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俺、凡人。異世界で世界大戦の仕掛け人になる  作者: 風間 秋
第6章 『大逆の産声』
73/94

73.逃亡者たちは進む道を決める

 中間報告までの時間、もたらされる情報にいくつか当たりを付け、今後の行動の方針を練った。

 と言ってもラクハサに所在を掴まれたので、取れる選択肢なんていくらもない。

 接触するのは確定。そこにどう繋げていくかの想定になる。


 あの娘との縁はキースにも明かすことは出来ない。

 私がこの世界と相容れないモノである、その本質へと繋がる鍵となりかねないからだ。将来的にもあの2人を近づける気はない。

 であるからして、適当な理由をでっちあげる必要があった。


 時間になったので出会った時と同じようにして獣人の少女と接触し、情報の受け渡しを行う。

 報酬を多目に渡し、偽装用に食料や旅装の調達を頼んだ。


 少女はその体が示す通り優秀だった。

 半日となかったのに求める情報を集めてきた。経過報告とはなんだったのだろうか。

 これまで使った亜人たちの中でも一二を争う。


 前の時も思ったが、優秀な人材を見逃さなければならないのは悔しい。

 人間であれば惜しんだりはしないのだが、亜人は金で買えるからな。

 街奴隷なら奴隷としては捨て値だ。

 惜しい。実に惜しい。

 が、亜人を重用するなんてのは土台無理な話だからな。諦める他ない。


 最低限必要な情報は揃ったので、隊商の探りは頃合いを見計らって切り上げさせるよう指示する。

 もし相手がなんらかの行動に出てくるようなら、聖地を目指す訳ありの五戒が、同行できそうな隊商を探していると伝えるよう言っておいた。


 なにはともあれ、これで条件は揃った。

 後はキースと今後の方針について話し合うだけだ。


 考えをまとめつつ適度に時間を潰しながら、閉門時間ぎりぎりに街を出る。

 門を潜るや否や近辺に人や物がないことを重ねて確かめ、消魔結界を解放、魔力を索敵に回す。


 怪しいのは、3人……いや、2人だな。

 片方は中に残り、もう片方が外まで後をつけてくる。

 無効化に反応がないことから、魔法によるマーキングの類はなさそうだ。


 ラクハサの手の者かはたまた隊商の護衛か。

 警戒はしておくべきだろうが、露骨に聞き耳を立てようとしない限りは捨て置いて構わない。

 魔法でとなると防ぐのは容易ではないからな。


 それは情報を受け取る際にも言えたこと。

 あまり迂闊なことは口にしていないし、するつもりもない。

 やはり放置が正解だろう。


 宿営地の外れまで戻る。

 天幕の入口を潜り帰還を伝えるとともに、身振りで監視がついていることを示す。

 外向きのやり取りを二言三言交わし様子を窺いながら本題に入った。


「大きく動こうかと思います」


 そう切り出した私は、闇月の隊商が街を訪れていること、隊商の目的地がハフィスカルネアという隣国と戦争状態にある国であること、隊商は鬼族を護衛として使役していることなど、少女から仕入れた情報にこれまで得てきた情報を交えて話した。


「やや遠回りをすることになりそうですが、身を寄せるには中々の好条件であるように思えます。ただ少し、2人には窮屈な思いをさせることになるかもしれませんが」


「確かに、鬼族を連れているような奴らなら、黒の民の同行も許すかもしれないな」


「2人を護衛として雇ってもらえないか掛け合ってみるつもりです」


 隊商を隠れ蓑として使おうという策だ。


「そこまで決めてあるなら異論はない」


「あたしも別に」


「では明日はその方向で動いてみることにします」


 殊の外、素直にこちらの策に乗ってくれた。

 相談もせずに固めた方針である。

 異論反論も想定して、説得する手段を考えながら帰ってきたのだが。


 そう思ったのもつかの間。

 ところでと、間近にいてぎりぎり聞き取れる程度の声量が鼓膜に触れる。


「オレたちに真実は不要か? 話していないこと、あるだろ」


「不要、ですね」


「そうか……」


「立場を考えれば、過剰な情報を得ていることは不審を招きかねません。上手くやる自信は? 相手は軽く探りを入れただけで監視を送り込んでくるような、物騒な連中です」


 嘘ではない。これが主たる理由でもないが。


「性格の悪い聞き方しやがる」


「私も彼らを警戒しているのです」


「あたしはそういうの苦手。聞かないでおくよ」


「それでしたら、外で鍛錬ついでに警戒をお願いしても良いですか?」


「え、やだよ。ついでだからやるけど」


 クゥは天幕を出て行った。

 どうせやるなら、わざわざ否定せんでもよかろうに。

 相も変わらず嫌われている。

 外では散々下に扱っているから仕方ないが。


「あの言い方、お前にだけ危ない橋を渡らせるってことだろ。冗談じゃねえよ……。くそ、オレがもう少し賢けりゃ、お前に気を使わせずに済むってのに……ってなにがおかしいんだよ」


「声を抑えてください。いやね、少し考えてしまったんです。そうなると今度は、私の立つ瀬がなくなってしまうなと」


 私は凡才だからな。

 賢そうに見えるのは少しずるをしているからでしかない。はったりだ。

 キースは十分に聡い。

 これ以上の子供となると、私はあの怪物の外には思いつきそうにないぞ。


「この国の現状について、キースには何度か話をしたことがありますよね。覚えていますか?」


 険しい表情で首肯する。

 ほれみろ。

 ロムニス時代の下地があるとはいえ、この歳で国家の趨勢について理解を示すのだ。

 遠からず追い越される日が来るに違いない。

 その時、私にはなにが残るかな。


 ヘンビクフラに入り1月。各地を調べて見て周り分かったのだが、この国はそれはもう酷い状態だ。

 5年前に青の教派の本拠である西大陸系の派閥――正統派が紛争に決着をつけたわけだが、早くも破綻を目前に控えている。


 この国は今、正統派が背後についた少数民族によって、多数を占める幾つかの民族を支配するという統治形態を取っている。

 不満の矛先を実質的な支配者から、傀儡の支配者に向けさせるというよくある統治の手法だが、問題はこれに闇の教派が絡んでいることだ。


 鉱物資源などの産出が見込まれる経済的な価値の高い地域を押さえた少数民族、即ちそれを支配する正統派に対し、闇の教派はこの国の穀倉地帯をほぼ完全な形で掌握してしまった。

 これにより国内には支配階層たる少数民族に加え、中間階級とも言える闇の教派を信奉する諸族、困窮を極める最下層の多数派民族という構図ができてしまった。

 そして必然として、闇の教派に帰依しその恩恵にあやかろうという多数派の動きが生まれるわけだが、その流れを正統派が許すはずもなく、派閥間の軋轢は激化する一途を辿っている。


 ややこしいのは、多数派の民族の信仰するのもまた青の教派であるということか。

 こちらは大戦以前からある魔大陸の信仰を取り込んだ、古典派と総称される諸信仰の集団だ。

 戦後の教化政策によって青の教派に悔宗した者たちと言えばよいか。


 だがこの事実を踏まえると、ひとつの疑問が湧いてくる。

 青の教派が闇の教派の影響を排除せずにいる、という事態の不自然さだ。

 かつての大戦で悪と断じた月の教派が幅を利かせることを、容認している。

 あまりにもおかしい。


 まあこの点に関しては、実はある程度の予測がついている。

 闇の教派は食糧生産を支配しているが、支配階級たる少数民族とは商取引を継続しているのだ。

 つまるところ、黒の教派は食糧を支配しながらも正統派に従順な姿勢を貫いているということになる。


 その前提に立ってみると、闇の教派を含む正統派の少数と、古典派の多数との間での軋轢が高まっているというのがヘンビクフラの実態になるのだが、残念ながらこの国に住む者たちには正統派と闇の教派との繋がりが見えていない。

 見えないように隠されている、というのが正しいのかもしれない。

 なんせ中間層となっている闇の教派の諸族は、紛争後になって段階的に闇の教派に寝返った者たちだ。


 ただ、集めた情報からすると、どうもこの流れは紛争終結前には決まっていた、つまり仕組まれたものであるようなのだ。

 加えて多数派が大勢を占めるこの辺りでは、どこに行っても闇の教派に帰依すれば食糧難から解放される、なんて噂を耳にする。

 もうね、臭過ぎるんよ。


 闇の教派がなにかひとつ波風を立たせれば、明日にでもこの国は内紛に再突入だろう。

 けれど闇の教派に不穏な行動に出る気配はない。

 ばかりか、正統派への食糧の供給量を増やしぎりぎりのバランスを保とうとしている。

 正直言って意味が分からないね。

 意味は分からないのだが、裏で糸を引いているであろうムドヤハサという人物の噂を聞く限り、より大きななにかの布石であると私は読んでいる。


 キースにはざっくりとその辺りの事情を説明してあり、台風の目である渦中の人物の傍に身を潜めようという話もしてある。

 大陸中央から南部にかけてであれば、間違いなくそこが最も情報の集まる場所であるからだ。


「あの隊商はムドヤハサ、ないしはその下の者の意図に従って動いています」


 キースが息を呑む。

 厳密に言えば護衛が。隊商はただ闇の教派に属しているだけで、直接的な関係はなかろうことも付け加えた。

 これは、情報の出所がほぼ隊商の隊員に限られていることから察することができる。


「同行してなにをしようとしているのか探るのか。だが事実ならそれを相手が許すか?」


「いくつか手は考えてあります」


「それで護衛か」


「鬼族の護衛は戦力としては確かに優秀かもしれません。けれど、迂闊には使えないでしょう?」


「目立つこと間違いなしだな。というか鬼族の奴隷なんて、ここまで旅してきて初めて実在を聞くぞ。どうやって魔法種を抑えてんだよ。……ああ、なるほどな。そこを突くのか」


「あちらさんにとっても、それなりに都合のいい話をできると思うのです」


「悪党だな」


「ここまで散々悪事は働いてきましたからね」


「そうだな、今更か……」


 苦々しく顔を歪める。


 盗みもしたし殺しもした。

 クーベでは政変で野盗に身をやつした者が多く居た。

 ドートレンでは増税で困窮した村人に襲われた。

 兵士を殺した。村人を殺した。旅人を殺した。


 中には善良な人間もいただろう。

 だがえてしてそうした人間は、私たちにとっては害にしかならない。

 生き延びるためだ。悔いはない。罪悪感は、忘れたな。


 所詮、私たちは黒の民。甘い考えを持てば死ぬだけ。

 だからなんとしても強者の側に立たなければならない。

 それも、絶対的な強者の側に。


 ラクハサは恐ろしい。天敵とすら言える。

 だが臆して退くわけにはいかない。

 使えるものはなんでも利用してみせる、それが私の生き方だ。

 知恵が足りないなら振り絞れ。

 ここで食らいつかねばどのみち未来はない。


「話は変わるんだが」


 そう言ってキースが居住まいを正す。

 いつになく真剣な表情だ。いったいなんの話だろうか。


「やっぱりお前のその口調、気味悪いぞ」


 うっせえこの歳で無理があることくらい知っとるわ!


 無言で腹に予備動作もなく拳を叩き込んでおいた。


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