エンディングフェイズ
ここはUGNのM市支部。双葉が支部長を務める支部だ。喫茶店に偽装された支部の奥にある支部長室で、双葉・ジバシ・ノハラの三名は集まっていた。
無事にS市を守り抜いた三人だが、その表情は決して明るいものではなかった。
支部のパソコンにはビデオ通話が繋がっている。通話の相手はUGN日本支部長であり、今回の事件調査を双葉に依頼した霧谷雄吾だ。彼は双葉達を画面の向こうから見つめ、口を開いた。
「皆さん、今回も任務お疲れ様でした。詳しい報告をお願いします」
「支部長、報告をお願いします」
「月子さんも被害者だよぅ……!」
あくまでも冷静なジバシ、そして月子のことを訴えるノハラを代表し、支部長である双葉が報告する。
「……FHの手により、元UGNエージェントだった稲見月子さんが、改造を施されて利用されたことが、事件の原因でした」
「UGNのエージェントを利用するだなんて……FHはやはり許せませんね」
FHの非人道的な行いに、霧谷も静かな怒りを見せた。次いで話は萩村のことに。
「萩村紫電については書類で報告が上がってきているのですが、双葉さん、あなたの口から彼の当時の様子を教えて頂けますか?」
「彼は立派でした! 私では到底及ばないような人でした!」
ノハラが萩村のことを庇うように、双葉を遮って発言した。萩村の勇姿を思い出し、双葉もまた重々しく口を開く。
「萩村は、最後まで最愛の人を守ろうとしていました」
「なるほど。しかしFHに与した相手を守り、S市を危険にさらした彼の行為はUGNに対する裏切りと考えます」
あくまでも冷静な霧谷は萩村の処遇を教えてくれた。しかし彼自身も萩村の行動に対して思うところはあるのか、表情は険しい。
「……彼が持っていた、大切な人を守りたいという意思はとても大切なものです。我々オーヴァードは守りたいものがあるからこそ、暴走せずに戦うことができます。ですがその矛先を誤るようなことは、あってはなりません。彼には厳しい処罰が下されることでしょう。支部長の権限も、おそらく剥奪されます」
「はい……」
双葉も、今回の萩村の行動が咎められることなく許されるとは考えていなかった。下手をすればS市が崩壊していたかもしれないのだ。支部長権限が剥奪されるだけで済んでいることをむしろ喜ぶべきだろう。
「ですが、これは不幸中の幸いと呼ぶべきか、彼はジャーム化せずに済みました」
己の欲望のままにレネゲイドの力を使いすぎたものは理性を失いジャームと呼ばれる化け物と化してしまう。そうなってしまったらもう戻れない。一般人に被害を出す前に、ジャームは『処理』しなくてはならなくなってしまう。現にそうしてジャームと化し、UGNの手で討伐されてしまったUGNエージェントは少なからずいるのだ。
しかし今回、萩村はジャーム化せずに済んだらしい。
「現在、彼はUGNの施設の独房に入れられています」
そのため監視付きの独房にいれられてはいるが、反省の意思が確認出来ればまた外に出られるだろう。
「皆さんも今一度、自らの力の使い方を考え直してください」
「分かりました」
霧谷の言葉を受け、双葉たち三人は神妙に頷いた。
「あとは、何か気になる子とはありますか?」
「UGNが確保した月子さんの様子は?」
萩村と同じく、暴走していた月子も双葉達が保護した。すぐに医療班へ引き渡したためおそらく命は助かっていると思われるが、その後の処置について詳しいことは聞いていない。
「彼女は現在、意識を停止させた状態です。生命活動の維持はしているのですが、このまま彼女の意識を起動させると暴走の危険があるため、彼女を安全に起こせるときまで凍結保存の処置が決定しています」
どうやらFHの施した改造はUGNでもまだ全貌が解明できないものであり、それがはっきりとしない間はうかつに彼女のことには触れられないようだ。
「では皆さん、報告ありがとうございました」
「失礼します」
霧谷は一連の報告を受け、通話を切ろうとする。だが、
「あ、そうでした。もう一つだけ」
と付け加えた。
「萩村紫電なのですが、先ほどお伝えしたとおり彼は今、UGNの施設の独房にいます。精神状態は非常に安定しているので、希望するのでしたら面会も可能ですが?」
霧谷は萩村と仲が良い双葉に気を回してくれたようだ。
「お願いします」
「分かりました、手配しておきます」
こうして霧谷への報告は終了した。
どこか張り詰めたような空気のする廊下を、双葉は歩く。ここはUGNが管理する収容所だ。命令違反を犯したUGNの職員や、捕らえたFHエージェントを収容しておくために作られた施設である。
今日は霧谷の手配によって萩村との面会予定が組まれていて、そのために双葉はここまで来ている。職員に案内されて入ったのは、ガラスで大きく仕切られた面会部屋だ。そして強化ガラスの向こう側には萩村紫電が座っている。
「おう、元気か」
「おう、まぁぼちぼちって感じだよ。ここでの生活には慣れたか?」
双葉もガラス越しの席に座りながら、萩村に笑って話しかける。
「いや、まだ慣れないな。……俺は支部長をクビになったらしいな?」
どうやらその話は既に萩村の耳に入っているようだ。双葉も誤魔化すことはなく頷く。
「ああ、そうだ」
「ホントに、馬鹿なことをやっちまったもんだ」
萩村が後悔の苦みを口の端に乗せて呟く。だが顔をあげ、
「……だけど、双葉。お前が俺を止めてくれて良かった」
萩村は双葉の瞳を見つめて感謝を伝えた。
「いいや、お前はあれで良かったと俺は思うよ」
「そうかな……」
双葉もその瞳を見つめ返し、彼の心の在り方を称えた。恋人を守るために戦った萩村を、双葉は責める気になれなかった。
「双葉、一つだけ聞きたいことがあるんだ。月子はどうなった?」
月子の情報についてはかなり機密度の高い情報であり、まだ萩村の耳には入っていなかったようだ。双葉は僅かに思案したあと、萩村にも今の月子の状態を知る権利があると考えた。霧谷から伝え聞いたことを、包み隠すことなく萩村にも伝える。しかし、少しだけ言葉を選んで。
「今、彼女は眠っているよ」
「そうか、やっぱり俺は月子を守れなかったんだな……」
「でも、ずっと目を覚まさないわけじゃない。いつかきっと、目を覚ます日がくる」
今はまだ停止状態の月子を起動するわけにはいかない。暴走の危険があるからだ。しかし彼女に使われたFHの技術の解析が進めば、彼女が再び目を覚ます日もきっとくる。それにもしかすれば、彼女に施された精神改造の影響を取り除き、元の優しい稲見月子に戻せる可能性だってあるのだ。
未来にある可能性は無限だ。希望を捨てなければ、いつかきっと。
「そうか。それなら俺もこれから、その日を目指して頑張るよ。支部長はクビになったから、また下っ端からかな?」
冗談交じりに笑ってみせる萩村。その表情はまるで憑きものが落ちたかのように晴れやかなものだった。
「……そうだ双葉。お前、確かエージェントになる前は技術職についていたんだよな?」
「あぁ、そうだけど?」
「もし月子を目覚めさせる算段がついたら、そのときは手伝ってくれないか?」
萩村の真剣な瞳。双葉も頷き返す。
「勿論、全力で手伝ってやるよ」
「ありがとう。……俺もまたこれから頑張っていくよ。だからお前も支部長として、みんなを守れる奴として頑張ってくれ」
その言葉には重みが、そして希望が込められていた。
「……あぁ、任せろ」
双葉は神妙に頷く。そして二人は示し合わせたかのように拳を握り、
「「約束だ」」
ガラス越しに互いの拳を突きあわせ、誓いあった。
これにてノベルパートは終了です。
お付き合い頂き、ありがとうございました。




