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俺、凡人。異世界で世界大戦の仕掛け人になる  作者: 風間 秋
第4章 『異端児たちの束の間の安寧』
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59.横槍とご破算

 黒の家に移ったその日の夕刻に、屋敷からアイネが送られてきた。

 表向きには、形骸化している無印(むいん)の監督役代理だ。ヘズコウにはそういう形で話を通してある。

 実際には連絡役である。


 アイネの話によると、どうやらキースは、あの場では俺の目的を理解していなかったらしい。

 俺の意図するところに従って、初耳であるという体で振る舞ったのだそうな。


 いやはや、お前はすごいよ。

 求めるところのど真ん中を射抜いてくれた。

 逆の立場になった時、果たして俺は期待に応えることができるだろうか。

 できない、と言ってしまっては申し訳が立たんな。


 ただ、自信はなかったようだ。

 振る舞いの正否についてと、行動全体の目的について、アイネを介して確認を求められた。

 もちろん、俺の想定との食い違いは殆どなかった。



 そして大事もなく半月あまりが経過した。

 俺がやっていたことと言えば、立ち入りを許可された禁書庫での各種調査と、アイネとの稽古くらいだ。

 仕事にも出ていない。


 アイネも固定組からは外れていた。

 それでも2回ほど現場には出ており、その時は状況を聞かせてもらった。

 フィオとエムリが苦労しているらしい。


 俺が抜けて負担が増えているという理由はある。

 けれどそれ以上に風当たりが強いようだ。


 なんでもあのふたりは、皆を見捨てるような発言をした俺の、肩を持っているらしいのだ。

 馬鹿どもがと悪態を吐きたい気分になるが、元凶を聞くと失笑するしかない。


 なに、簡単なことだ。

 アイネとフーリの態度が、本来そうなるべきものと食い違っている。


 平素と振る舞いに大きな変化がないアイネ。

 これは他の面々からすれば妥当な反応ではあるのだが、俺に信を置くアイネが取る行動としてはおかしい。


 対するフーリの方は、若干機嫌がよろしくない。

 他の面々はさして気にしていないようだが、エムリ曰く、本当にそうであるならフーリは喜ぶはず、とのこと。

 ごもっともである。


 あのふたりには、頃合いを見て計画を伝えてもよいかもしれない。



 キマイラ騒動の後始末も済み、街はようやく落ち着きを見せ始めている。

 この後始末の中には、損耗した戦力の補填も含まれる。


 騒動を契機に、黒の家は方針を大きく転換した。

 若手の再教育のため、現役を退いた者たちを黒の家の内部の人間として扱うことにしたのだ。

 いずれは緊急呼集の際に動員できるよう、舵を取るのかもしれない。


 直近の人員不足を解消する方法としては、魔獣討伐への動員年齢の引き下げがある。

 まあこれの最大の目的は、フーリやキースを討伐に駆り出すことにあるのだろう。


 ただいずれも、黒の家の内情の区切りに過ぎない。

 本当の問題である青錆街との関係については、ここからが本番だろう。

 責任の所在はいまだ明確にされておらず、問題は山積したまま放置されている。



 青錆街の内部事情の落ち着きを示すように、俺たちの元へ厄介事が舞い込んでいた。


 俺は今、キースと共に青錆街を歩いている。

 街を仕切る顔役から、揃って呼び出しを受けたためである。


 要件は先のキマイラ討伐について。

 黒の家の俺たちへの対応が、公布されたことを受けての行動と推測される。

 最も派手に戦っていたフーリが呼ばれていないのは、解放持ちだからだろうというのがキースの見解だった。

 爆弾を懐に入れたくはないということだ。


 キースが黒の家の俺の部屋を訪ね、久々に顔を合わせた後、簡潔に要件を伝えられここへとやってきた。

 青錆街には、黒の民が歩くことを許された通りがいくつかあるらしい。

 キースの案内でそれらを抜けて、青錆街側から指示された場所へと向かっている。

 頻繁に買い物で訪れていることもあってか、キースは慣れたものだ。


 殆どの道は、表通りから何本か奥まった所にある裏道だった。

 風に乗って表通りの喧噪が耳に届く。


 その声に感化されたかのように、裏道にも関わらず、すれ違う人は多い。

 それらの多くが、黒月街の住人達と比べかなり明るい顔をしていた。

 まあ、俺たちが黒の民であることに気づくと、途端に見下すような侮蔑も露わな表情になるのだが。


 捕虜になっていた時に目にしたものとは違うが、俺たちは黒の民であることを示す布を腕に巻いている。

 着けずに青錆街に立ち入れば、良くて鞭打ち、悪ければ打ち首らしい。

 貧民街でこれとか、街を逃げ出した先を考えると憂鬱になる。


 貧民街なんて言うと、犯罪の巣窟という先入観があるだろう。

 俺もそうだったのでキースに尋ねてみたのだが、黒の民が通る裏道には、それなりの治安が保たれているらしい。

 消魔結界が作用するので暮らすには不便だが、青錆街の元締めの眼が行き届いているため、安易に犯罪を起こす馬鹿は住みつけないのだと。


 治安が最も悪いのは、先日燃えたような外縁部だそうだ。

 では先の件での青錆街の損失は大したことがないのかと言うと、そうではない。

 青錆街の労働力は、犯罪の温床である外縁部の人間で賄われているところが大きいのだ。


 働き手が減って、表通りには割と大火の影響が出ているらしい。

 それでも、損害が大きかったが故に、返って活気づいてもいるようだ。

 これは、区画を跨いで人の出入りが活発化しているためだと言う。

 黒月街との大きな違いである。


 この区画は貧民街というだけでなく、ラーデ・ロムニスの歓楽街としての位置づけにあるのだ。


 指定された場所には、普段見ないような生地の、つまりは高そうな布で仕立てられた服を着た男が待っていた。

 交わした言葉は名乗りくらいなもの。

 男の案内で窓のない建物に入り、奥の部屋で待つこと半刻ばかり。

 でっぷりと肥えた樽のような中年が、先の男と武装した男2名を連れてやってきた。

 これまた高そうな服を着ている。


 立って迎える俺たちを、物でも見るような視線で観察しながら、青錆街の代表であるハヴィス・ボーグと思しき男は、俺たちの対面の席に深々と腰を下ろす。

 座ってよいと指示がないので、当然俺たちは立ったままだ。


 背後に控える2人の男からは、侮蔑と敵意はひしひしと感じるものの、殺気は見て取れない。


 青錆街に立ち入って、俺は久々に身分の違いというものを実感していた。

 まあ、下に見られるのには慣れている。

 内心を押し隠し、相手が不快感を抱かないよう、優越感を与えるよう、卑屈さと怯えをやや強めに表に出す。


「黒の家の布告は聞き及んでいる。危地を救ったというのに、随分な対応のようだな。貴様らの働きは我々も評価している。貴様らには今後も貢献に期待したいと思っていてるのだ。黒の家の評価は不当であろう、故に青錆街からも特別報酬を出すことにした」


 待たせたことに対する謝罪などはない。

 ハヴィスはただ一方的に仕事の評価を告げるだけだ。


 この糞豚狸が。

 胸の内で毒づく。

 最悪だった。今この場でこいつを縊り殺してやりたいほどだった。


 必死になって荒れ狂う感情が表に出ないよう隠す。


 心情はともかく仕事は評価する、これはそんな単純な話ではない。

 これを呑めば、黒の家は俺たちと青錆街の癒着を疑うのは間違いない。

 黒の家との政争に、俺たちを巻き込みやがったのだ、この狸は。


 これを拒むことは、俺たちには難しい。

 キースの青錆街での活動があるから、ハヴィスの不興を買うわけにはいかないのだ。

 もっともらしく、黒の家を通してくれと逃げることすら許されない。

 俺たちの黒の家での微妙な立場を利用した強請(ゆす)りだった。


 予測を裏付けるように、報酬は現金で示された。

 黒月街で物資の調達ができなくなっても、俺たちが簡単には潰れないようにとの配慮があるのだろう。

 いらぬ配慮である。


 しかし断れぬのなら、これを利用して一気に駒を進めるしかない。

 厄介なことになるだろう。

 その前に、なんとか上手く逃げ切れるだろうか……。


「ありがたく、頂戴します」


 キースが謝辞を述べ頭を下げるのに、俺も合わせる。

 声が微妙に震えてるのは、怒りを堪えているのだろう。


 話が済むと、ハヴィスは早々に部屋を出ていった。

 案内した男と報酬の受け渡しについて話を詰め、それから俺たちは、激情を隠しながら黒月街へと戻った。


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