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俺、凡人。異世界で世界大戦の仕掛け人になる  作者: 風間 秋
第6章 『大逆の産声』
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87.異世界の装備事情

 イシェルセナから聖章を預かった翌々日。

 昼にはまだだいぶ早い時刻に、我々は最後の休憩を取っていた。

 黒煙を噴き上げるキスル市の東の市壁が、もう半刻とかからぬ距離に見えている。


「作戦の詳細は昨晩説明した通りです。東の街道から我々の存在を誇示しつつキスル市に入り、キマイラを討つというのが大まかな流れです。戦闘では消魔結界を持つキースとクゥが前衛でキマイラの魔法を封じ、イシェルセナさんが後衛から火力支援、私は前のふたりが戦いやすいように場を整えます。状況に合わせて前にも出ますが、人払いで手が塞がることも考えられます。あまり当てにはしないでください。囮にできそうな人間は除かずにおきますから、上手く使ってくださいね。ただ、露骨な行動は控えるように。片手間で助けられるなら助けてあげてください。ということでよろしいでしょうか?」


「構いません」


 イシェルセナとも段取りは詰めてあるので、この辺りはおさらいのようなものだ。


「後方から援護って話ですけど、実際どうやるんです。半端に魔法使っても、オレたちが消してしまいますよ」


「結界を抜けるほどの魔法を使えば、鬼族であることが露見する恐れがあります。なので、今回は魔導器を用います」


 言って後ろに置いてあった長持を引き寄せ、蓋を開ける。

 そして中から、金属の円筒が目を惹く時代錯誤も甚だしい物品を取り出した。


「それは……」


 似たような物に私は見覚えがあった。

 かつて画像や映像で目にしたそれとはかなり形状が違うが、『銃』だと思う。

 こちらの世界で目覚めてから、割とすぐに有無を気にした物だ。


 ただこいつはその、なんと言うか大きい。

 全長はキースの背丈をゆうに超えているだろう。

 小銃ではない。対物ライフルとも言い難い。

 重機関銃ないしは砲身を詰めた機関砲でも想像するのが、これを表するには近いかもしれない。

 魔法によって超人的な身体能力を発揮できるこの世界ではあるが、こいつは流石に人間に扱い切れる代物ではなかろう。


「帝式狙撃杖と言います。魔術式弩砲、戦後一部地域では解放殺しと称されたこともあったようですが、ご存じありませんか」


 いえ、と否定を口にする。

 黒の家の資料にはそれらしい武器の記述はなかった。

 しかし弩砲か。本来は携行する類の武器ではないということだろうが。


「魔術によって鋼の矢を撃ち出すクロスボウと考えて頂いて、差し支えありません」


「魔法士殺しか」


 キースが苦々しく呟く。

 魔術により強化されたクロスボウは、この世界では弓に勝る戦場の花形のひとつだ。

 魔法士殺しの名で通っているが、その実、黒の民に向けられることの多い武器でもある。


 魔法種、獣兵、戦術級魔法ないし魔術。

 これら抜きで黒の民とやりあうなら、密集陣形からのクロスボウの一斉射撃が唯一解とすら、兵法書には書かれている。

 尋常ならざる突破力を持つ黒の傭兵だが、防具を魔術によって強化できないため、防御の面でやや穴がある。

 そこを、クロスボウは辛うじて突くことができた。


 曲射が中心となる弓では力不足だ。

 貫通力も速さも、黒の民の身体能力の前ではまるで足りない。

 もっとも、解放の使い手を前にしてはクロスボウも等しく無力なのであるが。


 そんな普遍的な思考に、イシェルセナの言葉が刺さる。


「はい。それの性能を、解放の使い手が殺せるまでに高めた物になります」


「世に知られていない理由はなんですか?」


「イラ殿は目の付け所が違いますね。でも答えは簡単です。ひとえに使う者が居ないのですよ。求められる性能を満たす術式を組み込んだところ、魔力の消費が人間では扱いきれぬ域にまで達してしまったのです。結果、城塞の魔法機関に繋いで用いられる形に落ち着いたのですが……」


 イシェルセナは溜め息と共に首を振る。


「普通に魔術を使った方が、遥かに多くを殺せますからね。そして最後は魔法種専用の携行火器に行き着いたと」


「いえ。終戦直後に広がりを見せたようですが、これを使うくらいなら自前の魔法を使った方が早いので、今では鬼族くらいしか使う者はおりません。闇の魔法は消魔結界との相性が悪いですからね」


 空間に作用するものや、影を操るもの、幻術とあとは回復辺りか。

 あまり鬼族の魔法には詳しくないのだが、確かに消魔結界とやり合うには変わり種が多い闇月の魔法は不利だ。

 鬼族からしてみれば、イシェルセナが模擬戦でやってみせたように、圧倒的な身体能力で捻じ伏せるのが最も有効な戦法なのかもしれない。


「魔法種に対する有用性はいかほどですか?」


「物質攻撃への対処法は多岐に渡りますので、相対した状態で魔法種を討つのは厳しいと言わざるを得ません」


 相対した状態ね。

 分かっていて言っているんだろうな。

 知られていなければ一方的に殺す手段として、また警戒による消耗を強いる手段として有用であることを。


「廃れる訳ですね」


 しかし有用であれば使われるとはならないのが、世の面倒なところかな。

 この世界の武器や防具は、黒の民やそれに対する獣兵の物を除き、魔術によって強化されているのが普通だ。

 魔術的な強度は、物質的な強度を遥かに凌駕する。

 そのため武具の性能とは専ら魔術の性能を指して言われるくらいだ。


 資料で読んだところによると、この世界の身体能力基準の鋼鉄の鎧が、魔術の乗った銀の剣に紙のごとく両断されるそうな。

 防具がその逆ともなれば、地球との武具の性能差に愕然とする他ない。


 この点、飛び道具はなんとも不利なようであった。

 継続的な魔力の供給が難しい。魔術を施す物質的な容量が少ない。

 銃は特に厳しかろう。

 弾丸は矢に比べ更に小さい。


 実際それに近い威力の弩に与えられた最たる役割が、魔法士殺しであるからな。

 魔法士は魔力を別の用途に使用するため、どうしても防御が薄くなる。

 彼らを仕留めるには、射程と貫通力に優れる弩は最良の武器という訳だ。


 治癒魔法なんてものもある。

 負傷させるだけで戦力を大幅に削れた地球とは、戦果に対する認識がまるで違う。

 そのくせ、名誉を重んじる信仰のせいで、狙撃兵のような兵種が人権を得ることもないだろうし。


 魔物や魔獣を相手として想定すれば伸びしろはまだありそうなものだが。

 思いついたとしても口にはしませんがね。

 革新的な考えなんてものは、長生きする上で不必要なんで。


「それでも、使い手を殺せるだけの威力があるなら不足はないでしょう」


「不安は連携だけか」


 我々は前衛同士でしか合せたことないものな。


「初めは、皆さんの動きに慣れることに専念するのが良さそうですね」


「魔獣の防御魔法については前衛で剥がしますから」


「よろしくお願いします」


「ではイシェルセナさん、偵察といきましょうか。報告はそうですね……魔獣は倒されていた、といったところで」


「白の教派の英雄さんが大暴れするらしいですからね」


 小さな笑いを残し、イシェルセナは角隠しを兼ねて修道士用のヴェールで顔を覆う。

 身に着けているのが少女ということもあり、どことなくムスリムを彷彿とさせる。

 これだけではまだ角を隠し切れないだろうが、この上からフードを目深に被ると、そうと知らなければまず気づけない装いとなる。

 首には白の五戒の聖章が掛けられ、胸元で静かに存在を主張している。


「お供のお二方もよろしいかな」


「はいはい。言われた通りやりますよっと」


「白の聖章とか反吐が出る」


 こちらは簡単に修道士用のヴェールで口元を隠しただけのキースとクゥが、やや投げやりな返事を寄越す。

 ふたりにも白の聖章を持たせてあるのだ。

 こちらは以前にロムニスで回収した物になる。

 それぞれ思うところはあるだろうが、我慢してもらいたい。

 もちろん、キースの首輪は札の付いたものから通常のものに取り換えてある。


 私も聖句の書かれた布とフードで顔を隠し、腕に巻いた聖章の位置を確かめる。


「今より我らは白陽の僕である。ゆめその事を忘れるな。行くぞ」


 長持を背負ったイシェルセナが頷く。

 キースは鍔を鳴らし、クゥは斧槍で肩を叩きそれぞれ肯定の意思を示した。


 我々は再び走り出す。

 燃え盛るキスル市は、もう目と鼻の先である。


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