表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不遇幼女に転生した私、悪役令嬢に拾われて何故か溺愛されてます 〜貴族生活楽しい!〜【1万PV感謝!】  作者: ペンギンの搾り汁
第三章 《ふしだらなバカンス編》

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/47

第二十九話



 深夜二時。

 波の音だけが支配する、静寂の時間。


 私は金縛りにあったような重苦しさで目を覚ました。


 (……重い)


 胸の上に、何かが乗っている。

 猫? いや、もっと重量がある。

 それに、熱い。


 薄目を開けると、闇の中に二つの光る点が見えた――気がした。


「……起きましたか、サンプルB」


 無機質な声。

 けれど、その声は微かに震え、湿り気を帯びていた。


 アイリスだ。

 

 彼女は私の腹の上に馬乗りになり、長い黒髪をカーテンのように垂らして、私を覗き込んでいた。

 月光が、彼女の乱れたパジャマ(セシリア様から借りた大きめのシャツ)の襟元を照らし、白い鎖骨が露わになっている。


「あ、アイリス……? 何をして……」

「エラーが発生しました」


 彼女は私の両手首を、驚くほど強い力でシーツに縫い付けた。


「睡眠学習を実行しようとしましたが、システムが拒絶します。

 脳内で、昼間のデータがループし続けているのです」


 彼女の顔が近づく。

 吐息が頬にかかる。その息は、微かに甘い匂いがした。


「肉の味。脂の感触。

 ……あれは、強烈な快楽物質でした」


 彼女の瞳孔は開いていた。

 まるで薬物中毒患者が、次の投与を求めているような危うさがある。


「ですが、論理的な矛盾パラドックスが生じています。

 貴女たちは、あの『食事』よりもさらに優先度の高い行為をしていました」


 彼女の視線が、私の唇に固定される。


「海の上での、口内粘膜の接触キス

 あれは、食事よりも『美味しい』のですか?」


 ゾクリ、と背筋が粟立つ。

 彼女は今、純粋な好奇心だけで動いている。

 だからこそ、タチが悪い。ブレーキがないのだ。


「そ、それは……人によるというか……」

「曖昧な回答は不要です。

 実測データが必要です」


 アイリスが、ぐっと体重をかけてきた。

 柔らかい太ももの感触が、私の腰に生々しく伝わる。


検証テストさせてください。

 貴女の口腔内データを採取し、昼間の牛肉のスコアと比較します」


「ちょ、ちょっと待って! セシリア様が隣で……!」


「マスター(仮)はスリープモードです。感知されません」


 彼女は聞く耳を持たなかった。

 片手を私の手首から離し、私の顎を強引に掴む。


「口を、開けて」


 命令というより、懇願に近い響き。


 彼女の指が、私の唇をこじ開けようと入り込んでくる。

 指先は熱く、微かに震えていた。

 

 抵抗できない。

 彼女の「知りたい」という熱量が、私の理性を焼き切ろうとしている。


「……んッ」


 指が口内に入ってきた。

 ざらりとした指の腹が、舌を撫でる。

 彼女は私の唾液の感触を確かめるように、執拗に指を動かした。


「……濡れています。温かい」


 アイリスの呼吸が荒くなる。

 彼女の顔が、さらに近づく。

 鼻先が触れ合う距離。


「指では、不足です。

 やはり、直接接続ダイレクト・コネクトしなければ」


 彼女の唇が、ゆっくりと降りてくる。

 

 逃げ場はない。

 月明かりの下、彼女の瞳は潤み、頬は興奮で赤く染まっていた。

 それはもう「機械人形」の顔ではない。

 本能に目覚めた、ただの「飢えた少女」の顔だ。


 唇が触れる――その直前。


「――そこまでよ、ポンコツちゃん」


 パンッ!


 乾いた音が響いた。

 アイリスの額に、扇子の一撃が入ったのだ。


「……ッ!?」


 アイリスが動きを停止する。

 

 横を見ると、セシリア様が半身を起こし、不機嫌そうに私たちを見下ろしていた。


「私のペットに手出しするなんて、いい度胸ね。

 ……発情期ヒートにはまだ早いわよ?」


「マ、マスター(仮)……」


 アイリスは我に返ったように瞬きをした。

 急速に熱が引いていくのか、彼女の顔が青ざめる。


「私は……何を……。

 システムログに、記録が……ない……?」


暴走バグね。

 初めての『快楽』に脳がパンクしたんでしょう」


 セシリア様は、アイリスの襟首を掴み、ひょいと私の上から引き剥がした。

 そして、自分の胸元に彼女の顔を押し付けた。


「寝なさい。

 オーバーヒートした頭には、冷却が必要よ」


「あ……うぅ……」


 アイリスは、セシリア様の匂いに包まれ、抵抗力を失ったようだった。

 

 彼女は最後に、未練がましく私の方を見た。

 そして、自分の唇を指でそっと触れ――そのまま、セシリア様の腕の中で機能を停止(気絶に近い睡眠)した。


「……ふぅ。世話が焼けるわね」


 セシリア様は、眠るアイリスの頭を撫でながら、私に視線を流した。


「で?

 貴女も、満更でもなさそうな顔してたわね?」


「い、いいえ! そんなこと!」


「ふふ。あとでお仕置きが必要かしら」


 セシリア様の目は笑っていなかった。

 

 この夜の騒動は、アイリスという「新しいおもちゃ」に、危険な機能が追加されたことを私たちに知らしめたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【作家必見】
あなたの作品を徹底分析。
タイトル・あらすじ・文章力を
『鬼』が辛口診断します。

なろう診断鬼を試す ➔
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ