表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不遇幼女に転生した私、悪役令嬢に拾われて何故か溺愛されてます 〜貴族生活楽しい!〜【1万PV感謝!】  作者: ペンギンの搾り汁
第二章 《悪しき舞踏会編》

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/47

第十六話



 扉が開かれた瞬間、光の暴力が襲ってきた。


 シャンデリアの輝き。

 宝石の煌めき。

 そして、何百人もの視線。


「――公爵令嬢、セシリア・シルヴィ・ド・オルタンシア様、ご入場!」


 衛兵の声が響き渡る。


 その瞬間、ざわめいていた会場が、波が引くように静まり返った。


 カツ、カツ、カツ。


 セシリア様が歩き出す。

 その一歩ごとに、周囲の空気が凍りついていくのが分かった。


 私は、彼女の半歩後ろをついていく。


 怖い。

 

 視線が痛い。

 値踏みするような、好奇心に満ちた目が、全身に突き刺さる。


(あ、あの人……こっち見てる)

(挨拶しなきゃ。笑顔作らなきゃ)


 私の「社畜センサー」が激しく反応した。


 あそこにいるのは、有力な伯爵だ。

 向こうは、大臣クラスの重鎮。

 

 前世の記憶が警鐘を鳴らす。

 

 『目上の人には、自分から頭を下げろ』

 『30度の角度で、歯を見せて笑え』

 『名刺を出せ。なければグラスを持ってお酌に回れ』


 身体が勝手に反応する。

 私は反射的に、近くの貴族に向かって、愛想笑いを浮かべようと――。


 ギュッ。


 繋がれた手に、強い力が込められた。


「……前だけを見なさい」


 セシリア様の声。

 唇をほとんど動かさず、私にだけ届くような囁き。


「誰にも笑顔を見せないで。安売りしないで」


「で、でも……挨拶を……」


「必要ないわ」


 彼女は冷ややかに言い放った。


「貴女が頭を下げる相手は、この世に私一人だけよ。

 それ以外の有象無象に、愛想を振りまく必要なんてない」


 有象無象。

 

 国を動かす貴族たちを、彼女はそう切り捨てた。


「背筋を伸ばして。

 貴女は私の『最高傑作』なのよ。

 堂々としていればいいの」


 その言葉に、ハッとする。


 そうだ。

 私は今、営業マンじゃない。

 

 セシリア様の「装飾品」だ。

 

 宝石が、誰かにへこへこと頭を下げるだろうか?

 

 いいえ。

 宝石はただ、そこで輝いて、羨望の眼差しを集めるだけでいい。


 私は息を吸い込み、強張っていた肩の力を抜いた。


 表情筋を緩める。

 無表情に。

 ただ、人形のように美しく。


 すると、周囲の視線の質が変わった気がした。


「……見ろよ、あの子」

「なんて美しいんだ……」

「どこの令嬢だ? セシリア様があんなに大切そうに……」


 嘲笑や侮蔑ではない。

 純粋な「驚嘆」。


 セシリア様の氷のオーラに守られて、私は守られている。

 

 社交辞令も、マナーも、お世辞もいらない。

 ただ歩くだけで、道が開いていく。


 (なにこれ……すごい)


 モーゼの十戒のように、人の波が割れていく。

 誰も私たちに話しかけられない。

 

 近寄りがたいほどの「格」の違い。


 ああ、なんて楽なんだろう。

 「何もしない」ことが、こんなにも強いなんて。


 私たちは会場の中央まで進み、そこで足を止めた。


 セシリア様が、優雅に扇子を開く。

 それが合図だったかのように、周囲が再び動き出す。


 けれど。


 そのざわめきを切り裂くように、一人の男が歩み寄ってきた。


 金髪碧眼。

 一分の隙もない、完璧な正装。

 

 フレデリック殿下だ。


 彼は従者を従え、最短距離で一直線にこちらへ向かってくる。

 無駄のない、機械のような歩き方。


 会場の空気が、再び張り詰めた。


「……来たわね、能率バカ」


 セシリア様が、楽しそうに目を細める。


 私はゴクリと喉を鳴らした。


 ラスボスの登場だ。

 

 けれど不思議と、以前のような恐怖はない。

 今の私には、最強の主人がついている。


 そして何より。

 さっきまでの「沈黙の行進」で、私は少しだけ理解したのだ。


 この人がくれる「自信」の正体を。


 殿下が、私たちの目の前で立ち止まる。


「……遅かったな、セシリア」


 氷の女王と、鉄の王子。

 

 舞踏会という名の、冷たい戦争が幕を開けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【作家必見】
あなたの作品を徹底分析。
タイトル・あらすじ・文章力を
『鬼』が辛口診断します。

なろう診断鬼を試す ➔
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ