N3:“営業時間”
どうしようかな…(投稿時間まだ悩んでる)
先程の少女は先頭を歩きながら、俺をチラチラと見てくる。
視線が合う度に、魔道士の袖を引っ張り――
「あいつ付いてくるぅこわいー」
俺は思わず足を止めかけた。
「いや、付いてきていいって言われたんだけど!?」
少し距離を空けて歩きながら、小声で呟く。
「……大崎さん。俺、完全に不審者扱いされてません?」
大崎さんは通話口で笑いをまだ堪えていた。
『わ…私にそう言われましても……っ』
唾を詰ま噎せだした。
「ちょ、大崎さん!? 笑ってる場合じゃ……って、むせてる!?」
俺は歩きながら、反射的に声をかける。
「大丈夫ですか? 水、水飲んでください!」
少女が追い打ちを掛けるように呟いた。
「あいつやっぱ気持ち悪い〜」
大崎さんは噎せながら笑い続ける。
「だから笑わないでくださいって!」
俺は前を歩く少女へ視線を向け、すぐに逸らした。
「……もう喋らないほうがいいな。喋るほど悪化してる……」
息を整えて大崎さんは言葉を発した。
『大変、失礼しました』
「……絶対まだ笑ってましたよね?」
俺は半眼になりながら、前を歩く少女との距離をさらに少し空けた。
「俺、村に着く前に変な噂立ちそうなんですけど……」
『仕様ですので…。あの……声に出さなければよいのではないでしょうか?』
「声に出さなければって……どうやって大崎さんと話すんですか?」
俺は周囲に聞こえないよう、さらに声を落とした。
「まさか、心の中で話しかけても通じるとか?」
『いいえ…そういう仕様ではございません。申し訳ございません』
「じゃあ解決してないじゃないですか!」
思わず声が出て、慌てて口を押さえる。
「……ほら! また見られる!」
大崎さんはまた、笑いだした。小さい声で何か呟く。
『可愛いかよ……岡本さん面白いっ…』
咳払い。
『岡本様、目的地に着くまで通話を切ることを提案致します。いかが致しますか?』
「……今、なんか聞こえた気がするんですけど」
少し間を置いてから、ため息をつく。
「……分かりました。切ってください。村に着いたら、こっちから連絡します」
『かしこまりました。連絡方法はおわかりですか?』
「……あ。」
俺は少し黙った。
「そういえば知りません。大崎さんからずっと繋いでくれてましたよね? 俺からどうやって連絡するんですか?」
『システム画面を開いてください』
「はい」
俺はこめかみに触れて、システム画面を表示する。
「開きました」
『メインメニューという項目がございます。触れていただけますか?』
「メインメニュー……これか」
表示された項目に触れる。
「押しました。次は?」
『“お問い合わせ”と表示されていませんか?』
「お問い合わせ……あ、あります」
俺はその項目を見つけて、指を止める。
「これを押せば、大崎さんに繋がるんですか?」
『直接対応できれば幸いなのですが、他にも担当者がおりますので…私の名前を伝えていただければ…』
「え、そこから担当者ガチャなんですか?」
俺は思わず画面を見つめる。
「分かりました。大崎さんをお願いしますって言えばいいんですね?」
『ガチャ…っ…』
大崎さんはツボってしまった。
「また!?」
俺は額を押さえた。
「大崎さん、さっきから俺で笑いすぎじゃないですか?」
少し間を置いて、小声になる。
「……そんなに面白いこと言ってます? 俺」
『…っ…はいっ』
息を整えながら、一呼吸。
『大変お見苦しいっ…失礼しました!――ブツッ』
「切った!?」
俺は消えた通話に向かって声を上げる。
「笑い逃げじゃないですか、大崎さん!」
少しして、前を歩く少女のほうを見る。
「…………」
今度こそ黙って歩こう。
少女は冷めた目で俺に視線を向けた。
俺は視線を逸らした。
「…………何も喋ってませんからね」
少しだけ歩調を落とす。
「今度は本当に独り言じゃないから……」
「ねぇ…まだ?」
少女は魔道士の女性に声を掛けた。
俺は二人の会話を邪魔しないよう、そのまま少し後ろを歩く。
「…………」
今度こそ余計なことは言わない。
魔道士は剣士の男性へ駆け寄る。
「ゲン!そろそろ、日が暮れる。急ごう!」
「確かに、ここで野宿は、ニーヤには負担だな。それに…」
剣士は俺へ視線を向けた。
「こいつも、危険だろ。お前ら村まで走るぞ!」
他の冒険者も声を張り上げ、草原を走り出した。
「そこのお前、置いて行くぞ!」
「えっ、走るんですか!?」
慌てて後を追いかける。
「ちょ、待ってください! 俺さっきまで全力で逃げてたんですけど!」
「そうだったな!」
剣士はガハハと笑いながら俺の隣りを走る。
「笑い事じゃないですよ!」
息を切らしながら、なんとか横についていく。
「この世界来てから、ずっと走ってる気がするんですけど!」
「この世界来てから?…お前」
剣士は血相を変え立ち止まった。
俺もつられて足を止める。
「……え?」
剣士の表情が変わったことに戸惑い、一歩だけ後ずさる。
「な、なんですか……?」
「いや…」
剣士は言葉に詰まらせる。
「お前、どこから来た」
俺の正面に立ち真剣な眼差しで見つめる。
「どこからって……」
真剣な表情に気圧され、言葉を選ぶ。
「……日本、ですけど」
少し間を置く。
「たぶん、言っても分からないですよね?」
「っ!!」
剣士は大げさかと思うほど驚いた。
「……え?」
予想外の反応に、俺のほうが固まる。
「な、なんですか、その反応……」
剣士の顔を窺う。
「日本、知ってるんですか?」
「伝説…そのニホンという言葉…」
俺らを置いて、他の冒険者は村へ向かって走り去ってしまった。剣士は俺の肩を持ち揺らす。
「お前っ!伝説の勇者なのか!?」
「ちょ、ちょっと待ってください! 肩!揺らさないで!」
慌てて剣士の腕を掴む。
「伝説って何ですか!? 俺、今日ここに来たばっかりなんですけど!」
「それが伝説なんだ! ということは……来るのか…奴らが……災害が…」
「……災害?」
俺は剣士の言葉を聞き返す。
「待ってください。俺が来ると、何か起きるんですか?」
肩を掴まれたまま、真剣な顔を見返す。
「奴らって……誰です?」
剣士は突然、腰を抜かす。
「俺に近づかないでくれ! ガレート村に来るな!!」
そう言い残し、全速力で仲間の方へ駆け出した。
「え、ちょっと!?」
走り去る背中へ手を伸ばす。
「待ってください! 俺、何もしてないんですけど!」
その場に取り残され、しばらく呆然とする。
「…………村、行くなって……」
遠ざかる一行を見つめる。
「俺、どこ行けばいいんだよ……」
俺は日没の星空を見上げながらため息が漏れた。
しばらく、空を見上げたまま、動けなかった。
「……大崎さん」
口にしてから、通話を切ったことを思い出す。
「そうだった……お問い合わせ、か」
こめかみに触れ、システム画面を開いた。
メインメニューから「お問い合わせ」を選ぶ。
「……これでいいんだよな」
少し迷ってから、項目に触れた。
『はい、こちらICC 担当大崎です。お客様コードをお願いします』
「……え?」
聞き覚えのある声に、一瞬固まる。
「大崎さんですよね!? 俺です、岡本です!」
少し間を置いて、
「……お客様コードって何ですか?」
『あっ!岡本様、村にお着きになりましたか?』
「それが……着いてないんです」
俺は遠ざかっていった冒険者たちの方を見る。
「大崎さん。俺、ガレート村に来るなって言われました」
『それは、大変ですね。…何か不都合でも発生したのでしょうか?』
「不都合っていうか……俺が “日本から来た” って言ったら、急に伝説の勇者だって騒ぎ出して」
俺は頭を掻く。
「それから “奴らが来る” “災害が” って……最後は俺に近づくな、村に来るなって逃げられました」
少し間を置く。
「大崎さん。これ、何か知ってます?」
『岡本様』
「……はい」
声の調子が変わった気がして、俺は黙って次の言葉を待つ。
『岡本様は勇者様です。最初からお伝えしていたはずですが…』
「いや、それは聞きましたけど……!」
俺は思わず声を上げる。
「俺が聞きたいのは、なんで『日本』って言っただけであの人があんなに怯えたのかです!」
少し間を置く。
「……勇者って、この世界ではそういう存在なんですか?」
『……私に聞かれても困ります。転生した者は伝説の勇者だとしか私たちでも知らされていないので…申し訳ございません』
「……大崎さんたちも知らないんですか?」
俺は少し黙り込む。
「じゃあ俺、自分が何の『伝説』なのかも分からないまま勇者やってるってことですよね……」
遠くに見える村の方へ視線を向ける。
「しかも、俺が来ると災害が起きるみたいな言われ方して………これ、本当に村へ行って大丈夫なんですか?」
『村へ訪れたら必ず問題が発生するとは限りません。岡本様の安全が第一だと私は思います』
「安全が第一……」
俺は暗くなり始めた草原を見回す。
「じゃあ、行きます。ここで一人で夜を越すほうが危なそうですし」
少し迷ってから、村の方へ歩き出す。
「……ただ、何かあったらすぐ連絡します。今度は切らないでくださいね?」
『はい、繋いだままで構いません。通話越しでしか対応できず…申し訳ございません。…不安ですよね』
「……まあ、不安じゃないって言ったら嘘になりますけど」
俺は村へ向かって歩きながら、小さく息を吐く。
「でも、大崎さんの声が聞こえてるだけでも全然違います」
少し間を置く。
「だから……今は繋いでてください」
『はい、勇者様』
「……その呼び方、なんかまだ慣れないな」
俺は苦笑しながら歩き続ける。
「岡本でいいですよ。さっきまで普通に岡本様だったじゃないですか」
『失礼しました!つい…。岡本様、あの…営業時間までに村に着いてくださいね』
「……営業時間?」
俺は思わず足を止める。
「待ってください。大崎さん、何時までなんですか?」
村の方を見て、歩く速度を上げる。
「まさか時間になったら『本日のサポートは終了しました』とか言いませんよね!?」
『21時までの担当でございます。それ以降になりますと、時間外対応となり別の担当者が対応します』
「時間外対応……」
俺は思わず空を見上げる。
「異世界に転生してまで、営業時間を気にすることになるとは思わなかったんですけど!」
慌てて村へ向かう足を速める。
「あとどれくらいですか!? 今、何時なんです!?」
『只今、20時40分回ったところです』
「あと20分!?」
俺は村へ続く道を見据える。
「大崎さん、村まであと何分ですか!? これ間に合います!?」
『村までの所要時間は地図上に表記されているはずですが…』
「あ、そうだった!」
俺は慌ててシステム画面の地図を確認する。
「えっと……残り……」
『何分ですか?』
俺は地図に表示された数字を確認する。
「……25分」
一瞬、黙る。
「大崎さん。普通に歩いたら、5分オーバーします」
『25分』
大崎さんは少し黙り込む。
『対応致します。村まで一緒に行きましょう』
「……いいんですか?」
思わず足が止まりかける。
「21時、過ぎますよね?」
少し間を置いてから、また歩き出す。
「……ありがとうございます、大崎さん」
『走りながらで構いません。お伝えしたいことがあります』
「はい」
俺は村へ向かって走り出す。
「聞いてます。何ですか?」
『村に着きましたら、すぐに拾った所持品を商店で売ってください』
「拾ったもの全部ですか?」
走りながら、所持品のことを思い返す。
「……あの卵も?」
『はい。拾ったもの全てです』
「分かりました」
走りながら頷く。
「今度は変なのが混ざってないですよね……?」
少し息を切らしながら続ける。
「卵もちゃんと売ります。20ギルでしたよね?」
『はい。村ごとに相場が違いますが最低でも15ギルには…。その所持金で宿屋に宿泊してください』
「なるほど……まず今日寝る場所を確保するんですね」
息を切らしながら走り続ける。
「分かりました。着いたら商店に直行して、全部売って宿屋へ行きます」
『朝になるまで宿屋から出ないでくださいね』
「……朝まで?」
俺は走りながら眉をひそめる。
「分かりましたけど……なんでですか? 夜に外へ出ると、何かあるんですか?」
『…あの、岡本様?丸腰ですよね?』
「……はい。丸腰です」
走りながら、さっきの騒動を思い出す。
「そうでした。俺、武器すら持ってないんでした……」
少し息を切らしながら、
「朝になったら、まず武器を買えってことですか?」
『所持金が足りませんよ?お話は終わっておりません』
「す、すみません!」
俺は慌てて口を閉じる。
「……聞きます。続けてください」
『朝になるとクエストが発生致します。その頃には私も出社していおりますので対応可能です』
「クエスト……朝になると発生するんですか?」
俺は走りながら頷く。
「分かりました。今夜は宿屋から出ないで、朝になったら大崎さんに連絡します」
少し間を置く。
「……出社って言葉を聞くと、急に異世界感なくなるな……」
『そう言われましても…』
大崎さんは少し困った様子で呟いた。
「いや、大崎さんが悪いわけじゃないですけど!」
俺は走りながら苦笑する。
「勇者の冒険が、担当者の出社待ちになるとは思わないじゃないですか」
息を整えながら続ける。
「……明日の朝、大崎さんが来るまでは大人しくしてます」
『そうしてください。 あの…明日の朝、私からご連絡差し上げてもよろしいでしょうか?』
「もちろんです」
走りながら、少し笑う。
「むしろお願いします。俺からだと、また担当者ガチャになるんですよね? 大崎さんから連絡もらえるなら、そのほうが助かります」
『かしこまりました。無事に村に着きますように…』
大崎さんは小さく笑った。
最後まで、読んで頂き、ありがとうございます。




