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不遇幼女に転生した私、悪役令嬢に拾われて何故か溺愛されてます 〜貴族生活楽しい!〜【1万PV感謝!】  作者: ペンギンの搾り汁
第二章 《悪しき舞踏会編》

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第十八話



 指揮棒が振られ、オーケストラの重厚な音が響き渡った。


 ワルツの始まりだ。


「……見せてやろう。真の効率を」


 フレデリック殿下が、無造作に「影の少女」の手を取った。


 彼らが踏み出した一歩目は、あまりにも完璧だった。


 タン、タン、タン。


 正確無比なリズム。

 一ミリの狂いもない歩幅。

 回転の遠心力さえ計算し尽くされたような、物理法則を従えた動き。


 それはダンスというより、精巧な時計の針が動いているようだった。


「すごい……」

「なんて正確なんだ……」

「まるで一つの生き物みたいだ」


 周囲の貴族たちから、感嘆の声が漏れる。


 けれど、私は寒気を感じていた。


 少女の顔に、表情がない。

 殿下のリードに逆らわず、自ら意思を持つこともなく、ただ物理的に動かされている。

 

 それは「調和」ではなく、「支配」だった。

 

 完璧に制御された、鋼鉄のワルツ。

 隙がない代わりに、熱もない。


「……見たか、セシリア」


 すれ違いざま、殿下が冷たく囁く。


「無駄な装飾も、感情もいらない。

 必要なのは、目的を達成するための最短ルートだけだ」


 その言葉は、かつての私――社畜だった私の心に突き刺さった。


 そうだ。

 仕事とは、結果を出すこと。

 過程に感情はいらない。ミスは許されない。

 

 あの少女は、理想の社員だ。

 それに比べて、私は……。


 急に足がすくんだ。

 

 私はただ着飾っただけの、中身のない元奴隷。

 あんな完璧な動き、できるわけがない。


 ズキリ、と胃が痛む。

 冷や汗が背中を伝う。


 その時。


 ポン、と。

 私の肩に、優しく手が置かれた。


「……息を吸って」


 セシリア様の声だ。


「吐いて。肩の力を抜いて」


「で、でも……あんな凄い動き、私には……」


「誰が『あんな動き』をしろと言ったの?」


 彼女は私の顎を指ですくい、無理やり目を合わせさせた。


 アイスブルーの瞳が、悪戯っぽく輝いている。


「あんな機械仕掛けのダンス、退屈で欠伸が出るわ。

 私たちは、もっと『無駄』なことをしましょう」


「無駄……ですか?」


「ええ。

 ステップなんて間違えてもいい。

 リズムなんて無視してもいい。

 ただ、私を感じて、私に溺れていればいいの」


 彼女は私の腰を引き寄せ、耳元で囁いた。


「私を見て。

 世界で一番、美しい『遊び』を見せてあげる」


 次の瞬間。

 セシリア様が踏み出した。


 それは、殿下のような「正確な一歩」ではなかった。


 ふわり、と。

 重力を忘れたような、軽やかな一歩。


 ドレスの裾が花びらのように広がり、私の身体がふわりと浮くような感覚に包まれる。


 ――え?


 驚く間もなく、回転が始まった。


 速い。

 でも、怖くない。


 殿下のダンスが「直線」なら、セシリア様のダンスは「曲線」だ。

 

 流れる水のように、私の身体が勝手に動いていく。

 

 右へ、左へ。

 回って、沈んで、また浮かんで。


 (楽しい……!)


 思考が消えた。

 

 「間違えないように」とか「足を踏まないように」とか、そんな強迫観念が吹き飛んでいく。


 ただ、気持ちいい。

 

 セシリア様の香りが、体温が、指先の魔力が、私を包み込んでいる。


 周囲の景色が色鮮やかな線になって溶けていく中で、私にはセシリア様の笑顔だけがはっきりと見えていた。


 気がつけば、会場の空気が変わっていた。


 さっきまでの「感嘆」ではない。

 

 静まり返った「熱狂」。

 

 誰もが息を飲み、私たちの舞踏あそびに魅入られている。


 殿下たちのダンスが「技術」なら、

 私たちのダンスは「魔法」だった。


 見る者の心を揺さぶり、理性を溶かす、甘く危険な魔法。


 やがて、曲が終わる。

 最後の音が消える瞬間、セシリア様は私を抱きとめるようにしてポーズを決めた。


 シーン……。


 一瞬の静寂。

 そして。


 ワァァァァァッ……!


 会場が揺れるほどの拍手が巻き起こった。

 それは、殿下たちに向けられたものより、遥かに熱く、感情的なものだった。


「……勝負あり、ね」


 セシリア様は、乱れた私の前髪を直しながら、勝ち誇ったように笑った。


 ふと見ると、フレデリック殿下が立ち尽くしていた。

 

 その顔には、初めて見る表情――「困惑」が浮かんでいた。


 計算外。

 非効率。

 無意味。


 彼の論理では弾き出せない「美しさ」という暴力に、彼は言葉を失っていた。


 私は、拍手の渦の中で、小さく息を吐いた。

 

 勝った。

 何に勝ったのかは分からないけれど。

 

 少なくとも、私は「機械」にはならなかった。

 この人の「お気に入り」として、胸を張ってここに立っている。


 それが、どうしようもなく嬉しかった。

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