第2話・ お嬢様vs執事
暖炉で燃え尽きそうな釣書をセバスチャンが見守っている。
慌てる様子もなく、火を消そうともしない。
どうやら今回も大した相手ではなかったらしいわね。
あ、燃え尽きた。
「あーあ、燃えちゃったわ……」
「もう少し済まなそうにして下さい。何回目ですか?」
釣書燃やしたくらいで、お説教なんて聞きたくないのよ。
仕方ない。
セバスチャンには効果は薄いけど、目に涙を浮かべて口元に両手。
必殺ぶりっ子ポーズを喰らいなさいっ。
「ごめんなさい、わざとじゃないの……」
「なんで私にそのキャラが通じると思ってるんですか?」
ちっ、さすがはセバスチャン。
目を潤ませ誤魔化し続けて十数年。
お父様とお兄様以外の家の者には、通じなくなってしまったわ。
「でも心ときめく殿方を待ち続けているだけなの……」
「お嬢様がときめくのは二度寝くらいのものでしょうが」
「え? ご飯も昼寝もときめくわよ?」
「誤魔化そうとするなら最後まで貫いてくれませんか?」
子爵家の娘に生まれたからには、政治的な結婚も必要なのかもしれない。
……でも別に没落するのもありでは?
うちが無くなったとて、困る人々なんてそういないはず。
たぶん。
お父様がちょっぴり泣いちゃうくらい?
それならお父様には、私のために我慢してもらうしかない。
だから釣書を燃やすのは合法なのよ!!
大体ね。
顔だけで妻にしたいとか、馬鹿の筆頭じゃない?
そんな馬鹿に嫁ぐなんて、幸せな未来なんか見えないのよ?
三食昼寝付きで、社交は一切しなくていいなら考えなくもないけど。
セバスチャンは暖炉を凝視して深いため息をつく。
じっと見たところで釣書は帰ってこないのに。
「こんなことして……また旦那様に叱られますよ」
「私の手が滑ったって言っていいわよ?」
「そんなの当たり前です」
「ひどい……」
「旦那様と違って私は騙されません。目なんか潤ませないで下さい」
「ちっ」
「はぁ……黙ってればお可愛らしいのに……」
「ありがと♡」
「褒めてませんからね」
そう言いながらもセバスチャンはお茶の準備を始める。
何だかんだ、セバスチャンも私には甘いのよね。
お茶を飲んでほっと一息ついていると、セバスチャンが口を開いた。
「ところで今日このあと、お見合いですからね」
「え? 嫌だけど」
「あと三十分程で参られるかと」
「え? 何も聞いてないけど」
「事前に言うとお逃げになるのでね」
お見合いを当日に報告するってどうなのかしら。
セバスチャンたら、職務怠慢じゃなくて?
どうにか断りたいわ……うーん。
「……う、ちょっと持病の癪が」
「風邪すら滅多に引かないお嬢様が?」
「……お腹の調子が悪いかも」
「昼食のステーキおかわりしてましたよね?」
「……お化粧してないのに」
「お嬢様のお化粧は面倒がって、いつも紅引くだけじゃないですか」
やっぱりセバスチャンには嘘もぶりっ子も通用しない。
お父様はこれで何とかなるのに。
仕方ないわね。
こうなったら、セバスチャンを説得するのは諦めよう。
見合いの途中で具合悪くなる病弱設定でいくか、相手を持ち上げて煙に巻くか。
見合い相手に効きそうな方を選んで……。
一人作戦会議をしていると、ざわざわと外が騒がしくなる。
セバスチャンは窓の外を見て相手を確認すると、私の方へ向き直した。
「おや、到着されたようですね。私はお迎えに行ってまいりますので、お嬢様は紅でも引いてて下さい」
……セバスチャンも主人の娘に対して雑よね。
てゆーか。
お見合い自体断り続けてきたっていうのに、今度の相手は誰なのよ。
釣書だって全部燃やしたり何だりと、最近のはちゃんと処理してきたのに
あーもーやだやだ。めんどくさい。
この後はお昼寝したかったのに!
窓の外を伺うと、見事な馬車が並んでいる。
うわ、高そう。
高そうっていうか、立派過ぎる……?
窓の外に釘付けになっていると、セバスチャンが戻ってきた。
「お嬢様、お相手を応接室にお通ししましたので行きましょう」
「ね、ねぇ、いつもの相手とはちょっと違くない?」
「旦那様も既にお待ちですから」
「無視するんじゃないわよ」
まぁいいや。
相手が誰であれ、私のやることは変わらない。
さっさと終わらせて昼寝でもしよっと。
軽く紅を引いて、身支度を整えて応接室へと向かう。
……この家に人が来るなんていつぶりかしら。
うーん、ちょっと緊張してきたかも。
「お嬢様、今日は失礼のないように」
「その発言が失礼じゃない?」
いざ。
ノックをして応接室へ入るとソファに座った男性。
その後ろには、護衛らしき男性が二人立っている。
なかなかないわよね、こんなピリピリとしたシチュエーション。
まぁでも。
プライドある人間の方が制しやすいからいいけど。
あぁ、早くお昼したいなぁ……。
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