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俺、凡人。異世界で世界大戦の仕掛け人になる  作者: 風間 秋
第6章 『大逆の産声』
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83.偵察隊と称するものの派遣

「オレたちだけで片づけてきますよ」


 討伐に向けてどう動くか話し合いを始めて間もなく、キースがそんなことを口にした。


「細かい事情は掴み切れてないですけど、殺るって言うからには急ぎなんでしょう? な、なんですかイシェルセナさん。オレ、なにか変なこと言いましたか?」


「いえ。イラ殿はそれで構いませんか?」


「そうですね。クゥ、やれますか?」


「2型と3型で間違いないんだよね?」


 危惧するところは分かる。

 ロムニスでは分析を誤り甚大な被害を出した。

 あの時は偶々上手くいったが、毎度そう都合よく事が運ぶとは限らない。


 まあそこについては、今回ばかりは私には懸念もなにもないがね。


「はい。特異な能力は確認されていません」


「ならどうにかなると思う」


「はぁ、仕方ありませんね。ケッゼイ殿の許可が得られるのでしたら、私ども3人で」


「4人で」


「はい?」


「私もお手伝いいたしましょう」


「ま、待たれよ。それでは隊の方が手薄に」


 慌てたのはケッゼイ殿だ。

 いや私も慌ててはいるけれどね。

 困惑が遥かに勝っていて反応が遅れたのだ。


「軍が動いています。その軍こそが厄介と言えばそうではありますが、彼らに我々の相手をしている余裕はないでしょう。それに……案を出した私が危険を冒さず、外から来た方々に全てをお任せするというのは、道理が通らないと思いますが?」


「隊の中から他の者を送るというのは」


「危地に向かわれる方々に足枷を付けよと仰られますか」


 ケッゼイ殿は首を傾げている。

 言葉の意味を理解しかねている様だ。

 まあそれが正しい反応ではあると思いますがね。


「枷? いやいや、イラ殿も同行されるのであろう?」


「申し訳ありませんケッゼイ殿。私が3人と申しましたのは、道中の移動を考えてのことでございます。あまり褒められたやり方ではないので、人様の耳に入れたくはなかったのですが……。私はですね、荷物として彼らに運んでもらうつもりでいるのですよ。それならば黒の民の足を使えますので。キースもその考えがあって、自分たちだけでと口にしたのだと思います」


「だから足枷と申し上げたのです」


「それは本気か?」


 眉を顰めて言う。

 人間サマが取る行動としては、優雅さに欠けるからな。

 私の信条としては、面子なんてものは犬にでも食わせておけ、だ。


「これまでも同様の方法で窮地を脱しているので、今更ですよ。必要ないならやりたくはありませんが、今はどうやら必要な時の様なので」


「しかし、だな……」


 執拗に食い下がる。

 ケッゼイ殿の立場としては仕方のないことであろう。

 上役から預かっている奴隷だ。

 例えそれが護衛として配置されているものだったとしても、降りかかる火の粉を払う以外で危険に晒したくないと思うのは当然の心理だ。


 さてどうするのかね、イシェルセナさんや。私は手を貸さんぞ。

 なんて高みの見物を決め込んだのだが、それは彼女のたったひと言で決着を迎える。


「優先に則った行動と」


「む、そうか。そういうことならば致し方あるまい」


 ケッゼイ殿が一瞬、ほっとした表情を垣間見せた。

 だがそれもすぐさま消え失せ、軍人らしい引き締まった顔になる。

 対するイシェルセナの瞳は冷め切ったものになっていたが、まあ見なかったことにしておこう。

 責任の所在がイシェルセナにあると明示された、そんなところかな。

 キースは訝しんでいる様だが、余計なことを口にしたりは……しないな、よし。


「ゴドル殿には偵察隊を派遣するものとして意見を具申する。返答を待たず動いてくれて構わない。現場の指揮はイシェルセナに一任する。イラ殿は不服かもしれないが」


「私は雇われの身ですから、承知の上です。ただ……」


「ただ?」


「魔獣を討った時って、手当てはどれくらい出るのでしょうか?」


「イラ殿……」


「時間がないのは承知しております。ですけど大切なことなんですよ。こういうのは初めにしっかりしておかないと」


「分かっている、分かっているぞ。きちんと相応の額を用意するから安心して欲しい」


「そうですか? ではよろしくお願いしますね?」


「ああ。任せてくれ」


「では、私どもは出立の準備に取り掛かりますので」


 キースとクゥを引っ張って、私はいそいそと天幕から退散した。

 金の話から入らないことに感心していたのだが、なんて声が背後から漏れ聞こえてくる。


 甘い。甘いなあ。

 世の中、タダより高いものはないんだぞ?

 無償の奉仕なんて裏を捲ったら真っ黒だろ。

 現に私たちは金欲しさにやるわけではないのだ。

 キースとクゥは私の示した方針に従って自分たちの商品価値を高めるため、肝心要の私はと言えばイシェルセナへの袖の下なんて目的で動くのだ。


 言葉にしてしまえばなんともロクでもないね。

 だがこちとら大真面目なんですよ。


「酷い言われようだな」


 隣に並んだキースがかすかな声で呟いた。

 結界の封鎖を解いて同じく小声で答える。


「お金は大切ですよ」


「なに考えてる」


「これからのことを色々と」


「驚いてないみたいだな、こうなったことに」


「少しは驚いていますよ。けれど、魔獣が出たと聞いた時に可能性は考えていましたから」


「オレにはケッゼイ殿と同じところまでしか辿り着けなかった」


「仕方ありませんよ。本来であればその判断で事足りたはずです」


「本来は、か。妙なことに巻き込まれたな。でも、好都合だろ」


 キースが私だけに見えるように口の端を上げる。


「ええ。売り込む手間が省けました」


「……イシェルセナさんは何者だと思う?」


 ひと際潜めた声で問うてきた。

 キースが気に掛けるのも仕方ない。

 明らかにケッゼイ殿よりも事情に通じている言をしていた。


「命が惜しければ詮索すべきではない相手、でしょうか」


「やっぱりそうか。オレ、出しゃばった真似しちまったかね」


「それはないと思いますよ。彼女、キースの察しの良さに感心していたようですから」


「あれでか!?」


「そう思っていた方が気が楽でしょう?」


 くくっと喉の奥で笑う。

 隣ではキースが頬を引き攣らせている。


「な、殴りてえ」


「能天気でいいね。あたしはこれからのことを思うと気が重くて仕方ないのに」


 後ろかららしくない陰気な声が飛んできた。

 しばらくイシェルセナと行動を共にすることになったからだろう。

 嫌っているのは承知していたが、そこまでか。


「私が間に入りますよ。その方が、互いに不利益が少なくて済むと思いますし」


「はぁ。今回ばっかりは頼りにする」


「はいはい任されましたよ」


 クゥがあの娘と距離を取ろうとするのは、私としても望むところだ。

 そうなれば、キースも必要以上に近づこうとはするまい。


 私たちは天幕に戻ると金と最低限の装備だけを整え、天幕や諸々は隊に任せ、そしてイシェルセナと共に宿営地を後にしたのだった。


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