N2:“変なやつ”
投稿時間悩み中。
保留から20分程経過。通話先から少し雑音が聞こえてきた。
というより、小さく向こう側で会話している。
『これは…そうですね。はい、お願いします』
俺は耳を澄ましながら走り続ける。突然――
『岡本様、大変お待たせしました』
大崎さんに声をかけられた。
俺は走りながら、ほとんど叫ぶように返した。
「大崎さん!!」
息を切らしながら後ろを振り返る。
「待ってました! めちゃくちゃ待ってました! なんか追ってきてるんですけど!!」
『えっ。何がでしょうか?』
「分かりません!!」
俺は走りながら後ろを確認する。
「鳴き声がして、土煙が上がって、それがずっとこっちに来てるんです!」
息を大きく吸う。
「地図! 赤い点、確認したほうがいいですか!?」
『こちらからリモートを開始します。システムを操作しないでくださいね』
「リモート!?」
俺は走りながら、システム画面から慌てて手を離す。
「分かりました! 触りません!」
息を切らしながら、
「……ていうか大崎さん、リモートできるんですか!?」
『はい。ただし、緊急時しかリモートしません。岡本様、一つお聞きしたいのですがよろしいですか?』
「はい! いいですけど!」
俺は息を切らしながら走り続ける。
「できれば走りながら答えられる質問でお願いします!」
『保留中に、あのモンスターに何かされましたか?』
「何もしてませんよ!」
俺は走りながら、必死に答える。
「大崎さんに近づくなって言われたから、ずっと避けてました! というか俺、丸腰ですよ!? こっちから何かするわけないでしょう!」
『所持品に、モンスターの卵が入っております』
俺は走りながら固まりかけた。
「…………は?」
後ろの土煙を見る。
「た、卵!? いや待ってください! 俺、卵なんて拾った覚え……」
そこで言葉が止まる。
「…………大崎さん」
嫌な予感がした。
「『拾えるものは全部拾って大丈夫』って言いましたよね!?」
『はい。……間違えなくお伝えしました。卵を拾うとは思っていませんでしたので……』
「そこは対象外だったんですか!?」
俺は息を切らしながら後ろを振り返る。
「じゃあこれ、あいつの卵ってことですよね!?」
少し間を置く。
「大崎さん! 卵どうすればいいんですか!? 返す!? 捨てる!? 俺まだ走る!?」
『捨てたら割れてしまいます。えっと…この卵はお売りになれば20ギルになります。持ち主に返却しても襲われるのは変わらないと思われます。岡本様、どうなさいますか?』
俺は走りながら絶句した。
「…………売れるんですか、これ!?」
後ろの土煙をちらりと見る。
「返しても襲われる、捨てたら割れる、持ってたら追われる……」
息を切らしながら叫ぶ。
「選択肢、全部ひどくないですか!?」
少し考える。
「……持っていきます! 20ギルで!!」
『頑張って逃げ切ってください。遠くから応援しています』
「サポート終了した!?」
俺は思わず叫んだ。
「大崎さん! リモートは!? さっき緊急時だからリモート開始したんですよね!?」
後ろを振り返る。
「今まさに緊急時ですよね!?」
『現状を確認するために、接続いたしました。原因が、卵。これ以上は介入できません。ふぁ…ファイトです!』
「ファイトです、じゃないんですよ!!」
俺は全力で走り続ける。
「原因が分かった瞬間、ものすごい勢いで見放したじゃないですか!」
息を切らしながら後ろを振り返る。
「……20ギル!! 絶対20ギルで売ってやる!!」
『進行方向に冒険者がおられます。お声を、叫んでください』
「冒険者!?」
俺は前方に目を凝らす。
「分かりました!」
大きく息を吸い込む。
「すみませぇぇぇん!! 助けてくださぁぁぁい!!」
冒険者の列が肩を跳ねらせ、俺へ振り向いた。次々に武器を構え、俺めがけて走ってくる。
『あっ…』
「えっ」
俺は走りながら目を見開く。
「……大崎さん?」
こっちへ向かってくる冒険者たちを見る。
「今、『あっ』って言いました? その『あっ』、なんですか!?」
『いま、手が離せないので保留にさせていただきますね』
そう言い、無音に切り替わる。
「ちょっ、大崎さん!?」
無音。
「また保留!?」
迫ってくる冒険者たちを見る。
「このタイミングで!?」
俺は走る速度を落とせないまま叫ぶ。
「せめて『あっ』の意味だけ教えてから保留にしてくださぁぁぁい!!」
冒険者たちは、俺に剣を振りかぶる。
「えっ、俺!?」
振りかぶられた剣を見て、反射的に身をかがめる。
「助けてって言ったの俺なんですけど!? なんで俺が斬られる側なんですかぁぁぁ!!」
――ザンッ
冒険者たちは、俺の背に張り付いていた幽霊モンスターを薙ぎ払った。
声を掛ける隙もなく、俺の後ろから迫ってくる大型モンスターに立ち向かう。
「…………え?」
俺は数歩よろけながら振り返る。
「今……俺の後ろに、何かいた?」
冒険者たちの向こうにいる大型モンスターを見る。
「…………大崎さん」
無音の通話に呼びかける。
「さっきの『あっ』、絶対これですよね……?」
冒険者たちは大型モンスターと激戦。そこへ――保留から戻ってきた大崎さん。
『岡本様』
「大崎さん!!」
俺は即座に反応する。
「今度は何ですか!? 俺の背中に幽霊いたんですけど!?」
『え?幽霊ですって!?』
大崎さんは大声で驚いた。
次の瞬間、小声で呟きだす。
『…あっ違う違う。要件言わないと…』
咳払い。
『いま、このままだと全滅します』
何やら、向こう側でキーボードを操作する音が聞こえる。
『…モンスターのレベルを一時的に冒険者レベルに下げました』
「全滅!?」
俺は冒険者たちへ視線を戻す。
「……って、レベル下げられるんですか!?」
キーボードの音に耳を疑う。
「大崎さん、それもうサポートじゃなくて運営側の操作じゃないですか!?」
『え…そう言われましても…。全滅よろしいのですか?』
「よろしくないです!!」
即答する。
「下げてください! そのまま下げといてください!」
冒険者たちを見る。
「……でも後でちゃんと説明してくださいね!? この世界、レベルを電話一本で変更していいものなんですか!?」
『………死をまた経験したいのですか?』
「…………」
俺は黙った。
「……その言い方、ずるくないですか」
冒険者たちへ視線を戻す。
「分かりました。今は何も聞きません」
少し間を置く。
「……下げたままでお願いします」
『言い過ぎました。申し訳ございません。……岡本様のせっかくの命1時間も立たずにお亡くなりになるのは…私の心が痛い…ので……すみません』
「……大崎さん」
俺は少しだけ声を落とす。
「謝らなくていいですよ」
戦っている冒険者たちを見る。
「俺も、まだ一時間で死ぬつもりないですし」
少し間を置く。
「……だから、その…ちゃんと最後までサポートしてくださいね」
『はい。岡本様、こんな私ですが、これからよろしくお願い致します』
「……はい」
俺は少し笑った。
「こちらこそ、よろしくお願いします。大崎さん」
それから戦っている冒険者たちへ目を向ける。
「……とりあえず最初の仕事として、俺を無事に村まで届けてください」
『はい!是非、安全にご案内致します!』
「お願いします!」
俺は少しだけ息を吐く。
「……今度こそ信じますからね?」
戦っている冒険者たちを見ながら、ふと付け加える。
「あと大崎さん。 村に着くまで、できれば保留なしでお願いします」
『保留なし…ですか? こちらの業務が筒抜けで構わないのでしたら構いませんが』
「…………」
少し考える。
「じゃあ保留してください」
即答した。
「なんか聞いちゃいけないものまで聞こえてきそうなんで…。 ただし!保留にする前に、俺の周りに変なものがいないか確認してください!」
冒険者たちは肩で息をしながら剣を収めた。俺へ振り向く。
「坊主、大丈夫か?」
中年くらいだろうか、ガタイのいい男性が口角を上げながら俺の顔を覗き込んできた。
「ヘロヘロに取り憑かれてたけれど…悪戯でもされたのかな?」
魔道士だろうか杖を背に収めながら細身の女性が、俺に優しく話しかけてくれた。
「だ、大丈夫です。ありがとうございます!」
俺は息を整えながら頭を下げる。
「……ヘロヘロ?」
さっき斬られた背後を恐る恐る振り返る。
「それって、さっき俺の背中にいた幽霊みたいなやつですか?」
少し間を置く。
「……悪戯って、何されてたんですか。俺」
「所持品を盗んだり、忍び込ませたりするんだよ。そうだ、これあげる」
魔道士の女性は装備品から宝石を取り出す。俺の前に差し出した。
「え、俺に?」
差し出された宝石と女性の顔を交互に見る。
「……ありがとうございます」
少し戸惑いながら受け取る。
「これ、何に使うものなんですか?」
「ヘロヘロ除けだよ。大事にしてね! 意外と高いんだからあ」
「売るなよ坊主。 この女に呪われるぞ〜」
「売りませんよ!」
俺は慌てて宝石を握る。
「命助けてもらった上に、こんなものまで貰って売ったら最低でしょう!」
一瞬、手の中の宝石を見る。
「……高いって聞いて、ちょっと緊張しましたけど」
男性の言葉を思い出して女性を見る。
「……呪いませんよね?」
「売らなければ、ね?」
魔道士の女性は意地悪そうに笑む。
「……絶対売りません」
俺は宝石をそっと所持品へしまう。
「今日だけで、モンスターに追われて、幽霊に取り憑かれて……」
女性の笑顔を見て、少し引きつった。
「これ以上、呪いまで追加されたくないです」
「ふふっ。いい子だ!」
魔道士の女性は円満の笑みで、俺の髪をくしゃくしゃっと撫でた。
「坊主!どこへ向かおうとしていたのかい?」
そう言いながら、剣士の男性は俺を見定める。
「もし、ガレート村へ行こうとしてるなら…付いて来な」
「ガレート村!」
俺は思わず声を上げる。
「たぶん、そこです! 地図に出てた村に向かってて……」
二人を見る。
「いいんですか? 一緒に行っても」
少しだけ安堵して息を吐く。
「……正直、ものすごく助かります」
「地図に出てた?」
魔道士の女性が首を傾げる。
「日が暮れちまう。お前ら行くぞ!」
剣士の男性が他の者へ声掛け、来た道を歩きだした。
「あっ、はい!」
俺は慌てて後を追う。
「……地図のこと、知らないのか?」
小さく呟いてから、通話相手へ声を落とす。
「大崎さん。聞こえてます?」
『はい。どうなさいました?』
「さっき “地図に出てた村” って言ったら、不思議そうな顔されたんです」
俺は冒険者たちの後を歩きながら声を落とす。
「……この地図って、みんなが使えるものじゃないんですか?」
『異世界転生の方のみの限定サービスでございます』
「限定サービス……」
俺は思わず額に手を当てる。
「そこだけ妙に会員特典っぽいんですよね……」
前を歩く冒険者たちを見ながら、さらに声を潜める。
「じゃあ、あんまり人前で地図の話しないほうがよさそうですね」
「ねぇ…誰と話してるの?」
冒険者たちの中に、中学生くらいの少女が首を傾げながら俺の顔を覗き込んでいた。
「えっ」
俺は思わず口を閉じる。
「……いや、その」
少し迷ってから答える。
「サポートセンターの人と話してる」
言ってから、自分でも首を傾げた。
「……って言っても、分からないよな」
「サポト?セン何それ?」
少女は難しい顔しながら俺を凝視する。
『岡本様、べらべら喋らないでいただけませんか?』
「……すみません」
俺は小声で即座に謝る。
少女へ向き直る。
「えっと……俺を案内してくれてる人と話してるんだ」
少し考えてから付け足す。
「姿は見えないけど」
「何それっ…怖!変なやつ」
少女は俺から距離を取りながら遠ざかって行った。
「…………」
遠ざかる少女の背中を見送る。
「……大崎さん」
声を潜める。
「俺、村に着く前から変人扱いされました」
通話の向こう側から大崎さんの笑いを堪える声が聞こえてきた。
最後まで、読んで頂き、ありがとうございます。




