ハッピーバースディ!
「ねえ、アンナ、大丈夫?」
ケーキや料理を目の前にして、突然泣き出してしまったアンナさまに、みんな戸惑っている。
そんなアンナさまを抱き締めて、寄り添っているのはソフィーさまだった。
そしてやっと落ち着いたアンナさまだが――
「もう、大丈夫よソフィー、ありがとう。本当に見えているのね」
「はい、小さい頃よりもっと可愛くなりましたね、アンナ!」
「ソフィーも相変わらず可愛いわよ」
女の子同士の友情っていいね、美少女同士なら尚更ですよ!
「それよりも聞いていいかな? ケーキと料理の用意をしてくれたのは誰?」
「えっと、タケル君よ」
そう言って、全員の視線が俺を貫く!
「え~、タケル君ですか?」
「はい」
涙で腫れた瞳で見つめられる。
「ロウソク、ないの?」
「はい?」
「だから、ロウソク、キャンドル!」
「何本?」
「十六本……」
通販で誕生日キャンドルセットを購入して、十六本立てて、点火用ライターで火を灯す。
「歌ってくれないの?」
間違いない、アンナさまは日本人だ!
そして俺は一人歌い出す、日本語で彼女だけが理解できる歌を。
歌い終わったあと、彼女が一気にロウソクへ息を吹き掛け、俺は大きく拍手をすると、みんなも釣られて拍手をしてくれた。
「ケーキはあとで分けるから、ご飯食べない? 冷めたら勿体ないよ」
シェフさんが気を利かせて、温め直せるものは一度下げられている。
「うん、そうする。お父さんも、お母さんも、アーサーも、びっくりさせてごめんなさい。伯父様も……あとでちゃんと説明するから、ご飯食べよう!」
それからアンナさまは、ゆっくりと味わいながら料理を堪能していった。
フォークとスプーン、ナイフを用意していたが、お箸を希望されたのでアンナさまと俺はお箸で食べている。
「――それでね、タケル君がミカエルに会わせてくれたの! わたくしを待ってる猫たちはまだ沢山いるのだけど、タケル君まだダメって――」
久しぶりに会えたことに興奮して、先程からソフィーさまがずっと話しているが、ほとんど俺の話なのは気のせいだな。
「うんうん、ソフィーがタケルさんを大好きなのは十分に伝わったから、そろそろちゃんと紹介してくれない?」
食事が終わり、ソフィーさまの話が一段落したところで、話の流れが完全に俺へと向いてきた。
「はい、タケル君です! わたくしの大切な人です」
ソフィーさまが、どや顔で若干爆弾発言っぽいことを仰ってますが、領主さまもヘンリーさまもスルーしちゃってるよ。
「あらあら、まあまあ!」
「そうだったのですね、ソフィー姉さま」
だが、ハンナさまとアーサー君が真面目に受け取ってしまっている!
「では、改めて……初めましてアンナさま、猫商人のタケルでございます。皆様に大変大切にして頂いております」
「アンナです、初めまして。色々と気が合いそうだし、タケルって呼んでいいかしら? 私もアンナでいいからね、『さん』とか『さま』も必要ないわよ」
そうですね、色々と気が合いそうですね。でもそれとこれとは話が別でしょう、身分や立場ってものがある。
「私は構いませんが、さすがにアンナさまを呼び捨てには……」
「そうです、ダメです!」
そうそう、ソフィーさま、もっと言ってください!
「わたくしだって、中々呼んでもらえませんのに、アンナだけなんてずるいです!」
そっちかよ、ソフィーさま!
「そうなんだ、それはちゃんと呼んであげないとダメね、タケル!」
「そう言われましても……」
「こんな身内だけのパーティーに参加しておいて、今さらじゃない? 御用商人だとしても、普通なら段取りだけして、はい、さようならよ?」
いや、様子見て帰るつもりだったんですよ。
「お父さんも伯父様もいいでしょ? それに今から話そうと思っていることに、タケルも関係してると思うし、身分とか立場がちょっと邪魔になるの」
「公の場、以外であれば構わん。セバスとメリッサ以外の使用人の前では、立場を弁えて欲しいが」
「兄上がそう言うのであれば、私からも特に言うことはない」
「うふふ、タケル君! これでお父様公認ですよ! それでアンナのお話って何かしら?」
まるで、旅行先の土産話でも聞くような気軽さで、ソフィーさまは聞いているが、俺の事情を知っている領主さまと、ヘンリーさまは、何かしら気づいているようだ。
「タケルのことは、どこまで話しているの?」
「この場ではハンナさまと、アーサーさま以外は日本人だということは伝わっています」
もう、アンナさまに隠す必要もないだろう。俺はストレートに話を切り出すことにした。
「そう…………」
覚悟を決めるかのような沈黙のあと、アンナさまの言葉が続く――
「私もタケルと同じで、元日本人……別の世界で一度死んで、アンナとして生まれてきたの」
アンナさまの家族に対するカミングアウトが始まった。
ハンナさまと、アーサー君にも俺の事情を説明した上で、アンナのことも知ることができた。
日本で死んだあと、アンナとして赤ちゃんから今まで育ってきたというのが、俺との違いだ。
日本人としての記憶はあるが、俺のように神様に会ったり、何か特別なスキルを持っているわけではないようだ。
「今まで隠していてごめんなさい……。でもずっと幸せだったし、みんなのことも愛してるの! これだけは信じて……」
「大丈夫よ、アンナ。あなたが私の娘であることに、何も変わりはないわ。ちゃんと話してくれてありがとう」
「そうです、どんな過去があっても、僕が尊敬する姉さまに変わりはありません!」
「アンナはアンナよ、いつも元気で優しい、わたくしの大切なアンナよ」
また涙ぐんでしまったアンナを、ソフィーさまが抱き締めているのをみて、俺の涙腺もそろそろヤバイ。
ヘンリーさまと、領主さまも静かに頷いている。
「アンナ、泣いてばかりいないで、誕生日ケーキを食べましょう? わたくしずっと楽しみにしていましたの!」
「あとで厨房も見るといい、気に入るかは解らないが、タケル君と相談して色々と用意してある」
「厨房にプレゼント?」
そういえば、製菓用に色々と設備や備品を用意していたんだった。幼い頃からお菓子に興味があったのは、日本人の記憶があったからか。
「オーブンとか、色々とお菓子作りに使えそうなもの用意しておいたんだけど――」
「――オーブン!」
俺の話を途中で遮り、アンナは厨房へと駆けていった。
「やれやれ、普段も騒がしいが、今日のアンナは今まで以上だな。タケル君、済まないが君が一番娘の話を理解できそうなので、あとは頼めるかな?」
「はい、欲しいものがあれば用意しておきますね」
「もう、誕生日ケーキの話だったのに……」
甘いものが大好きなソフィーさまを連れて、アンナを追いかけると、彼女は厨房で大興奮の真っ最中だった。
「コンベクション! ハンドミキサー! デジタル計量器!」
「うん、お菓子作りの知識はないから、適当に用意したけど必要なものあれば言ってね」
「薄力粉! 上白糖! グラニュー糖! 生卵! 牛乳! バター! ホイップ!――」
「――ぜ、全部あると思うから!!」
キリがなさそうなので、あとで直接通販してもらう方が早そうだな。
「あとで、直接欲しいもの検索してくれればいいよ。それよりケーキ食べよう、ソフィーが拗ねちゃってる」
「拗ねてません!」
「にゃ~う」
「あら、ミカエル。だめよ、ここに入ってきちゃ……」
「あ、そういえば猫も居たんだ。久しぶりに見たけどやっぱり可愛いわね、おばあちゃんの猫を思い出すわ」
ピロ~ン
猫マップに新しい肉球マークの反応が……。
アンナに付いた肉球マークはとりあえず置いといて、食卓へ戻る。
そして誕生日ケーキを食べたアンナが、また泣き出してしまうという騒がしくも幸せな夜は、徐々に更けていく。
「もう! タケル、あなた最高ね! 結婚してあげてもいいわよ!」
「だ、ダメです!!!」
そして異世界通販で検索を始め、興奮したアンナの爆弾発言と暴走するソフィーさまに、俺は苦笑いするしかなかった。
お読みいただき、ありがというございます。




