第5話・さよなら、平穏な日々
不本意ながらも婚約を結んだ。
ほんっとうに不本意だけど。
でも婚約をしたからといって、今すぐ何か変わるわけではない。
王子様に嫁ぐ訳でもないから、花嫁修業もしなくていいはず。
「レオン……ナルド様、よろしくお願いしますぅー」
「混ぜるな。あと口をとんがらせるな」
何なの、小姑?
ちょっと間違えただけじゃない。
あーあ、ついに婚約しちゃった。
めんどくさいめんどくさい。
「では私共は書類を作成して参ります。リズリット、レオナルド様に失礼のないようにな」
「はーい……」
ってちょっと!
お父様ってば、二人きりにする気!?
話すことなんかないんだけど。
「……」
「……」
ほらね。
話すことなんかない。
けど、一つだけ気になっていたことがある。
「……ねぇ」
「なんだよ」
「なんで私なのよ。公爵家ならある程度、相手も思い通りになるでしょ?」
「まぁな」
「私みたいに思い通りにならない令嬢に、なんでわざわざ……」
「……」
あーあ、また黙った。
「忘れてんなよ……」
「え? なに?」
「何でもねーよ、馬鹿女」
む、むかつく……!
一応こいつはうちの家よりも格上で、でも幼馴染みの年下で……。
うーん、でもやっぱり気を使った方がいいのかしら。
「レオナルド様。婚約はしましたけど、何も変わらないですよね?」
「……変わるだろ」
「まぁ、そうなんですの? 私、その手のことには疎くて……」
外面モード全開。
せめて敬語で心の距離だけは取らなくちゃ。
「あのなぁ……」
「どうされました? レオナルド様」
「……二人きりの時は普段通りでいい」
「えぇー……。ですが失礼にあたりますし……」
「や・め・ろ。呼び方も昔のままでいい」
うーん、止めろって言われるとは思ってなかったわ。
まぁ確かにずっとこのままいくのも面倒ではあるのよね……。
「じゃあレオ、とりあえずよろしくね」
「……レオンでいいよ」
「そう? でも人前でうっかりレオンって呼ぶわけにもいかないでしょ?」
「一応考えてるんだな」
「レオナルドだと長いし」
「ああ、そうかよ……」
そんな呼び名くらいで脱力しなくても。
「私のことは『お姉ちゃん』って呼んでもいいのよ?」
「呼ぶわけないだろ……」
レオは額に手を当て、深々と項垂れている。
そんなに変なこと言ってないのに……。
そうこうしてるうちに、お父様達が戻ってきた。
滞りなく終わったのか、満面の笑みを浮かべているお父様。
人の気も知らないで……。
レオの側近らしき男性が近付き、何かを耳打ちしている。
レオはそれに頷くと、静かに立ち上がった。
「本日はありがとうございました。今後ともよろしくお願いします」
「こちらこそありがとうございました! 不束な娘ですが、どうぞよろしくお願い致します!」
父がお辞儀をすると、セバスチャンもそれに倣う。
不束で悪かったわねっ。
面白くないけど、私もそれに倣ってお辞儀をした。
「じゃあまた明日な」
「明日?」
「夜会で婚約発表する」
「え、嫌です」
「……大々的なお披露目パーティーの方がいいか?」
「夜会楽しみですわ♡」
大規模になると下手すれば陛下がいたりとか、何かのお言葉を賜ったり、挨拶したりと数時間掛かってしまう。
夜会ならほんの一時間程度、ダンスと会釈で乗り切れる。
まさかこんなに早く公表するとは思ってなかったけど、考えたらありなのかもしれない。
婚約したことによって今後一切、殿方からのお誘い関連がなくなる。
どうせ元々、令嬢からの茶会の誘いはないし。
利用出来るものは利用しちゃいましょう!
レオ達を見送り終わると、開放感が溢れ出る。
というより、色々ありすぎて疲れたわ……。
あーあ、お昼寝でもしよっと。
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