ミカエルさんは大物!?
あれから三週間、猫カフェのオープンを間近に控え、そろそろ俺も自由な時間が手に入りつつあった。
従業員たちの引っ越し作業が行われている間に、エルナさんの二匹の猫を召喚し、今は幸せに暮らしている。
「主人と出会う前は絵描きになりたかったの」
なんてエルナさんが言っていたので、お絵描きセット各種プレゼントしておいた。
楓と紅葉も毎回同じ猫たちの匂いに慣れたのか、それとも必死の説得と、ご機嫌とりが効いたのか、普段のように遊んでくれるようになった。
「じゃあ、今日はソフィーさまのところへ行ってくるからね」
二人を存分にナデナデしてからお屋敷に向かう。
今日の予定は領主さまのお屋敷、ディップ家でのディナーだ。猫カフェ調理担当のジョンさんへの研修は、どうしても俺がする必要があったのだが、
追加で調理担当が二人増えた。領主様いわく、
「絶対に一人では手が回らなくなる。今ならまだ間に合うだろう」
と、研修初日の翌日に電話があり、四人が追加で合流することになった。
何故か四人かって? 領主さまのお屋敷からシェフが派遣されてきたからさ。
一緒に料理を教えて欲しいということで、派遣されたシェフの研修の成果を、今日のディナーで披露してくれるということ。
本命の予定は夜なのだが、午前中からお屋敷を訪れた俺は、そのままソフィーさまに連れられ、馬車に乗り、ドナドナされて今は郊外にて絶賛ピクニック中である。
「やっと、タケル君と二人っきりになれました!」
そう言って、俺のとなりに座る、ご機嫌ルンルンな美少女の膝の上には、一匹のシャム猫ミカエル。
「二人きりと言いましても、護衛の騎士とメリッサもいらっしゃいますよ?」
「大丈夫です、ここからでは聞こえませんから。なので、電話の時のようにお話ししてください」
「そうですね……。それよりもミカエルは大丈夫なんですか? 逃げたりしません?」
そう、ここは屋敷の外、ミカエルの知らない場所なのだ。普通なら猫ちゃんパニックである。
「ええ、何度かお外で遊んでますが、大人しくわたくしの膝で寝ているか、近くで遊んでいるので、逃げ出したことはないですね。」
ミカエルさん、肝が座っていますね。
「反対に一人でお留守番をさせると、ずっとわたくしを探して鳴きながらウロウロしているらしくて、可哀想なんです」
ミカエルさん、寂しがり屋さんを超越した存在になりつつありますね。
「まあ、それならいいけど、気を付けてね」
「はい。でもわたくしもミカエルと同じで、タケルさまと電話できなかったり、会えない日々が続くと、寂しくて泣いてしまうかも知れません……ちゃんと分かってくれていますか?」
「もう少しすれば、猫カフェも落ち着くから、また電話できますよ」
「電話もいいのですけれど、やはりこうして二人でお話出来る時間が欲しいと思いません?」
「そうですね、でもソフィーさまも行儀作法やダンスの練習などで忙しくない?」
俺が忙しいのはもちろんだが、ソフィーさまだって、ご令嬢教育が本格化して、とても忙しいのだ。
「そうなんです! 必要なことだとは分かっているのですけれど、毎日大変で……ミカエルが慰めれくれますけど、タケルさまに誉めて欲しいのです。お父さまはどうしても厳しい目でしか見てくれません」
大変そうですよね、誰も誉めてくれないのは辛いですよね。認めてもらうことって大事ですよね。
気づけば俺は、ソフィーさまの頭を猫のようにナデナデしていた。
「ふひゃぁ! タ、タケル君、にゃに! ふにゃぁ~」
「よく頑張ったね、偉いぞソフィーさま!」
めっちゃ恥ずかしいが、俺だって手放しで誉めて欲しかったことは何度もあるし、気持ちはわかる。猫だと思って撫でれば、これぐらいどうってことないさ!
「うん……ありがとう……タケル君……。タケル君の手、温かいね」
「ソフィーさまの髪もサラサラですよ、とっても綺麗です」
「毎日メリッサがお手入れしてくれるから。タケル君から貰ったシャンプーとリンス、トリートメント? でしたか? メリッサが色々、迷惑かけてません?」
地球産の天然素材高級シャンプーセットのお陰で、ソフィーさまのプラチナブロンドの髪は艶々のサラサラで、スキンケアセットでお肌も真っ白、ツルツルです。
「メリッサさんには、美容関連の資料を入れたタブレットを渡しているので、そこまで面倒は掛かってませんよ」
「なら、いいのですけど……タケル君、手が止まっていますよ?」
止まっていた手を再び動かして、そのサラサラな感触を楽しんでいると、自然とソフィーさまの髪を手ですくようにしてしまい、手が耳を掠めてしまう。
「ひゃ!」
「あ、ごめんソフィー!」
「……タケル君、もう一回……」
とっさに呼び捨ててしまったが、顔は真っ赤にして潤んだ瞳でソフィーさまは、気にした様子もなく見つめてくる。
「もう一度、名前で呼んでくれませんか」
「ソフィーは頑張ってるよ」
「うん」
消え入りそうな声で返事をした、ソフィーさまの瞳から目が離せない。
髪を撫でるその手は、ソフィーさまの頬へすべり、その温かさに俺の鼓動が高まる。
見つめ合い、自然と近づく艶やかな唇に俺は吸い寄せられ――
「――にゃーう!」
なかった!
「痛い痛い、ミカエル! 痛くないけど痛いよ!」
突然のミカエルによる容赦のない猫パンチによって、俺は現実へと引き戻される。
「こら、ミカエル、やめなさい! もう……あとちょっとでしたのに!」
助かったのか、勿体なかったのか、ミカエルの乱入により、桃色の雰囲気はどこかへ消え去ってしまいました。
「ミカエルさん、しばらくおやつ抜きですわ!」
そしてソフィーさまはちょっと機嫌が悪かった。
俺の作ったお弁当を食べて、やっと機嫌が治ったソフィーさまでした。
なんで、俺がお弁当を作ったかって? そりゃ、ソフィーさまにお願いされたからさ、ピクニックするなんて思ってなかったけどね!
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