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不遇幼女に転生した私、悪役令嬢に拾われて何故か溺愛されてます 〜貴族生活楽しい!〜【1万PV感謝!】  作者: ペンギンの搾り汁
第一章 《魔王女の救済編》

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第三話

 


 ガタゴトと揺れる馬車の中で、私は死んだ魚のような目をして揺られていた。


 向かいの席には、あの恐ろしい美女――セシリア様が優雅に足を組んで座っている。

 窓の外を流れる景色は、薄汚いスラム街から、整然とした石畳の街並みへ、そして緑豊かな貴族街へと変わっていった。


 けれど、私の心は絶望で塗りつぶされていた。

 魔女。あるいは吸血鬼。

 きっとこの人は、若さを保つために子供の生き血をすするとか、そういう類の人外に違いない。

 でなければ、あんな汚物まみれの私を、大金を払って買うはずがないもの。


 やがて馬車が止まったのは、とてつもなく巨大な屋敷の前だった。

 鉄柵の門が重々しい音を立てて開く。

 まるで、魔王城だ。一度入ったら二度と生きては出られない。


「降りなさい」


 短く命じられ、私は震える足で地面に降り立つ。

 すると、屋敷の中から大勢のメイドたちが一斉に飛び出してきた。


「おかえりなさいませ、お嬢様!」

「ああ、うるさいわね。……おい、お前たち」


 セシリア様が顎で私を指す。


「この汚らしいゴミを、今すぐ『処理』してきなさい」

「かしこまりました」


 処理。

 その言葉を聞いた瞬間、私の視界が真っ白になった。

 ああ、やっぱり。食べる前の下処理だ。内臓を抜かれるんだ。


「ひっ、いや……!」

「あら、生意気に抵抗するの?」


 セシリア様の冷ややかな視線に射抜かれ、私は石のように固まる。

 無表情なメイドたちに両脇を抱えられ、私はズルズルと屋敷の奥へと連れ去られた。


 廊下の壁に飾られた絵画も、高そうな壺も目に入らない。

 連れて行かれたのは、真っ白な湯気が立ち込める広い部屋だった。


 そこにあったのは、巨大な白い器。

 そして、並々とお湯が注がれている。


 ……釜茹でだ。

 間違いない。私をここで茹でて、出汁を取るつもりなんだ。


「さあ、脱いで」


 メイドたちによって、ボロ布があっという間に剥ぎ取られる。

 あばらの浮いた貧相な身体が露わになる。

 そして、私はそのままドボンと、その巨大な器の中へ放り込まれた。


「ぶくぶくぶくっ……!」


 熱い! 死ぬ!

 ……あれ?


 身構えていた激痛は、やってこなかった。

 代わりに全身を包み込んだのは、とろけるような温かさと、甘い花の香り。


「ぷはっ!」


 慌てて顔を出すと、水面には真っ白な泡が山のように浮かんでいた。

 釜茹での煮汁じゃない。

 これ、お風呂……?


 呆然とする私の頭上から、呆れたような声が降ってくる。


「……本当に、見れば見るほど貧相で汚らしいわね」


 湯気の中から現れたのは、腕組みをしたセシリア様だった。

 彼女は私の不潔さをあざ笑うように、フンと鼻を鳴らす。


「勘違いしないでちょうだい。貴女が心配でお風呂に入れたわけじゃないわ」


 彼女は浴槽の縁にカツンとヒールを乗せ、傲慢に言い放った。


「今日から貴女は私のモノ。所有物が汚れているのは、私の恥よ」


 セシリア様が指を鳴らすと、メイドたちが最高級のスポンジと石鹸を持って近づいてくる。


「隅々まで磨きなさい。私の持ち物として恥ずかしくないように、ピカピカにね」

「は、はいっ!」


 そこからは、怒涛の洗浄タイムだった。

 前世で使っていた安物のボディソープとは比べ物にならない、きめ細かい泡。

 バラの香りのするシャンプー。

 メイドたちの手つきは容赦なかったけれど、こびりついた汚れがみるみる落ちていく感覚は、涙が出るほど気持ちよかった。


(……温かい)


 お風呂なんて、いつぶりだろう。

 前世では、シャワーを浴びる気力すらなくて、蒸しタオルで身体を拭くだけの日々だった。

 こんなにたっぷりの温かいお湯に浸かるなんて、夢のまた夢で。


 気づけば、お湯の温かさに包まれて、私の意識はトロトロと溶けそうになっていた。


 殺されるかもしれない恐怖よりも、今この瞬間の極楽が勝ってしまう。

 ああ、もう、茹でられて食べられてもいいかもしれない。

 そう思えるほど、そのお風呂は最高だった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 一時間後。

 お風呂から上がった私は、フカフカのタオルに包まれていた。


 鏡に映った自分を見て、驚いた。

 ガリガリなのは変わらないけれど、肌は白く輝き、髪はサラサラになっている。

 さっきまでの薄汚れたドブネズミと同一人物とは思えない。


「ふん、まあ少しは見られるようになったかしら」


 着替え終わった私を見て、セシリア様が満足げに頷く。

 そして、彼女はニヤリと意地悪そうに笑った。


「綺麗になったところで、次は『中身』をいじらせてもらうわよ」


 ……中身?

 まさか、今度こそ内臓を!?


 戦慄する私を置いて、彼女はスタスタと歩き出す。


「ついてきなさい。痩せっぽちじゃ、虐め甲斐がないもの」


 そう言って連れて行かれたのは、長いテーブルのある食堂だった。

 そして私の目の前に、ドン! と巨大な皿が置かれた。


 そこに乗っていたのは、焼きたての、分厚いステーキだった。

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