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不遇幼女に転生した私、悪役令嬢に拾われて何故か溺愛されてます 〜貴族生活楽しい!〜【1万PV感謝!】  作者: ペンギンの搾り汁
第三章 《ふしだらなバカンス編》

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第三十一話


 

 陽が落ち、夜が来た。

 フレデリック殿下から「廃棄処分」を言い渡された、あの朝から一日が過ぎていた。


 広すぎるバスルーム。

 猫足のバスタブには、バラの香りがする泡が溢れんばかりに満たされている。


「……あ」


 アイリスは、バスタブのふちに座らされていた。

 一糸纏わぬ姿。

 湯気の中で、彼女の白い肌は、まるで迷子の子供のように頼りなく見えた。


「じっとしてて。

 新しい飼い主が、綺麗にしてあげるから」


 セシリア様は、自らも薄いガウンを脱ぎ捨て、アイリスの背後に回った。

 豊かな胸が、アイリスの薄い背中に押し当てられる。


「殿下は貴女を『洗浄』すると言ったわね。

 でも、あの男の洗浄は、貴女を漂白して真っ白に戻すこと」


 セシリア様は、スポンジにたっぷりと泡を含ませた。


「私の洗浄は違うわ。

 貴女に、私の匂いを染み込ませることよ」


 じゅわっ。

 温かい泡が、アイリスの肩から背中へと滑り落ちる。


「……っ、う……」


 アイリスが小さく身体を跳ねさせた。


「くすぐったい?」

「い、いえ……。

 誰かに身体を洗われるなど……乳幼児期以来の経験で……」


 彼女の声は震えていた。

 機能的で、自分ですべてを完結させてきた彼女にとって、この「世話を焼かれる」という行為は、未知の領域なのだ。


 セシリア様の指が、泡越しにアイリスの肌を滑る。

 背骨のラインをなぞり、脇腹をくすぐり、敏感な首筋を丹念に磨いていく。


「力、抜いて。

 貴女はもう、何も考えなくていいの」


 セシリア様は囁きながら、アイリスの黒髪をすくい上げた。


「硬い髪ね。

 ずっとキツく結んでいたから、癖がついている」


 シャワーの湯が、頭上から降り注ぐ。

 お湯と共に、アイリスの緊張も少しずつ溶け出していくようだった。


「……マスター(仮)」

「『仮』はいらないわ」

「……セシリア、様」


 アイリスは、濡れた前髪の隙間から、ぼんやりと天井を見上げた。


「私は……壊れたまま、ここにいていいのでしょうか」


「もちろんよ。

 完璧な機械なんて、つまらないだけ」


 セシリア様はシャンプーを泡立て、アイリスの頭皮をマッサージするように指を動かした。


「傷があって、ムラがあって、時々暴走する。

 そういう『ポンコツ』の方が、可愛がりがいがあるでしょう?」


 その言葉に、アイリスの瞳が揺れた。

 彼女はずっと「完璧」を目指してきた。

 けれど、今、肯定されているのは「不完全」な自分だ。


「……変な、感じです」


 アイリスは自分の胸に手を当てた。


「回路が……緩んでいくような。

 エラーログだらけなのに、システムが……安定しています」


「それが『安心』よ」


 洗い終わった身体を、セシリア様がバスタブの中に引きずり込んだ。

 ちゃぷん、と湯が跳ねる。


 二人は向き合う形で、狭い浴槽に浸かった。

 蒸気で火照ったアイリスの顔は、もう能面のような無表情ではない。


「さあ、こっちへおいで」


 セシリア様が両手を広げる。

 アイリスはおずおずと、けれど吸い寄せられるように、その腕の中へと身を預けた。


 ぎゅっ。

 

 肌と肌が密着する。

 お湯の温かさと、体温の温かさが混ざり合う。


 私は、湯気で曇った鏡越しにその光景を見ていた。

 (……完全に、餌付け完了だ)


 アイリスは目を閉じ、セシリア様の肩に頬を擦り付けている。

 その姿は、雨に濡れた捨て猫が、ようやく暖かい暖炉を見つけた時のようだった。


「これからは、私のために暴走しなさい。

 私の可愛い、二匹目のペットちゃん」


 セシリア様のキスが、アイリスの濡れた額に落とされた。

 それは所有の印であり、甘い契約の証だった。


 アイリスの唇から、ふぅ、と長い安堵の息が漏れた。

 その夜、彼女は生まれて初めて「業務報告書」を書かずに眠りにつくことになる。

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