そういえば……
「久しぶりじゃのぅ」
「にゃー」
世界と世界を繋ぐ魂の世界で、俺を待っていたのは猫神さまとお爺さんだった。
「お久しぶりです、猫神さま! 急にどうしたんですか?」
「ついに猫カフェがオープンしそうなのでな、記念に見に来たのじゃ」
「そうでしたか。あ、色々と便利なスキルをありがとうございました。凄く助かってます」
都市管理とか微妙に余計な気もするが、助かっている部分もあるからね。
「猫召喚のスキル以外は、わしらも管轄外じゃからのぅ。そっち方面に詳しい神様に頼んで作ってもらったから、詳細は把握しておらんのじゃが……便利であるならよかったわい」
まさかの外部委託!
「そういうことじゃから、スキルで分からんことがあれば、音声チャットで質問すれば創造神さまに繋がるはずじゃ」
「創造神さまって、一番偉い人なのでは?」
「気にしたら負けじゃ! そんなことより早く召喚せんか!」
いや、気にするところな気がするんですが、深く考えない方がいいのかな……。
「そうですね、本来の目的を忘れるところでした」
改めて、召喚する猫の条件を入力していく。まずは多頭飼育環境への適応力が一番で、不特定の人に接してストレスを感じないことも重要だ。
それでも結構な猫が表示されたので、優先召喚希望枠から選択していくが、既に十五匹に達した。
もう少し欲しかったので候補を見ていくが、そこであることに気づいた。
「猫神さま、さっきから見ていると黒猫が一匹も候補に出てこないのですが?」
検索条件に黒猫を入力しても出てこない。黒混じりは見つかるが、真っ黒なのが居ない……居ないとなると欲しくなる。
「そんなわけなかろう…………マジで黒猫が一切おらんのぅ」
「でしょう?」
「こんなことはありえる話ではないんじゃが……ちょっと調べてみるから何か分かれば連絡するぞ。今日は黒猫は諦めてくれぃ」
そう言い残して、猫神さまたちは消えていった。この黒猫愛をどこにぶつければいいのだ!
「居ないものは仕方ない、黒っぽいの選ぶかなぁ。でも黒猫はやっぱり黒猫なんだよなぁ」
一人文句をいいつつ、残りの猫たちを選び――最終的に三十匹――、俺は召喚を完了した。
元の世界に戻ると、足元にあった肉球陣は部屋全体に拡大していき、そこかしこから肉球スタンプが舞い上がり、それが収まる頃には三十匹の猫たちが召喚を終えていた。
色々な猫たちがいるが、母親猫と子猫五匹という組み合わせまである。
「うわぁ~、子猫! 凄くかわいい、ねぇねぇお持ち帰りしていい!?」
「リーナさん、ダメに決まっているでしょう!」
「え~、そんな意地悪言わないで!」
そんなことを言いつつ、ちゃんと子猫たちからは距離を取って見守っているあたり、リーナさんの猫への対応力は身に付いているっぽい。
「皆さんは初めて見る人も多いと思いますが、この子たちが猫です」
召喚された猫たちは互いをスンスンして確認しあったり、部屋をゆっくりと確認したりと、それぞれ忙しそうだ。
とりあえず、慣れるまで放っておこうかな。これだけの数を一気に集めるなんてやったことないから、見守るしかない。
「色々な性格の猫がいますが、今回は猫カフェに合わせた性格を選びましたので、そこまで世話をするのは大変ではないと思います。ですが、初めて接する動物なのでゆっくりと慣れていきましょう」
さすがに数が多いので、皆さん可愛いとか思う以前に、おっかなびっくりなご様子です。それは猫たちも同じですけどね。
「しばらくはこのまま猫の好きにさせておいて、頃合いを見て水とご飯を食べてもらいましょう。そのあと、トイレの兆候が見られたらトイレ部屋へ連れていきますね」
そう言って、カフェスペースとは離してあるトイレスペースへ従業員を案内する。例のごとく水場と換気扇完備だ。
排気ダクトを上空へ向かって配置して周囲への影響も考慮はしてある。
「では、皆さんの住まいについてですが、寮に入りたい人は居ますか?」
聞いてみたところ、屋敷のヘルプさん以外は全員が希望していた。
まあ寮費無料って伝えてたからこうなるか……。
「あの……旦那さま、よろしいですか?」
旦那さま? あ、俺のことか? 調理担当の男性が恐る恐る手を上げた。
「えーっと、軽食担当のジョンさんでしたね、どうぞ」
「ありがとうございます、家族でも構わないということですが、本当ですか?」
「はい、実際に見てもらってから決めて構いませんが、ご家族で住んでもらって大丈夫ですよ。無料の部屋は狭いので、お子さまが居るのであれば、差額分を払ってもらえれば、家族用の部屋も用意してあります」
さすがに大きな部屋を無料にすると、不公平だからね。給料から少し家賃を貰うことにしている。
一応交代で部屋を見てもらい、全員に確認してもらう。部屋に引っ越してきてから不満がでると困るからね。
「本当にここへ住んでいいんですか?」
「わ、私も両親を連れてきたいのですが、費用は……」
「あの、将来結婚できたら、大きな部屋へ移ることも可能ですか?」
皆さん、びっくりしつつも満足はしてもらえたようで、家族用を二人が希望して、あとは一人部屋になった。
結婚したときに部屋が空いていれば移動もオッケーよ。
ジョンの奥さんには寮の清掃など管理をお願いすることにした。蛍光灯とか交換品を、俺がいちいち対応してたら大変だしね。
くじ引きで部屋割りを決めて鍵を渡し、そのあとは質疑応答の時間を作って答えている合間に、猫たちのご飯やお水、トイレの場所を教えたりしていると、陽が沈みつつあった。
「では、夕刻の鐘が鳴りましたので、本日の業務は終了としますが、皆さんもお腹が減っているでしょう。簡単に夕飯を用意していますので、食べていきませんか?」
家族のいる人も迎えに行ってもらい、全員で夕飯を食べることにした。
「じゃあ、ジョンさん! ご家族はリーナさんに迎えに行ってもらうとして、食事の準備をしましょうか。人数が多いので、パスタで豪快にいきましょう」
リーナさん一家に、エルナさん、ヘンリーさま一家も呼びに行ったようだ。領主さまとソフィーさまも何故か残っているが、気にしないでおこう。
ちょっと邪道だけど、パスタは別で茹でてオリーブオイルである程度絡まないようにして、別で作ったソースを好みでかけてもらう、オープンパスタで行こう。
「ジョンさんはそこの寸胴で、お湯をたっぷり沸かしてください。俺はこっちでソースを作りますので」
ソースを作ると言っても、キノコや魚介類、ベーコンなどをそれぞれ炒めて、缶詰ソースで和えるだけだ。
「沸騰したので、塩を……これぐらいかな。あとはこの乾燥パスタを入れて、時々混ぜて、このタイマーが鳴ったら、こっちのザルでお湯を切ってください。あとはオイルを混ぜて、適当に大きな皿に分けてください。熱いので気をつけて!」
塩さえちゃんとしていれば、アルデンテなんて求めないよ、芯がなければ問題なし!
コンソメ類や香辛料でソースの味を整えたら準備は万端。
食卓へパスタとソース、十個入りのロールパンとバターを適当にお皿に盛り付けて、さあ頂きましょうか!
「美味しいね、お母さん!」
「ジョンさん、すごい美味しいですよ、さすがですね!」
「いやぁ俺は麺を茹でただけで、ソースは旦那さまが作ってくれたので……ほとんど何もしてません」
「いえいえ、きっちりと言われたことを守って調理できるのは、大切なことですよ、このソースだってジョンさんならすぐ作れると思います」
好評に対して、ジョンさんの肩身が狭そうなのでフォローしておく。
心配しなくても、一ヶ月みっちり修行してもらいますからね、ちゃんと動画とレシピ見て自分の物にしてください。
二階へ上がり、領主さまのたちの食卓へ向かう。さすがに従業員たちが落ち着かないので席を分けた。リーナさん一家も二階へ案内されている。
「タケル君、ちょうど良いところに!」
「待っていたぞ少年!」
「タケル! 旨い飯にはやっぱり必要なものがあるだろう!」
「ちょっとあんた、領主さまの前でみっともない!」
「はは、構わんよ、みな同じ思いなのだから」
どうにも男衆が騒がしい……酒か、酒が欲しいのか、ならばくれてやろう!
「まあ今日は記念日ですので、私は構わないのですが、奥様方、セバスチャンさん、よろしいですか?」
酒量管理者の承認を得て、俺は普通の赤ワインを提供した。
お酒が入ったあと、アーサー君以外の男衆は意気投合して、身分の差はありながらも打ち解けていった。
食事も終わり、領主さまをお見送りしたあと、それぞれの帰路へつくことになる。
明日は一日お休みして、それぞれの引っ越し作業に当てることにした。
明日の猫たちの世話はお屋敷からのヘルプで対応する。
「明日で引っ越しが終わらなくても、数日後に交代で休みを回します。焦らなくていいですからね。では、明後日の三の鐘に出勤してください、お疲れさまでした」
猫たちは思い思いの場所で寝てもらうとして、トイレのチェックと餌の補充だけはしておいた。
「さあ、明後日からは大変だ!」
でも一番大変だったのは、マイホームへ帰ってからでした。楓と紅葉は帰って来た俺をスンスンすると、静かに俺から離れていく……。
「え、ちょ、ちょっと待って! おかえりのモフモフは? スリスリは!?」
それからしばらく、二人の塩対応は続き、俺は弁明とご機嫌とりに奔走するのであった。
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