レオン・グレイスという人生
目を覚ました朝のことを、レオンは今でも鮮明に覚えている。
石造りの天井。
薄いカーテン越しの朝日。
そして、鏡に映った――銀髪の少年。
「……誰だ、これ」
頬に触れた指は細く、肌は白く、声は高い。
だが、脳裏に流れ込む記憶は確かだった。
没落貴族グレイス家三男。
父は病弱。母は社交界から遠ざかり。兄は王都騎士団に入るも出世は望めない。
借金、借用書、担保、利息。
妙に生々しい単語ばかりが並ぶ。
レオンは、ゆっくり息を吐いた。「……また借金か」
前世でも聞き慣れた響きだった。
グレイス家の朝食は静かだ。長いテーブルに料理は質素。向かいに座るのは父――グレゴール・グレイス。
痩せた頬、しかし姿勢だけは貴族のそれ。
「レオン」
低い声。
「来月の利払いだが……王都の商会に頭を下げるつもりだ」
母――エレナ・グレイスが伏し目がちに言う。
「もう十分ですわ、あなた……」
長男――アルヴィンは拳を握る。
「俺が騎士団で成果を出せば……!」
その姿を見ながら、レオンはスープを飲んだ。
温い。…そして少ない。
(なるほど)
貴族の体裁だけが残り、実体はほぼ平民。
この王国――アルセリア王国は今、衰退の坂を転がっているらしい。
金が足りない。信用も足りない。
前世と同じだ、とレオンは思った。
「父上」
家族が顔を上げる。
「借金は、交渉しないでください」
「……何?」
「頭を下げれば、足元を見られます」
「お前に何が分かる」
アルヴィンが睨む。
「分かりますよ」
レオンは、柔らかく微笑んだ。
「僕は、人がどうやって搾取されるかを知っている」
空気が、少しだけ変わった。




