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人は、信じたいものを信じる。

 それが嘘でも。

 それが罠でも。

 そして――それが破滅でも。

 

 少年は、母の震える背中を覚えている。

「もうすぐ戻るって……先生は言ってたのよ」

 “先生”。

 投資の専門家。優しい笑顔。完璧なスーツ。丁寧な言葉。

 未来を保証する、と言った男。

 

 銀行口座は空だった。

 借金だけが残った。

 父は心労で倒れ、母は夜まで働いた。

 少年は悟った。

 

 ――嘘が悪いんじゃない。

 ――嘘を見抜けない側が、搾取される。

 

 やがて少年は調べた。

 詐欺の構造。心理の穴。群衆の盲点。

 そして気付く。

 

 人は「金」ではなく「物語」に投資している。

 

 復讐はしなかった。

 だが、決めた。

 

 ――ならば俺が、物語を作る側になる。

 

 数年後。

 少年は裏社会で“天才”と呼ばれた。

 だが最後は――

 仲間の裏切り。

 ビルの屋上。

 冷たい夜風。

 

「信用ってのはな……通貨だ」

 足を踏み外した瞬間。

 世界が白く弾けた。

 

 

 目を覚ます。

 

 天井は石造り。

 窓の外は見知らぬ城下町。

 鏡に映るのは――銀髪の美少年。

 

「……は?」

 

 頭の中に流れ込む記憶。

 没落貴族三男。

 借金。

 家は破産寸前。

 

「またかよ」

 

 だが、今度は違う。

 

 泣いている母もいない。

 奪われた家族もいない。

 

 あるのは――

 腐敗した王国。

 迫る魔王軍。

 貴族の裏取引。

 信仰ビジネス。

 

 そして。

 誰もが誰かを騙している世界。

 

 少年――

 いや。

 

 レオン・グレイスは、ゆっくりと笑った。

 

「なるほど」

 

 ここも同じか。

 

「なら――」

 

 窓を開ける。

 王都の喧騒を見下ろす。

 

「今度は、俺が騙す側だ」

 

 ただし。

 

 奪うためではない。

 

「世界を救うために」

 

 美少年は、爽やかに言い切った。

 

 そして小声で付け足す。

 

「……ついでにちょっと儲ける」

 

 こうして。

 

 詐欺被害者だった少年は。

 詐欺師として異世界を救うことを選んだ。

 

 ――これは、信用を操る英雄譚。

 

 あるいは。

 

 世界最大の大嘘の物語。

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