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俺、凡人。異世界で世界大戦の仕掛け人になる  作者: 風間 秋
第4章 『異端児たちの束の間の安寧』
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58.監視と偽装工作

 アヴレットとの対談を終え、キースたちとはヘズコウの執務室で合流した。

 屋敷には戻らず、適当に復興状況を見て回りながら、キマイラの観察に使った北の廃教会に向かう。


 崩れかけた鐘楼に登ると、煤けた街の様子がよく見える。

 まあ、そんなものを見るために登ったわけではないが。


 ここならば誰かに話を聞かれる心配はない。そして見晴らしがいいということは、それだけ周囲からこちらの様子を窺いやすいということでもある。

 尾行されているからこそ、俺は皆をここへと連れて来たのだった。


「監視は3人かな」


「罰を与えて反応を窺ってるのさ」


 すんなり従ってくれるなと思ったが、やはり気づいていたか。

 キースの聡明さを評価すべきか、尾行の拙さを批判すべきかは悩むところだな。


「あたしたちが別々に呼ばれたのって……」


 俺たちのやり取りを聞き、遅ればせながらフーリも黒の家の目的に勘付いたようだ。


「黒の家への叛意がないかどうか、確かめる意図はあっただろうね。まとめてだと誤魔化されかねないから」


「褒賞の話は餌。本命はそいつだ。緊急時に上からの命令を無視したんだ。結果が良かろうと関係ねえな」


 黒の家のキースに対する評価も随分と低くなったものだな。


 追い出された一件からこちら、キースの扱いは軽い。

 青錆街と取引をしていることもあって、グフォルトの息子という期待は、実力者たちからもすっかり抜け落ちたと見える。

 問題児という意識は強い。ただ、警戒としてはそこそこ止まりだ。


 昔のままであれば、黒の家はキース相手にここまで軽はずみな行動を取ったりしなかったかもしれない。

 こちらに意識を割く余裕がない、という線もあるが。


「口元は隠してね。読まれるかもしれないから」


 監視から自然に顔を背け、位置を教え注意を促す。


「キース。あたし、不味いこと言ってない、よね?」


「ダルハやログスター兄弟が、オレに手を出さないようにって話だろ。問題ないどころか、上手い流し方だと思うぞ」


「キースはなんて?」


「黒の家からの人員の引き抜きの許可と、その活動拠点として、以前使っていた部屋を借りたいって言ってやった」


「それはまた、ずいぶんと攻めたね」


 機転に笑みが零れそうになるほどだ。

 フーリの返しといい、実に良い。先々を考えた上での要求という点が最高だ。


 俺たちはこの街から逃げ出す計画を立てている。

 それもそう遠からぬ内に、だ。

 黒の家の動きからして計画を察知している様子はないが、万が一は有り得る。

 もしも計画が露見した時、これら長期的な利益を求めた行動は、時期を誤魔化す目くらましとして働くことだろう。

 まったく。この歳でよく思いつくものだ。


「お前はどうなんだよ」


「聞いたら君は怒るよ。絶対に。()()()()()()()()()()


 顔を監視者たちに晒し、怯えた風に、けれどはっきりと告げる。


「……なに言ったんだ」


 少し考える間があったな。

 意図は、察してくれるとありがたいのだが。


「成人したら、聖地巡礼の旅に出たいって」


 キースは唖然とした表情で固まる。

 俺の話なんてどうでもいいといった風だったフーリまで、俺を驚愕の眼差しで凝視している。


「……そいつは、その通りだ」


 呟きが聞こえたと思った次の瞬間には、頬に強烈な拳を食らい、俺は後ろにたたらを踏んでいた。

 これは、強化なしの全力だな。


 辛うじて転倒することを免れる。

 そこにキースの腕が伸び、胸ぐらを掴んで引き立てられた。


「おいヤトイ。オレの許可もなしに、なに勝手なこと決めてんだ」


「ちょっと、キース。落ち着いて。こいつのことだから――」


「フーリ」


 恫喝するようにキースが名を呼んだ。


「な、なに」


「今は黙ってろ」


「ご、ごめんねキース。ごめん。あたし、静かにしてるよ」


 おお。フーリが半泣きだ。

 可哀想なことしたかなという気もするが、是非ともそのまま泣いていて欲しい。


「ヤトイ。お前は仲間を捨てるのか? 今日まで苦楽を共にしてきた仲間を。中には確かにお前を嫌う奴はいる。でもフィオは違うだろう。エムリもだ」


「悪いとは思ってる。けど」


「オレはお前にとってその程度だったのか?」


「……僕はキースのこと、友人だと思っているよ。でも、それでも。それだからこそ、君とは居られないよ。僕は、印なしだから。大人になって、まだ僕がこの街に留まり続けたとしたら、君は途方もない苦労を背負い込むことになる」


「それくらいのこと!」


「闇月の僕でもあるんだよ、僕は。それにさ、今回の件の罰で、聖章を面に出すことを禁じられてしまった。僕には、この街に残り続けることは出来ないよ」


 胸ぐらを掴む手が離れる。


「糞がッ」


 傍らの壁面が拳に打ち砕かれる。


 魔法を使ったようだ。

 無茶をする。いくら魔法で強化してたって、あれでは骨にひびくらい入るだろう。


 ゆらりとキースは俺に背を向ける。


「お前はしばらく黒の家に戻れ。部屋の方は既に話がついてる。ヘズコウさんに言えばなんとかしてくれるはずだ。フーリ。屋敷に戻るぞ」


 言って歩き出したキースの後を、状況が分からず慌てふためきながらフーリが追いかけていく。

 俺はその場に崩れ落ちるように座り込み、両手で顔を覆った。

 浮かびそうになる笑みを押し隠すためだ。


 いやはやキースの奴、即興だというのによくやってくれる。

 割と本音が混じっていた気もするが。


 成人したら、聖地巡礼の旅に出る。


 黒の家でアヴレットらに伝えた言葉に、真実なんてものはひとかけらも含まれてはいない。

 信仰を口実にした傲慢な嘘。

 だがこれを嘘と見抜けるのは、俺という人間を間近で見てきたキースとアイネくらいなものだ。

 まともな信仰の持ち主であればあるほど、俺の言葉を偽りとは考えられない。


 もちろん、アヴレットとて俺の言葉のすべてを信じたりはしないだろう。

 だから信憑性を増すために、ひと芝居うったのだ。


 闇月の僕として、聖地を訪ねたいという考えについては、彼らは疑うことをしないだろう。

 では時期は。

 成人してからという言葉を疑うか。


 俺が求めたのが外の情報だけであったなら、疑ったかもしれない。

 けれど俺はそうしなかった。

 欲を出すように、黒の月の真実を求めて見せた。

 これによって、間違いなく疑念は薄れたと考えていい。


 黒の家側の俺がここを発つまでの見積もりの件もある。

 これは、アヴレットが禁書庫にて情報を収集することの許可を出したという点から導き出せる。

 新しい外の情報を得ようとするなら、ヘズコウに聞くのが最も早い。

 それを黒月のことがあるとはいえ、書庫で自ら調べさせるというところに、時間稼ぎの意図が見られる。


 あちらは申告した通り、俺が限られた外の情報しか持っていないと考えている。

 餌で俺を釣った気でいるのかもしれない。


 厳しく勘定しても、年内は俺よりも傾いた黒の家を優先するだろう。

 その打開策として俺が使われることになるかもしれないが、ひと月は立て直しに手を割かれ、外へ根回しする余力はないはずだ。


 キースが俺と距離を置いたのも有利に働く。

 黒の家の注意が俺に向けば、それだけキースは動きやすくなるからな。

 俺を黒の家に送ることで、その本来の用途である引き抜きのための活動を偽装する必要もなくなる。

 まさしく一石二鳥。


 青錆街の状態にもよるが、現状を上手く活用して立ち回れば、多少強引にであっても準備を進められるはず。

 キースもおそらく今頃、年越し前の出立について考えを巡らせているだろう。


 ならば、こちらは陽動として精々それらしく動いておこうじゃないか。

 俺は力なく立ち上がり、鐘楼を下りて黒の家へと向かった。


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