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俺、凡人。異世界で世界大戦の仕掛け人になる  作者: 風間 秋
第6章 『大逆の産声』
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90.偽りの英雄と拾いモノ

 大過なく魔獣災害を収めた我々は、手薄な西側から街を抜けた。

 その後、荷物を回収するため最後に休憩を取った地点まで戻るべく、キスルの街を南に大きく迂回し来た道を引き返す。

 訳あって速度は出していない。


 その『訳』は、森に入って半刻ほど過ぎたところで距離を詰めてきた。


「師よ」


「動きましたね。この先に開けた岩地があったはずです。そこで待ちましょう」


「殺るのか」


「さて、彼ら次第でしょうか」


 それに決めるのは、私ではなくイシェルセナだ。

 尾行者の始末。そのために我々はあえて歩みを緩めていた。



 岩地にて臨戦態勢で待ち構えていると、わざと大きな音を立てるようにして、尾行者たちが近づいてきた。

 しかしそのまま森から出てくることはなく、木立の奥で立ち止まると、まず声だけが飛んできた。


「手前らは街の獣人奴隷にごぜえます。御身の前に姿を晒すことを認めてもらいたく」


「良いだろう。許可する」


 ありがとうごぜえますとの声を先頭に、獣人が10人ばかり、木々の合間から姿を現した。

 隠れ潜んでいる者はない。

 はっきりと大人と分かる男が1人、女が2人。成人していると思しき少女が4人。男児が2人に女児が1人。

 肉の付き方と服装から見て、男は戦奴隷で女2人は農奴辺りであろう。残りはなんとも言えない。


 刺すように冷ややかな声でイシェルセナが問う。


「それで?」


「まず後を追う非礼を働いたコト、謝罪申しあげやす」


 全員がその場にひれ伏した。

 畏まられる程度なら私も慣れてきたが、こいつはなんとも落ち着かない。

 あちらは獣人でこちらは人間。状況も状況である。

 そう振る舞うのが当然と頭では分かっているのだが、生憎とそうしたものと縁遠い環境で育ったものでね。

 頭を下げるのにはまるで抵抗がないのだが。


「逃亡奴隷に接触を持たれたこと、そちらを詫びて欲しいものですね」


 イシェルセナが忌々しげに吐き捨てるように言った。

 が、これも至極当然の対応だ。

 逃亡奴隷に慈悲をかけるなんて、頭お花畑の阿呆のすることだ。

 国によっては即刻打ち首なんてところもある。

 そうならずとも、逃亡奴隷にはより過酷な労役が課せられるのが常だ。

 それと関わるということは、面倒に首を突っ込むということに他ならない。


「ごもっともなお言葉、重ねて陳謝いたしやす」


「如何なる用向きで追ってきたのですか。よほどの大事とお見受けしますが」


「……手前どもを御身の元で使ってもらいてえのです」


「ほぅ、盗人の汚名を被れと言う訳ですか。奴隷の窃盗は重罪です。話になりませんね」


「こやつら確か、魔獣に石を投げていた者たちであるな」


「へ、へい。あっしらみたいな者でも、なんとか力添えが出来ればと思いやして。魔獣の気を引こうと気張ってはみたんですが、恥ずかしながらまるで相手にされませんで」


「いや、兵らよりはよほど役に立っていた。機転と言い胆力と言い、見るべきところはあるようだ」


「ではっ!」


「街に戻れ。使える奴隷を無為に殺すのは惜しい。逃亡の事実は伏せておいてやろう」


「役に立ってみせやす。この身を盾としても御身の命をお守りいたしやす。ですからどうか、どうかご再考をお願いしやす」


「やれやれ、奴隷には常識から教えねばならないのですね。少し考えれば分かる事でしょうに。旅の身で、大人数の奴隷を連れて歩く者が居ますか」


「それは……でしたら、何人までなら同行を許してもらえるんでありやしょう?」


「そうですね……」


 ちらりと、イシェルセナが私を見た気がした。

 もちろんその面はヴェールに隠され窺い見ることは出来ないが。


「3人といったところでしょうか」


「3人……」


「ああ3人だ。ただしその場合、残りを街に帰す訳にはいかない」


「殺す、と」


「理由は分かるな」


「御身について行ったってぇ話が漏れねえように、でしょうか」


「不服でしたら皆で街に戻るとよろしいかと」


 よく考えろと言い残し、彼らと距離を取る。

 返答までただ待つのも馬鹿らしいので、キースとクゥには荷の回収を頼む。

 また走るかもしれないので、体力と魔力は温存するようにと注文を加えておく。

 そうしてイシェルセナとふたりこの場に残ったわけだが。

 存外、返答は早かった。


 キースたちが発ってほどなくして、決めやしたとの声がかかった。

 先の場所に戻ると、変わらず平伏した奴隷たちの姿があった。


「それで、引き返すか?」


「いえ。3人だけ、お供させてもらいたく思いやす」


「良いのか、街に戻れば皆で生きる道もあるやもしれんぞ」


「戻ったところで、3年もすれば半分はくたばっちまいますよ。それに、奴隷として生きて20年近くなりやすがね、初めて心からお仕えしたいと思う主様を見つけたんでさ」


「主人が奴隷を決めるものであって、奴隷が主人を決めるものではなかろう。それに、お前のその感情はただの勘違いで、気の迷いだ」


「申し訳ありやせん。でも勘違いでも気の迷いでも構わねえです。御身のために死ねるなら、そいつには意味があると思える」


「師よ。斯様な評価を得られるとは、蛮行に勇んだ甲斐はあったようですね」


 ふふふと隣から殺し切れぬ笑いが漏れ聞こえる。

 いかにも嘘っぽいが、ここで彼ら相手に見せびらかす意味はないはず。

 なんだろうな、これは。


「それで、誰を残す」


「あっしと、妹からふたり」


 男が振り返ると、先頭に控えていたふたりの少女が膝を着いたまま前に出た。


「人選の理由を聞こう」


「戦力になるかどうかと、日常的な技能、それから先々を考えまして」


「詳しく」


「あっし以外の者はまともに戦闘の訓練を受けたことのない奴らです。時間を見つけて教えるつもりでいやすが、子供たちでは体がモノになるまでに時間がかかるので、まず外しやした。知識も経験も足りねえですし。そっち方面については、妻たちのが妹らよりもよく知っているんですが、歳を考えると妹たちの方が長く仕えられる分、良いかと思いやした」


「そちらの2人に異論は」


「兄の決定に従います」


「あの……」


 伏していた面を上げ、発言の許しを求める素振り。

 ああいや違うな。

 男――兄を窺っているのか。


「気にせず言え」


「あたいは、あたいよりも姉ちゃんを連れて行くべきだと思う。だって――」


「馬鹿者、耳欠けを推す奴があるか!」


 慌てた様子で口を挟む兄を手で制し、なぜと続きを促す。


「姉ちゃんの方が絶対に役に立つよ。立ちます。だって、なにをやっても姉ちゃんはあたいより上手くやれますから」


 イシェルセナに視線で問う。


「その者はどちらに?」


「は、はい。あたし、です……」


「頭巾を取ってください」


「お、お許しください。お見せすれば目を汚すことに」


「構いません。師もそれを求めておられます」


 頷いておく。


「わかり、ました」


 払われた頭巾から露わになった獣の耳は、片方が半ばから無残に千切れていた。

 なんとも見るからに痛々しい。

 だがまあ、ただの傷痕であろう。

 そこまで忌避すべきものではないと思うが。

 イシェルセナ子飼いの獣人たちは、耳を落としていると聞くし。


 私の視線を感じてか、手で隠そうとしている。

 と言うか、この子ら双子だな。

 となると……ふむ。


「皆、面を上げ顔を見せろ」


 なるほどなるほど。

 隣ではイシェルセナが顎に指先を当てなにやら思案している。

 これは引き入れる方向で考えていると見てよいのかな。

 それから、少しこちらに顔を傾けた気がした。


 私にやれと。

 読み違えていても知らんよ。


「その娘の評は真か?」


「は、はい。姉の方が優秀なのは事実です。2人とも下の妹よりも優れてはいるのですが、この子らは同じ年の生まれでして。同じ年に生まれた子供は才能が似ることも多く、戦いを不得手としている場合に備え、姉の方を下の妹と替えやした。ご覧の通り耳欠けなもんで、気分を害されるかと思い」


「相分かった。俺の考えを伝えよう。お前に替わり双子の姉を加えた3人を、配下として迎え入れる」


「それはっ……」


 驚愕を面に浮かべ、それから双子の姉を振り返る。

 双子の姉の方も、信じられないといった表情で固まっている。

 さて、どういった反応を示すかね。


 師は意地が悪いですねと、かすかな呟きが聞こえた。

 そうでしょうかね。

 私には別に彼らに肩入れする意義も感じられないので、ここで下らない動きを見せるなら切るよい口実になるくらいにしか考えていませんよ。


 面を戻した男は少しの間思案の様子を見せ、それから口を開いた。


「よろしいんですか。皆、戦いの心得はありゃしません。足手まといになってしまいやす」


 妬みといった悪感情の混じらぬ、しかしわずかな懐疑の籠った眼差し。


「戦いを得手としている者が配下には多いからな。あれらに教えさせれば良かろう」


「そこまで配慮いただけますたあ望外にごぜえます。妹たちのこと、なにとぞよろしく頼んます」


 ひれ伏してから双子の姉の方に目を向ける。その表情は柔らかい。

 家族が生き延びるためには自らの命も惜しまないか。

 仕えたいと言っておきながら、思い切りが良い。

 使い方を誤らなければ、割と良い手駒となるやもしれんが。

 それを決めるのはイシェルセナだ。

 さて、彼らはいかがかな?


「師は奴隷を見定めるのがお上手なようですね」


「それでどうする」


「私にお任せください」


 かすかに笑みの気配を感じる。

 相変わらずおっかない娘さんだこと。

 今はそれが自分に向けられていないから良いけれど。


「我々の配下となるのに先立ち、あなた方には、真名を捧げ誓約を行って頂きます」


 皆一様に顔を見合わせている。

 男からも戸惑いが窺える。


 主と奴隷の主従の契約に、真名を使うことは殆どない。

 理由は多々あるが、最たるものとして挙げられるのは奴隷が人間ではないからだ。

 奴隷の誓いの価値を人間側が認めないので、初めから行われないというもの。

 それ故にあえて誓わせる意味というものもあるだろうが、この娘がなにを考えているかなんて分からんからな。


「師も私も世を忍ぶ身。我らの配下となるということは、ただ隷属すれば良いというものではありません。追ってきたということは、我らが居合わせた者たちになにひとつ告げずあの場から去ったことは知っているでしょう」


 イシェルセナはそこで言葉を区切る。

 男たちの顔に理解の色が現れたところで、再び言葉が紡がれた。


「それでも配下となることを望みますか?」


「ここで命尽きることになろうと、引き返すつもりはありゃしませんよ」


「あたしも。こんなあたしで、お役に立てるのなら」


「あたいだって」


「わたしも、やります!」


 男の妻たちも子供を抱きしめ頷いている。

 子供たちも泣き言を口にはしない。

 出来ないと言うのが正しいのかもしれないが。


 この世界、子供の命はとても軽い。

 そもそも人の命からして軽いのだが、子供と老人は信仰上の扱いまで軽い。

 これは大昔に起きた大崩壊に端を発する暗黒時代の慣習法が、今なお生き続けているからである。

 露骨な言葉を使えば、口減らしは忌避すべきものではありませんよと、こういう訳だ。


 もっともパフオム師とした雑談からの推察なので、実は深い理由があったりするのかもしれないけれど。

 ついでに言えば、いくら命の値段が暴落していようと、それを捨てられるかどうかというのは、また別問題だ。

 並々ならぬ覚悟が必要になるだろう。

 だがそんな覚悟を決めている彼らをしても、次いで掛けられた言葉には動揺を禁じ得なかったようだ。


「では、この場に居る全員に誓いを立てて頂きます。命尽き果て生まれ変わろうとも、誓いは果たして頂かねばなりませんので」


 淡々と、真名を用いる意味が説かれる。

 誰かの喉が唾で鳴った。


 それからイシェルセナの誘導の元、皆の真名が明かされ、魂の誇りを懸けての誓いが為された。

 誓約の内容は胡散臭すぎて笑ってしまう。


『我々が如何なる身分・所属であろうとそれを不問とし、我ら個人に対し従属を誓うこと。我らについて、公言している以外の一切を、家族を含む他者に漏らさないこと』


 だそうだ。


 それからイシェルセナはおもむろに白の聖章を外し、フードとその下の角隠し用のヴェールも取り払った。

 露わになった捩じれた角に、獣人たちが絶句する。


 角を有するからといって、それがすなわち鬼族を意味するわけではない。

 魔法種だけをとっても、銀には竜人族(リ・ウ)、赤には丙族(コルム)といった種がある。

 妖魔種の中にも角を持つ部族は多い。

 ゆえに彼らの驚きは、イシェルセナが鬼族であることに気づいたがためのものではなかろう。

 人間でない者が、人間を装っていた。

 それは魂位を偽る禁忌に他ならない。そこに彼らは戦慄を抱いたのだ。


 だが信仰そのものを偽るこの娘にとって、そいつは些細に過ぎる問題であろう。

 驚愕に固まる獣人たちの視線の先で、堂々と闇月の聖章を身につける。

 黄金の瞳が私を映す。

 意図は察せたので、私も同様にして聖章を取り換えた。


「街を救った白の(しもべ)たちは此処には居ません。何処(いずこ)かに去ってしまったようですね」


 そうして口にされる唐突な言葉。

 獣人たちは困惑を隠すこともせず顔を見合わせる。

 中に異なる表情をしているのが2人。

 話を持ちかけてきた男――キルバと、双子の姉――エジェだ。

 両者は厳しい顔で思案に暮れている。


 ちなみに双子の妹の方はエキと言う。その下の妹はミウオ。

 いずれも真名ではなく呼び名ですよ。


 キルバとエジェの間で視線が交わされた。

 なにやら合意が為されたらしく、頷いたエジェが居住まいを正し口を開いた。


「あたしたちは人違いをして、主様を呼び止めてしまったようです」


「それで主従の誓いまで結んでしまうとは、迂闊な人たちですね」


「お、同じ過ちは二度と犯しません。魂に刻みます。それで……主様はいったい何者なんでしょう」


「実は、我々は魔獣災害の様子を探りに来た者なのです」


「あたしたち、その魔獣が討たれるところを見てます。えっと、知りたいのは……どういう話、ですか?」


「討った者たちについて」


「貴族と思われる白の僕の剣士と、斧を扱う解放の使い手と、黒の民の剣士の3人でした。性別は皆、男性だったと思います」


「街の東では、条贄(じょうし)の僕には弟子がいるという噂が流れているようです」


「だったとしても、見たのは3人だけです。あの場に居た他の者も、きっと同じことを言います」


「そうですか」


 意味ありげな視線が刺さる。

 さもありなん。あの掛け合いを提案したのは私であるからな。

 魔獣を前にはったりを利かせただけでも噂は立つだろう。

 だがやるからには、後々まで使えるように仕込んでおきたい。

 そのために、条贄の僕の弟子なるものが生まれてしまったのだが。


「どの様な話が広がるか見ものですね」


「仕方ありません。あの役には黒の民は不適格ですから」


「民の心に英雄を刻むため。心得ておりますよ。して、この者たちは私の預かりでよろしいのですね?」


「構いませんよ。私に奴隷を養うだけの財力があるわけないでしょう。そう言う訳で、申し訳ありませんがあなた方の主は彼女ということになります」


 私のこの言葉に、キルバが堪らぬといった風に笑い声をあげた。


「くははは」


「兄さん!」


「失礼しやした。偽りの身分に偽りの所属、そして『我ら』ですか。確かに、あっしらは御二方に忠誠を捧げました」


 キルバは再び笑う。


「今日という日まで、あっしら奴隷はただ人間様に使われ、身体が動かなくなれば捨てられる、そんな運命なのだと思って生きてきやした。言い方は悪いですが、こんな風に奴隷を使おうとする奇矯な方々が居るなんてのを最期に知れて、あっしは満足でさ。惜しむらくはそこに関われねえことですが……お前ら、おれたちの分もしっかり務めを果たせよ」


 感極まったとばかりに抱擁する兄妹。

 普通は涙なしでは語れぬ場面なのであろうが……。


「さて、水を差す様で申し訳ありませんが、時間があまりありません。もうじきあの2人が戻って来るでしょう。私としましては、その前に済ませるべきことは済ませてしまいたいのです。ですので、こちらを口に咥えてください」


 そう言ってイシェルセナは、布が巻かれた親指大の棒を差し出す。


「これは?」


「今から配下となる3人を除く獣人には、この場でそのさだめを終えて頂きます。それは死なぬようにという、私からの心づくしですよ。口に咥え膝と手を地に着き、頭を下げてください」


 これにはキルバも面食らったようだが、余計なことを口にすることもなく、指示された通りの体勢を取る。


「これから何が起きようと声は出さぬように。出せば喉を掻き切ります」


 イシェルセナは腰の短剣を引き抜き、キルバの頭に手を伸ばす。

 そして耳を掴むと、迷いなくその根元に短剣を滑らせた。

 押し殺した悲鳴が辺りに満ちる。

 キルバの両の掌が地面を下草ごと握り締め、噛み締めた棒の隙間から苦悶の声が漏れた。

 その様子を意に介さず、イシェルセナは頭の揺れが弱まった瞬間を見計らって、もう一方の耳も削ぎ落とした。


 凶行は更に続く。


「もっと頭を下げてください」


 完全に地に伏す形になったキルバの背後に回り上衣を捲る。

 ズボンの上部から生え出た獣の尾が露わになる。

 何をされるか分かったのだろう。キルバの体が震えた。


 イシェルセナの細い指が無造作に尻尾を捕らえる。

 そして次の瞬間には刃は振り抜かれ、尻尾は身体から離れ放り捨てられた。


「これで獣人としてのあなたは死にました。以降、あなたには人間として生きてもらうことになります」


「な、にを……」


「後でまとめて魔法により治癒を施します。この者をお任せしてもよろしいでしょうか」


 ま、こうなるとは思っておりましたよ。


「任されましょう。簡単に止血だけしておきます」


 茫然自失のキルバに歩み寄る。

 傷口を確認すると、どれも見事に付け根からすっぱり切り落とされていた。

 尻尾は骨まで断たれているので、見ていて痛い。


 煤けた上衣を剥ぎ取り、裂いて傷口に押し当てる。

 衛生面で問題があるように思えるが、獣人は人間よりよほど魔法的に頑健だし、どうせ魔法で治療するのだからこんなものは適当でいいのだ。

 衣服もこのままでは奴隷そのものであるし。

 人間にするということは、その辺りにも考えがあるのだろう。


 そうしている間にもイシェルセナは次々と耳と尻尾を削ぎ落していく。

 大人3人の手当てを終えた頃には、すでに子供たちへの魔法による治療が始まっていた。


 手馴れていますね、お嬢さん。

 魂位を偽るために禁忌を侵そうというのだから、他にやれる者もいないのだろうが。

 無印である私を引き込んだことと言い、どうにもこの娘は神への畏敬の念が薄い。

 私の件がなければ、戦後に改められた信仰への反発で話は済む。

 しかしな、無印の扱いは大戦の前後で変わってはいなかったはずだ。


 分からないな、本当にこの娘は。


 落とした耳と尻尾については、治療の後で魔法で圧し潰し、液状化させて始末していました。

 青くなって震える奴隷たちの首輪を外したり、イシェルセナから預かった外套を着させて傷口を隠したりと、私の方は慌ただしい限りです。


 私だってね、卒倒しそうな気分だったのだよ。

 なんなのあの魔法。魔獣すら即死させそうな、えらくぶっそうな雰囲気を感じたんですけど。

 魔法種の魔法種たる所以をまざまざと見せつけられて、私はとても気分が悪いです。

 不快ではなく、不安で。


 それから魔法を使って吐きそうになっているイシェルセナの面倒を見て、戻って来たキースたちに部分的に事情を話してと。

 なんだかえらい疲れた。

 その日は西へ進むのは諦め、街から離れるべく南に移動し、我々は野営に入ったのだった。


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