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俺、凡人。異世界で世界大戦の仕掛け人になる  作者: 風間 秋
第6章 『大逆の産声』
78/94

78.買われた街奴隷

 翌日から隊商の護衛としての生活が始まった。

 と言っても、数日この街には逗留することになっているため、他の護衛の手隙の時間に動きの確認をする程度だ。


 護衛との顔合わせの段階で判明していたことだが、隊商の規模はそれなりに大きい。

 街中で見た馬車は3台であったが、全体ではその10倍ほどにもなるだろうか。

 人員は護衛を含めて更に倍の60人強。

 隊の規模に対し護衛が少ないように思えるが、有事の際には商人たち隊員も戦闘に参加するので、戦力としてはそれなりになる。

 これを獲物と見れる賊は、それが人間であるならばもはや賊とは呼べなかろう。


 警戒すべきは亜人と敗残の黒の民、それから魔物に魔獣だ。

 魔法種については語らぬことが常識となっている。

 この隊商の場合、それに対する備えもされていると言えなくもないが、はてさてそこまでする価値が積荷にはあるのかね。

 私にはそこが疑問だよ。


 ちなみに名目上は護衛として雇われている私であるが、戦力としては下から数えた方が早い。

 魔法を使えぬ貧弱な旅人という体だからな。

 事実魔法は使えないし、消魔結界を抑えていると運動能力も著しく低減するため、申告内容に偽りはない。

 キースとクゥがイシェルセナに次ぐ位置なので、釣り合いは取れていると思おう。


 隊商の構成員であるが、商人ら純粋な隊員はやはり闇の教派が金で雇い入れた人員らしい。

 護衛の者は長を除き同じ教派に属するだけの兵卒。傭兵と言うべきか。

 ケッゼイ殿に関しては、ムドヤハサの派閥に属する人間だと教えられた。


 姿を見せない監視者たちは、イシェルセナ子飼いの者と判明している。

 ケッゼイ殿ですらその存在は知らない。

 人間ではないだろうと指摘したら、事もなげに獣人であることを明かした。

 しかも、耳と尻尾を切り落とし人間に変装させた獣人であると。


 十戒の僕がそんなことをして良いのかと頭を抱えずにはいられないが、口にするような間抜けは晒していない。

 聞くまでもないとも言える。

 どう考えても真っ黒な答えしか返って来そうにないからな。

 地雷原でブレイクダンスを踊るような趣味は私にはございません。


 なおイシェルセナの口から、自身がムドヤハサに組する者であるという証言は得られなかった。

 2度3度と突いてはみたのだがね。

 まあ私を見逃している時点で、良からぬ企みを抱いているのは想像に容易い。


 上手く立ち回らなければならない。

 もしムドヤハサに呑まれるようならば、早い段階で次を探さねばならない。

 ムドヤハサに売ることも考える必要があるだろう。

 できればその企みの一端でも掴んでおきたいところだが、そいつは危険に過ぎるな。

 今しばらくはそちら方面の思考はよそう。

 欲を出せばあの娘に勘付かれる。


 ひとまず懐に潜り込むことは出来た。

 次は己の有用性を示しつつ、共存の道を探っていかなければならない。


 想定と違う流れとなった。

 それでも。例え知性の権化のような怪物が相手であろうとも、私はただ使われてやるつもりはないのだから。



 そして街を出立する日になった。



 早朝、隊商の天幕を片付けていると、見たことのある獣人がその手伝いに混じっているのを見つけた。

 この隊商の探りを依頼した街奴隷の少女だ。

 他にも何人か獣人が居る。


 金で雇ったのか?


 あれだけの働きをする紹介役が、力仕事の現場に出てくるというのはどうにも不自然に思える。

 気にはなるが、私はここでは新参者だ。

 そんな人間が奴隷に積極的に話しかけるのもどうなのか。

 あまり好い顔はされないだろうな。


 見て見ぬ振りを決め込もうとした矢先、折悪く澄んだ空色と目が合った。

 ぴくりと少女の頭が跳ねる。

 そして背筋を伸ばした後、私に向かって深く頭を下た。


 無視して欲しかったが、彼女の立場を考えればそうする他ないというのも分かる。

 いや、本当に仕方なくでやっているのかな。

 わずかに考えるような間があったように思える。


 頭を垂れる少女に歩み寄る。

 この隊商での獣人の扱いを知らないので、楽にするようにとだけ告げた。


「思いがけぬ場所で会いましたね」


「先日は私たちを高くお買い求め下さりありがとうございました」


「あなたがこのような現場に出ることもあるのですね」


 作業を止めさせては不味いので、手近な荷をまとめながら言う。

 奴隷の少女は慌てて仕事に戻りながら、実はと少し困惑した様子で、自分たちがこの隊商に買われたことを話してくれた。

 ただどうも、買われたという事実だけしか伝えられておらず、自分たちの主が誰であるのか分からないらしい。


 そんな中で私を見つけたと。

 やはりあのお辞儀は私の気を引くためのものか。


「では、しばらくは旅の共ですね。なんとですよ、私もこの隊商に雇われているのです。おや、あまり驚きませんね」


「申し訳ありませんっ、察しが悪く」


「ああ、私にはそういうのは不要です。他の方々は分かりませんが」


 主人を不快にさせない、それは大前提だが、時に楽しませことも奴隷の仕事には含まれていたりする。

 ここでそうした応対が求められることは、まずないと思われるけれど。

 それに必要だとしても、この子なら問題なさそうなものだがね。

 気が回らなかったということは、相当に参っているのだろう。


「あの……ひとつお尋ねしてもよろしいでしょうか?」


「どうぞどうぞ。ひとつと言わずいくらでも構いませんよ」


「思いがけないと言っていらっしゃいましたが、あなた様が口添えをして下さったわけではないのですか?」


「私はしがない旅の僕に過ぎません。おまけに雇われ者です。奴隷の売買に口を挟める立場にはありませんよ」


 まあ経緯については凡そ察しが付きますけどね、そう小さく加える。


「それはお尋ねしても差し支えないことでしょうか?」


「どうでしょうね。ふふ、そう悲しそうな顔をしないでください。私が情報を頂いてから、あなたに隊商と関わりのありそうな者が接触してきませんでしたか?」


「ありました。あっ、ワタシ言ってません。あなた様のことはなにも。言いつけの通り、そういう者が居るとだけ伝えました」


 いやいや、そんなに焦ることないでしょうよ。

 私はあなたの主人じゃないんだから。

 主を持つ奴隷に手を出すのは、よほどの阿呆かきの字だけだぞ。


「追及されたでしょう」


「はい。お金も渡されました。でも言ってません」


「律儀な人ですね」


「口の軽い奴隷は長生きできません」


「融通の利かない奴隷も、ですよね」


「それは、はい。なので話して良いことを教えて貰えたのは助かりました」


「小出しにしましたか。その分だとお金も多少受け取りましたね」


「うっ……はい」


「そう委縮することはありません。それがあなた方の処世術なのですよね」


「はい。あの、ありがとうございます」


 尻すぼみになっていく声。

 肩を気安く叩き、だからそんなに気にしなくていいんですよと告げる。


「ひとつ、私見でよければあなたの疑念にお答えしましょう。あなたは、信用を買われたのですよ」


「信用、ですか?」


「あなたはこれから先、再び売り払われるのではないかと危惧しているのでしょう。それについては不要であると考えます。あなた方は商品として買われたのではありません。主はおそらくもう決まっています。ただ、それがあなた方にとって幸いなことであるのかどうかまでは、保証しかねますけどね。まあ少なくとも、あなたの能力を正しく理解してくれる相手であることは、間違いないのではないでしょうか」


「あなた様は、ワタシのことを随分と高く買ってくださっているのですね」


「こうして同行させて頂けているのは、あなた方の働きのお陰ですから」


「お上手ですね」


「名を伺っても?」


「ウルリムと申します……あのっ。お名前を」


「私ですか。私はイラと言います。ところで話は変わるのですが、ウルリムさんは戦いの経験は……その様子ではなさそうですね。奴隷では仕方ありませんか。5人……ただの荷として扱うには数が多いですね。ウルリムさん、手が止まっていますよ。そう怯えないでください」


「でも、ワタシたち……」


「安心してください。餌として買われた訳ではないんですから。それに、商品でないのならば許可も下りるでしょう」


「許可、ですか?」


「大きな声では言えないのですが、実は私の連れの2人が黒の民でしてね。彼らは戦いを得手としていますから、手ほどきくらいならできるはずです。ただ、上の方の了解は得なければならないので。黒の民から学ぶのに抵抗がありますか?」


「いえっ、わざわざ気を使って下さりなんとお礼を申し上げればよいのか」


「気にする必要はありません。私も善意だけで動いているわけではないのですから。巡り巡って自身のためになると思うからこそ、こうして手を差し伸べているのです。打算的なのですよ」


 そう言って悪っぽく笑ってみせる。

 ウルリムの頬がほころんだ。

 それまでの営業用とは少し違う、卑屈さの混じらない柔らかな笑みだった。


 キリのいいところまで荷造りを手伝い、ウルリムとは別れる。

 それから私は、事情を知っているであろうケッゼイ殿の姿を探した。


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