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不遇幼女に転生した私、悪役令嬢に拾われて何故か溺愛されてます 〜貴族生活楽しい!〜【1万PV感謝!】  作者: ペンギンの搾り汁
第三章 《ふしだらなバカンス編》

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第四十話



 太陽が水平線に沈み、空が深い群青色に染まる頃。

 私たちの「最後の夜」を飾るアイテムが、ついに届いた。


「お待たせ。

 特級の『迎え酒』よ」


 セシリア様がワゴンで運んできたのは、氷の入った銀のバケツ。

 その中には、黄金のラベルが貼られた最高級のシャンパンが鎮座していた。


 ポンッ!


 軽快な音が響き、白い煙が漂う。


「……毒、ふたたび」


 アイリスが、グラスに注がれる黄金の液体を凝視して呟いた。

 その顔には、昨日の「頭痛」の記憶が蘇っているのか、僅かな怯えが見える。


「どうする? アイリス。

 ジュースにしておく?」


 私が尋ねると、彼女は首を横に振った。


「いいえ。

 学習しました。アルコールは、明日への前借りです。

 未来の自分が苦しむ代わりに、今この瞬間を最高のものにする……そういう取引トレードですよね?」


「ふふ、その通りよ」


 セシリア様は満足そうに頷き、三つのグラスを掲げた。


「では、乾杯しましょう。

 死ぬほど退屈な『完璧』にさようなら。

 そして、傷だらけで愛おしい『私たち』に」


 チン。

 澄んだ音が夜空に響いた。


 アイリスは躊躇なくグラスを煽った。

 炭酸が喉を弾ける。

 彼女は眉を顰め、それから……ふわりと、花が咲くように笑った。


「……美味しい、です」


 それは味の感想ではなく、この空間そのものへの肯定だった。


 ◇


 その夜は、狂乱と呼ぶには静かで、晩餐と呼ぶには乱れていた。


 私たちは飲み、食べ、そして語り明かした。

 中身のない話だ。

 セシリア様の過去の悪戯の話。

 私が前世(と言っても「遠い国の話」として誤魔化したが)で体験した理不尽な上司の話。

 そして、アイリスが今まで見てきた、フレデリック殿下の恥ずかしい完璧主義のエピソード。


「でんかは……靴下の左右を間違えただけで、一日中不機嫌になるんですぅ」


 ボトルが三本空いた頃、アイリスは完全に出来上がっていた。

 私の膝を枕にして、顔を赤くして笑っている。


「そんなの……誰も見てないのに。

 バカみたいです。

 ここなら、裸足でも怒られないのに……」


「そうね。

 あの男は、自分で自分を縛っているだけよ」


 セシリア様は、アイリスの前髪を指で梳いた。


「帰りたくない?」


「……帰りたく、ないです」


 アイリスは目を閉じた。


「ずっと、ここで……先輩と、セシリア様と……だらだらしていたいです。

 王都なんて……沈んでしまえばいいのに」


 物騒なことをサラリと言う。

 それこそが、彼女が人間になった証拠だ。


「でも、行かなきゃね」


 私は、彼女の熱い頬を撫でた。


「証明しなきゃいけないから。

 貴女はもう『道具』じゃないって」


「……はい」


 アイリスは私の手を握り返した。

 その力は、酔っているとは思えないほど強かった。


「勝ちましょう。

 私たちが……一番、幸せだって。

 あのしかめっ面の王子様に、見せつけてやるんです」


 いつの間にか、彼女は眠っていた。

 安らかな寝息。

 私たちは夜明けまで、その寝顔を肴に、静かにグラスを傾け続けた。


 ◇


 翌朝。

 朝日が容赦なく降り注ぐ桟橋に、私たちは立っていた。


「……頭が、割れそうです」


 アイリスがサングラスをかけ、ヨロヨロとタラップを登る。

 二度目の二日酔いだ。

 だが、その背中に悲壮感はない。

 「またやってしまった」という、人間臭い後悔があるだけだ。


「自業自得よ」


 私もこめかみを押さえながら、荷物を持った。

 セシリア様だけが、涼しい顔で先頭を歩いている。あの人、肝臓どうなってるんだろう。


 船の汽笛が鳴る。

 白いヴィラが、遠ざかっていく。

 私たちが堕落し、笑い合い、そしてアイリスが生まれ変わった場所。


 甲板で、アイリスはずっと島を見つめていた。

 その身を包むのは、いつものメイド服ではない。

 セシリア様があつらえた、純白のワンピースと麦わら帽子だ。


「さようなら」


 彼女は小さく手を振った。


 そして、くるりと振り返った。

 その顔に、もう迷いはなかった。


「行きましょう、マスター。先輩。

 敵地(王都)へ」


 風が彼女のスカートを翻す。

 その姿は、どんな軍旗よりも勇ましく、美しかった。


 バカンスは終わった。

 ここからは、現実との戦争だ。


 私たちは、甘い夢の香りを残したまま、決戦の地へと舵を切った。

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