第3話・泣き虫レオン
「お待たせして申し訳ございません。リズリットお嬢様をお連れしました」
セバスチャンに促され、私は挨拶をする。
「お初にお目にかかります。リズリット・ウェルナーと申します。この度はご足労頂きありがとうございます」
ふふん。どーよ、この見事なご挨拶。
逃げ回ってはいるけど、最低限の事は出来るんだから。
誰だか知んないけど、今回もだまくらかして追い返してやる。
見てなさいよ。
「リズリットお嬢様、こちらヴァレンタイン公爵家のレオナルド様です」
「まぁ……そんな公爵家の方とのお見合いなんて、私には分不相応ですわ」
初めて聞く公爵家だわ。
それにしても……。
公爵家からの縁談は粗方潰したと思ったのに……ちぃ!
てゆーか、貴方から婚約の申し入れよ?
どんだけ偉いのか知らないけど、微動だにせずだんまりってどうなのよ。
挨拶くらいしなさいよね、人として。
……ということはおくびにも出さずに、ニコニコと笑顔を向ける。
一応、あちらの方が格上だしね。
いつまで黙っているのか知らないけど、どうせ開口一番「美しい」とか「可憐」なんでしょ。
そういうのはいいから、とっとと進めて欲しいわ。
そして彼は口を開く。
「おい、そこの馬鹿女」
「……はい?」
ば、ばかおんな?
ってどういう意味……はあぁ!?
「ええと、どこかでお会いしたことありましたっけ……?」
こんなことで崩れるほど、私の鉄壁のマスクはヤワじゃなくてよ?
……が、内心は怒り心頭の私。
初対面の私に対して、馬鹿呼ばわり?
馬鹿って言うほうが馬鹿なのよ、ばーかばーか!
「俺の顔を忘れたのか?」
「レオナルド様の顔……?」
興味なさすぎて見てなかった。
ふむ、割と整ったお顔かしら。
今まで申し込んできた貴族の殿方達はこう言ってはなんだけど……イケメンなんて数える程度。
まぁ人間、顔じゃないわよね?
私が言うのもなんだけど。
うーん、見たことあるような気もするけど……。
整った顔って覚えられないのよね。
「申し訳ありませんが記憶になくて……」
本当にない。
大体ね。
人を馬鹿呼ばわりする知り合いなんていないし、いたら縁を切ってるわよ。
あちらは腕を組み足を組み、指先はトントンと、イライラし始めている。
人を馬鹿呼ばわりしておいて、こんなことで怒るなんて器がちっさいわね。
「レオンと言っても?」
「レオン……? レオン……レオ……あっ!」
「思い出したか」
「馬鹿でアホで泣き虫だったレオ!?」
「……違うけど、そうだ」
思い出した。
小さい頃に遊んだことがあるレオン。
お姉ちゃんお姉ちゃんって後ろをくっついて来て鬱陶しい近所の子供。
転べば泣く。
おやつの取り合いで泣く。
ゲームに負ければ泣く。
とにかく泣く。
そっかー、あの時のね。
生意気なクソガキだと思ってたけど……。
なるほど、公爵家の息子だったのねー。
……あれ?
「……名前が違うわ?」
「養子として引き取られたんだ」
「なるほどねー。それでなんで私に?」
そう、本題はそこじゃない。
なんでわざわざ私に婚約の申し入れをしてきたのか、よ。
「お前、見合いをことごとく断ってるんだってな」
「まぁ……そんなことありませんわ」
「外面止めろ」
うるさいわね、なんなのこいつ。
急に来たと思ったらお前だの、馬鹿女だの。
ホントに何しに来たのよ。
「どうせ昼寝出来ないとか、そんなくだらない理由だろう」
「……くだらなくなんてないですわよ?」
「三食昼寝付きで過ごすのが夢だって言ってただろ」
「……そんなこと言ったかしら?」
「違うとでも言うのか?」
ぐ……っ、しつこい!
確かに言ったわよ。
私の夢は小さい頃から変わってない。
結婚する気なんて毛頭なかったもの。
レオンに関しては「お姉ちゃんと結婚する!」
ってあまりにもしつこく言うから、私の夢を教えてあげて「一昨日来やがれ」って断ったでしょ?
「小さい頃はあんなに可愛かったのに……」
「俺はもうあの頃とは違うんだ」
「もう泣かないの?」
「泣くわけないだろう」
「そうなのね、お姉ちゃんとして安心したわ。ではお帰りはあちらです」
「待て待て。何でそうせっかちなんだ?」
「えぇー……」
めんどくさいわね、こいつ。
私は早く昼寝したいのに。
早く帰ってくれないかなぁ……。




