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不遇幼女に転生した私、悪役令嬢に拾われて何故か溺愛されてます 〜貴族生活楽しい!〜【1万PV感謝!】  作者: ペンギンの搾り汁
第三章 《ふしだらなバカンス編》

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第三十五話



 夜風が、昼間の熱気を優しく冷ましていく。


 テラスのテーブルには、宝石のように輝く三つのグラスが並んでいた。

 氷がカラン、と音を立てる。


「……毒、ではないのですか?」


 アイリスは、目の前のグラスを警戒するように凝視していた。

 中身は、ブルーキュラソーとパイナップルジュースをベースにした、南国特有の強いカクテルだ。

 グラスの縁には、砂糖スノースタイルがまぶされている。


「アルコールは、脳の機能を低下させます。

 判断力の欠如、運動機能の麻痺、脱水症状のリスク……。

 摂取するメリットが、計算できません」


 彼女は真面目な顔で、ドレスの裾を握りしめている。

 その肩は、日焼けのせいでほんのりと赤く、露わになった背中は月明かりの下で艶めかしく光っていた。


「メリットならあるわよ」


 セシリア様は、自分のグラス(真紅のワインだ)を揺らしながら、妖艶に笑った。


「脳の機能を低下させること。

 それが最大のメリットよ」


「……はい?」


「貴女の頭の中にある、うるさい『計算機』を黙らせるの。

 そうすれば、波の音も、風の匂いも、もっとダイレクトに感じられるわ」


 セシリア様は、アイリスのグラスを指先でつついた。


「さあ、飲みなさい。

 これは命令よ、私の可愛いポンコツちゃん」


 命令と言われれば、元・侍女の彼女に拒否権はない。

 アイリスは覚悟を決めたようにグラスを手に取り、恐る恐る口をつけた。


 縁についた砂糖の甘み。

 そして、冷たくて甘い液体の奥にある、喉を焼くような熱さ。


「……んッ」


 彼女は眉をしかめた。


「変な味です。

 甘いのに、辛くて……喉が、熱い」


「ふふ。最初は少しずつでいいわ。

 舌の上で転がして、味と香りを楽しみなさい」


 私は横で、自分のハイボールを飲みながら、その様子を眺めていた。

 (……ああ、懐かしい反応)

 私も初めてセシリア様に飲まされた時は、こんな感じだったっけ。


 アイリスは、ちびちびとグラスを傾け続けた。

 一杯、また一杯。

 甘い口当たりに騙されて、彼女のペースは意外と早い。


 そして、数分後。


「……あつい、です」


 アイリスが、ぽつりと漏らした。


 彼女の顔は、茹でた蛸のように真っ赤になっていた。

 瞳はとろんと潤み、焦点が定まっていない。

 身体を支えきれないのか、テーブルに肘をついて、ふらふらと揺れている。


「システム……冷却機能……作動せず……」


 彼女は熱い息を吐き出し、ドレスの胸元をパタパタと手で扇いだ。


「先輩……世界が、回っています。

 ジャイロセンサーの……故障でしょうか……?」


「いいえ、それが『酔っ払う』ってことだよ」


 私が苦笑して教えると、彼女はへにゃりと笑った。


「よっぱらう……?

 これが……?

 なんだか……ふわふわして……気持ちいい、です」


 彼女は、私の肩に頭を預けてきた。

 

 重い。

 そして、熱い。

 アルコールと体温が混ざった甘い匂いが、鼻先をくすぐる。


「……あは。先輩、いい匂い」


 アイリスが、私の首筋に鼻を擦り付けてきた。

 まるで猫だ。

 あの鉄仮面のような無表情はどこへやら、今の彼女は完全にタガが外れている。


「ちょ、ちょっとアイリス! くすぐったい!」


「えへへ……。

 先輩の肌、ぷにぷにしてます。

 柔らかい……ふにふに……」


 彼女の手が、私の二の腕やお腹を無遠慮に触ってくる。

 さらに、彼女の熱い吐息が耳にかかり、私は変な声が出そうになった。


「あら。

 ずいぶんと積極的ね」


 セシリア様が、面白そうに目を細めた。


「普段、理性をガチガチに固めている子ほど、お酒が入ると乱れるものよ。

 ……どう? 先輩ペットとして、可愛がってあげたら?」


「む、無理です!

 私、受け止める側なんて経験ありませんし!」


 私が慌てていると、アイリスが急に身を起こし――今度は、セシリア様の方へと倒れ込んだ。


「……マスター」


 とぷん。

 アイリスの顔が、セシリア様の豊かな胸の谷間に埋まる。


「……んぅ。

 ここは、もっと柔らかい……。

 最高級のクッション……」


 彼女は無防備に頬を擦り付けた。

 セシリア様のガウンがはだけ、白い素肌が露わになる。


「ふふっ。

 甘えん坊さんね」


 セシリア様は嫌がるどころか、嬉しそうにアイリスの頭を抱きしめた。

 長い指が、酔って熱くなった彼女の耳たぶを甘く揉む。


「あ……ん……」


 アイリスの口から、艶っぽい声が漏れた。

 

 思考回路がショートし、本能だけが残った状態。

 彼女は今、ただ「気持ちいい場所」を求めて彷徨う、小さな獣だった。


「先輩も、こっちにいらっしゃい」


 セシリア様が、空いた方の手で私を手招きした。


「三人で、溶けてしまいましょう。

 明日のことなんて、ぜーんぶ忘れて」


 その誘惑には勝てなかった。

 私はため息をつきつつ、二人の塊に混ざりに行った。


 右に熱くて甘えん坊なアイリス。

 左に涼しくて妖艶なセシリア様。


 アルコールが回った頭で、私は思った。

 

 (……なんだこれ。天国か?)


 波の音と、氷の音。

 そして、重なり合う吐息と衣擦れの音。

 

 リゾートの夜は、理性を溶かすには十分すぎるほど長かった。

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