N6:“アクシデント”
メインタイトル、変えました。
『こちらはICC 異世界統制センターです。転生者様のご要件をお伺いいたします。〜伝説のポンコツ勇者ってなんだっw〜 』
『次の赤い点へ移動お願いできますか?』
「はい、分かりました」
俺は地図を開き、残る二つの赤い点を確認した。
「……どっちも相変わらず動いてませんね」
近いほうの赤い点を目指して歩き始める。
「三浦さん、次の点に向かいます。……あの、さっきみたいに剣を振るのは、もう勘弁してくださいよ?」
俺は周囲を警戒しながら、崩れた建物の間を進んだ。
「……それにしても、三浦さん」
少し声を潜める。
「上司の方、まだそちらにいらっしゃるんですか?」
『うん…。 ん゙ん゙っ』
「ぷっ……三浦さん、無理してません?」
俺は笑いを堪えながら、地図を確認した。
「分かりました。こちらも真面目に調査します」
瓦礫を避け、次の赤い点へ向かって歩く。
「……それにしても、上司がいるだけで随分静かになりますね」
思わず口元が緩んだ。
「……あ、すみません。今のは独り言です」
俺は慌てて周囲を見渡した。
「三浦さん、次の赤い点まで、もう少しです。今のところ変わったものは見当たりません」
『……ハッ。 はい』
通話越しに小さく笑ったように聞こえた。
「……三浦さん、今ちょっと笑いました?」
俺は口元を緩めながら、地図を確認した。
「上司の方がいるんですから、気をつけてくださいよ?」
崩れた建物を避けながら、次の赤い点へ近づいていく。
「……あ、三浦さん。次の赤い点の近くまで来ました」
俺は足を止め、周囲を見渡した。
「やっぱり何も見えませんね。地図には確かに表示されてるんですけど……」
剣を握り直す。
「今度はどうしましょう? さっきみたいに振り回すのは、ちょっと怖いんですけど」
『周辺に何か異変はありませんか?ノイズなど小さな変化でも構いません。教えていただけませんでしょうか?』
「ノイズ……ですか?」
俺は剣を下ろし、周囲をゆっくり見渡した。
「えっと、建物は崩れてますし、瓦礫も散らばってますけど……」
地図に表示された赤い点と、目の前の景色を見比べる。
「……やっぱり何も見えないんですよね」
俺は少し耳を澄ませた。
「音も……特に聞こえません。風の音くらいです」
一歩横へ移動し、もう一度赤い点の位置を確認する。
「三浦さん、ノイズって、画面が乱れたりするやつですよね?」
俺は地図をじっと見つめた。
「……今のところ、地図は普通に表示されてます」
少し考えてから尋ねた。
「もしかして、赤い点そのものがノイズって可能性もあるんですか?」
『ん〜そうですか……』
消えそうな声の後から、キーボードを操作する音が聞こえてくる。
『そうですね、赤い点そのものがノイズの可能性……。最後の赤い点へ向かっていただけませんでしょうか?』
「はい、分かりました」
俺は地図を確認し、最後の赤い点へ視線を向けた。
「……結局、二つ目も何も分からなかったですね」
剣を握り直し、瓦礫を避けながら歩き始める。
「三浦さん、最後の赤い点も同じだったら、どうなるんでしょう?」
少し考えてから、慌てて付け加えた。
「いや、責めてるわけじゃないですよ! 三浦さんだって調べてくれてるんですもんね」
地図を見ながら歩き続ける。
「……それにしても、三つとも動かないって変ですよね。敵だったら、少しくらい動いてもよさそうなのに」
俺は足を止め、周囲を警戒した。
「三浦さん、最後の赤い点が見える位置まで来ました。……やっぱり、何もいません」
地図を拡大する。
「赤い点は、確かにここにあるんですけど……」
「……これ、近づいて触ってみても大丈夫なんでしょうか?」
『触る!? 駄目です!岡本様』
慌てた様子で止められた。三浦さんの矛盾に俺はすこし困惑した。
「えっ!? 駄目なんですか!?」
俺は慌てて赤い点から距離を取った。
「……いや、ちょっと待ってくださいよ、三浦さん」
剣を握ったまま首を傾げる。
「さっきは剣で攻撃してもいいって言ったじゃないですか!」
俺は地図と目の前の何もない空間を交互に見た。
「剣で斬るのはよくて、触るのは駄目って……どういうことです?」
少し声を潜める。
「……もしかして、何か分かったんですか?」
俺はその場に立ち止まり、通話先の返事を待った。
『完全には判明しておりませんが…その赤い点から異常な乱れを検知しました。直接触れた場合……命の保証はできません』
「……は?」
俺は思わず地図から顔を上げた。
「い、命の保証ができないって……!」
慌てて数歩後ずさり、剣を身体に引き寄せた。
「三浦さん! それ、もっと早く言ってくださいよ!」
目の前には相変わらず何も見えない。
「……っていうか、異常な乱れって何ですか? さっきまで通信障害で分からないって言ってましたよね?」
俺は赤い点を見つめたまま、慎重に距離を取った。
「……あの、三浦さん」
声を潜める。
「それって、最後の赤い点だけなんですか? それとも、さっき調べた二つも危険なんでしょうか?」
俺は剣を握り直した。
「……俺、最初のやつに思いっきり剣を振り下ろしちゃったんですけど……」
『いま目の前にある赤い点が本体です』
「……本体?」
俺は地図に表示された赤い点を見つめた。
「ちょ、ちょっと待ってください。じゃあ、さっきの二つは何だったんですか!?」
目の前の何もない空間から、さらに数歩離れる。
「……本体ってことは、何かの中心ってことですよね?」
俺は剣を握り直した。
「でも、何の本体なんです? 敵? それともバグ?」
周囲を見渡しても、やはり何も見えない。
「……三浦さん、俺には相変わらず赤い点しか見えてないんですけど」
少し声を潜めた。
「これ以上近づかないほうがいいですよね?」
『敵ではなく…』
三浦さんは言葉を詰まらせる。
『時空の割れ目です』
「……じ、時空の割れ目?」
俺は思わず息を呑んだ。
「えっ、待ってください。時空って……あの、時間とか空間とかの!?」
目の前には何も見えない。
俺は地図の赤い点を確認し、さらに一歩後ずさった。
「……そんなものが、今、俺の目の前にあるんですか?」
剣を握る手に汗が滲む。
「じゃあ、最初の二つも時空の割れ目だったんですか? それとも……」
俺は途中で言葉を止めた。
「……三浦さん」
声が自然と小さくなる。
「もし俺がさっき、何も知らずに触ってたら……どうなってたんですか?」
通話先の返事を待ちながら、俺は赤い点から目を離せずにいた。
『申し訳ございません。私の軽率な判断で危険な目にっ申し訳ございませんでした!』
「えっ!? ちょ、三浦さん!?」
突然の謝罪に、俺は慌てて剣を下ろした。
「いや、確かに危なかったですけど……俺も自分で剣を振ったんですから!」
通話先に向かって、思わず頭を下げる。
「それに、触る前に止めてくれたじゃないですか。だから、もう謝らないでくださいよ」
俺は目の前の赤い点を確認した。
「……でも、正直ちょっと怖いです」
小さく息を吐く。
「三浦さん、俺、まだレベル1なんですよ?」
剣を握り直し、苦笑した。
「伝説の勇者だって言われても、時空の割れ目なんてどうすりゃいいのか分かんないですよ」
少し間を置いて、通話先へ尋ねた。
「……それで、三浦さん。俺はここからどうすればいいんでしょうか?」
『…大変お辛い中、申し訳ないのですが…村人の死因を調査していただけないでしょうか』
「……村人の、死因ですか?」
俺は思わず言葉を失った。
崩れた建物の向こうに、倒れたまま動かない村人たちの姿が見える。
「……分かりました」
剣を握り直したものの、すぐに手を止めた。
「でも、三浦さん。俺、医者じゃないですよ? 見ただけで死因なんて分かるんでしょうか……」
俺は時空の割れ目がある場所から距離を取り、倒れている村人のほうへ視線を向けた。
「……あの、確認なんですけど」
少し声を潜める。
「村人たちに近づいても大丈夫なんですよね? さっきみたいに、触ったら危険とか……ないですよね?」
俺は返事を待ちながら、その場に立ち止まった。
『っ!!』
三浦さんは息を詰まらせる。
『申し訳ございませんっ!!出来る限りギルを拾って、その村から――逃げてください!!』
「えっ!? に、逃げる!?」
俺は思わず声を上げた。
「ちょっと待ってください、三浦さん! さっきは死因を調べろって……!」
通話先の切迫した声に、俺は口をつぐんだ。
「……分かりました。逃げます!」
俺は赤い点から離れるように走り出した。
「でも、ギルを拾えって……こんな状況で!?」
足元の瓦礫につまずきそうになり、慌てて踏ん張る。
「……あっ、そうか。村を出たら金が必要なのか!」
俺は周囲を見渡した。
「三浦さん! ギルって、どこに落ちてるんですか!? 俺、まだこの世界のお金も見たことないんですけど!」
剣を握ったまま、地図を確認する。
「……それと、三浦さん!」
声が震えた。
「さっきから何度も謝ってますけど……何が起きてるんですか!?」
俺は足を止めずに尋ねた。
「俺、今、何から逃げてるんですか!?」
通話の向こう側から騒然とした、やり取りが聞こえてくる。その音の中に「時空の割れ目が拡大している!」との声が聞こえてきた。
『逃げてください!いますぐそこからぁ!!』
三浦さんの叫びが響く。その背後から、別の声が聞こえてきた。
『限界だ!!いますぐ勇者を転送しろ!!』
『はいっ!!』
三浦さんが返事した――次の瞬間。
「……え?」
俺は胸元から広がる虹色の光を見下ろした。
「な、何だこれ!? 三浦さん!?」
慌てて光を振り払おうとしたが、手は何の抵抗もなく通り抜けた。
「ちょっ、待っ……!」
身体がふわりと軽くなる。
さっきまで必死に走っていたはずなのに、足元の感覚が消えていく。
「……あれ?」
不思議と怖くなかった。
温かい。誰かに抱きしめられているような、妙な安心感があった。
「……三浦さん?」
真っ白になっていく視界の中、俺は耳元の通信に意識を向けた。
「聞こえますか? 俺、どうなってるんですか?」
自分の手さえ見えなくなってきた。
「……転送って、どこに?」
俺は目を細め、最後にもう一度呼びかけた。
「三浦さん! 俺、ちゃんと生きてますよね!?」
その声は虚しく、異空間にかき消された。
最後まで、読んで頂き、ありがとうございます。




