第4話・家族の裏切り
帰れと言ったのに、帰る素振りはない。
うーん、どうしよう。
いつもの手が通じないのは、面倒なことこの上ないわぁ……。
仕方ない、少し攻めの角度を変えよう。
私は俯き、深く息を吐きながら、間を溜める。
顔を上げてレオンをじっと見つめる。
そして意を決したかのように切り出す。
「もう……分かるでしょう? 私達は子供じゃないの」
「ああ、そうだな。子供の頃の俺なら、騙されてただろうな」
「どういうこと?」
「そんな演技くさい顔して、それっぽいこと言っても無駄だぞ」
手強いわね。
表情は変えずに少し瞳を潤ませて、もういっちょ。
「どういうこと?」
「しつこいな。昼寝したいって顔に書いてあんだよ」
ちっ。
昔を知ってる奴だと、見抜かれてしまうわ。
「三食昼寝付き。今なら叶えてやれる」
「……なるほど」
「だから嫁に来い」
「……なるほど」
「聞いてないだろ?」
「……なるほど」
今日のおやつは何かしら。
甘いココアとクッキーが食べたいわ。
「……夕飯何かなーって考えてるだろ」
「え? おやつのことだけど。駄目ねぇ、レオちゃんは」
「ちっ、大差ないだろ……」
苦虫を噛み潰したような顔で吐き捨てる。
そんな顔したらイケメンなのに、台無しよ?
うーん、本当に面倒になってきた。
というか、お父様もセバスチャンもずっと黙ってる。
私にだけ戦わせるなんて酷いわ?
そう思って二人を見ると、揃ってそっぽを向いている。
……味方がいないっ!?
待ってよ、今までならお父様は加勢してくれてたじゃない!
「嫁にやるのはまだ早いから」って!
セバスチャンは──相手に加勢することも多いから、まぁいいや。
「この婚約……慎んでお受け致します」
「……お父様っ!?」
「三食昼寝付きの結婚だ。……幸せになりなさい」
「ちょっと待ってっ!」
「もう待たん! 何かと言うと難癖付けて断り続けおって……彼はお前の本性を知ってなお、迎えてくれると言うのだぞ!」
「本性なんてそんな……酷いわお父様……えーん!」
「ぐっ」
「旦那様、これは嘘泣きです」
「セバスチャンのばかっ!」
私達のやり取りを眺めていた彼が、ぽつりと呟く。
「いい加減、諦めろよ」
「お父様に何を言ったのよっ!」
「三食昼寝付きでお前を引き取る。受けない場合は……」
「場合は?」
「教えるか、ばーか」
「な──っ!」
人のことをバカバカ連呼して……!
ムカつくのよ、ばか!
それにお父様を懐柔するなんて……。
いくらちょろいお父様だからといって、して良いことと悪いことがあるでしょ!?
こうなったら後でお兄様を味方に引き込んで、お父様の目を覚ましてやる!
「お嬢様。ランスロット様でしたら、しばらく出張されるご予定ですよ」
私の考えを読んだかのように、セバスチャンが言う。
このタイミングで出張なんて、図ったわね……!?
お兄様もお兄様よ!
可愛い妹がピンチなのに、のほほんと出張なんて!
「な? 諦めろ」
ドヤ顔でレオンが言う。
く、く、悔しい……!
外堀埋めるなんて卑怯よ!
今までの人達には泣き落としが通用してたのに……。
やだやだ! 婚約すらやーだー!
「お父様……私はもう一日二食、昼寝もしなくても構いませんから……」
「リズリットお嬢様、朝食を抜いて昼まで寝るおつもりでしょう」
「せ、セバスチャンは黙っててっ!」
「お前ってやつは……」
「どんだけ寝たいんだ、馬鹿女」
あああもう! この部屋には敵しかいないの!?
屁理屈も泣き落としも通用しないのなら……。
もう……覚悟を決めるしかないのね。
「……本当に三食昼寝付きでしょうね」
「ああ、おやつも付けてやるぞ?」
「……とりあえず、婚約を結ぶだけなら……」
「ああ、それでいい」
こうなったらもう仕方ない。
婚約中に飽きてもらえるよう振る舞うしかない。
残念な令嬢として。
不名誉だけど。
婚約破棄をされてしまえば、もう二度と縁談も来なくなるはず。
……うん、そう考えたら悪くないのかも?
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