↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/7

N4:“焦れったい!”

投稿時間、模索中。

『あの、岡本様』


「はい?」


俺は走りながら返事をする。


「どうしました、大崎さん?」


『っ!止まってください』


「えっ!?」


俺は反射的に足を止めた。


「な、なんですか!? 何かいます!?」


『異常を検知しました。調査します。少々お待ちください』


「異常……?」


俺はその場から動かず、周囲を見回した。


「分かりました。待ちます」


少し間を置いて、声を潜める。


「……俺、何も触らないほうがいいですよね?」


『村へ近づかないでください』


「……え?」


俺は村の方角へ向けていた足を、ゆっくり引いた。


「村に……何か起きてるんですか?」


『その原因を調査中です。村の方面に何か見えませんか?』


「村の方面……?」


俺は目を凝らし、遠くの村を確認する。


「ちょっと待ってください。暗くて……」


周囲にも注意しながら、村の方角をじっと見つめた。


『村一帯、バグが検知されました。早急にデバックします。範囲が広がる場合、退避をお願いする可能性がございます』


「……バグ?」


俺は村の方角を見たまま固まる。


「ちょっと待ってください。村一帯って……」


息を呑んだ。


「そこにいる人たちは、大丈夫なんですか?」


『それも含めて調査しております』


大崎さんは忙しなく応対する。


俺は村へ向けていた足を完全に止めた。


「……分かりました」


通話の向こうから聞こえる気配に、声を少し抑える。


「俺はここから動かないほうがいいですね」


『はい。指示があるまで、身を潜めて待機していてください』


「身を潜める……」


俺は周囲を見回した。


「分かりました。隠れられそうな場所を探します」


少し間を置く。


「……大崎さん。通話は、このままでいいですか?」


『はい。切断しないでください。異常を発見した場合、即報告お願いします』


「分かりました。切りません」


俺は声を潜めながら、身を隠せそうな場所を探す。


「異常……って、具体的には何を見ればいいですか?」


『そうですね…明らかにモンスターの挙動がおかしい、または、ノイズが見えるなど…』


「ノイズ……?」


俺は村の方角を警戒しながら、近くの物陰へ身を寄せる。


「分かりました。何か変なものが見えたら、すぐ言います」


少し黙ってから、


「……なんか急に、チュートリアルじゃなくなってません?」


『……チュートリアル終えてますね。……デバックでは対処しきれない問題が発生しました』


「……え?」


俺は息を止める。


「デバッグで……対処できない?」


村の方角から目を離さないまま、声を落とした。


「大崎さん。それって……どれくらいまずい状況なんですか?」


『勇者様』


「……はい」


呼び方が変わったことに気づき、俺は息を呑んだ。


「聞いてます」


『村が一つ消えてしまいます。お救いください』


「…………え?」


俺は村の方角を見つめた。


「消えるって……」


一瞬、言葉が出なかった。


「俺に、何をすればいいんですか?」


『村を救ってください』


「……俺が?」


思わず聞き返した。


「いや、待ってください。俺、まだ丸腰ですよ?」


村の方角を見つめる。


「救えって言われても……どうやって」


『少しはご自分でご判断していただけないでしょうか?』


大崎さんは少しだけ強い口調で言い放った。


「……っ」


俺は言葉を詰まらせた。


「……すみません」


村の方角を見据え、拳を握る。


「そうですよね。俺が……勇者なんですよね」


一度、大きく息を吸った。


「分かりました。行きます」


『ICC が対応できる限界を越えいています。勇者様にお願いするしか方法がありません。……ご負担をお掛けしてしまい申し訳ございません』


大崎さんの声のトーンが弱くなった。


「……謝らないでください」


俺は村の方角を見据えた。


「大崎さんたちにできないなら、俺がやるしかないんですよね」


少し息を吐く。


「ただ……一人にしないでください。通話、このまま繋いでいてください」


『はい。できる範囲で対応致します。通話はこのままでお願いします』


「分かりました」


「……じゃあ、行ってきます」


少し間を置いて、


「何か分かったら、すぐ教えてください」


『はい……』


その言葉以降、向こう側でキーボードを操作する音が異様に頭に響いた。


俺はその音を聞きながら、村へ向かって歩き出した。


「…………」


さっきまで急いでいたはずなのに、足取りが妙に重い。


遠くに見えるガレート村を見据える。


「……村を救う、か」


小さく呟き、歩みを速めた。


『一緒に救いましょう』


大崎さんも小さく呟いた。


「……はい」


『村に着きましたら、お声掛けてください。私は裏で作業しておりますので……』


「分かりました。着いたら声かけます」


俺は走りながら返した。


通話向こう側から何やら会話が聞こえてくる。


『大崎さん。…大丈夫?残業なのに…引き継ぎしてくれれば自分が対応するけど?』


『あっ…ありがとうございます。ですが、初心者様なのでできる限り自分で対応したいと思っておりまして…』


『でも、終電無くなっちゃうよ?』


『…そ…そうなんですよね……あの』


『ん?何?まさかサービス残業しますとか言い出さないでよ?』


『あはは…』


俺は走りながら、通話の向こうから聞こえてくる会話に耳を傾ける。


「…………」


しばらく黙っていたが、さすがに聞き流せなくなった。


「……大崎さん」


少し声を大きくする。


「俺のせいで終電なくなるんですか?」


『うえ!?マイク押さえてたのに丸聞こえだったようです』


向こう側で軽い笑いが聞こえてくる。


『勇者岡本様。先程の会話は聞かなかったことにしていただけませんでしょうか?』


「いや、無理ですよ!」


俺は走りながら思わず声を上げた。


「終電なくなるって、かなり重要な話じゃないですか!」


少し間を置いて、


「大崎さん、本当に大丈夫なんですか? 俺なら引き継いでもらっても……」


言いかけて、少し迷う。


「……いや、できれば大崎さんがいいですけど」


『ご心配していただいてありがとうございます。お気になさらないでください。場合によって、タクシーもございます。快活などの寝泊まりできる場所もございます。決して会社で寝泊りしませんので、ご安心を』


「いや、安心できる要素が一個もないんですけど!?」


走りながら思わず突っ込む。


「タクシーか快活って、もう完全に終電逃す前提じゃないですか」


俺は村へ向かう足を止めず、少し困ったように息を吐いた。


「……俺、村も救いたいですけど、大崎さんの終電も救いたいですよ」


『岡本様?』


「はい?」


走る足はそのままに、返事をする。


「どうしました?」


『急に勇者らしくなられましたね。頼もしい限りです。ところで、村には着きましたでしょうか?そろそろ到着時間だと思われますが』


「終電を救う勇者って何なんですか……」


思わず苦笑しながら、前方へ視線を戻す。


「村ですよね。えっと……」


走る速度を少し緩め、ガレート村の様子を確認する。


『村に到着しましたら、ご遺体が多く散乱しておられると思われます。…彼らから所持品を拾い、装備お願いします』


「…………はい?」


足は動かしたまま、聞き間違いかと思って聞き返す。


「すみません。今……『ご遺体から所持品を拾って装備』って言いました?」


『はい。まさか、丸腰で戦うのですか?』


「いや、丸腰で戦う気はないですけど……!」


思わず顔をしかめる。


「さっきまで『拾えるものは全部拾って大丈夫です』って言われてましたけど、遺体まで対象に入ってるとは思わないじゃないですか……」


少し黙ってから、


「……分かりました。必要なものだけ、借ります」


『借りる…いいえ、勇者岡本様の所持品となります。使いやすい武器が見つかると良いですね』


「そこ、所有権まで即時移転するんですか!?」


思わず声が裏返る。


「……この世界、拾得物の扱いが豪快すぎません?」


村を目前にしながら、乾いた笑いが漏れる。


「分かりましたよ。選り好みできる状況じゃないですし……」


少しだけ声を落とす。


「でもせめて、心の中で『借ります』ってことにさせてください」


『そうですね。“お借りします” 素敵ですよ』


「……大崎さんに褒められると、なんか妙に照れますね」


俺は苦笑しながら、村へ向かう。


「じゃあ、ちゃんと一人ずつ『お借りします』って言いますよ」


少し間を置いて、


「……できれば、言う人数は少ないほうがいいですけど」


『村の中に入りましたでしょうか?目の前の状況を教えていただけませんでしょうか?』


「はい。今、入ります」


俺は村へ足を踏み入れ、周囲を見渡す。


「…………」


目の前の光景を確認しながら、通話の向こうへ伝える。


「大崎さん、えっと……」


『はい!』


大崎さんは背筋を伸ばし声を張り上げた。


その勢いのいい返事に、思わず少しだけ肩の力が抜ける。


「……なんで大崎さんが緊張してるんですか」


苦笑してから、改めて村の中へ視線を向けた。


「今から見える範囲、伝えますね」


『はい!』


「……だから返事がいいな」


思わず苦笑する。


俺は村の中を見渡した。


「まず、入口付近は……」


『はよいえや!』


「急に口悪っ!?」


思わず村の入口で声が裏返る。


「今見てるんですよ! 実況にも限界ありますから!」


俺は慌てて周囲へ視線を走らせた。


『大変、失礼しました』


大崎さんは慌てて謝罪した。


「いや、そこまで丁寧に戻らなくても!」


思わず笑ってしまう。


「……今の大崎さん、素でしたよね?」


俺は周囲への警戒を続けながら、少しだけ口元を緩めた。


『あの…焦らさないでいただけませんか?早く現状を知りたいので…』


「す、すみません!」


さすがに俺も切り替え、村の中へ視線を走らせる。


「今、確認します。見えるものから順番に伝えますね」


俺は入口から周囲を見渡した。


『はい。私の返事を待たずに、続けてつ伝えてください。現状を記録致しますので』


「分かりました。じゃあ、見えたものから全部言います」


俺は村の中を見渡しながら、口を開いた。


「入口から見て……」


『入口から話が進んでないっ!』


明らかに大崎さんは焦っていた。


「大崎さんが毎回返事するからでしょう!?」


思わず突っ込んでから、すぐに村へ視線を戻す。


「もう返事しないでくださいね!? 今度こそ続けますから!」


俺は入口から見える範囲を確認する。


『……』


「…………」


「……大崎さん?」


妙な沈黙に、逆に不安になる。


「いや、そこまで完璧に黙られると、それはそれで怖いんですけど……」


ゴソゴソとマイクが擦れる音が聞こえる。次の瞬間、通話越しに会話が聞こえてくる。


『先輩!無理です!腹立ちます。どうしたらいいですか?』


『代わる、引き継ぎ書いてたよな?』


『そうですが…』


『いい!代われ!お前疲れてるんだよ。大崎。帰れおつかれ』


『お電話変わりました。夜間担当の三浦と申します』


「…………えっ」


突然知らない声に変わって、思わず足元がもつれそうになる。


「ちょ、ちょっと待ってください。大崎さん帰ったんですか!?」


一瞬、通話の向こうを気にしながらも村の中へ視線を戻す。


「……あ、すみません。岡本です。よろしくお願いします、三浦さん」


少し間を置く。


「それで……大崎さん、俺に腹立ってたんですか?」


『よろしくお願いします。岡本様。大崎が大変ご迷惑おかけしました。大崎について詳しいことは申し上げられません』


「いや、迷惑はかけられてないです。むしろ、ずっと助けてもらってたので……」


俺は少しだけ言葉に詰まる。


「……分かりました。そこは聞きません」


気持ちを切り替えるように村の中へ視線を戻した。


「三浦さん。現状の報告、続けます」


『お願いします。記録の準備は整っております。続けてどうぞ』


「はい。入口から見える範囲ですが……」


俺は歩きながら周囲を見渡す。


「…………」


「まず、村の中に……」


『はい。村の中に』


「……三浦さんまで復唱するんですか!?」


思わず突っ込む。


「いや、もういいです。続けます。村の中に……」


『……』


「……村の中に、遺体が見えます。かなり多いです」


入口から伸びる道。その両脇に、人が倒れている。


「建物も……壊れてます。ただ、燃えたとか、そういう壊れ方じゃないです」


目を凝らす。


「壁が途中から……ない?」


崩れた瓦礫すらない。家屋の一部だけが、最初からそこに存在しなかったように途切れている。


「三浦さん。これ……消えてるんですか?」


『壁が途中からない。調査致します。岡本様、ご遺体から装備品を取得してください。装備お願いします』


「分かりました」


俺は一番近くに倒れている遺体へ近づいた。


「……すみません。お借りします」


小さく頭を下げ、身につけている装備を確認する。


「武器は……」


『モンスターが潜んでいる可能性があるため、いろんな武器を試す機会になるかと思います』


「試す機会って……ずいぶん前向きに言いますね」


遺体のそばにしゃがみ込み、使えそうな武器へ手を伸ばす。


「俺、武器なんて使ったことないんですけど……」


拾い上げて、重さを確かめる。


「とりあえず、振り回して自分に刺さらないやつから試します」


『そうしてください』


「はい」


俺は拾った武器を握り直し、立ち上がる。


「……お借りします」


もう一度だけ遺体へ頭を下げ、周囲を警戒しながら村の奥へ視線を向けた。


『地図を展開してみてください。開いたまま行動可能です。赤い点はございますか?』


「地図ですね。分かりました」


俺はこめかみに触れ、地図を展開する。


視界に重なるように表示された地図を確認しながら、周囲にも注意を向ける。


「……あります」


少し息を呑む。


「赤い点が……村の中に複数あります」


『敵の中にこのバグの原因が潜んでいる可能性がございます。排除をお願い致します』


「排除……」


手にした武器を見下ろす。


「さっきまで逃げ回ってた俺が、今度は倒す側ですか……」


地図上の赤い点と村の奥を見比べ、武器を握り直す。


「分かりました。まず一番近い赤い点から向かいます」


少し間を置く。


「……三浦さん。これ、倒した相手が原因かどうかって、そっちで分かります?」


『はい。こちらのデバックが可能になりますので』


「なるほど。俺が倒して、三浦さんがデバッグする……」


地図に表示された一番近い赤い点へ視線を向ける。


「役割分担ですね」


武器を構え、慎重に距離を詰めていく。


「じゃあ……行きます」

最後まで、読んで頂き、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。