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不遇幼女に転生した私、悪役令嬢に拾われて何故か溺愛されてます 〜貴族生活楽しい!〜【1万PV感謝!】  作者: ペンギンの搾り汁
序章 《不遇幼女編》

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第二話

 


 じっ、と膝を抱えてうずくまっていると、どのくらいの時間が経ったのか分からなくなる。

 この不快な空間に慣れることは一生ないだろうけれど、意識が朦朧としてきたおかげで、吐き気は少し収まっていた。


 ――ガシャンッ!!


 突然、鼓膜を破るような金属音が響き渡り、私はビクリと肩を震わせた。

 重厚な足音が近づいてくる。一つではない、複数の気配だ。


「おい、起きろゴミクズども!」


 ドカドカと檻を蹴る音と共に、野太い怒声が飛んでくる。

 錆びついた南京錠が乱暴に開けられ、私は薄汚れたボロ布ごと、無造作に外へと引きずり出された。


「いっ……」


 抵抗する力なんて残っていない。

 私はされるがまま、石畳の廊下を引きずられていく。

 何が起きているの? ここはどこなの? 誘拐? それとも本当に死後の地獄?

 混乱する頭で必死に状況を理解しようとするけれど、暴力的な現実がそれを許さない。

 

 連れて行かれた先は、薄暗い広場のような場所だった。

 そこには私と同じように、やせ細り、目に光のない子供たちが何人も並ばされている。


 その前に立っているのは、小綺麗な服を着た、脂ぎった恰幅のいい男たち。

 彼らは子供たちの顔を覗き込んだり、身体を値踏みするように触ったりしている。


「こいつは歯並びがいいな」

「こっちは筋肉がつきそうだ。畑仕事に使えるか?」


 まるで、野菜か家畜の品定めだ。

 その光景を見て、背筋が凍った。

 まさか……ここ、人を売買している場所なの?


 私の前に立った男――この場の責任者らしき人物は、私の顔を見るなり露骨に鼻をつまんだ。


「なんだこの汚ぇのは。糞まみれじゃねえか」

「すみません親方、昨夜のうちに垂れ流したようで……」

「チッ。これだからガキは嫌なんだ。おい、こんな汚物、『商品』になるわけねぇだろ」


 商品。

 その単語が、私の推測を決定的なものにした。

 私は人間として扱われていない。売り物として、ここにいるんだ。


 男は私の頭を汚い靴の裏でグリりと踏みつけた。

 痛みよりも、その絶望的な事実が心を支配する。


「『処分』だ。裏の穴に捨ててこい」


 ああ、やっぱり。

 ブラック企業で使い潰された次は、不良在庫として廃棄処分。

 私の人生なんて、所詮こんなものなのだ。

 

 抵抗する気力もなく、男たちに腕を掴まれ、再び引きずられそうになった――その時だった。


「――お待ちなさい」


 凛とした、けれど氷のように冷ややかな声が、その場を支配した。


 カツン、カツン、と。

 高いヒールが石畳を叩く音が響く。

 その音だけで、周囲の空気が張り詰めるのが分かった。

 さっきまで威張り散らしていた男たちが、弾かれたように平伏し、ガタガタと震え始めたのだ。


「こ、これはこれは……セシリア様! このようなむさ苦しい場所に、何用でございましょうか!?」


 セシリア?

 聞いたことのない名前だ。けれど、この男たちの怯えようは尋常じゃない。

 私は地面にへばりついたまま、恐る恐る視線を上げる。


 そこにいたのは、この世のものとは思えないほど美しい人だった。

 

 燃えるような深紅のドレス。腰まで波打つ艶やかな金髪。

 そして何より、見下ろす瞳の鋭さが、彼女がただの貴族ではないことを物語っていた。

 圧倒的な気品と、人を人とも思わないような傲慢さ。


 彼女は扇子で口元を覆いながら、ゴミを見るような目で私を見下ろした。


「そこの汚らしいモノは、何?」

「は、はいっ! これは売り物にもならない廃棄品でして……すぐに処分いたしますので、どうかお気になさらず!」


 男が媚びへつらいながら説明する。

 けれど、その『セシリア』と呼ばれた女性は、不愉快そうに眉をひそめただけだった。


「処分? ……ふん、気に入らないわね」


 彼女は一歩、また一歩と私に近づいてくる。

 強烈な香水の香りが、鼻につく腐臭をかき消していく。


「あ、あの、セシリア様……?」

「その薄汚いガラクタ、私が貰ってあげるわ」


「は……?」


 男も、そして私自身も、耳を疑った。

 こんな糞尿まみれの、死にかけの骨と皮だけの子供を?


「お、お待ちください! いくら公爵令嬢のセシリア様といえど、このような不良品を押し付けるわけには……!」

「黙りなさい。私の気まぐれに口を挟むつもり?」


 ギロリ、と彼女が睨むだけで、大の男が「ヒッ」と悲鳴を上げて縮こまる。

 彼女は従者に何かを合図すると、ジャラリと音を立てて金貨の詰まった袋を男に投げつけた。


「釣りはいらないわ。さっさと失せなさい」


 そして、彼女は私の目の前に立つと、躊躇いもなくその美しい指先を伸ばし、私の顎をグイと持ち上げた。

 

 至近距離で見る彼女の瞳は、宝石のように美しく、そしてゾッとするほど冷たい。

 殺される。

 本能がそう警鐘を鳴らすほどの威圧感。

 間違いなく、とんでもなく地位の高い、そして恐ろしい人物だということだけは分かった。


 彼女の口から紡がれたのは、予想もしない言葉だった。


「……今日からお前は、私のモノよ」


 その唇が、三日月のように歪む。

 高飛車で、絶対的な宣言。


 ああ、神様。

 どうやら私は、地獄から救い出されたのではなく、もっと恐ろしい魔女の玩具として買われてしまったようです。

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