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俺、凡人。異世界で世界大戦の仕掛け人になる  作者: 風間 秋
第6章 『大逆の産声』
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84.秘すべき動きと明かす手札

 宿営地を発った我々偵察隊は、ひとまず東の街道に出た。

 人の途切れた頃合いを見計らって街道を離れ、南側に広がる森へと入る。

 そうしてから、街を大きく迂回するように西へと向かった。


 街道へは戻らない。

 新緑に賑わいを見せ始めた森の中を、只々西へと走る。

 これは、街の西で街道が大きく北に張り出す形に曲線を描いているというのが、理由のひとつとしてある。

 会敵が予想される街への最短を、我々は取っていた。


 まあ、人目を避けるという意味合いの方が大きいのだが。

 でなければ、好き好んでこんな視界の悪い不整地を行こうなどとは思わない。

 目印になる様なものはなにもないのだ。

 おまけに地図は精確からは程遠い。

 蛮行だ。これを蛮行と言わずしてなにを蛮行と言うのか。


 クゥの人間離れした魔法的感覚にイシェルセナの保証もあるため、方針に不安も不満もない。

 けれどね、小心者の私としては落ち着かないのですよ。

 疲労も格段に増すことになるし。


 ただ、致し方ないとは思う。

 街道は避難民と兵隊が行き交っているのだ。

 どれだけ張り詰めた空気に満ちていることやら。

 そんな場に身を投じるのは、我々の面子を考えれば暴挙に過ぎるだろう。

 無印に黒の民に鬼族。万が一にも正体が露見したらそれこそ事だ。


 森に入って1刻あまり、キースに消耗が見え始めたところで、イシェルセナに小休止を提案する。

 放り出されるより先にクゥの肩から飛び降り、銘々に休むよう伝え、私は近辺に危険がないか軽く探りに出る。


 安全を確かめ戻った私に、キースが鼻を鳴らし皮肉気に笑った。


「この調子なら、2日とかからず奴さんを捉えられそうだな」


「ほぉ、随分と早く着くんですね」


 未だ少し息の荒いキースに、そいつは重畳、驚きだと返す。

 もちろん冗談である。

 街道を離れてからと言うもの、我々はキースの戦闘速度でひたすらに走り続けていた。

 それがどの程度無理のある行いなのか、共に研鑽に明け暮れ、そして旅を続けてきた私には、手に取るように分かっていた。


 額に手を当て頭を振ったキースは、参ったと両手を頭の横でひらひらさせる。


「勘弁してくれ。こんな魔法全開で走ってたら、1刻ともたずぶっ倒れちまう」


「知っています。ここからは速度を落とし進みます。それでも、旅路としてはかなりの速さにはなりますが」


 そうかと安堵の吐息を漏らし、豪快に水袋を呷る。

 口の端から溢れた水が喉を伝い落ちた。

 無駄にするなと常であれば口を挟むところだが、景気づけだ、口喧しいことは言うまい。


「虫は付いていなかったようだな」


 袖で口元を拭ったキースが、鋭い視線と共に声を向けた。


「気づいていましたか」


「そりゃあな。でなけりゃこんなに飛ばさないだろ」


 旅程と個々の能力から、余裕を持たせて進むのが私の旅の方針だ。

 それは今回のような緊急事態であっても変わらない。

 だからこそ、余力は持たせておくべきだとすら思う。

 それを崩すが如き速度での移動をイシェルセナに通した理由。

 キースならば気づかぬはずもないか。


 そしてそれはイシェルセナも、いやこちらは少し事情が違うな。

 私はこの娘に、その配下を引き離したい意思を伝えたに等しいのだから。

 もちろん、他にこちらを探ろうとしている者が居ないか炙りだすのが、主な目的ではあったが。


「イシェルセナさん。あの、そういうことでよろしいでしょうか?」


「構いません。ケッゼイ様より指揮権は預かっていますが、黒の民の2人について詳しいのはイラ殿です。私が知ることなど自身のことだけ。ですので、私が決めるのは大まかな方針のみとして、細部はイラ殿にお任せしたいと考えているのですが」


「……承知しました。ただ私はイシェルセナさんのことを知りません。ですので、色々とお話を聞かせて貰うことになると思います。配慮の足りぬことを口にしてしまうこともあるかもしれません。それで、その。そういったことがあっても、許してくださいますでしょうか?」


「この身を気にかけて頂けるなど、歓天喜地の心持ちにございます」


 あなたのその感情、歓喜じゃなくて悦楽じゃないでしょうか。

 どうにも喜んでいるのとは少し違うように見えると言いますか。

 いえ、機嫌が良いならこちらとしても喜ばしい限りなのですがね。


「ではお尋ねしますが、体は大丈夫ですか?」


「速度を緩めるとのことですので、問題ないかと。けれどなにぶん私もこれほどの強行軍は初めてなものでして」


 あまりアテにしてはいけないということね。

 正直なことで結構です。


「分かりました。クゥはここから先は解放は使わず、魔力を抑えるようにしてください。荷物は私が預かります……なんですかキースもクゥも変な顔をして。私も走るに決まっているじゃありませんか」


「あー、いや。イラがそうすると決めたのなら異論はねえよ」


「……これ」


 クゥからは己の体ほどもある荷が突き出される。

 ずしりとしたそれを、胸から肩にかけて担ぐようにして抱える。


「確かに受け取りました。しっかり休んでください」


 イシェルセナを一瞥してクゥはキースを連れて去っていく。

 あまり敵意を露わにしないでおくれよ。

 勝手にどうこうなるのは私の知ったことじゃないが、火の粉を被りかねない近くではやらないでもらいたい。

 このお嬢さん、本当におっかないんだから。


 皆が体を休めている間に、私はクゥから預かった荷物を背負いやすい形にまとめ直す。

 そうしてそれなりに再出発の準備が整ってきた頃、イシェルセナがすぐ隣に屈んだ。熱い視線が注がれているのが分かる。

 嘘です。かなり不審なものを見る眼でした。


「イラ殿は魔法が使えるのですか?」


 なにやら逡巡していたようだが、問うことに決めたらしい。

 傍からはどうということのない疑問のように聞こえるが、我々の間では重大な意味を含んでいる。

 イシェルセナは私が無印であることを知っているからな。

 無印は普通、魔法を使えない。


「はい、実は使えるんです。師の受け売りでして、秘密にしているんです。本当に危なくなった時に、上手く逃げられるようにって。なので、その……できればイシェルセナさんにもここで見たことは内緒にしておいて貰えたらなと。ああもちろん、あなたの主の命に背かない範囲で良いんです。そこまで無理は言いません。ですから」


 どうでしょうと懇願する。

 厳密に言えば、用いているのは魔法ではないので嘘を吐いていることになるが。

 まあ例の計画の協力者として使えそうなら、自ずと話す機会も訪れるだろう。


「無理なお願いを聞いて頂いているのは私どもの方です。イラ殿がそう望まれているのでしたら、この話は私の胸の内のみに留めておくことをお誓い致します」


 イシェルセナはあっさりと私の願いを聞き入れた。

 あまりの物分かりの良さに、私は逆に不安になってしまいますよ。


「ほどほどに、ですよ?」


「ふふふ。お心遣い頂いたことは覚えておきます」


 私の念押しにイシェルセナは怪しく笑う。

 いやいやあなたそれ、奴隷のしていい笑みじゃないと思うのですよ。

 ほんと、なに企んでいるのだろうなこのお嬢さんは。

 黙っていてくれさえいれば、それで良いと言えば良いのだが。


 悶々としている間にキースが復調したので、休憩は終いにする。

 そして、我々は西を目指し再び走り出したのだった。


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