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俺、凡人。異世界で世界大戦の仕掛け人になる  作者: 風間 秋
第4章 『異端児たちの束の間の安寧』
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60.孤立と自衛への備え

 青錆街でハヴィスとの面会が済むと、俺たちは早々に黒の家へと引き返した。

 そしてアイネへの事情説明もそこそこに、必要な荷物だけを手に郊外の屋敷に戻る。

 今日の件について青錆街から黒の家に連絡がいった後、ダルハやログスター兄弟がどんな動きを見せるか予想がつかなかったからだ。


 ヘズコウにはキースが事の顛末を伝えた。

 しかしながら俺たちには、計画のため伏せておかなければならない事情が多い。

 黒の家に誤解を与えないようにするのは、なんとも無理の多いことだ。

 こうして俺たちが黒の家から引き上げるのも、悪印象に繋がるだろう。


 正直、戻るのは悪手だと思う。

 けれど残って万が一があってはそれこそ元の木阿弥だ。

 いざという時に逃げの手が打てるだけ、屋敷に戻った方がマシである。


 アヴレットやモトが短絡的な行動を取るとは考えにくい。

 これが青錆街の策略であることくらい、冷静に考えれば気付けるであろう。


 だが俺たちの行動には妥当性がない。

 なんせ、こちらが青錆街の言いなりにならざるを得ない真の理由は、当の青錆街ですら理解できていないのだから。


 屋敷に戻ることはキースも了承済みだ。

 むしろ屋敷の守りの観点から言えば、俺が戻らなくてはキースも困るだろう。


 俺たちは元々、黒の家から追い出された問題児集団だ。

 それ故に、自衛のため平時から備えはしている。

 入れ替え組から交代で夜番を出しているのだ。


 ただな。入れ替え組は、そもそもが固定組と比べそうした能力で劣っている者が多いのだ。

 劣っているから、入れ替え組とされている。

 つまるところ、言いたくはないがその目や耳は信用ならないのだ。


 街を出た後に役立つと考えて、訓練の意味でやらせてはいる。

 けれど当てにはしていない。

 実際に夜の警戒を担当しているのは、専ら俺とエムリだ。

 キースやフーリに任せることも多い。あと他に頼りに出来るのはフィオくらいか。


「皆への説明は任せるよ。僕は夜に備えて寝ておく。それまでの警戒はエムリかフーリに頼みたいんだけど」


 屋敷に着いて早々、部屋に直行することをキースに伝える。

 応えたのは跳ぶようにしてやってきたフーリだった。


「よく分かんないけど、あたしがやるよ」


「そうだね、簡単に説明は必要かな。エムリは?」


「この時間だと、たぶんヤトイたちの部屋。寝てると思う」


「ああ。夜はいつもあの子が」


「代わりができるのは自分だけだからって言ってな」


 苦笑するキースに対し、フーリはいたくご立腹の様子。


「ほんと頭にくる。なんなのあいつ。ばかじゃないの」


 ハハハ。そいつは俺のせいかもしれない。

 エムリは地下でアイネを先導できるように鍛えたからな。

 俺のそういった方面での、ただひとりの訓練相手でもある。


 魔物が相手だと、経験の差でキースに軍配が上がることが多いが、人相手ならまず負けない。

 その辺り、詳しく話したことはなかったから、反感を抱いてもおかしくないか。


「ごめん。あの子には、そういう役割を肩代わりできるよう、僕が教え込んだんだ」


「確かに、オレたちの次くらいには当てになるけどな」


 アイネが悪戯っぽい目で俺を見る。

 言ってしまって構わんよ。視線で伝える。


「その様子だと、ふたりともあの子の尾行に気づいたことないみたいね」


 愉快気にアイネは言う。

 ぎょっとした表情でキースとフーリは顔を見合わせる。


「気づいてたか?」


「ううん。気づいて、なかった」


「そういう訳で、少し気負っちゃってるだけだから。優しく見守ってあげて」


「お前、弟子にだけは甘いよな」


 意味ありげにアイネを見やる。


「弟子なんていないし」


「よく言うぜ」


「キースが青錆街に出る時とか、これからはあの子をつける予定だから。できればあっちの時の安全確認も任せたいんだけど」


「あいつらに関しちゃ頃合いか。黒の家の動き次第になっちまうが、どこかで話し合う時間を取りたい」


「分かった」


「お前はしっかり休んどけ。こいつにはオレから話しておく」


 そいつは助かるな。

 エムリが寝てるとなると、二度手間になりそうだし。


「それじゃあお願いするよ」


「わたしは帰ったって皆に挨拶してくるわ」


 皆と別れ、半月ぶりに部屋に戻る。

 音を立てないよう扉を開けて中を窺えば、フーリの言った通り寝台で眠るエムリの姿があった。


 エムリの眠る寝台に背を預けるように、フィオが床に腰を下ろしている。

 俺が戻ったことに気づいて腰を上げかけるが、手でそれを制する。


 せっかく寝ているのだ。騒いで起こすのは悪い。

 事情は後で話すと伝え、空いているフィオの寝台を借りて寝ることにした。



 ◇◇◇



 眼が覚める頃には、空は夕闇に染まり天紋が輝いていた。

 窓から見える空で時刻を計っていると、アイネが真っ先に俺の様子に気づいた。


「起きたみたい」


「おはよ」


「師匠! 改めてお久しぶりです」


 そこだけエムリより勝っているのはなんでと、苦言を呈したくなる。

 もう少し多方面に、その能力を活かせないものか。


「うん。来るの早かったね」


 晩飯あたりまでは皆が離してくれないのではと思っていたのだが。

 キースと並んで班の人気者だからな。


「逃げてきちゃった」


「ああ、そういう」


 いいのかね。

 築いてきたイメージというものがあるんじゃないのかい。


「ふたりにはわたしがしてもらった話を、少し簡潔にだけど説明しておいたわ」


 計画に関わる部分は省いて、という意味だろう。


「助かるよ。今夜は上に出ようと思う」


「寒いわ」


 だろうな。

 真冬に夜、屋外で火も焚かず、じっと身を潜めて警戒をするのだ。

 けどまあそこは、耐えるしかなかろう。

 安全が第一である。


「ここよりは全方位に備え易いからね。エムリはどうする、休んでてもいいけど?」


「手伝う、よ?」


「そう。なら大き目の毛布を持って行こうか」


 ひっついていれば、少しは寒さも紛れるだろう。



 フーリを探して見張りの交代を伝え、上階のバルコニーに出る。

 露台へと続く扉を潜ると、そこは古びた家具やら木箱やらが乱雑に積まれ、さながらゴミ置き場と言ったところ。


 さながらもなにも、これらはゴミに相違ないのだが。


 元々この屋敷に残されていた、使い物にならない家具が主だ。

 それに荷を運ぶのに使った木箱、樽なんかが混じっている。

 再利用できるものまでゴミ扱いでここに置いているのには、当然だが理由がある。


 目隠しだ。


 広い範囲を監視できる場所というのは、逆に多くの場所から監視しやすいということでもある。

 見晴らしが良すぎると、見張りに向かないのだ。

 故に荷を積んで、要所要所に覗き窓を設け、それに適した場所を作った。


 ここ以外にも、防備の薄い箇所には同様の方法でバリケードを組んである。

 そしてそれらを誤魔化すため、屋敷の周囲はあえて散らかるに任せていた。

 家の管理もできない連中と、油断を誘う意図もある。


 エムリとふたり毛布に包まり、覗き窓を使って辺りの警戒を行っていると、しばらくしてフィオがやってきた。

 扉の内側で足を止めたのは、俺がエムリにしか同行を求めなかったからだろう。

 邪魔にならないか気にしているのだ。


 エムリも気づいているようなので呼びに遣り、まとめて毛布に迎え入れる。

 そうして今度は3人で警戒を続けた。


 月が天高く昇る時分になっても、屋敷の近辺にこちらを監視する人間は現れない。

 頬に当たる風は冷たく痛いくらいだが、厚手の毛布の中で団子になっているので、寒さはそれほど感じない。


 アイネの持ってきた夜食を摘まみ、一息ついた頃。

 フィオがおずおずと、師匠は街を出るつもりなのかと尋ねてきた。


「黒の家の通知の件だね」


「おれはあれを真に受けたりはしてねえよ。キースさんもフーリも、なによりアイ姉ちゃんの態度が本気じゃねえもん」


 聞いていた通りだな。

 エムリも興味があるのか、視線を外へ向けながらも耳はこちらにそばだてている。

 良い機会だと考え、街を出たいと思ったことはないのかと問い返した。


「そんなこと考えたこともなかった。そもそも街の外ってのがわかんねえ。師匠が街を出るって話を聞いてもピンことなかったんだ。他の奴らだってあまりよくは分かってないと思う。おれたちを見捨てるってことなんだって誰かが言い出して、そんな空気になっちまったけど」


 そう言って少し俺の顔色を窺う素振りを見せた。

 自分はそれくらいのことで不快になったりしないからと、話の先を促す。


「街を出るってことが仲間を見捨てることだってのは、おれだって知ってる。魂の誇りのためにも、やっちゃならないって。でもそれだけなんだ。だからもし師匠にそう思うところがあるなら、どうして出ようと考えるのかとか、出てどうするのかとか、聞いてみたかった」


 自分はあるとエムリが口を挟む。


「この街には外から、来たから。おとう、仕事ですぐ死んじゃって、穴倉に放り、込まれたの。あそこでの暮らし、辛かった。苦しかった。昔、住んでた街に帰りたいって、思った。戦争に負けて、街なくなっちゃってるの、知ってる。でも、帰りたいって。ずっと思ってた。あそこから、逃げたかった」


 フィオが体を強張らせている。

 初めて聞く話なのだろう。

 俺もそうだ。


 エムリは、あまり話をするのが得意じゃないからな。

 自分についても語らない。


「ここに移ってから、殆ど考えること、なくなった。ヤトイとかフィオとか、アイネもキースも居る。それと、フーリも? 皆が居るところが、居場所だって、思う」


 監視を続けながら、エムリは淡々と声だけで語る。

 そこでちらりと俺を見た。


「ヤトイが居なくなると、寂しい、ね。たぶんそうなったら、アイネにお願い、する」


 ……ん?


「自分も連れていって、って。アイネきっと、追いかけようとする、から。その時はフィオも一緒、だよ。3人居れば、心強い」


「アイ姉ちゃんならやりかねないなあ。って言うか、おれの意思は?」


「ヤトイが居ないのは、寂しい。アイネも居ないと、すごく、寂しい。でもフィオが居なくても、やっぱり、寂しい」


「キースさんとフーリは?」


「少し、寂しい。けど、我慢できる、よ」


「……仕方ねえな。外とか全然分かんねえけど、弟子が師匠についていくのは普通だもんな!」


 君ら勝手なことを言うねえ。

 とは言え、ふたりの意思が確認できたのは重畳。

 これなら伝えても問題はあるまい。


 この晩は結局、黒の家から監視の人間が送られて来ることはなかった。


 監視がついたのは、翌日の昼からだ。

 人数は少ない。

 キースに確認を取ったところ、ログスター兄弟の班の者らしいことが分かった。

 黒の家の総意であるかは、不明であった。


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