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俺、凡人。異世界で世界大戦の仕掛け人になる  作者: 風間 秋
第5章 『無情なる世界』
69/94

69.明日を目指して

 誓いを交わした俺たちは、ひとり蚊帳の外に置かれ不機嫌になったフーリをなだめ、それから屋敷で見聞きしたすべてを聞き出した。


 フーリが屋敷に辿り着いた時には、すでに敵の包囲が完了していたらしい。

 包囲を崩すべくウォトやルッダと切り込み、そして返り討ちに合った。

 屋敷に火が放たれたのも、残りの面々が討ち死にしたのも、すべてはフーリが敗れた後の出来事であることが分かった。


「仇は……今は考えない。それでいいな」


「異論はないよ。フーリが解放で手も足も出なかったほどの長耳族(アルヴ)だ。それに、黒の家が落ちる早さから考えても、魔法種がそいつだけとは思えない。ハヴィスの首を取ろうにも、危険が大きすぎる」


「……ザイネル・アルクスか」


 フーリを圧倒しアイネに致命傷を負わせた、顔に大きな火傷痕のある長耳(アルヴ)族。


「白の教派、獣兵、長耳族、ザイネル・アルクス副団長、徽章。これだけ材料が揃っていれば、逃げ延びた先でも奴らを探し出すことは容易なはずだ」


「いつかあたしが必ず殺す」


 剣の鞘を強く握り締め、瞳に殺意を滾らせ呟く。

 そんなフーリの頭をキースがくしゃりと撫で、肩を抱き寄せる。


「地下に潜って、逃げ切れると思うか?」


「それなんだけどね。狩場を迂回して最も西寄りのルートを取れば、おそらく敵とはまったく遭遇せずに下流域に抜けられると思う」


「敵は下流から遡ってきたわけではない、そういうことか?」


「よく、分からないんだけど」


 苛立たしそうに、けれどどこか申し訳なさそうにフーリが口を挟む。


「白の教派の軍の後ろには、ラーデ・ロムニスがついているってこと。罠の時点で青錆街が手引きしたことは確定していたけど、事態の規模が大きすぎるんだ。いくら中央に影響力があるといっても、青錆街の力だけでどうこう出来る話じゃない」


 ここまでは良いかと視線で問えば、素直に頷き理解を示してくる。


「軍隊ってのは、お金と時間をそれはもう湯水のように使うものなんだ。だから、魔境にも等しい水路を遡るなんて無謀なことはしたくない。なにより今回は都市が背後についている。なら軍は、その支援を受けてより効率的に動こうとするのは当然だ」


「近隣のどこかの区画から、水路に下りた公算が高い」


 俺の説明をキースが結ぶ。

 ただそれだと、まだ少し決め手が足りないな。

 これは持っている情報の差だろう。


「放棄された東隣の区画だと思う。あそこはまだ結界が動いてるから。長耳族が居るとなると軍隊規模の隠密行動も簡単だろうし」


「それで西か。決まりだな」


 言って立ち上がる。

 納得さえできれば後は動くだけ。


「体は大丈夫なの?」


「ふたつ目の集積地までは持たせる。もし無理だったら担いでくれよ」


「だってさ、フーリ」


「任せて」


 ふたりとも消耗が激しかった。

 フーリは意識こそ取り戻したものの、解放を長時間維持できるほどに魔力が回復していない。

 キースは擦り切れた精神状態で見張りを続けていたので、心身ともに限界だ。


 しっかりと食って短時間とは言え眠りもした俺は、ふたりと比べれば遥かにマシな状態と言える。

 索敵から戦闘まで、基本的に俺がやることになるだろう。


 回復を待つ余裕はない。もう火の手は随分と近くまで迫っていた。


 壁際の袋を退け、壁の穴を露わにする。

 穴の先は枯れた下水道が続いている。

 それを下って行くと、地下水路の封鎖線の内側に出ることができる。


 最低限の荷の詰まった袋を背負い、キースが穴を潜り下水道に下りる。

 フーリがそれに続き、最後に残った俺はアイネに小さく別れを告げる。

 そして油を染み込ませた食料の袋に火を放った。


 炎が袋の山を包む。

 それを見届け、俺は穴を潜り下水道に出た。


 振り返ることはしない。

 前に進むと決めたのだ。


 こうして、俺たちの長い逃亡の旅が始まった。

これにてラーデ・ロムニス編は終わり、次の章からヘンビクフラ編に入ります。

長い旅と書きましたが、大幅にカットして進めて参ります。細部まで書いていたら話が先に進まない!

今後ともお付き合いいただけたら幸いです。

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