ、こんなオバサンに仕事まかせてちゃぁ~☆
時代はやっぱコミュニケーション☆ ジメジメ堅苦しいのはもう古いってぇ~☆
それにランドスタッドだって私の方がうまく乗りこなせてるしぃ☆
ネリルΨ:
選抜において1位を取ったからこそ此処に居る私には、滑稽に響く言葉ですね。
ヒメβ:
ぁん?かかってこいよババァがよ。
たまたまヒメが遠距離狙撃部隊に配属されたからって前線張ってるつもりか?
ラプラスΩ:……――その辺に、
<ぶわっ、と空気が変わるような言葉。言い切られていないその言葉は、ネリルとヒメの背筋を冷たい刃物でなぞるようなプレッシャーを放った>
ラプラスΩ:したまえ。今の私は少々気が立っている。
ネリルΨ:……失礼いたしました。
ヒメβ:
冗ッッッ談じゃあ~~~ん大佐ぁ~~☆
ネリルさんともちょっとじゃれてただけぇ~~~☆
ネリルΨ:では、大佐。
<そう言って二人はメインルームを後にする>
ラプラスΩ:
……NOAHも人類も、所詮は同じ。
書面で現場を把握できない事は明白であるのに……。人類はもはや巨体を横たえる老いた象だ。
立ち上がる事すらできずに、死を待つだけの運命に気付かぬふりをしている。
…………成し遂げねばならない。
――“VAILSIDE DRIVE”の点検を怠るな。
女性技術官γ:はっ!
―――
――
―
<場面が変わり、ランドスタッドのドック(格納庫)。
そこでは四体のランドスタッドが格納されていた。その空間で二人向き合っているフラワとカリオストロ>
フラワΨ:……何で呼び出したか分かる?
カリオストロα:
分からないね。まぁ……慣れてはいるからね、女の子に告白をされるのは。
だが申し訳ない、君という真珠はまだ硬い殻の中……海の冷たさを知るには時期尚早だと言わざるを得ない。
フラワΨ:
黙って。……つーか、んな訳ないでしょうが。
そりゃ盲目なガキはアンタに懐くでしょうね。妙なそのポエムも親しみを覚えさせる為ってトコ?
でもね。一つだけ忠告しとくわ。
ベリオに変な事してみなさい……。コックピットごと引きちぎってやるから。
カリオストロα:
…………。何を根拠に言っているのか分からないが……小鳥は可愛らしく囀るから駆除されないのさ。
人に不利益をもたらす害鳥は……駆除されるのが運命だよ、フラワ君。
子供じみた独占欲でチームメイトを攻撃するのは集団行動において必要かな?
フラワΨ:
アンタ、ベリオは憧れって言っていたわね。
憧れってね……「小さい童」って書くのよ。大人ぶりたい年ごろなの?
カリオストロα:言葉遊びが趣味かな?
フラワΨ:あら、詩人さんが言うのね。
カリオストロα:……可愛くはない言葉選びだね。
フラワΨ:お生憎様。アンタの視界の女が全員アンタに媚び売ってくれると思った?
カリオストロα:……興味深いね。
<二人が向かい合って距離をずんずんと詰めている。必然お互いの胸がむにゅんとぶつかり合う>
―――
――
―
<物陰に隠れているベリオとディール>
ベリオΣ:
バカ、ディール聞こえねえだろ!もっと前行こうぜってば……!
ディールΦ:
なんで僕がこんな事……。フラワさんに観測部からのデータについて話がしたいだけなのに……。
ベリオΣ:
おいアイツら怖い顔してるぞ!!!もうちょいでケンカすんじゃねえか!?!?
ディールΦ:
なおさらこの場に居たくないですよ!普通に話しかけに行きましょうよ~……。
ベリオΣ:
あっ――おっぱいぶつかってるッッッ!!!ディール!!!カメラ!!!!
ディールΦ:
ないですよ書類しかぁ!!!!
ベリオΣ:
くっそ~~~挟まりてえなあ!!しかしフラワもなかなかどうして時の流れというものは――。
<ΣΦ(声有り)ごむん、と柔らかいものをハンマーでたたいたような音が二人の脳内に響き渡る>
???γ:――何をしておるか、貴様らは。
ベリオΣ:ねえディール?オレの頭ある?
ディールΦ:わ……ワカミネさん…………。
ベリオΣ:ディール?オレの頭ある?
ワカミネ・スギウラγ:
コソコソとした盗み聞きは好かん。男子たるもの、隠れる時は涙を流すときのみ。
ベリオΣ:誰゛こ゛い゛つ゛……!!
ワカミネγ:
おお、自己紹介がまだであったな。
ウェストホーキング出身、ワカミネ・スギウラ。
『NOAHZ』で空間戦闘ランドアームズの特殊訓練を受けていた。
ベリオΣ:……ッッ!!!
ワカミネγ:
そう怖い顔をするな。受けて“いた”と言っているだろう。とっくに除隊している。
ベリオΣ:なんで抜けた。
ワカミネγ:
簡単だ。私の下には幼い妹が二人いて…………両親がコールドローズ症で死んだ。
……親戚は居ない。ベビーシッターを雇う事も勿論考えたが、両親の治療費のローンを自転車のように返しては働き、返しては働き、返しては……、の日々でな。
恥ずかしいものだが、最早3人で、とのところでイーストダーウィンの孤児院の話を聞いた。
中等範囲までの学問も安く修められるとも聞き……縋る様に妹二人を預けた。
……設立したのはお前なのだろう?東の英雄、ベリオ。
ベリオΣ:
なんだかむず痒いな。辞めてくれよ。
カネ出しただけ、運営も設備の維持も全部俺より賢い大人がやってる。
俺の懐にはカネも入ってきてねえし……つうかなんだよ、「東の英雄」って。
ワカミネγ:
くっくっく……照れには弱いと見えるな。
そんなことでは今後苦労するぞ、ベリオ。
そして話の続きだが――そんな折に偶然ディールからAFSに誘われ、今ここにいる、といった具合な訳だ。
ベリオΣ:なんか濃い奴ばっかり誘ったんだな、ディール……。
ディールΦ:そんなことより、見てくださいフラワさん。
<手に持った書類を差し出すディール>
フラワΨ:何……?これは……。
ディールΦ:
AFSのIOPLANET周囲 定期周回衛星の、6時間前の観測映像です。
フラワΨ:これは……。IOPLANETの軌道修正スラスター……?
カリオストロα:
隕石を始めとした、外的要因による衝突を避ける為に設置された、コロニー回避行動用のスラスター。
人類を乗せる箱に相応しい……相変わらず巨大なスラスターだね。
ディールΦ:
2枚目の拡大画像を見てください。スラスターの陰に……。
ワカミネγ:まるで…………人、だな。
カリオストロα:
君が最も間近で見て居たんじゃないか?正式名称で呼びたまえよ。
ワカミネγ:――――スペリオル……!
ディールΦ:2体確認できます。そして……。
フラワΨ:“張り付いて何をしている”……?
ワカミネγ:スラスターの点検ではないのか?
ディールΦ:
であれば、通常30分ほどの点検で終了するはずなんです。
しかし今回は5分もかかっていません。――“早すぎる”んです。不自然なほどに。
そして、これが映像です。
<タブレットを出して映像を再生する>
フラワΨ:これは……何かを点検しているというより……。
カリオストロα:“何かを設置している”。
ディールΦ:
セントラルエジソンへの報告は有りませんでした……点検時には報告の義務があるんですが、それがされていない。
僕達の非合法で飛ばした、把握されていない衛星だからこそ撮影できたこの映像。
そして、報告のない水面下で行われる謎の作業。
ワカミネγ:
……イヤな感覚だ。
ささいな疑いが“疑念”に変わる瞬間は、何度経験しても毛穴が開くような不快感に襲われる。
フラワΨ:――偵察の必要があるわね。
ディールΦ:
ですが、ランドスタッドの試運転も不十分です。
最終動作にこぎつけるまでは……甘く見ても2ヶ月は必要です。――が。
フラワΨ:1ヶ月で仕上げるわよ!
ディールΦ:了解!!
ワカミネγ:了解だ。
カリオストロα:了解だよ。
ベリオΣ:えオレの意見は?
―――
――
―
<1ヶ月後>
カリオストロα:
――やあ、ワカミネ。
訓練に精を出している様子、視界に入るたびに感服の思いだよ。
さながら大地に楔を打ち込む開拓者……。
ワカミネγ:
…………?
貴君は不思議な言い回しをするのだな。
私は大地に楔など打ち込まないぞ。
カリオストロα:
あはは、ワカミネのそのあどけなさが時にミスマッチに……然しその非対称さが僕の何かを刺激する…………!!
ワカミネγ:
私からあどけなさを感じるのか。
……妹も二人いる事が関係しているのだろうか。貴重な意見をありがとう。
ベリオΣ:おい、あれ混ぜちゃダメな二人じゃないのか。
ディールΦ:シュールが売りのコントみたいになってますね。
フラワΨ:
……静かにする。集まるなりぺちゃくちゃぺちゃくちゃしないで。
二徹してんだから頭に響くのよ。……はい、皆さんが静かになるまで、私の脳内タイマーで900フレームかかりました。(15秒)
ベリオΣ:ジャッジが辛いな。
フラワΨ:
まず……。ベリオ。高密骨構成材を一か月飲みながらの訓練、お疲れ様。
ベリオΣ:腕とれるか思た。
ディールΦ:
構成材は文字通り骨を構成する材料を体に入れて骨をメキメキ治すものですからね。
ワカミネγ:毎晩シクシク泣いていたな。
カリオストロα:
……僕が添い寝をしてあげてもよかったのに。
フラワΨ:
はいだまらっしゃい。
……ワカミネのランドアームズも整備が完了。
ディールとベリオのランドスタッドも出撃準備が可能……、そして。ネペンテスも出撃最終調整がついさっき終わったわ。
カリオストロα:なかなかに時間がかかるものだね。
フラワΨ:どこかの誰かさんによる注文が多かったものでね。
カリオストロα:では全部搭載してくれたのかい!?
フラワΨ:
ベリオの心拍数を図るセンサーを始めとした箇所は全~部却下したわよ。
……IOPLANETの軌道修正スラスターへの調査は翌日の06:00(ゼロシックス)。
15分以上の滞在は、恐らくNOAHZに探知される。
ワカミネγ:探知された場合、どうなる?
フラワΨ:……警告無しで撃墜を目的とした射撃が行われるわ。
ワカミネγ:了解した。留意しておく。
フラワΨ:
軌道修正スラスターはあまりに巨大。
全員で随時、情報共有をしながらでないとこのミッションの完遂は不可能。
各自配ったデータに目を通して持ち場を確認しておくことね。
――以上。解散。
<場面転換。星空の下のフラワとワカミネ>
フラワΨ:――――……ひっく。ぐす……。
ワカミネγ:風邪をひくぞ。
フラワΨ:っ!!!……ワカミネ。
ワカミネγ:
この丘は私も好きだ。
この景色は天候操作システムによる表示板の映像ではない。
コロニーが透明化して星が見えている。……この光は確かに本物の光なのだと、どこか胸を子供の様にときめかせてしまう。
そんな甘いむず痒さは、ここでしか味わえんからな。
フラワΨ:カリオストロみたいなこと言うのね。……笑うでしょ。
ワカミネγ:笑う?何故だ。
フラワΨ:
わかってんのよ。私じゃ、完璧なプランを立てられていない。
不信感で挑むには巨大すぎる敵。私が乗れる機体は強くなんかなくて、精密な動きが出来るだけ。あなた達みたいに最前線で機体と対峙する訳じゃない。
……皆の命の責任を取れるわけでもないのに、雲を掴んだようなもやもやがずっと胸の中から晴れなくて……。
ワカミネγ:<堅い表情>
…………フラワは、優しいのだな。
フラワΨ:……ありがと。
ワカミネγ:褒めてはいない。戦場ではお前のような奴から死ぬ。
フラワΨ:っ…………。
ワカミネγ:
命の責任は人間を生み出した神……仮にそんな存在がいるとすればだが……その存在にしか責任は背負えない。
私たちは脅されたわけではない。志願してここに居る。
そんな私たちに命の責任を感じる人間が、敵という人間に引き金が引けるとは――私は思わんな。
明日の作戦は統率として本部で待機していても構わんのだぞ?
“セイヴァージーク”も発艦するだろうが……地上での待機は怯えではない。
フラワΨ:……私が、出たいから、出るの。皆と、この作戦を完遂したい。
ワカミネγ:
そうだ。私も、ベリオも、ディールも。カリオストロも。
A.F.Sのクルーも。出たいから、出る。見たいから、見る。
知りたいから、変えたいから、集まった。
そんな人間しかいないこの場で、何かを背負い込もうとするな。
お前がお前で精いっぱい在れば良いのだ。
無論、作戦も完遂させられれば言う事はないがな。
フラワΨ:…………少し、泣くわね。
ワカミネγ:
……冷えるな。ほどほどにしておけよ、フラワ。
貴君が欠けては遂行は難しくなるからな。
<フラワの肩に自分の上着を被せて去っていくワカミネ>
フラワΨ:……おやすみ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
【EPISODE FINAL PRAY】
<翌日 コックピットの中でそれぞれ出撃準備をするメンバー>
フラワΨ:――『全員、聞こえる?』
ディールΦ:
――『通信良好。A.F.S専用秘匿帯域の回線を確立。ベリオさん、聞こえますか?』
ベリオΣ:『なんにもきこえん』
フラワΨ:『ちょっと!!いったでしょ!!そこの青いボタン!!!!』
ベリオΣ:『これ?――』
<ブウゥン――という音とともにベリオの回線が途絶える>
ワカミネγ:『……通信が切れたな』
フラワ:
『ぬわっっんで赤いボタン押すのよ!!!!バカなの!?!?』
ディールΦ:
『同じ光景をNOAHZとのオンライン会議で見ましたね……』
ベリオΣ:
『――――いや~~~ごめんごめん。通信回線確立。これで良しと』
ディールΦ:『カリオストロさん!聞こえますか?』
カリオストロα:『聞こえるよ』
フラワΨ:
『600秒後に当戦艦“セイヴァージーク”上昇!
IOPLANET宇宙搬入口まで移動の後各機出撃。
衛星情報から確認された位置を中心に情報を収集せよ!
観測情報の随時共有を厳として作戦行動は900秒に納める事!
また…………。
また、射撃行動を受けた場合は……絶対にやり返さないで。
絶対に反撃や威嚇行為にとられるような行為は自制して、即セイヴァージークに帰投する事。 ――……誰も、死なないで』
<9分後>
ベリオΣ:<コックピット内>
すーーーっっ……ふーーーー…………いつでも来いや。
フラワΨ:『セイヴァージークエンジンオンライン!!!!』
女性管制官α:『オンライン!』
ベリオΣ:
『うううううううううっっっお……!!!!』
ディールΦ:
『さすがに――Gがきついですね――』
フラワΨ:
『力を抜いて!スーツの適圧調整のおかげで呼吸はすぐに楽になるわ!!』
ベリオΣ:
『……――っっっっ、はぁ……!』
ワカミネγ:
『セイヴァージークからの発艦がまだ残っている。気を抜くなベリオ』
カリオストロα:
『……ッ(僕だけのベリオに偉そうに…………ッ!!!)』
<次の瞬間、コロニーの搬入口を通り抜けて宇宙が全員の視界に広がる>
ベリオΣ:『――おぉ……』
フラワΨ:『全機!!発艦!!!!』
カリオストロα:『……ネペンテス』
ディールΦ:『ドミナント・ディテクター!』
ワカミネγ:『サイドホーン』
フラワΨ:『CT!!』
ベリオΣ:『ドミナント・ジェイルブレイク!!!!』
ベリオΣ:――――発進。
<全機が宇宙に放たれる様に発艦>
―――
――
―
ディールΦ:『あわわわわわ……!』
<ふわふわと宇宙空間を回転するように漂うディテクター>
フラワΨ:
『落ち着いて!姿勢制御はオートで行われる。
ディテクターはC地点からの調査をお願い。各機もマーカーに従って調査を行って』
カリオストロα・ワカミネγ:『『了解』』
ベリオΣ:『うん』
フラワΨ:『うんじゃないのっ。作戦行動中は了解って言いなさい』
<ベリオ視点>
ベリオΣ:
『……いや、特に何もねぇが。見たとこ変なモンもねぇし……』
<そう言っていると、ピピっとレーダーが反応する>
ベリオΣ:
『んお?なんだこりゃ……フラワ!この……ウンコナウン?』
フラワΨ:『アンノウン!!!!これは……』
ワカミネγ:
『対象に付着させるタイプの誘導マーカーだな。何かの目印として用いられるものだが……』
ベリオΣ:
『ほーん。……ま、もっと爆弾とかかと思ってたが、案外普通のもんだったな』
ディールΦ:
『ベリオさん。マーカーの横の赤い光……ちょっと動いてませんか?』
ベリオΣ:『ホントだ。なんじゃこりゃ』
ワカミネγ:『スナイパーライフルだ!!!! 回避しろ――ッ!!!!』
ベリオΣ:『あ?――――』
<刹那、がごん、という鈍い音。
唐突に亜音速の質量弾がドミナント・ジェイルブレイクの左腕を吹き飛ばした>
ベリオΣ:『ッッッッっじゃこりゃあああああああ!?!?』
ディールΦ:
『質量弾検知ッ!!
そんな、ディテクターの探知を潜り抜けるなんて!!どこから……!』
ワカミネγ:
『射角から狙撃位置を予測!7秒くれ!!』
フラワΨ:
『ベリオ、スラスターを全速で吹かして!!撃墜されるわ!!!!』
カリオストロα:
『……まだ4分しか経っていないが。妙だね』
<ドヒュン、ガヒュン、とスラスターを吹かして逃げるベリオを襲う狙撃攻撃。
それに追い打ちをかけるようにランドアームズがVAILSIDEから多数出撃。
五人に襲い掛かる弾幕をいなし、時折撃墜をしながらも五人は消耗をしていく>
ワカミネγ:
『真上だ!!各機警戒のうえ、セイヴァージークに向けて帰投!!』
ディールΦ:
『敵機補足――超・長銃身 狙撃ライフル装備のスペリオルが一体!!!!
そして……ッ、該当スペリオルの背後80km!!!
こちらに対してソナーを発信している超級戦艦を補足……ッ!!!』
カリオストロα:
『不審者を発見して飛んできた……にしては、大掛かりだね』
ディールΦ:『僕たちはすでに探知されていた……ッ!!』
フラワΨ:『“何故”は後!!全機離脱!!!!』
<全機がようやく体制を整えたその瞬間、長銃身を構えたスペリオルがEMP弾(電磁障害を引き起こす弾丸。あらゆる電子機器がシャットダウンされる)を射出する。
スナイパーライフルからやけにゆっくりと射出されたその弾丸はセイヴァージークの付近で炸裂。
次の瞬間、セイヴァージークはゥゥン……と弱弱しくエンジンの止まる音を最後に動きを停止した>
ワカミネγ:『対戦艦用のEMPバレットだ……!!』
カリオストロα:
『セイヴァージークからの通信が途切れた。
……完全に退路を断たれたね。ハッチも開かなければ火力支援も行われない。
僕達に影響がないという事は、範囲は狭いが非常に強力なものという事だ』
ベリオΣ:『皆弱気だな~、おい?』
ディールΦ:『ベリオさん!』
フラワΨ:『ちょっバカ、前に出るんじゃないの!!殺されるわよ!!』
ベリオΣ:
『俺らの戦艦は確かに封じられてる。
でも、目の前の奴らは距離を詰めても来ねえ。後ろの戦艦も何もしてこねえ。セイヴァージークは一時的にシャットダウンしただけだ。
完全に電子機器を破壊するEMP弾はあんな細え銃じゃ撃てねえ。つまり……ッ!!』
<ぐおん、と加速して敵機に迫るベリオ>
ベリオΣ:<コックピット内>
軽くボコして、周りのヒコーキ全部ぶっ壊しつつビンタ2、3発入れてセイヴァージークが起きたらダッシュで逃げろ作戦!!!!
全機援護しろ!!!!
<ドミナントJBが迫ると、くるりと身を翻すして回避行動をとるスペリオル>
ベリオΣ:
『うははははは!!怖えかよ!!
スナイパーライフル以外の武装はねぇのか?
近接じゃあ何も出来ねえのかぁ!?』
ディールΦ:
『ベリオさん、すごい……!
1ヶ月で仕上げたとは考えられない機体操作です!
慣性移動もスムーズで……!!』
カリオストロα:『援護するよ!!!!』
ディールΦ:『は、はい!!』
<ネペンテスの背後の長いバックパックがばかん、と口を開けるように開くと、うねうねと触手のような砲塔が現れ>
カリオストロα:<コックピット内>
ロックオン。……対高機動射撃兵装、「PETUNIA」――照射開始。
<うじゃあ、と現れた触手のような先端が開いてビームが一斉に照射される。
それらを間一髪で間を縫うように回避していくスペリオル。
ディール、ワカミネ、フラワも射撃支援を行うがすべてスペリオルをとらえることが出来ない>
ディールΦ:『ッ!?全弾不発ッ!!なんて起動操作だ……!』
カリオストロα:『…………成程。どう思うね、皆』
ワカミネγ:『逃げているのではない……“時間稼ぎをされている”』
ベリオΣ:『おい!!!オレの腕ぶっ飛ばした分くらいは殴らせろ!!!』
ディールΦ:
『――なッ!?後方の未登録 超級戦艦に熱源反応あり!!!
………これは――――――』
ディールΦ:
『……巨大な荷電粒子キャノン――――!!!!』
―――
――
―
<場面転換。NOAHZ戦艦ヴェイルサイド内>
ネリルΨ:――……誘導マーカーとの交信完了。誤差、プラスマイナス1メートル内。
ラプラスΩ:……賭けではあったが。
ネリルΨ:ヤクトも損傷は軽微。作戦の続行は可能かと。
ヒメβ:<通信モニター>
『あの片腕のガキがチョロチョロうッッぜえんだよ!!!
ヒメもうブッチ切れるまであと2秒~~☆』
ラプラスΩ:
急くな。
……圧縮荷電粒子プラズマビームキャノン「VAILSIDE DRIVE」発射用意。
ネリルΨ:……よろしいのですね。
ラプラスΩ:――無論だ。
―――
――
―
<場面転換。スペリオルと四機のAFSランドスタッドとランドアームズの対峙する宇宙空間>
ディールΦ:
『――敵戦艦の搭載キャノンのサイズから爆撃範囲を予測!
……被害区域……――IOPLANET全域!?!?
住民の生存確率は……ッ、0.9パーセント……!!』
ワカミネγ:
『絶対に撃たせるな!!!!
目標を変更、スペリオルではなく正面戦艦にありったけの火力で弾薬をぶち込め!!
……ッ、セイヴァージークの再起動はまだか!!!』
フラワΨ:
『通信応答なし……ッ、仮にセイヴァージークが起動していても、あのサイズのレーザーキャノンは止められない……!!』
ベリオΣ:
『――んならオレに考えがある。……やっぱり、全機俺を援護しろ』
<そう言うとゴゥン、と音を響かせてスラスターを吹かしてスペリオルに急接近するベリオ>
ヒメβ:<コックピット内>
ッ!!急に近寄ってくるなハエがッ!!
ベリオΣ:<コックピット内>
んはははは!!!!
完全に使い方違うけど思いついたからやっちゃうもんね~~~~ッ!!!!
<残ったドミナントJBの右腕。
その手首の付近には無重力下でランドスタッドを降りてのミッションの場合、宇宙空間に機体が流されてしまう事を防ぐため簡易的なアンカーが装備されている。
そのアンカーを起動するベリオ。ガギュンと鉄に何か硬いものが食い込む音>
ヒメβ:<コックピット内>
ハァッ!?!?なに、スペースアンカー……ぐぁぁッ!?
<機体ごと引っ張られる>
ベリオΣ:『オラオラオラオラオラフルパワー握手じゃい!!!!』
<ドミナントJB右手のスペースアンカーの鋭く太い爪がスペリオルの右手首に深く食い込んでいる>
ディールΦ:『……何だ、あれは……』
カリオストロα:『何て強引で、男らしい……!』
ワカミネγ:『軍であんなことをやったら軍法会議ものだがな』
フラワΨ:
『だめベリオ……ッ!!もうあのキャノンはいつ発射されてもおかしくないのよ!!』
ベリオΣ:『うおおおおっ――らあああああああああああああ!!!!』
<多数のランドアームズを振り切り。右腕に固定したスペリオルを盾にしながらヴェイルサイドに肉薄。VAILSIDE DRIVEの砲口に小さく光球が生まれ、明らかに発射シークエンスが開始されたのを知らせる光景。見る見る内に砲口に生まれた光球が大きくなっていく様子を気にもせず、ベリオの機体とそれに腕を掴まれたヒメの機体は一直線に砲口の上部に向かっていく>
ベリオΣ:
止めらんねぇのは分かってる……ッ!でもよォ……オレがどこで働いてたか知ってっかァ!?
弾ァ撃つには“狙い”が要る……ッ!こんなデケえテッポーならなおさらだ!!!
さっきテメェらがウチの船に打ち込んだEMP――その瞬間オレは熱感知モニタで見てたんだよォ!
ディールNΦ:
あの短い一瞬で、モニターを切り替えて熱反応データによる状況判断……!?
ベリオΣ:
スナイパーライフルからEMPが射出された瞬間……ッ!
戦艦にも熱反応がわずかにあったッッ!!
無重力の空間で標的を定め、射撃をするつったら……“外しちゃいけねえ一撃”の筈ッ!
スナイパーの照準システムに加えて観測手が要る筈だが……この場所じゃ開けすぎている……つまり!あの戦艦が観測補助を担ってるんだよなァァァ~~~!?!?
熱反応のあった部分はスナイパーライフルの照準センサーの位置!!
つまり――砲口の照準管制はその部分が一任してるよなァ~~!?!?
まさか銃をぶっ放す前に目ェ潰されたらよォ~~~!?!?!?
明後日の方向に弾ァ飛んでくなんざガキでも分かるぜぇぇぇぇ~~~ッ!!!
それは、そのデケえ砲口の真下ッッ!!!
ここだろォォォ~~~ッッ!?!?!?!?
ヒメβ:<コックピット>
嘘ッ!?!?ちょっ……ざけんなぁぁぁぁこのガキィッ!!!!!!
ベリオΣ:
『イーストダーウィン流ゥウ…………人間ハンマァァァァァ―――――ッッッ!!!!』
ディールΦ:『ほっ……砲塔を……』
カリオストロα:『スペリオルで……!』
ワカミネγ:『ぶん殴っ――』
フラワΨ:『たぁぁあ~~~~~~~~~~~~!?!?!?』
<鼓膜に訪れる不快な高周波の直後に訪れる全身を砕くほどの轟音。
VAILSIDE DRIVEが発射されたのだ。
然しずれた砲塔は狙いが僅かに逸れ、IOPLANETに到達する頃には直撃を回避する形となっていた>
ベリオΣ:<コックピット>
オラァ見たか!!!!誰が乗ってるかは知らんが……。
どーせ、ラプラス!!お前が噛んでんだろ!!救ってやったぜアホタレが!!!!
ヒメβ:<コックピット>
はれほれひれはれ……<目を回しているヒメ>
ラプラスΩ:『――…………見事だ』
ベリオΣ:
やっぱりな。回線を開けたら返事すると思ったぜ。
どうだ!!宇宙まで追っかけてくるとは思わなかったろうが!!!!
ラプラスΩ:
『ああ。予想外だったよ。“短期間で追いかけてくる”という点については』
ベリオΣ:
……ッッ妙な言い回しすんじゃねえ!!
お前の負けだ、テンペスト・ラプラス!!!!
ラプラスΩ:
『私が砲塔がずれた程度でとん挫する作戦を取るとでも思っているのか?
――……だとしたら、私の見込み違いだったな。ベリオ君』
ディールΦ:『ベリオさん――!!!!!!』
<悲痛な叫びがインカムから飛び込んでくる>
ベリオΣ:
あんだよ、嬉し泣きにはまだ早……何……だ……これは…………ッ。
<ぞわぞわぞわぞわ、と宇宙空間を埋め尽くす蟻のような黒い影。
それはIOPLANET周囲のNOAHZの飛ばした人工衛星。
それらが外れたビームの行き先に、壁の様に現れている>
ワカミネγ:
『――計算は後にしろ!一つでも撃ち落とせ!!絶望する暇など無いぞ!!!!』
ワカミネNγ:然し……この圧倒的な数は……ッ!!
<ガチン、ガチンとフラワのCTの備えるスカウトライフルが弾切れを知らせる音を響かせる>
フラワΨ:『ッッ撃ち落としきれない……!!!!これじゃ……』
ワカミネγ:『何が押し寄せてきている……ッ!?』
ディールΦ:<コックピット>
衛星…………だ……。
ディールΦ:
『膨大な数の衛星が……反射板を装備して巨大な鏡になっているんだ……!
NOAHZが飛ばしていた膨大な数の、IOPLANET周辺の軌道人工衛星を操って……ッ!!
これじゃあッ、どこにビームが飛んで行こうとも――IOPLANETに直撃する……!!!!』
カリオストロα:
『……まさかそもそも詰んだ盤面で戦わされていたとはね。
その頭脳を虐殺に使うか、暗君……!!』
ベリオΣ:
『テンペスト・ラプラス――――ッッ!!!! 降りて来い!!!!
降りて戦え卑怯もんがぁあ!!!!!』
ラプラスΩ:
『私の戦争は既に始まっている。戦いに乗り遅れているのはベリオ君、君の方なのだよ。
君が、上がって来い――――』
<インカムから無慈悲な声が響いた瞬間、ズゥゥゥゥゥン――と不快な大震動が機体を襲う。
やけにスローモーションに感じるその振動を振り払うように、振り返るベリオ>
フラワΨ:『――……ッ!!!!』
ベリオΣ:<コックピット>
そん……な…………。
<真っ二つに破壊されたIOPLANET。それを呆然と眺めるベリオ。
右腕をパージしてドミナントJBから距離を取り、回線を繋げたヒメが煽るように叫ぶ>
ヒメβ:
『――あはっっ――あっはははははははははァ!!!
お前らみてェなハエが考えなしに突っ込んできたって関係無ェんだよ!!!
大佐に追いつけるとでも思ったかァ!!!!』
ベリオΣ:『…………――――』
ディールΦ:『IOPLANET爆散の衝撃波到達まで7分!!!』
フラワΨ:
『……ッ!!
――セイヴァージークとの通信リンク確立!!全機セイヴァージークへ帰投!!!!』
―――
――
―
ベリオΣ:お前ら――――。
ドミナントJBΣ□:――――――。
『T-T-TRYOUT COMMAND ONLINE』
ベリオΣ:――……いや。喋んのは後だ。
ワカミネγ:
『ベリオ帰投しろ!!これはミッションだ!!!!』
<遠のいていく声。ベリオには届かない>
ドミナントJBΣ□:『TOOFAST JAILBREAK』
ベリオΣ:覚悟しろ。
ドミナントJBΣ□:『――COUNTING』
―――
――
―
ディールΦ:
『ドミナント・ジェイルブレイクとのリンクが一方的に遮断されました!!!!
――いや、まさかあの速度……。うわぁっ!!』
<ディールのドミナント・ディテクターをワカミネのランドアームズ
「サイドホーン」がフックを引っかけてセイヴァージークへ引っ張る>
ディールΦ:
『ワカミネさん……!
離してください!!ベリオさんが!!!!』
ワカミネγ:
『馬鹿者ッ!貴様も命を捨てたいのか!!
怒りに任せて命を軽視するのは二流の兵士だ!!』
フラワΨ:<震えを抑える声>
『……ワカミネの言う通りよ、ディール。
いま私たちがやらなければいけない事は、生きる事。
……ベリオの回収はセイヴァージークのランドスタッド捕獲クローで動きを止めて強制的に離脱するわ……落ち着いて帰投しなさい』
ワカミネNγ:
声が震えている。……無理もない。
この若さにはあまりに不釣り合いな地獄……ッ。
カリオストロα:
『見たまえ…………あれこそが覇の道を行く姿ッ……!!!
ベリオ……、どうして君はこんなにも僕の胸を焦がすんだい……?
折れた腕をも構わず敵機の前に立ち塞がる君の背中が……!君の機体の軋む音色が……!!
僕をどうしようもなく愚かにさせる………ッ!!』
フラワΨ:
『カリオストロ!!!!武装をオフラインにしなさい、味方をロックオンしているわ!!!!』
カリオストロα:
『チッ、水を差す……!!!すまない。帰投する』
―――
――
―
<場面転換。ベリオに襲い掛かるヒメ>
ヒメβ:
『――たかだか寄せ集めのゲリラがァァ!!!
ヒメの機体にキズつけやがって!!!ラクに死ねると思うなァァァ!!!!』
ベリオΣ:
『……テメーこそ死ねると思ってんのか?
コックピット引っこ抜いて機体粉々にして洗いざらいラプラスの作戦を吐かせてやるよ――このッ』
<二人の機体は弧を描いて時折ぶつかり合う。
互いのビームサーベルが衝突する度網膜に焼き付くようなプラズマが散る>
ヒメβ:『ほざくなハエぇぇぇぇぇぇ!!!!』
ベリオΣ:『――このッッ……人殺しがァァァァアアアアア!!!!』
<ビームサーベルを放り出したかと思うと、裏拳を繰り出すドミナントJB>
ヒメNβ:速――いや、何だこれ……!?!?
ヒメβ:<コックピット>
うぐっぁぁあア……!!!!
<高速で繰り出される裏拳を回避できずに、思わずうずくまったような態勢で隙を見せるスペリオル>
ベリオΣ:
『……今からお前の機体の四肢を全部引っこ抜く。
コックピット事お前を潰すかもしんねえけど――ハエに潰されるようなタマじゃねえもんな?』
ヒメβ:<コックピット>
なぁ………ッッ!!!!!
<グギギギギとヒメの耳に響く恐ろしい悲鳴のような金属のねじり切れる音>
―――
――
―
<場面転換。戦艦「セイヴァージーク」>
ディールΦ:
――ランドスタッド捕獲クローの充電を急いでください!
電圧が強すぎると回路が焼き切れる為、精密電圧調整の際は必ず僕を呼んでください!
フラワΨ:ディール!!!!
ディールΦ:……フラワさん。
フラワΨ:
どうなっているの。スペリオルのスペックを異常に越えた、ドミナント・ジェイルブレイクのあの加速は……ッ。
……何故隠していたの!
ディールΦ:
……すみません。でも隠していたわけでは――ッグ!
<殴られるディール>
フラワΨ:
ふざけないでッッッ!!
機体情報の完全な開示と点検は絶対の義務よ!!結局突っ走るベリオを予測できなかった!!
――これでアイツが死ぬようなことが有れば……。分かってるわね。
ディールΦ:
…………。あぁ、大丈夫。電圧調整班に合流するよ。
フラワΨ:<ディールの背中を見つめる>
…………。もうッ。
―――
――
―
<場面転換。戦艦ヴェイルサイド、メインブリッジ>
ネリルΨ:大佐。作戦外での戦闘です。ヤクト軍曹の援護と保護を。
ラプラスΩ:本来であれば、そうすべきだ。……だが何かおかしい。
ネリルΨ:恐れながら……、猶予の残された戦闘ではない様に見られます。
ラプラスΩ:
勿論だとも。
“ヤクト軍曹の命という観点では”、猶予は残されていないだろう。
……だが、あの機体。スペリオルの設計図をベースに作られたはずだ。
多少の外見の差異も説明がつかないわけではない。
……引っかかるのは、速度だ。
剣を振るう速度。スラスターの角度修正時の速度。反応速度。
あれは生身の人間の限界を超えている、様に見える。
あの速度を維持するには、莫大な出力維持のために体躯は大きくあるはずだが……スペリオルとサイズは変わらない。
――であるのなら、スペリオルのスペックを優に超えているあの動きは何なのだ……?
訓練された兵士の様に理に適った動きをするでもない……。
にもかかわらず、戦闘においてヤクト軍曹の歯の立たぬほどの優位を担保するあの速度は、何なのだ?
……未知とは脅威。
羅針盤たる我らには、未知があってはならないのだ。
故に。例え現時点で未知であっても、限界までデータを取らねばならない。
“見”に回る……。古い兵法にも現場のデータの重要性は説かれている。
優先するものを見誤ると討たれるぞ、ネリル。
ネリルΨ:…………浅学でございました。
ラプラスΩ:
責めているわけではない。
私も、ヤクト軍曹を見捨てるつもりは毛頭ないよ。
……40秒後にスペリオル・CSの出撃。ヤクト軍曹の生還を主とし、援護せよ。
CSパイロットα:はっ!
ラプラスNΩ:
私の勘だが。……あの機体は速いのではない。
例えば、殴られた時のスペリオルの腕の傷つき方。
……何かに“挟まれて”いる…………?
<場面転換。ベリオVSヒメ>
ベリオΣ:
『ああ?もう終わりか?ジタバタジタバタしやがって』
ヒメNβ:
何なんだ――何なんだこいつ!!!
ビームサーベルも反応して避けられる……っ、攻撃は全て受け流すこともできないッ!!
モニターで見えている映像と機体が殴られた衝撃が遅れている気すらするほど速い……ッ!!
ベリオΣ:
『ラスト足一本。死なねえようにバカみてえに縮こまって怯えてろ。カカシがッ』
<コックピットのある位置を手で掴んで、スペリオルの足を引き千切ろうとするドミナントJB。
すると、ドミナントJBの顔の横をビームが掠める>
ベリオΣ:『ッ――あぁ?先に死にてえのか?』
<スペリオルから手を放すベリオ>
CSパイロットα:
『ヤクト軍曹、サポートに参りました!早く離脱を!!』
ヒメβ:『か……。必、ず……次は。殺……す…………』
<そう言いながら手元のレバーを引くヒメ。
すると、コックピットが脱出ポッドとして機体から射出される。
簡易的なスラスターが吹かされてスペリオルCSまで向かっていき――>
ベリオΣ:逃がすワケねーだろうが。……面倒臭え、死ね。
<そう言うとゆっくりとビームライフルを片手で構え、引き金を引こうとしたその瞬間>
ドミナントJBΣ□:<OVER>
<がくん、と動力が切れて動かなくなるドミナントJB。そして次の瞬間、巨大なマジックアームがドミナントJBを鷲掴みにする。
そしてベリオの機体のインカムが復活したのかフラワの声が飛び込んでくる>
フラワΨ:
『――――……ベリオ!!ベリオ!!!!
生きてるのよね!?話はあとで聞く!!
今は、抵抗しないで。貴方を回収してこの宙域から離脱するわ!!』
ベリオNΣ:――声が……出ねえ……。
ベリオΣ:<コックピット>
う……――。
フラワΨ:
『絶対に死なないで、必ず貴方を回収してみせる!!
死なせないんだからッ!!!!』
<フラワからインカムを取り上げ、回線にカリオストロが割り込んでくる>
カリオストロα:
『ベリオ!!!!死なないでくれ、いやだ!!!!僕も君の傍に行く――ッ!!!!』
ディールΦ:
『カリオストロさん落ち着いてください!!間もなく数千万人クラスの居住コロニーの爆破による震動が来ます!何かにつかまって揺れに備えてください!!
これ以上は――――――』
<ブツン、と通信が途切れる>
ベリオΣ:<意識が途絶える>
…………くそ…………――。
第一部【EPISODE1~7】ends
- To be continued -




