プロポーズ大作戦
「ニャートピア」の猫たちもすっかり家に馴染んだようで、毎日元気に走り回ったり、お互いをナメナメしあったり、猫窓から通行人を眺めていたり。
思い思いに、楽しく過ごしているようだ。
今は、閉店後に猫たちをベッドスペースへ誘導する訓練をしている。猫スペースの掃除は大変だからね。
朝御飯と夜ご飯は、家族でやって来た人のお母さんや、三人の調理担当が交代で作って賄いとして提供している。
研修中は調理の練習も兼ねて、こちらも賄いとして提供しているが、営業が始まれば昼食はなし。休憩中に好きに食べてきて欲しい。
そんな感じで、今日も出勤です。
「旦那さま、おはようございます!」
「「「「「おはようございます!」」」」」
「はい、皆さんはおはようございます。今日も元気そうで何よりです。特に問題はありませんでしたか?」
昨日は一日、ソフィーさまとピクニックや、そのあとはディナーまで領主さまと今後の打ち合わせをしていた。
なので、猫カフェへ顔を出せていなかった。
「先ほどヘンリーさまからお電話がありましたが、お話はされてますか?」
「まだですね、一度こちらからかけてみますが、ギルドからでしたか? ご自宅でしたか?」
「ギルドからでした」
「では、連絡してみますか」
『はい、商業ギルドでございます』
「ニャートピアのタケルですが、お電話を頂いていたそうで、ヘンリーさまは今大丈夫でしょうか?」
『少々お待ちください』
ヘンリーさまの用事ってなんだろうな?
『待たせたな、タケル君』
「いえ、大丈夫ですが、何かありましたか?」
『ああ、娘が宿場町に到着したという連絡があってな、明後日の朝に迎えの馬車を出す予定なのだが、タケル君の予定はどうだろう?』
アンナさまが到着したのか。店は直ぐにでもオープンできる程度の仕上がりだし、明後日でも問題ないな。
「大丈夫ですよ、明後日の朝にヘンリーさまのご自宅へ向かえばいいですか?」
『そうだな、申し訳ないが二の鐘で出発を予定しているから、それまでに来て欲しい』
「わかりました」
そのまま誕生日兼、お帰りなさいパーティーの詳細を詰めたが、迎えの馬車が到着して一泊し、翌日出発するということなのでパーティーは三日後だ。
ソフィーさまへ連絡をして、予定を確認するがこちらも問題ない。
パーティーは領主さまのシェフもお借りして、和食尽くしで用意する予定だ。そのためにシェフには料理を仕込んである。
和食の評判は良かったので、サプライズで提供しても問題はなさそう。
そして翌日の朝――
「では、明日の朝に宿場町を出たのを確認したら、ハンナさまにお電話しますね」
「はい、よろしくお願いします」
「そのあとは、私の自宅で待機して、通過するのを確認してから、こちらへ参ります」
馬車は出発し、街の門を出る。性能的にスピードはもっと出せると思うが、今日は冒険者さん四人の護衛が付いている。
その足に合わせるため、スピードは普段通り、初めての郊外だが乗り心地も悪くない。
「タケルさま、今日も馬はご機嫌ですよ! お尻も痛くないのは最高ですな」
御者さんも、お馬さんにも相変わらず大好評な魔改造馬車です。
「そんなに違うものなのか?」
「おう、乗って見るかい、冒険者の旦那! ってタケルさま、構いませんか?」
「いいですよ、どうせこの辺りは安全でしょうから交代でどうぞ」
そんなわけで、冒険者の四人が交代で馬車を経験することになった。この四人は「ニャートピア」御披露目の時に、警護として参加していた人たちだ。
「こいつはすげぇ! 疲れてたら寝ちまいそうだぜ」
「そうですね、これは画期的です。馬車で移動したら、どうしても腰やお尻が痛くて、しばらく宿で休まないと動けないですからね」
「やっぱり、そうなんですね。長距離だと尚更キツいでしょう」
予想通り、今までの馬車では長距離だとかなりキツいようだね。
「そうだな、馬車に乗ってるより、護衛の方がマシってなぐらいさ」
「その点、この馬車ならすぐ動けそうですね。馬の休息は必要そうですが」
「ところで、タケルの旦那よ、相談があるんだがいいか?」
なんだろうな、改まって? リーダーのおっちゃんが相談を持ちかけてきた。
「まあ聞くだけなら」
「俺たちもよう、結構いい年なんで、そろそろ身を固めようかと思っているんだが……」
「結婚されるんですか?」
「そうだな、まだちゃんと話しはしてないんだが、一緒に護衛してる二人がいるだろ? 俺とコイツ、それぞれのいろんな意味での相棒なんだわ」
「タケルさん、おれたちを『ニャートピア』の警護として雇ってもらえませんか? 外の二人とも猫を気に入ってしまって、このまま引退するのもアリかなと思っているんです」
もう一人のお兄さんがストレートに投げ込んできた。
「うーん、聞いてるかも知れませんが、加護があるので猫たちやお店が、危険になることは無さそうなんですよね……」
家族用の部屋もあるし、人を雇う余裕もあるが、警護や護衛に意味を感じないんだよねぇ。
「そいつは聞いているが、実際に警護に人が立っているのと、そうでないのとでは安心感ってものが違うんだよ」
「そうです、実際に目立っていますし、お店への直接的な被害じゃなくても、店の前での揉め事とか、色々と面倒なことが起きたとき、きっと役に立ちますよ!」
「そう言われると、確かに必要性を感じますが……プロポーズはまだなんでしょ? オッケーの返事を貰えたら雇ってあげます。ただ、四人も必要ないので、男性のお二人だけです。部屋はちゃんと家族部屋を用意しますけど」
「よっしゃー!」
二人ともガッツポーズをしているが、ちゃんとオッケー貰えるんだろうな……知らないぞ。
「じゃあ、今から俺は御者席に移りますので、さっとプロポーズして結果を出してください。宿場町までに返事を貰えなかったら、この話は無しということで!」
御者さんに馬車を止めてもらい、俺は外を歩いている女性二人へ声を掛けに行く。
「ちょ、タケルの旦那! いきなり過ぎるぜ、心の準備ってもんが!」
何か聞こえるが、知ったことではない! リア充爆発しろ!
「お姉さん、二人にそれぞれ大事な話があるそうなので、馬車のなかで聞いてあげてくれませんか?」
「急に止まったと思ったら何? 大事な話?」
「どうせロクな話じゃないわよ」
「まあ、そう言わずに……何か提案されたら宿場町に着く前に返事してあげて下さいね。護衛のことなら、お気になさらず。危険があれば探知できるので、そのときはすぐに呼びますから」
よし、これで男どもの退路は絶った。あ、でもこれって普通なら死亡フラグが建ちそうだけど、大丈夫ですよね、神様!
そのあとは、男どもの決意が固まるまでしばらく時間を要したが――
「やったぜ! いやっほぅ!!!」
と野太い大歓声が聞こえると、リーダーのおっさんは馬車から飛び降りて、喜びを爆発させていた。
「おっちゃん、危ないよ!」
「すまねえ、タケルの旦那! いや、旦那さま! 一生ついていきまっせ!」
「タケルさん、あ、なんて呼べば……」
「今まで通りタケルでいいですよ」
「残念な男でごめんなさい、でも腕は確かだから安心してください」
その辺はヘンリーさんが信用して、護衛にしてるぐらいだから心配はしていない。
「ええ、奥さんたちも暇でしたら、朝と夜の賄い準備を手伝ってもらえれば、お給金出しますよ。なんなら一緒に食べてもらってもいいですし、部屋へ持っていっても構いません」
そんなわけで、警護要員二人と、お手伝いさん要員二人をゲット。
決め手はやはり、家付き、職付きというのが大きかったようだ。
実際に女性二人は家族用の部屋を見ていたから、そこに住めるというのは、かなりの魅力だったみたい。
部屋の壁は十分厚いはずだから、問題はない、頑張ってくれたまえ!
リア充どもめ! 末永く爆発しやがれ!!!!
俺の魂の叫びが、異世界に響き渡った。
お読みいただき、ありがというございます。




