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不遇幼女に転生した私、悪役令嬢に拾われて何故か溺愛されてます 〜貴族生活楽しい!〜【1万PV感謝!】  作者: ペンギンの搾り汁
第三章 《ふしだらなバカンス編》

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第二十七話



 正午。

 太陽が最も高く昇り、影が消え失せるとき


 私たちのプライベートビーチは、暴力的なまでの「匂い」に支配されていた。


 ジューッ……パチパチパチッ!


 炭火の上で、分厚い霜降りの肉が悲鳴を上げている。

 溶け出した脂が炭に落ち、香ばしい白煙となって立ち昇る。

 特製のガーリックソースが焦げる香りは、空腹中枢を直接殴りつけるような威力を持っていた。


「……バーベキュー、ですか」


 私はトングを片手に、額の汗を拭った。


「ええ。夏といえば『肉』でしょう?」


 セシリア様はパラソルの下で、冷えたワインを揺らしていた。

 今日の彼女は、ホルターネックの際どいビキニ姿。

 胸元の谷間に汗が光り、それがまた一種の「ソース」のように見えて、私は喉を鳴らした。


「焼いて。もっと激しく、焦げる寸前まで」


 彼女のオーダーは常に過激だ。


 そこへ――予想通り、あの「効率の悪魔」が現れた。


「……何の騒ぎだ」


 フレデリック殿下だ。

 彼は眉間に深いシワを刻み、ハンカチで鼻と口を覆っていた。

 背後には、あの「影の少女」も控えている。


「この煙、この悪臭……。

 大気汚染条例に抵触するレベルだぞ」


「あら、いい匂いでしょう?」


 セシリア様は悪びれもせず、焼けたばかりの骨付き肉を指差した。


「貴方たちもどう?

 最高級の和牛よ。口の中でとろけるわ」


「断る」


 殿下は即答し、懐から銀色のケースを取り出した。

 中には、無機質なカプセルと、ゼリー状のパウチが入っている。


「我々の昼食はこれだ。

 王室研究所が開発した『完全栄養食パーフェクト・フード』。

 必要な栄養素を十五秒で摂取でき、消化吸収のロスもなく、食後の眠気も起きない。

 ……あんな脂の塊を食うなど、内臓への虐待行為だ」


 彼は憐れむような目で、私の焼いている肉を見た。


 カプセルを水で流し込む殿下。

 その横で、少女もまた、無表情にゼリー飲料の口を吸おうとしていた。


 その時。


 ぐぅぅぅぅ……。


 小さく、けれど切実な音が響いた。


 殿下の手が止まる。

 少女の手も止まる。


 音の出所は、少女の腹部だった。


「……申し訳、ありません」


 少女は顔色一つ変えずに言った。


「血糖値の低下に伴う、胃壁の収縮音です。

 直ちに栄養を補給し、音を停止させます」


 彼女は機械的にゼリーを口に運ぼうとした。


 けれど、その視線は釘付けだった。

 私の手元にある、焼き上がったばかりの、脂が滴る肉に。


「……ふーん」


 セシリア様が、面白そうに瞳を細めた。


「そこの子。貴女、名前は?」


「……王宮付き侍女、アイリスと申します」


 彼女は淡々と答えた。


「名前など覚える必要はない」


 殿下が冷たく遮った。


「彼女は『七番セブン』だ。

 私のスケジュール管理を行う七番目の個体。それ以外の個性は不要だ」


「かわいそうに」


 セシリア様は立ち上がり、私から皿を奪い取った。

 そこには、今まさに焼き上がった極上のサーロインが乗っている。


 彼女は、アイリスの目の前に肉を突きつけた。


「殿下はいいわ。もう手遅れだから。

 でも貴女は、まだ『知る』権利がある」


「セシリア、よせ。私の部下に何をする気だ」


 殿下が制止しようとするが、セシリア様は無視した。


「口を開けて」


 命令口調。

 アイリスは抗えない。主人の敵対者であっても、上位貴族(公爵家)の命令は絶対だ。


 彼女は小さく口を開けた。


「あーん」


 セシリア様が、フォークに刺した肉塊を、彼女の口内に押し込んだ。


 瞬間。


「――んッ!?」


 アイリスの目が、限界まで見開かれた。


 熱い。

 火傷しそうなほどの熱量。

 噛み締めた瞬間、溢れ出す肉汁ジュース

 濃厚な脂の甘みと、スパイシーなソースの刺激が、舌の上の味蕾みらいという味蕾を蹂躙していく。


 ゼリーやカプセルでは決して味わえない、「個体」を噛み砕くという原始的な快楽。


「……ん、ぐ、ぁ……っ」


 彼女は口元を押さえた。

 飲み込みたいのに、飲み込めない。

 喉が、舌が、思考が、この強烈な情報を処理しきれずにショートしている。


 口の端から、茶色いソースと肉汁がツツ……と溢れ、白い顎を汚した。


「どう?

 私の『無駄』な食事の味は」


 セシリア様が囁く。


 アイリスは、震えながら咀嚼そしゃくを続けた。

 コク、ン。

 喉が鳴り、肉塊が胃へと落ちていく。


 その瞬間、彼女の身体から力が抜けた。

 膝が崩れ落ちそうになるのを、私が慌てて支える。


「……熱い。お腹が、熱いです」


 彼女は自分の腹部を押さえ、惚けたように呟いた。


「これが……食事……?」


 その瞳は潤み、頬は高揚し、まるで初めて恋を知った少女のような顔をしていた。

 

 口の周りはソースで汚れ、無防備で、ひどく扇情的だった。


「馬鹿な……!」


 フレデリック殿下が、信じられないものを見る目で後ずさった。


「たかがタンパク質の塊に、これほどの精神干渉作用があるだと……!?

 七番、吐き出せ! それは不純物だ!」


 けれど、アイリスは首を振った。

 無意識に、ソースで汚れた自分の指先を舐め取りながら。


「……もっと。

 もっと、詳細な分析が必要です」


 彼女の視線は、皿の上の残りの肉に釘付けだった。


 堕ちた。

 

 私は確信した。

 効率の檻で守られていた彼女の純潔は、一枚のステーキによって破られたのだ。


「ふふふ。いい子ね」


 セシリア様は、勝利の女神のように微笑み、私にウィンクした。


「さあ、第二ラウンドよ、ペットちゃん。

 この子のお腹がいっぱいになるまで、徹底的に『教育』してあげましょう」


 炭火が、パチリと爆ぜた。

 それは、彼女の中の何かが弾け飛んだ音のようにも聞こえた。

明日以降は、毎日2話投稿でチマチマ投げて行きます

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