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俺、凡人。異世界で世界大戦の仕掛け人になる  作者: 風間 秋
第6章 『大逆の産声』
92/94

92.旅路

 話に聞いていた通り、魔獣災害に合った西の街で行商へと元獣人を引き渡した。

 本来の目的は物資の調達にあったらしく、我々は偽装も兼ね旅の装いを新たにした。

 連れて行く3人の獣人たちの変装もそこで済ませた。

 黒の民用の武器まで揃えていたのには驚いたものだ。


 偽装の一環で私とクゥは得物を取り換えることにした。

 人目を忍ぶ形で出立したため、隊を離れた時の装備はケッゼイ殿も知らない。

 残った荷物から推察できなくもないが、そうした目立つ物は見える形では持ち運んでなかったため、やるにしても困難を極めることだろう。


 行商も国外を目指すらしく護衛という体で更に西の街に移り、それから北の碑塔街道に入った。

 国境近くには軍の駐屯地があるので、行商とはその手前で別れ、我々は迂回して森の中を抜けて越境した。


 ペルタに入ってからもこれと言って大きな問題は起きなかった。

 平和という訳ではない。

 何年か前に北のエイアスラヌとの戦争に負けてからというもの、国内はずいぶんと荒れている様だった。

 ペルタ南部では北部からの避難民が、未だ路頭に迷っている。


 それでも、逃亡のためでなければ情報を求めるためでもない、解決すべき事案があるわけでもないなんとものんびりとした旅だった。

 身体能力に優れているものの、旅には慣れていない奴隷たちの足に合わせたこともある。

 イシェルセナにも役割があるため、いつも野営の支度にはまだ陽の高い内から入った。


 時間があったことから、キースは奴隷たちに魔法の手ほどきをしていた。

 身体強化の魔法が使えると、旅は非常に楽になる。

 獣人は例外なく闇の月の聖印を持つため、黒の民であっても魔法を教授することが出来るのだ。

 もちろん、自分たちが使えるものに限られるが。


 秘かに兄のキルバが指導していたらしく、素地だけは整っていた。

 その甲斐あってか、能力で劣ると評されていた末の妹のミウオが、旅の間に身体強化の魔法を使えるまでになった。

 ミウオがキースに懐いたことでクゥに睨まれる場面もあったが、その辺りは勝手によろしくやってくれていればよいと思う。


 そんな妹とは対照的に、エジェとエキの双子は、ペルタに入ってから始まったイシェルセナの試しに戦々恐々の日々を送っている。

 ほとんど取りこぼしているが、評価がどんなものになっているのかは怖くて聞けていない。

 ふたりに知識がまるでないのはそれはもうよく分かった。

 今あるものを上手く使うのか、それとも上手く調整してから使うのか、少し気になるところではある。


 私はと言えば、イシェルセナの仕事の際に毎度その護衛として傍に呼ばれていた。

 他の誰も近づけさせないためだ。

 配下の隠密と会っている時も、他の者は遠ざけるようにしていた。

 故に彼女の裏の顔を知っているのは、未だに私だけである。


 しばらくそうしてゆっくりとドートレン方面に旅を続けていると、やがて隊商が我々に追いついた。


 ケッゼイ殿はイシェルセナの偽りの報告を、驚きを示しながらも受け入れていた。

 討伐していないので追加報酬は些少の額だ。

 元々金銭が目的ではなかったので、そのことについては気にしていない。


 そこからはまた、隊商の護衛としての日々が始まった。

 変わったことと言えば、私が正式にケッゼイ殿と同格の護衛として扱われるようになったことか。

 イシェルセナとケッゼイ殿との間で交わされた決定だ。

 つまり裏の事情。

 表向きにはケッゼイ殿の次という立場になる。


 そしてこれにより、ケッゼイ殿の代理という名目でイシェルセナの元を訪ねることが増えた。

 語らうのは専ら国や国家間の情勢、青と闇の教派の動向といった政治的なものだ。

 大陸全土に散る草――諜報員が集めた情報に、意見を求められることもあった。


 これが実に苦しい。

 そっち方面の専門的な教育なんて、当然のことながら私は受けていない。

 なんせ一般人だったものですから。

 仕方なくおぼろげな記憶を総動員して、似たような事例から結論を仮定し、そのために必要な情報を求めて求めて求めて、都合よく揃うようならその結論を口にしている。

 揃わない時は出てきた情報と合わせて他の事例を考えるが、無理なら分からぬと謝る他ない。


 双子とウルリムへの試しに同席することも多かったが、最近では皆の失敗で心を安んじる始末よ。

 旅で長いことイシェルセナの傍に居たため、その魔の気配に多少慣れていたのが幸いだった。

 そうでなければ今ごろは、精神面の負担がきつくて吐いていたかもしれない。


 キースと下らない話をしている時間だけが、昨今の私の癒しです。


 ただな、キースの傍にはクゥが居るのだ。

 生活が落ち着いてきたからか、なんだかロムニスに居た頃みたいに当りがきつくなってきていて。

 死線を共に潜り抜けようと、辛く苦しい旅を共にしようと、心の距離はまるで縮まりませんでしたよ。

 まあ別に分かり合えなくとも構わないのだが。


 クゥなんぞどうでも良いのです。私の邪魔さえしないなら。

 私は君らの邪魔してないだろう。だからな、私が話している時くらいどこかに行っててくれんかね。

 キースがケッゼイ殿や獣人とばっかり訓練しているって?

 混ざればええやん。

 私なんて結界閉じた状態での訓練しかできなくて、危機感がちょっと酷いことになっているってのに。


 そう言えば、あの娘は訓練とかどうしてるのかね。

 相手をできそうな者にまるで心当たりがないが……クゥでも薦めてみるか。




 そんなこんなで月日が過ぎ。

 ドートレンを巡り、北のガラを東に抜けペルタに戻って来た。

 このまま北に進めば旅の終点となるハフィスカルネアだ。


「久々に少し付き合ってもらえますか?」


 未明。まだ皆が起き出すより早く、私はキースに声をかけた。

 魔獣災害を除けば、まともに剣を振る機会がなかった。

 戦いの勘が鈍った状態で最前線に身を投じるのは危うい。


 腰の鞘を叩く私に、キースは愉快気に口の端を歪め、剣を手に取ることで応じてくれたのだった。


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